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おい、おまいら!みんなで小説を作るぞP10

1 :名無しの小説家さん:2014/03/02(日) 19:51:19.08 ID:lYnRqkYJ
過去の作品

みなさんの力をあわせて小説を作りませんか? P5
http://mimizun.com/log/2ch/koumei/1106136556/

おい、もまいら!創価を愚弄する小説を書け!P8
http://www.logsoku.com/r/koumei/1167670745/

おい、おまいら!みんなで小説を作るぞ!!
http://anago.2ch.net/test/read.cgi/koumei/1284083783/l50

政教一致@大阪HP
http://www.geocities.jp/seikyou1atoosaka

作品の散逸がいちじるしく、サーバーや作者自身のPCが壊れるなどのアクシデントもあり作者自身の手元にも
一部の作品しか残っていません。ログ速とかどうよとか思うけどこれしかないから仕方ない。

2 :名無しさん@お腹いっぱい。:2014/03/02(日) 19:53:54.72 ID:lYnRqkYJ
政教一致@大阪来歴と宗教について
2002年4月の終わりから、今はない創価ネタ小説と言うスレに突然小説を書き始める。自分で言うのもおかしいが登場のその瞬間からその圧倒的な執筆量で今に至る。
自分が知りえる限り創価学会を馬鹿にした小説をこれほど長く大量に書き続けた人は他にはいない。
 学会はおそらく認知していて、しかし表だって弾圧するとかになるともろに言論弾圧になるから黙っているだけか?
 そこらは不明

3 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/03/02(日) 19:56:32.51 ID:lYnRqkYJ
名前の由来は、政教一致に反対すると言う意味合いで、大阪は地名で、政教一致の土地になってしまった大阪から、ぐらいの意味を込めていた。
フロムないしウイズぐらいが妥当かもしれないがそんな長いコテハンが使えるはずないから@にした。@はどこどこからと言う意味も若干あった。
 仕事は、中規模の会社の会社員だった時代もあり(業種は若干明らかにした)お局様とのかなわない恋もした、
これまで秘密にしていたが府立高校に一時期勤務していた事もある。

USER001氏は別人である。彼のブログからはネタをたった一つではあるがパクッている。
 USER001氏については教員をしていた時期も違うようであり職種も教科もどうも異なっているかのような(はっきりとは分からないのだが)事で、
出会ったと言う事もなさそうである。彼は小説を発表したことはない様子で、
それは惜しい。ここも違う点だ。

4 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/03/02(日) 20:01:47.90 ID:lYnRqkYJ
 特に架空の時代を創設してお殿様とくのいちが恋に落ちる話は現実の江戸時代ではありえないため、かなり興味がある。睦月影朗が全く同じような話を江戸時代をバックに書いており、
これが時代小説としてはあり得なさで完全な失敗作(商業的には成功)というだけに興味がある。
 彼(USER001氏)と作者の小説はかなりジャンルが異なっていて、ほぼ唯一重なっていたのがぱくった奴だった。どうして彼と私が同一人物なのかは分かりようがない。
 政教一致@大阪とUSER001が同一人物と言うスレを見たがこのロジックはすべてが後付けであるとしか言いようがない。少なくとも、ではなぜ政教一致@大阪がわざわざUSER001と言う別の名前でかなり後からブログを書いて、
しかも小説の中でもブログでも否定するのかという点は何か説明がいる。今日はこんな風に反創価の小説を書いた、と言うのならブログをつける意味があるが、そうはしないのなら
何のためにそんな事をするのか、意味がないと思われる。しかもそれが最初から最後までそうなのだからおかしいとしかいいようがない。

5 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/03/02(日) 20:16:40.80 ID:lYnRqkYJ
ひとつだけ突破口と言うか合理的な説明は、USER001のブログは徹頭徹尾フィクションだった、
それならありえる。
だったら、二つの作者が似ているのもうなずける。政教一致@大阪は執筆量ではそこらの
プロ作家が三人がかりでもかなわないぐらい書いてる。それぐらいの創作は出来る。今日はこんな事があったとか
全部うそで、ごまかすためにネタが集団ストーカーだった。
しかし、では、なぜそんな事を? 必要はなかったはずだろう
あるいは政教一致のブログをつくればいいのに

6 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/03/03(月) 04:52:25.55 ID:CfXexBSE
 教員時代、反創価の小説を書いていると言う事は当然秘密にしていた。
 自分はどうなっても自業自得であるが生徒を巻き込むことはよくない。
 また自分の主義主張を生徒に対して言う事は慎重に避けた。反創価の教育は創価の教育とイコールである。(もちろんこれは創価学園の教育を否定するものではない、
あそこの教育はそれはそれで素晴らしい一面もあると考えている)
 一回だけ、キリスト教について生徒から(私がキリスト教に詳しいと知って)意地の悪い質問が来たことがあって、それは答えたことがあったがキリスト教を宣伝したとか
言う事もない

7 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/03/03(月) 04:54:17.35 ID:CfXexBSE
 一般論では、人生でどのような振る舞いをするべきなのか、人は何をするべきなのかを考えるべきだと思う。その道しるべになるものが正しい宗教ではないだろうか?
 学会に関しては、以前書いた通りで脱会者である。これに付け加えることはない。
 キリスト教については、作品中に書いたとおりであるが補足すると、「どのような人が正しいキリスト教徒であるか」と言う基準をまず持つことがキリスト教を信仰する上では大切だ。
 とにかく、その「キリスト教徒の基準」に、作者は合致していない。成人洗礼も受けていないし、日曜に教会に行ってもいないし、聖職者の前で信仰を告白するとか、そうした形式は一切していない。
だから、キリスト教徒ではないと言うしかない。良心に従うならそう言うしかない。それにチャイナマンには異端としか言いようがない聖書の解釈が出てくる。異端かそうでないかと言う事自体がもう、そう言う事なんだけれど小説全体が
「良いキリスト教が悪い仏教をやっつける」と言う話になる事だけは、どうしても避けたかった。
 そう言う観点で捉えるなら、この世には悪い宗教しかないのだ。なぜかと言うとよい宗教があったら人類全員がそれに入ってしまいすべてがその宗教で統一されるはずだからだ。

 小説は全部読んで判断してもらうしかない。遠山の金さんでお白州のシーンを抜いたものを見せられたらなんてつまらない時代劇だと人は馬鹿にするだろうし、仮面ライダーでカマンライダーが変身して悪を倒すシーンが描かれたなかったら、
これはなんだとなるだろう。全部で完成品だと思う。だから、先へ進む。

8 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/03/03(月) 04:57:36.43 ID:CfXexBSE
注 書いたとおり:これから書いたとおり

9 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/03/11(火) 22:51:14.88 ID:nJy0w5ix
第一読者が幸いにもいて、その方は女性で、とても信頼している。
ただ、残念なことには妻でも恋人でもない。

現在、登場人物が多く複雑であるとのご指摘を受けている。それは長編である以上
当然なのだが、変更するかどうか?
予定は無い。

10 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/03/11(火) 22:52:55.63 ID:nJy0w5ix
前スレより

 貪理市壊滅作戦決行1日前(土曜日)。午後1時。
 東海道新幹線「ひかり」は上天気の中走っていた。
 JRはKIOSKで酒を売っており、美雪は当然のようにウイスキーの水割り缶を買い、新幹線の車内販売でワンカップ大関を買った。ガンガン飲む。
 「ああ、酔っ払っちゃった」
 そう言うと美雪はぐうぐう寝始めた。
 その間に、涙田は周囲の目を気にしながら武器を確認した。パイソンとワルサーP38、ワルサーの予備弾倉二個、パイソンは再装填の余裕があるシチュエーションが考えにくいため予備弾は携行しなかった。従って主武器はワルサーと言う事になる。
しかし、『悪夢の日曜日』の苦い教訓から、彼はパイソンをすぐ抜けるよう腰の後ろに差し、ワルサーと予備マガジンはショルダーバッグに入れていた。なにせワルサーはただの一回も発砲した事がなく反対にパイソンは25メートルでの照準合わせも行っている。
もちろん25メートル先の標的を狙うのと実戦は全く違うがいざとなると第一撃は必殺のパイソン、その後メイン武器であるワルサーにチェンジすると言う段取りになる。
 これから行く貪理祭りは関西でも音に聞こえた鉄火場、武器を使うかどうかは分からないが油断だけは禁物だ。これまではなぜか幸運の連続で生華学会の攻撃から生き残れた。だが、幸運はいつかは尽きるものだ。
 角来実家への手土産に車内販売のうなぎパイを買い求めると、美雪の前のワンカップの最後の一本がまだ三分の二残っているのを飲んで自分も寝る。

11 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/03/11(火) 22:55:30.01 ID:nJy0w5ix
 目が覚めると奈良が迫っていた。
 「わわっ!」
 あわてて美雪をつつくと、彼女が起きて最初に言った言葉は
 「酒がなくなってる」
 だった。
 「え? 全部飲んだだろ? もう、祭りに着く前から酔っぱらってるの?」
 「え、でも、確か三分の二ぐらい残って……」
 こいつ酒に関してだけはよう覚えてんなあと涙田は感心したが
 「何言うてんねん、寝る前に一気飲みしたくせに」
 「え、そう?」
 ごまかすことに成功した。
 JR桜井線に乗り換えて数駅で着いたが、タクシーはやはりなかなかつかまらなかった。
祭りは明日だが準備は着々と進んでいると言う感じだった。

12 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/03/12(水) 19:42:02.56 ID:pcFnxrXA
決行は明日だが準備は完全なはずだった。馬淵はそう信じたかった。今さら起爆時間は変えられないからだ。一応、貪理教内部に潜伏させてあるスパイからの報告では予定通りに祭りは行われるらしい。
 祭りも時間をそんなに簡単に変えられない事は祭りの素人の馬淵にも分る。

13 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/03/12(水) 19:46:14.93 ID:pcFnxrXA
 「そのう、『終りの人』とやらはどこに待機しているのでしょうか? それと連絡を取る方法はあるのですか?」
 「貪理市付近の山の中だ。野宿している。今頃は貪理教を呪っていることだろう。連絡はハゲを経由してしかできない。なにかあるのか」
 権はあっさり言った。
 「いえ、今はありませんが」
 「貪理の予知か、心配する必要はない。予知能力があるなら馬券でも買うだろう。一攫千金だ」
 「は、はあ……」

14 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/03/12(水) 19:57:14.52 ID:pcFnxrXA
 「まあ、それは冗談だとして、もし察知していれば現実主義者の朴が何の手も打たないはずがない。また、気が付いていないふりと言う線もないではないが、
奴はそこまで冷酷な奴ではない。今気が付いているとするなら爆破される建物から部下を避難させるだろう。それは潜入させてあるスパイが報告してくるからすぐにわかる」
 「はい」
 「だから、爆破は成功間違いなしだ、ぐはは〜」
 「それと、これによって貪理教が壊滅的ダメージを被るものとして、その後ですが……」
 「後だと?」

15 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/03/13(木) 07:47:08.52 ID:AA+bpw5X
「警察は当然捜査に乗り出すでしょう。証拠品がどれだけ確保できるのかは不明ですが奴らは学会が裏で動いていることに気がつくのではないでしょうか」
 「無論、それは織り込み済みだ。これは行動隊の仕業であるかのような証拠品をつかませる。『終りの人』も、口々に自分達は行動隊であると言うように指示してある。そして……」
 「は? 」
 「青酸カリのアンプルを支給してある」
 「そんな! それに警察に逮捕されたら真先にそんなものは取り上げられるに決まってます」
 「逮捕されたらな」

16 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/03/13(木) 07:48:18.61 ID:AA+bpw5X
 「逮捕されない、裏技か何かあるんですか? 」
 「だから、口々に行動隊だと言いながら気に入った貪理の女を犯して自殺するよう命じてある。ああ、もちろん自殺する前に周囲に銃弾をばらまいてからな」
 「そんな…むごい…」
 「おいおい、自分のやったことがむごくないとでも言うのか、馬淵よ、親衛隊の中にはお前の事を死神博士と呼んでいる者もおる様だぞ」

17 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/03/13(木) 18:33:05.84 ID:AA+bpw5X
 角来実家は驚いた事に小さなパン屋さんだった。涙田がもっと驚いたのは両親の反応だった。
 「ただいま!」 
 「お、お前!」と母らしい人物。
 「どこからやってきた?」と父らしい人物。
 「そこのドアから」と美雪。
 疥癬持ちの飼い犬が戻って来たかのような反応だ。

18 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/03/13(木) 18:37:49.06 ID:AA+bpw5X
 「友達を連れてきちゃった」
 「な、ななななんだって〜!!!」
 両親のこの言葉への反応は疥癬持ちの飼い犬が狂犬病の連れを伴って来たかのようなものだった。
 「帰るって言ってなかったの? 」と涙田は聞いてみた。
 「うん、そう言うサプライズも必要かと思って」
 両親は十分サプライズしていたが取りあえず中に入れてくれた。店は臨時休業だ。
 一応お茶が出た。しかし、美雪は何も言わず外に出て行った。酒を買いに行ったのだろう。先ほど近所にコンビニがあるのを見て
最近はどこにでもコンビニがあるねえと言って目を輝かせていたが、コンビニには酒がある。

19 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/03/14(金) 07:21:55.29 ID:l/AlZsDF
「それで、お前は何者なんだ?」
 行動隊ですと正体を言ったら卒倒されるだろうから「涙田と言います。会社の同僚です」ともう一面の正体を素直に言った。
 「会社って?」と父。
 「大村パンの」
 「おおむらぱん?」と父母。ハモっている。流石は夫婦だ。
 「は?」
 「あの、何年も前に酒に狂って出て行ってからどこでどうしているのか、知らないんですよ」と母。
 「え、じゃ、某県に住んでいることも?」
 「全然」と両親。
 流石にくらくらしてきて茶を飲み干すのと「ただ今」と美雪が帰ってくるのは同時だった。手にはレジ袋があったがどうせ酒に違いない。

20 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/03/15(土) 06:46:24.83 ID:tr+fwE9O
 朴はそんな修羅場のカップルが市内にいることなど知らず、のんきに明日のパレードの計画の説明を聞いていた。
 明日の天気予報は良かったし、信者に動員もかけた。それこそ総動員をかけたと言っていい。これで来ないものは貪理ではないかのような剣幕で全国修行会議で言っておいたから末端まで伝わってくれただろう。
 しかし、末端の信者が来て楽しんでくれる事、それが何よりも大事だ。信者が来ても苦行では話にならないことをこれまでの貪理の祭りは立証し続けてきた。
 ライバルの創価学会もそうだ。あそこの文化祭はマスゲームで有名だがマスゲームをやるのは人間であり、いやいや動員されてやっている要員から苦痛の声が絶えなかったからか最近では開かれていない。
なお、北朝鮮にマスゲームを教えたのは学会だと言うものがいるがそれは俗説に過ぎない。無論、学会内には北朝鮮出身者も多く人的交流も皆無ではないが……

21 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/03/15(土) 07:39:57.37 ID:tr+fwE9O
 ……この子は祭りが終わっても東京には戻さず、ここで働いてもらおうか? 本人がどう思うかだが? 
ふと、朴は自分も結婚していないことを思い出してスキャンダルにならないように注意しなければと思いながら貴理子の目を見た。
 「何か?」
 「いや……奈良いきいきテレビは県営とは違うのか? 確か経営不振で県営化されたのではなかったかとおもったが」
 「いきいきはローカルなケーブルテレビですが県営ではなくて、県が出資しているだけです。第三セクターでもありません。
我々もコマーシャルを出せるのはそのせいです。もっとも学会もCMをやってますしそれに対しては文句は言えません。「幸福の錬金術」でさえコマーシャルを出してるぐらいですからね。」
 「あんなところがか? こういっちゃなんだが」

22 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/03/15(土) 07:50:26.22 ID:tr+fwE9O
 「そうそう……」
 貴理子はくすくす笑って言った。
 「どうかすると、この三つのコマーシャルが続く事があります。口さがない者はこれを「宗教戦争」と呼んでいます」
 彼らは幸福にも翌日本物の宗教戦争が起こることは知らなかった。

23 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/03/15(土) 22:19:34.87 ID:tr+fwE9O
 「そ、それじゃ、地下二階のお部屋へ取りあえず荷物を置いて……」と美雪。
 「そうだな……」と父。
 「そうね」と母。
 「あ、あの……」
 「涙田さんは健治の、13号室を使うといい」
 「は、じゅうさんごうしつ?」と涙田。
 「そう言う部屋の名前なの」
 「ほほう?」
 「美雪、お前の反省室ももとのままだから」
 「はーい」

24 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/03/16(日) 07:29:07.71 ID:7HG3vdlT
 お約束で、十三号室のベットの下からはAVがザクザク出て来たが、それが全て姉弟相姦ものなのは言わないほうが良さそうだった。
 夜、前夜祭に出かけた涙田たちは初めてキスしたが、それは焼酎の味が濃厚にした。
 後味を消すために涙田は付近のコンビニで安ワインを買い少し飲んだ。
 通りでは殺傷事件がすでに起こり、警察はどこか遠くでサイレンを鳴らしていた。悲鳴と怒号が交差していた。
 流石は貪理のお祭りだ。聞きしに勝る鉄火場だった。幼い頃「あれにだけは行ったらあきません」と言われた祭りだ。
 それが不快な思い出をフラッシュバックさせ、涙田はさらに飲んだが明日は本祭りなので今日は早く寝ることにした。
明日は修羅場をくぐる事になるという予想がついたからだ。
 それがとんでもないことになるとは分からなかったのだが。

25 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/03/16(日) 11:36:45.67 ID:7HG3vdlT
 貪理市壊滅作戦決行当日(日曜日)。午後0時。
 快晴だった。涙田は美雪と二人で祭りに出た。
 途中で救急隊に担架で運ばれる死体とすれ違った。刃物での喧嘩らしかった。涙田はフル装備だったが祭りでお土産を買うための大きなバックを持たなければならず、それがちょっと困った。
 二人が貪理に来ている事は会社の皆が知っているのだから、お土産は期待されている。全社にカップルお披露目の意味をこめて何かは配らないといけないだろう。百人はいる会社なのだ。
 美雪はのんきに朝からハイテンションで、流石に朝からは飲んではいなかったが、友人らと連絡を取り合って盛り上がっていた。この街では祭りの時には里帰りをするのが普通なのであった。
 爆竹を鳴らす者もおり喧嘩をする者もおり、あたりは異様に騒々しかった。人だかりが流れていて露店も出ていた。
 「ねえ、何か買って」
 「何かって酒以外やで」
 「酒、酒」
 「酒ダメ!」
 「んー酒以外でもいい、涙田さんの買ってくれるモノなら」
 「うーん……」

26 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/03/16(日) 21:54:33.65 ID:7HG3vdlT
 涙田はちょうどお面を売っているお店があったのでそこへ立ち寄ってみた。
 「いらっしゃい」
 「何のお面がありますか」
 「もうあんまり残ってないよ、お客さん…」
 「これはなんですの? 」
 「覆面グライダーのお面だよ」
 覆面グライダー隊とは自衛隊内の影の部隊であり、その内容は極秘とされている。
そんな部隊のお面があるぐらいだからこのお面屋は屋台なのによほどにマニアックな店なようだ。

27 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/03/16(日) 21:57:11.89 ID:7HG3vdlT
 「女の子向きのお面ってないのかい? 」
 「ありますよ、ほら、般若の面」
 確かに般若の面だった。能面の中では「怒った女」の写実の面なのではないかと言われているものであった。
 「いやいや、もっと心ときめくような物はないのか」
 「心ときめく、マニアックな物ならこれなんかどうだね? 」
 「うっ、こ、これは…」
 ババーン
 「ふっふっふ…人海戦隊チャイナマンのチャイナブラックの面」

28 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/03/17(月) 06:54:33.69 ID:C5aMwUQB
 人海戦隊チャイナマンとは三年前に自主制作されたその名の通り中国を思い切り馬鹿にした内容の戦隊モノのオリジナルパロディ映画作品だ。
 すでに地下では高値で取引されているといういわくつきの逸品だった。
 「この映画は中越戦争の実話に基づいている」とされる作品だった。
 作品中ではすでに日中間では開戦している。そして自衛隊の一個小隊が守る重要拠点の丘を
数千名の人海戦隊チャイナマンが攻めるが、壮大な人海戦術は失敗し、戦隊は壊滅的打撃を受け中国側が敗退するというストーリーだった。
 もちろん、常識的に考えても数千で一個小隊に敗退はおかしい。これには裏があり、たった一個小隊でも勇戦すればチャイナを蹴散らすことができると言う
政治的プロパガンダのために自衛隊の精鋭部隊、覆面グライダー隊が影でバックアップしており、そのおかげで勝てたのだ。
 自衛隊の小隊はヒーローとなりチャイナマンは無様な敗北者となるという構図となる。

29 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/03/17(月) 06:56:24.60 ID:C5aMwUQB
 しかし、実際には、戦争で一個小隊(人数ではせいぜい三十名)が数千に勝つとは、実質大虐殺である。
 それは戦争の狂気と悲喜劇を観客に付きつけてくるものであったが当然中国人にはそんな文学的感想など持てはしない。
 また、史実としての中越戦争では彼我の戦力比50倍で攻めて敗北したケースもあったらしい。一個小隊が守る丘に実質一個大隊が攻撃して敗れたなどだ。
 地形や火力を無視して突っ込めばそれはむしろ当たり前の結果である。しかし、当の中国では民衆が怒る事を恐れてその事実が封印されていた。
 当然中国では怒りの声が上がり猛烈な抗議が来た。

30 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/03/17(月) 07:49:43.14 ID:C5aMwUQB
 「すごい、レアもの中のレアもの!」
 レアものなのも当然だった。今時祭りで売っているお面はほとんどが中国製だ。しかし中国でこんなお面が生産できるはずがない。
 これは噂によると国粋主義者の社長がいる日本のプラスチックメーカーが極秘裏に生産したという物なのだ。
 そして、反中国の集会などで、このお面は反中の象徴として被られた。徐々に消耗しているが補充はないのだ。
 「これでどや! 」とお面屋。こ奴は只者ではない。
 「……買う」
 「毎度あり」
 美雪は怒った顔をしている。
 ……般若の顔だ

31 :名無しさん@お腹いっぱい。:2014/03/17(月) 18:34:33.92 ID:czthZ5PY
プンスカプンプンの美雪の後を三歩下がって夜店を進む
香ばしいソースが焦げる香りが食欲をそそる

突然美雪の足が止まる、古ぼけた時計やら、プリント物の
マグカップなどが雑然と置いてある
美雪の目が一点に釘付けとなっているでわないか

「ん!」

「あれを買ってくれたらお面の事はチャラにしてあげる」


美雪が指差した物は火縄銃だった。手に取るとなにやら曰くありげな文字が
銀の像がんで施されていた。

『愛山護法』

美雪はガンキチでもあったのだ。

32 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/03/17(月) 23:02:37.01 ID:C5aMwUQB
銃を買うと、早速それが涙田のどてっぱらに突きつけられる。
「おらおら、手を上げんかい」

遠くでは散発的な銃声が……
「貪理は違うのう」
大阪では常識だが、ここでは世間の常識は通用しないのだ。
「くらえ、グーパンチ!」

33 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/03/18(火) 13:45:22.67 ID:Z2lyp0BU
 犬田代作はパソコンの画面を見ていた。その画面にちらりと美雪のグーパンチが涙田の顔面に炸裂するシーンが写った。
 「ほう、若い男女の痴話喧嘩か」
 彼はテレビには興味があり、良く研究していた。
 若いころ、映画に良く行った事もあって学会でも良く映画を制作させた。その延長でテレビも良く見たし自身もテレビに積極的に出るほうだった。
 また、彼はテレビならテレビの、機械や放送の仕組みや、番組の制作などにも関心を持っていた。
 ただ、彼の義兄、百田修二郎は昭和40年代に「宗教は商品ではないからCMしても仕方がないだろう、むしろそのお金で慈善事業でもしたほうがよほど宣伝になる」と言った。
 その忠告を守り犬田は学会自体のCMをテレビでもラジオでも、することは固く禁じていた。また、実際に学会の名前を連呼することは出来ようが信心の良さを理解してもらうためにはCMの時間では無理だと思った。
それなら修二郎の言う通りで慈善事業でもしたほうがましであった。

34 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/03/18(火) 13:58:41.64 ID:Z2lyp0BU
作者注 今読み返すとこの記述は先の奈良いきいきのCMの件と矛盾があるが、記述した
時期が完全に違うためである。
おそらく生華の奈良ローカルの地区で金を出してCMをやっていると言う事なのだろう
うん、きっとそうだろう

35 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/03/18(火) 14:03:35.51 ID:Z2lyp0BU
 それから、犬田は若かったころの、燃え上がるような野望を思い出した。
 彼は日本の王か大統領になるという夢を幼いころから抱いていた。最下層の身分でさげすまれ差別されていた彼にとっては
それは単なる夢に過ぎず、誰にも話したことはなかった。
 宗教の世界に犬田は入った。そこでは正しい仏教、生華学会の信心が日本の国教であり日本人が全ての異教を捨てこれに帰依した時素晴らしい新世界が来ると教えていた。
犬田はそれを当初は一信者として信じていた。やがて、燃えるような野望が生まれてきた。自分自身が教主として日本を支配すると言う野望だ。
 生華学会の会長に就任した夜、彼はこの夢を義兄と妻にだけは打ち明けた。二人は笑わなかった。二人だけは彼の真の理解者だった。
 その理解者ももういない。彼も老いた。
 彼には二男一女がいて孫もいたが後継者には恵まれていない。彼は晩年はこの途方もない夢を隠して生きてきたが、もう死ぬかという年になって
このまま自分も夢も消えてしまうのかと思うと怖くなった。彼は夢をゆがんだ形で実行に移したのだった。

36 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/03/18(火) 16:55:33.04 ID:Z2lyp0BU
 インターネット…彼にはこうしたサービスがどういう風に動いているのか良く分からなかった。テレビとは違う原理だという事は理解できた。
静止画像やメッセージを送るシステムだという事も分かる。だが、今見ているのは動画で、奈良いきいきテレビのライブ画像だという。
 それだと奈良のテレビが東京で見れているという事になるが、電波はどうなっているのか、さっぱり分からなかった。
 「それで、この画面にもうじき奴らが吹っ飛ぶところが写るんだな」
 「ははっ」
 権田はひれ伏しながら言った。

37 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/03/19(水) 07:32:13.43 ID:rIQo1Cgb
 貪理市壊滅作戦決行当日(日曜日)。午後0時55分。
 朴はオープンカーの上から警備担当の白を呼び寄せた。
 「どの程度遅れているのかね? 」
 「二十分ぐらいかと…」
 パレードのスピードは計算ミスだった。しかし、前を行く若い女性たちに今から走れと命令するわけには行かない。
走るパレードなんか見たことも聞いた事もない。オープンカーもこれ以上速度を上げた場合、前のパレードに突っ込まないか、という危険があった。
 「放送は無理かね? 」
 彼は横に座っている貴理子に聞いた。

38 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/03/19(水) 07:37:47.72 ID:rIQo1Cgb
 「間に合いません」
 貴理子の答えは明快だった。これも朴が彼女を認めている点の一つであった。彼女は教主に対してもはっきりと物を言った。
 しかし、それはそうとしても奈良いきいきテレビの取材は貴重だった。貪理は大きな宗教ではあったが前時代的すぎてマスコミの受けは良くない。
 「そうか…もったいないが、諦めるしかないな」
 「こうなったら向こうのほうで適当な絵を撮ってくれるでしょう。そのほうがこっちがとやかく言うよりかえって自然だと思います」
 「自然?」
 「自然な絵が撮れるだろうと言う事です」
 事実、想像を絶するような自然な絵が撮れたがそれは今の彼らには分からない。彼らは進むしかなかった。

39 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/03/19(水) 21:13:46.96 ID:rIQo1Cgb
 露店にバーがあったのでそこでシャンパンを二人分頼んだ。
 美雪は酔って、彼女の理想はステンガンとブローニングハイパワーで武装した王子様にさらわれることで、いつしかそれがスターリング(短機関銃)と
ブローニングハイパワーで武装した王子様にさらわれることに変わって行ったと言う驚愕の裏事情を告白していた。それらはすべて英軍装備の銃だったからだ。
 涙田は、俺はよりにもよってイギリス軍装備の王子様かよと吐き捨てるように言って火縄銃独特の六角形の銃身で殴られた。
(作者注、パイソンもワルサーP38もウージーも英軍装備ではない)
 ちなみになぜ露店にバーがあるのか全く理解できないがあるものはあるのだから仕方がなかった。
 涙田は恐る恐る言った。
 「ねえ、怒ってる?」
 美雪は火縄銃に込め矢で玉を装填しながら言った。装填手順自体は信長の時代から角来家に伝わっているとの事だった。
 「ううん……そう、あんなお面を買う事ないじゃない!」
 「まだ言うか! あれこそ人海戦隊チャイナマンのチャイナブラックのお面なんだぞ、今ここで手に入れなかったらもう手に入らない貴重な品なんだ」
 涙田は今度はブラッディマリーを二杯注文した。大分今回の予算として持って来たお金を酒関係につぎ込んでいる。

40 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/03/19(水) 21:16:05.91 ID:rIQo1Cgb
 「あ、ドンマイダンスだ」
 「あ、ほんとだ」
 気がつくと、貪理の法被を着た貪理大生が道のど真ん中で「ドンマイ、ドンマイ」と叫びながら阿波踊りを踊っていた。
これが有名なドンマイダンスで、もとは大学を出ても貪理大では就職がなく浮浪者になるか死ぬしかなかった学生らが集団で貪理川に身を投げて自殺する前に、抗議のため。
彼らのために何もしてくれなかった大学就職課の前で踊ったのが始まりと言われている。
 この集団自殺では貪理川の水を取水源にしている自治体から抗議が来た。水が汚れたからだ。要するに人間以下の扱いだった。
 彼ら貪理大生はその程度の存在と周囲からは考えられており、大阪の高校では「貪理(大学)行くなら浮浪者するのがなんぼかましじゃいな」と言う歌が歌われている位軽蔑されていた。
 「もうじきパレードが来るわ」美雪が歌うように言った。

41 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/03/20(木) 06:33:45.23 ID:RbAH+2Lf
 「もうじきパレードが来るぞ」
 オメガ2は部下たちに無線インカムで言った。そうしながら彼は素早く計算した。
 オメガ2はやっていなかったが部下たちの中にはモルヒネや酒で痛みや恐怖を和らげているものが多数いた。
 だから、ロジカルにモノを考えるのはオメガと呼ばれる終わりの人たちの中でも1から3の三人の幹部の役目だった。
 死神博士の爆薬は時間通りに爆発してしまう。だからまだ道路の、それも貪理記念総合ホールの相当手前にいる朴の畜生は幹部連中と生き残ってしまうだろう。
建物は吹き飛んでも朴たちが生き残ってしまったのでは貪理は宗教的にはすぐに再生してくるのではないか?
 そうはさせてはならなかった。彼らに与えられた任務は単なる行動隊に罪をかぶせる自殺ではなく、貪理をたたきつぶすことだった。
 「爆破と同時に襲撃」
 「ラジャー」

42 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/03/20(木) 20:01:22.10 ID:RbAH+2Lf
 爆発は、午後一時ジャストだった。朴は最初、目の前の貪理記念総合ホールが爆音とともに
爆発し崩れ落ちていくのを何かのイベントかと勘違いして目を見張った。
 奈良いきいきテレビのクルーもこの光景を奈良県じゅうに中継していた。

43 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/03/20(木) 20:09:37.64 ID:RbAH+2Lf
 「逃げて!」涙田は美雪に言った。
 「は?」と美雪。
 「早く! 実家へ」
 美雪は素早くブラッディマリーを飲み干すと走り去った。火縄銃は肩にしている。流石はガンキチだ。
 涙田は金を払おうとカウンターに近寄ったが、バーテンダーも逃げて居なかった。
 よく見渡すと周囲の主要な建物はみな爆破されていた。
 破片が飛び散っている。千切れた人の体も散らばっている。悲鳴や怒号が聞こえている。炎と煙が広がる。
 またしても地獄に来てしまったよ、涙田はそう思った。

44 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/03/20(木) 20:19:12.52 ID:RbAH+2Lf
 オメガ2の偽パトカーはそんな混乱の中、飛ぶように朴のオープンカーの横につけた。
 「おまわりさん?」
 白の第一声はそれだった。

 おまわりさんと呼ばれてオメガ2は戸惑ったが
 「俺たちは行動隊だ!」と怒鳴った。

45 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/03/21(金) 07:11:05.28 ID:ppAPr3gr
 「は?」
 「え?」
 「なんですか?」
 それが朴や白、貴理子ら教団幹部の反応だった。
 それが当然だった。白は警備担当として行動隊の事は知っていたがそれは知識に過ぎなかった。
 涙田はその声が聞こえる範囲におり、こちらも当然驚愕の表情を浮かべていた。
 行動隊に入って最初に教わる事は自分たちが行動隊であることがばれないようにすることだった。行動隊が自分から名乗るなどあり得ない話だった。
 「それで、行動隊が何の用だ? 」と白。彼は何がなんだかさっぱり分からず目の前の男が拳銃を抜くのを見て初めてこの男が(いろんな意味で)おかしい事に気がついた。
 「教主様、危ない」
 「遅いわ! 貪理の奴らに命令しろ、特に女たちにな、逃げたら教主を殺すと」
 「は?」
 意外な命令に朴も白も目をぱちくりさせた。
 涙田が情勢を見守っていると、わらわらと集まってくる「行動隊」の数は目に入る範囲で約二十名弱、全員ウージーか、ワルサーか例のルーガー砲兵隊仕様で武装している。
 ……やばい
 とっさに周囲を見渡すと貪理の法被が落ちていた。素早くそれを拾って身につける。

46 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/03/21(金) 07:22:05.98 ID:ppAPr3gr
さらに見ていると驚いた事に「行動隊」の半数はパレードの女たちをレイプし始め、残りは見張りに入った。
 リーダーらしき男は教主らしき男に拳銃を突きつけている。
サブリーダ格の男二人がその傍にいて警備担当者らしい男にこれも銃を突きつけている。こいつらはワルサーを装備していた。
 もう、その装備を見ただけでも涙田には相手が学会だと分かった。行動隊だと言うのは当然嘘である。二十対一の対決は絶対に不利だ。チャンスを待つしかない。

47 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/03/21(金) 09:23:32.31 ID:ppAPr3gr
 しばらくすると、当初の驚きが去って涙田の心には静かな怒りの炎が湧き上がってきた。無抵抗の人々を殺したり女たちを犯したりする奴らへの怒りだ。
 爆発した建物には無数の罪もない人々がいたに違いない。それにあきたらず、おもむろに女を犯し始める感覚が彼には理解できなかった。
 奴らは今、おそらくは教主を殺そうと企んでいるようだった。今殺さないのは女を犯す必要があるからだ。犯人ら全員がすっきりしたら殺す気だろう。
それは阻止したほうがよさそうだ。

 涙田家の代々の言い伝え「戦場では郷里(大阪)の英雄、大塩平八郎に思いをいたせ」を発揮する時が来た。(作者注、大塩平八郎は江戸時代後期の儒学者、大坂町奉行組与力。
大塩平八郎の乱を起こした(以上wikiより引用)作者の郷里、大阪の英雄)この伝説は涙田の先祖が大塩らのわずか三百の兵として救民の旗の下、
乱に加わったことを暗に示している。大阪にはそういう古い家がまだある。

48 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/03/21(金) 15:54:40.35 ID:ppAPr3gr
それに涙田はずっと幼いころから一族の武勇伝を聞かされてきた。
 一族の中の一人には硫黄島のデビルの二つ名を米軍海兵隊から頂戴したと考えられる男がいて、彼は銃剣で米海兵隊を太平洋に追い返した。すごい人だ。
 そんな一族の一員なのだ。この状況を戦わずただ見ているだけなど考えられないことであった。ただ、その人、硫黄島のデビルは勲章も何も一切もらっていない。
国立国会図書館にこれまた伝説の通称「秘められた記録」があるだけだ。
 涙田がチャイナマンのお面にこだわるのもその一族(硫黄島のデビル)の話とチャイナマンのエピソードがどこか重なるからであった。
 ちなみに、一族のもう一つの言い伝えは「勲章をもらったならば突き返せ、(戦争の褒美で)金をもらったならば戦争孤児に寄付せよ」だった。ストイックな戦士の姿がそこにこめられていた。
そして一族全員で歴史上一回も勲章を受けたことがないらしい。軍人として昇進はした人はいた。最高の名誉はやはり「秘められた記録」だった。

49 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/03/22(土) 07:43:20.34 ID:HVynSChm
 少しすると、サブリーダーの一人が教主の横に座っている妻らしい女(涙田は貴理子をそう判断した、事実は違っていた)に好色な手を伸ばし始めた。
見張りに立っている十名ほどの男たちも、次は自分たちの番だと女の品定めとレイプの鑑賞に忙しくて見張りどころではなくなった。もちろんレイプしている奴は腰を振るのに忙しくてそれ以外は頭にない。
 結果、まともに見張っているのはリーダーとサブリーダーの一人だけで、見張りの対象は教主だけだ。
 チャンス到来

50 :名無しさん@お腹いっぱい。:2014/03/22(土) 21:45:14.84 ID:HY0oXEj/
涙田は素早くM31RSを構えリーダーにぶっ放す

「ズキューン!!」

リーダは揉んどりを打ってオープンカーから落ちてゆく
慌ててサブリーダはリーダの破片をかき集めようと
トランクに四つん這いになった刹那

「バーン!!」

涙田がM31RSの薬莢を排出すると同時の出来事である

「あまめは私が倒す!」

後ろから聞こえた声は先に家に返した筈の美雪だった
腰を振っていたと思われた最後の人々も実は貧理の信者に
締め落とされて痙攣していただけであった
そこは流石に柔道の貧理と言われオリンピックのメダリスト
を輩出していただけの事はあった

51 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/03/22(土) 22:07:19.21 ID:HVynSChm
「あまめ?」
「ふふふ、こうよ!」
ドム!
火縄銃が火を噴く。 吹っ飛ばされる最後の人の一人。
だが、悲しいかな、火縄銃は単発だった。
「ちっ!」
美雪はまた走り去った。
「おいおい、何しに来たんだよ」
「なんだ、なんだ」
自称行動隊の増援が来る。
M31RSを連射、弾が尽きる。
 「いやしかし。このM31RSはどこから出たのかな、所持してた銃の中にはなかったはず」
 「貴様、ウラー」

52 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/03/22(土) 22:09:20.46 ID:HVynSChm
 涙田は静かに人海戦隊チャイナマンのお面をつけ、パイソンを抜いた。そのまま一番近くの見張りの頭を吹っ飛ばす。そいつはウージーを装備していたのでそれを奪う。一連の動作はまるで訓練したかのように
滑らかだったがもちろんこんな訓練受けたことなんかない。
 涙田が多分そうではないかと思った通り、ウージーはコッキング(遊底を撃発位置まで引き戻す)されていなかった。ウージー特有の上部のコッキングハンドルを引いて遊底を撃発位置まで引き戻す。
 戦場につくまではコッキングしないのが通常の安全手順だった。しかしここはすでに戦場だ。
 ただちに教主に銃をつきつけているサブリーダーの一人オメガ1を射殺、後の二人は安全射線が確保できないため見張りたちとの交戦に入った。フォールディングストックを伸ばし膝射の姿勢になる。
 たちまち、訓練と実戦経験の差が表れた。
 涙田はこの間の経験からフルオートでは一瞬で銃が空になる事を体験していたことから今回はセミ・オートを選択、単発射撃で次々見張りを倒していく。

53 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/03/22(土) 22:11:38.61 ID:HVynSChm
 それも出来るだけ頭や心臓を外し手足を狙うと言う狙撃に出た。これは何も涙田が心優しいからではなく警察で自分たちは本当は行動隊ではないとしゃべってもらわないと困るからだった。だからやむを得ない場合は射殺した。
 最初は十対一で絶対的不利だったはずだが、あっと言う間に形勢は逆転して行った。偽行動隊はドラッグやアルコールでふらふらだった。なにしろこれだけ近距離(本当に目の前だった)なのに、彼ら偽行動隊の腕では拳銃を乱射してもまったく当たらないのであった。
いや、拳銃を乱射できるのはまだいいほうでウージーを所持している者は自分の銃がコッキングされていないと言う事にすら気が付いておらず弾の出ない銃を必死でいじっているうちに撃たれたりしたし、拳銃の者も安全装置を解除できなかったり、
予備弾はたくさん持っているのにいざとなると交換できなかったりで次々と倒されていった。

 白は最初の銃声と同時にオメガ2のワルサーを奪おうとした。ちらっと彼が目を走らせると貴理子がオメガ3のワルサーを掴んでいるのが見えた。
 膝頭をオメガ2の腹にくれると、彼は海老のように体を曲げた。銃をもぎ取る。
 しかし、白が引き金を引く前にオメガ3が白を撃った。
 「がっ……」
 ワルサーが白の手から転がり落ち、オープンカーの中に落ちた。もう取れない。
 白はあおむけに倒れた。青い空がどこまでも広がっていた。

54 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/03/23(日) 07:28:13.26 ID:cbfEqfKR
 朴はオープンカーの中でしゃがんだまま素早くワルサーを掴んだ。彼は北出身と言っても軍隊経験もなく拳銃の知識はない。
 しかし、いくら彼でもこいつが発射できる状態で、白が必死で奪い取ろうとしていた奴だぐらいは分かる。
 このピンチに拳銃が天から降ってくると思うほど彼は信心深くはなかった。
 「朴、隠れてんと出てこんかい、最後に笑ろた者の勝ちや!」
 オメガ3が勝ち誇って叫ぶ。関西弁だ。
 朴は立ち上がらないでいる事に決めた。
 涙田はまだ敵が残っているにもかかわらず、必死で銃口を彼に向けたがオメガ3は用心深く貴理子を盾にしていた。
 しかし、それが彼の命取りになった。貴理子は再びワルサーを奪おうとした。その勇気はすごいとしか言いようがない。
 涙田もやむなく彼女を見捨て、最後までしぶとく残っていた「行動隊」と撃ちあいをした。

55 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/03/23(日) 07:32:33.58 ID:cbfEqfKR
 その時、もみ合っている二人の方から鈍い銃声がした。
 朴もそっとオメガ3と貴理子の様子をうかがった。
 オメガ3は血まみれの貴理子を突き飛ばした。だが、貴理子の体で、ワルサーの空薬きょうはワルサーの中に押し戻されていた。珍しいタイプの回転不良だ。
 ワルサーP38の場合結構強力に排きょうされるがそれが裏目に出た形である。
 オメガ3は悪鬼の表情でワルサーのスライドを手で引っ張って排きょうする。
 その瞬間の隙を突いて、朴はオープンカーの中で立ち上がった。手にはワルサーが握られている。無言でオメガ3を狙った。
 香港ノワールのような瞬間が過ぎた。朴もオメガ3も相手の体にありったけの銃弾を叩き込んだ。銃声の嵐が響いて、二人の男は倒れた。

56 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/03/23(日) 09:37:46.87 ID:cbfEqfKR
 涙田は残弾が残り少ないウージーを肩に吊り直し、ショットガンに再装填した。弾はバックショットを選択。五発だ。
 早く教主を救いたいが、まだ敵がいる可能性が高い。駆け寄りたいのをこらえる。今この瞬間、彼の事を守りうるのは、壁になるのは涙田一人なのだ。
 死体からウージーの弾倉を奪おうと手を伸ばした瞬間、やはり前方(貪理記念総合ホール方向)から「行動隊」の残存兵が走ってきた。爆破に関与していた兵らであろう。
 十人ほどだ。全員が拳銃で、無茶苦茶に発砲しながら駆けつけてくる。
 向こうから撃ってくるわけだが、逆に、女の上で腰を振ってる奴らの前方に走り出ると安全射線が取れた。と言うか、路上はもう逃げるか死ぬかの二者択一でがら空きだった。
 きわめて冷静に五発の怒りの銃撃を放った。ロードスイーパーとは良く言ったもので、十対一の対決にまたなったにもかかわらず瞬殺だった。これら学会員には生き残っているものはいなかった。
 「あほか、M31RSにチャカで、しかも通りの向こうから、こいつらの腕では当たりもしないのに撃ちまくりながら突っ込んでくるなんて自殺行為を絵に描いたようなもんだ。
 こいつは十対一のうちには到底入れられないな」
 涙田はウージーに切り替えながら振り返って、生き残ってまだ体を道で横たえているオメガ2の足を撃った。
 静けさが戻った。

57 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/03/23(日) 09:50:53.83 ID:cbfEqfKR
涙田が周囲を見渡すともう戦闘能力を残している「行動隊」はいなかった。
 後は女の上でまだ腰をくねらせている男たちで、女も犯していたが手元から銃を手放すと言う
戦場で決してやってはならない失敗も犯していた。
 涙田は教主に駆け寄る。
 血だらけであった。息はある
 「誰か、救急車を呼べ!」
 そのころになって、女に跨って腰を振っていた偽行動隊はようやく起き上がって来た。
彼らは酒やドラッグをしこたま決めていたから素早く動くのは無理だった。
 その彼らを手に手に刃物を手にした貪理教徒が取り囲んだ。
 「殺すんじゃないぞ、警察に引き渡して吐かせるんだ」
 涙田は叫んだ。ウージーは大型バックにしまいこむ。
 そして、すばやく身をひるがえすとそこらに置き去りにしてあったミニバイクを起こすとそのままそいつに乗って立ち去った。
 「泥棒! バイクを盗まれた!」
 誰かが叫んだがそれは皆が皆口々に喚き始めたので誰にも聞こえなかった。

58 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/03/23(日) 20:01:16.58 ID:cbfEqfKR
良くわかる貪理 より
天理教と貪理は違う宗教です。
同じなのは神道系であることと、奈良にゴットシティを持っていることだけです
しかし、貪欲さのあまりに貪理と呼ばれるようになったこの宗教にはいつか滅びるときが来るという
伝説があり、その時に最後の希望が現れると言う言い伝えがあります。
最初から最後の希望が言い伝えられるとははなはだ矛盾した話なのですが、それは
貪欲さは罪であること、そしていつかは罪の償いが行われるのだ。そしてその向こうにあるのは
希望だと言う貪理の理論なのです。
わが生華学会は(以下略)

59 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/03/24(月) 06:35:35.34 ID:Bh87jy6B
 第二悪夢の日曜日の翌日(月曜日) 午前中 
 奈良県警本部。
 本部長、笠木総一郎は県知事からの電話を対策本部に振ると自らは小会議室に戻った。
 そこでは誰に責任を押し付けるかを朝から延々会議し続けていて、そこから離れていると責任者は笠木と言う事で一件落着しそうだった。それだけは避けたかったからだ。
 もうすでに出動してきた自衛隊に救助活動の主体は切り替わっていた。どうやら死者・行方不明者は一万名を超えそうな勢いだ。
給水は市内各所で始まってはいるが、いまだに毒の入った水道水による犠牲者が出ているので最終的には何人になるのか分からない。
 貪理は市街も宗教団体としても壊滅的なダメージを受けた。橋や送電鉄塔などのインフラは何時になったら再建できるのかめどすら立たない。おそらく貪理は後十年ぐらいは立ち上がれないだろう。
笠木自身は創価学会員だったから立ち上がってもらわないほうがよかった。
 …しかしそれにしても生華学会…そうか、と、しょうか、で音が似ているとは言われているが、全く違う宗教団体だと言う事を白日のもとにさらけ出したな…

60 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/03/24(月) 17:39:00.66 ID:Bh87jy6B
 「本部長、供述のまとめの早版ですが…」捜査員が言う。彼は疲れた顔をしていた。それを言うならみな疲れていた。
 「昨夜から何か変わったか?」
 「いえ、何も……」
 「そうか……聞いてるこっちが恥ずかしくなってくるぐらい犬田の悪口だな」
 「それしか出てきませんでしたから仕方がありません」
 笠木は一瞬、犬田代作を逮捕して自分がヒーローになると言うアイディアを弄んだが、こいつは無理そうだった。
 ……証拠が一時は「行動隊」を名乗っていた男たちの自白だけではどうにもならん。しかも今の段階では全員が病院で
治療中、これは正式な自白ですらないんだしな。
 奇妙な事だが男たちはまだ正式には逮捕さえされていないのだ。治療中だ。

61 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/03/24(月) 21:11:47.01 ID:Bh87jy6B
 「それで、爆薬のほうはどうだ、出どころとかは後でいい、不発弾は確認急がないと救助にも支障が出るぞ」
 それは笠木にしては建前であった。奈良県全域で貪理の施設は全て立ち入り禁止とする警察命令を出していた。通常の時なら宗教弾圧となりかねない。しかし今は非常事態だった。
 「それはやってます、不眠不休で…すでに二発見つけました。C4でした。分析すれば製造した工場も分かるでしょう。ただ、その情報は慎重に扱わなければなりませんが」
 「ふむ」
 爆薬の成分を分析すると製造した工場などが分かる事がある。捜査員はその事を言っていた。
 爆薬と言う物は店では売っていないとしても素人が考えるよりも工業用、建設用の用途があり特別なルートで流通している。したがってダイナマイトを使った
爆破事件などでは成分分析による流通ルートの特定から犯人が特定出来る事が多い。
だがC4はその流通ルートですら普通に流通していなかった。それこそ老朽化した建物の爆破など特殊用途に使う物だった。そのような工場の特定は不可能だろう。
 それに、それ以前の問題として爆薬をこれだけ大量に使っているからには製造工場が仮に割れても犯人には支障がないと考えるべきだった。裏ルートで仕入れていると想定された。
 所定のルートで身分証明書を提示してC4を大量に購入したと言うこともないとは言えないから捜査はしなければならないにせよ、それは警察のあるべき姿はこうだと言う話であった。

62 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/03/24(月) 22:12:28.97 ID:Bh87jy6B
「銃はどうか? 」
 「まだ何も…銃自体はウージーサブマシンガンとワルサーP38と悪夢の日曜日で使われた奴と同じルガー拳銃の特殊な長い銃身のバージョンです。全部9ミリ弾を使用します」
 「生華学会か」
 「それはどうでしょう? マシンガンはイスラエル製のオリジナルではない事は確認できましたが、そこから先はまだ調査中です。しかし……」
 「うん?」
 「銃の線も望み薄ではないですかね? これは勘ですが、敵の書いた絵では奴ら全員特攻隊で自殺して終了だったようですし、そうなると残る数少ない物的証拠は銃です。
 その事に敵も当然気が付いていたでしょう。ルガーからはもうたぐれないのは悪夢の日曜日で立証済みですし、他の銃からたぐれるなら苦労はないですよ」
 「ふむ」
 「まあ、思わぬ助っ人のおかげで生き証人も多数確保できたことですし」
 「その、人海戦隊チャイナマンとかいう奴はどうなった?」
 「不明です」
 笠木は、これは長い勝負になりそうだと思った。少なくとも明日犯人の家に行って逮捕状を読み上げるなんて事は無理だ。それは何カ月も先の話だ。
 それで、この大惨事の責任は誰がかぶるのか?

63 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/03/24(月) 22:25:47.62 ID:Bh87jy6B
 その涙田は出勤していた。災難だったがなんとかお土産がない事の言い訳は出来た。美雪との仲は知れ渡っていたからそれはそれで良かった。
 昼食後、涙田は社長室に呼ばれた。
 「ウージーを使ったチャイナマンはお前か?」と大村。かなり情報を掴んでいるようだ。
 「はい」
 隠すとためにならない。ウージーもチャイナマンのお面も回収してある。

 それどころではない。美雪はなんと、あこがれのブローニングハイパワーを知らぬ間にゲットしていた。
 「どこでこれを」涙田は言った。

64 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/03/25(火) 07:03:42.38 ID:Gg14YcI8
 「秘密よ」
 点検してみると、FNの刻印などから見てイギリス軍が第二次大戦後に採用したものと見て間違いなさそうだ。
 ただ、どう言う訳か古いタイプのタンジェントサイトがついている。(うわさでは9ミリ拳銃弾が届かないほど遠くが狙えるという仕様らしい)ハンマーは
もともとの起こしにくいリングハンマーから普通のハンマーに交換されていた。
 グリップには過去に擦った痕跡があり、使用されたことは間違いないがスライドの状態(部品としてフレームと一対をなし根底となる部分)の状態などを見ても新品のような見事なものだった。
 学会は拳銃に関してはワルサーP38とルガーの特殊な奴で武装している。一人だけこんなんで武装してましたなんて不合理な話はないだろう。
 「本当はどこで手に入れたんだ? あ、そう言えばあの火縄銃……」
 「ふふふ、実はあれでね、ブローニングを振り回している筋者らしき男の首から上を吹き飛ばしてこの素晴らしいブローニングハイパワーを奪ったのよ、予備弾倉も二つね」
 「ほほう」
 「それで、火縄銃は指紋をぬぐって男の靴と靴下を脱がせ、足の指を引き金にこすり付けておいてから自殺したらさも反動で転がった風に置いておいたの。もったいないけど」
 「そういう問題か? しかし自殺で片付けられるだろう。こうも死体が多いんじゃ一々調べていられないのが実情だろうしな」
 東京に帰る新幹線では身体検査どころの騒ぎではなく超満員で、美雪でさえ酒を買うチャンスがなかった。

65 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/03/25(火) 17:57:42.91 ID:Gg14YcI8
 「お前が隠れ貪理だったとは知らなかった」と大村はやや怪訝そうに言った。
 「いえ、角来の実家が貪理でして……」
 「は? 角来の実家って、おまえ、まだわが社に来て一月もたっていないぞ? 実家に挨拶に行くほどの仲になったのか」
 「そ、それがかくかくしかじかでして」
 「そうか、それはヤプール人に遭遇する級の災難だったな、この間の日曜と言い、山での一件と言い、何か悪いモノでも憑いているんじゃないか?」
 涙田は美雪を思い出したがそれは言わない事にした。それに山の時はまだ知りあう前だから違うのではないか? 
 「お払いにでも行ってくるか?」
 「どこか良いところをご存知ですか?」
 「幸福の錬金術はどうだ?」

66 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/03/25(火) 21:51:35.28 ID:Gg14YcI8
 幸福の錬金術は幸福の科学と混同される事がたまにあるが全く違う宗教団体である。
 「代表の小川降法は様々な神や仏とチャネリング出来るらしいですね」
 小川は貪理の家庭に生まれ育ち、貪理大を卒業したが貪理大生の宿命で就職先がなく、東京に出て創価学会に入信した。
 その後、若くして発狂、精神病院へ入院しそこで幸福の錬金術を始める。
 仏陀やアラー、イエス・キリストは同一人物の生まれ変わりであり、この三つの宗教は実は同じ宗教であるというのが小川の主張であった。
 そして小川自身がその存在の現在の生まれ変わりであると主張した。主治医は彼を閉鎖病棟に隔離した。
 そこからが小川のミラクルの始まりであった。どこをどうやったのか、娑婆に舞い戻った時、彼は金をポケットにたっぷり入れていた。
その後、小川は順風満帆の新興宗教生活を始める訳だがその陰にはいくつもの疑惑がささやかれ続けている。

67 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/03/25(火) 21:56:14.88 ID:Gg14YcI8
「それはまた、どう言う訳です?」涙田は言った。
 「我々行動隊と幸福の錬金術は裏ではつながりがある。幸福の錬金術は今や政党まで持っている宗教団体ではあるが決してクリーンではない。
 それに、小川も聖人ではない。むしろ奴のほうが世俗の欲にまみれているかも知れん。朴とか言う北朝鮮人の貪理の教主のほうがまだましだろう」
 「そいつは良かったです。なにしろ体を張って奴を守りましたからね」
 「よくあんな事が出来たな? 十対一だったそうじゃないか」
 「相手は素人でした」
 「そうか、まあ、今回は銃を使うのではなく、銃を輸送する仕事だ。
 明日、百丁のG3突撃銃を幸福の錬金術の秘密倉庫に搬入する。装備は全部置いていく事。
 今回の任務では当然検問があるものと予想される。したがって荷は金の仏像という触れ込みで、装甲現金輸送車で運ぶ。密閉し途中では何があっても開けない」
 「は……」
 「行動隊は、ガードマンに偽装して護衛するだけだ。昨日の夜、会議でお前も含め何名かが行くと言う事になった」
 「会議?」
 「チャットだ」

68 :名無しさん@お腹いっぱい。:2014/03/26(水) 06:13:43.05 ID:VOWa/QD8
謎の頸なし死体

現場検証の写真を片っ端から見ていると違和感のある物が出てきた
遺体の前に靴が揃えられているが頸がない、顕かにプラスチック爆薬で
吹き飛ばされたものと違う

「うむ、こいつは頭が吹き飛んでから靴を脱いだのか?」

モンモンの入った筋者風味の遺体写真を見て笠木は唸った


美雪が偽装工作しハイパワーと引き換えに残した銘『愛山護法』の
火縄銃は忽然と現場から姿を消していたのだ

69 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/03/26(水) 07:29:05.59 ID:VnHf7XI0
「靴がそろえられていますね」と捜査員の一人。
「C4を仕掛けた奴らの一人で、爆破の罪の意識に耐え切れなかった?」
「しかし、爆破の破片でこうなるか? ちょうど飛んでくるかどうかなんて
仕掛けたからと言ってもわかるまいが」
みな、首をひねった。

70 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/03/26(水) 07:50:17.51 ID:VnHf7XI0
「昔に猟銃自殺した奴がこんな風に裸足で、首から上が吹っ飛んでましたが」
「それだ、ウージーでやったんだな」
しかし、調べてみるとウージーでは、やって出来なくはないが手で自殺したほうが
自然なことがわかった。ただ、ウージーで自殺したと言うのなら誰かがそれを持ち去った可能性は高い。
貪理では報復を叫んでいる。貪理は街全体で一万人殺されて黙っているほど慈悲深い宗教ではない。
誰かが、学会がウージー以外のライフルのようなものを持ち込んでいた可能性を示唆した。
教主暗殺のためにだ。
「ケネディみたいにか」と笠木は言った。
「おそらく、こいつは狙撃手で、失敗したからこうしたんでしょう」
「恐ろしい奴らだ」
そうは言ったものの、彼は釈然としていなかった。青酸カリのカプセルを配るなどあらかじめ
完全な用意をしていた奴らが「靴を脱いで自殺」は不自然だから。
しかし、これ以上事件を抱え込むことは出来そうにない。
今からGOでも真犯人逮捕までどれだけかかるか、と言うまさにそのスタートから別に事件の捜査本部を
立ち上げ捜査するなんて無理すぎる。

71 :名無しさん@お腹いっぱい。:2014/03/26(水) 09:02:06.72 ID:VOWa/QD8
謎の遺体は京都の科捜研の法医研究員の榊マリアの元へ送られた
モンモンについては生華学会の本尊の題目であることが判った
後頭部より腰まで彫られており、首から上の頭部の欠損により
【無妙法蓮華経】としか読めない有り様だ
また、体内に残された弾丸は近代の銃火器のものではないことも判明した

だが、この所見をもとに捜査本部は立ち上げては貰えなかった

榊マリアにはコンビを組む土門拳の存在は無い
現実は人気ドラマの様にはいかないのである

72 :名無しさん@お腹いっぱい。:2014/03/26(水) 15:36:38.52 ID:tZuD4z6u
火縄銃でも首から上が吹っ飛んだのでは玉が残っておりますはややおかしいが、それを言ったらこの作品は成り立たない。

73 :名無しさん@お腹いっぱい。:2014/03/26(水) 15:46:42.56 ID:tZuD4z6u
今、気がついたが弾丸の破片が残っている可能性はある。鉛で低速なんだからな。

74 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/03/26(水) 20:26:17.45 ID:VnHf7XI0
 無論、一警官に過ぎない笠木には真相は分からなかった。
 ガンキチの娘が事もあろうに火縄銃で筋者の頭を吹き飛ばし、ブローニングハイパワーを奪って偽装工作のため靴と靴下を脱がせた。などとは誰にも想像がつかないことであった。
 しかも、その火縄銃が持ち去られてしまったとあってはなおさらであった。
 ただ、火縄銃はのちにとんでもないところから出てくることになった。

75 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/03/26(水) 20:29:02.95 ID:VnHf7XI0
 そんなこととは露ほども知らない涙田には大村とチャットが結び付かなかったが、VPNによる幹部専用の電子会議室がある事位は知っていたからそれを使ったのだろう。
 もちろん、それは高度な暗号化が施されエシュロンでも傍受は出来るが解読するのに数年はかかると言う暗号強度らしい。
 今時暗号化も何もない電子的な会議などは恰好な盗聴のターゲットだ。
 政教一致@大阪の小説にまでVPNなる単語が出る時代になったのだからもうこれは間違いがない。

76 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/03/27(木) 06:59:20.07 ID:ADTa52t2
 同時刻 品野町、生華学会本部
 品野町はよく似た発音の信濃町と混同される事があるがここは本当の田舎町であり、宗教の町である。その点では貪理にも通じるものがある。
 もっとも、事実上貪理は今やもうない。
 犬田代作は不機嫌そうに言った。
 「朴の野郎がまだ生きているだと?」
 「ははっ」
 飯田純一郎はひれ伏した。冷や汗が流れる。
 飯田は元々は僧侶だった。何不自由ない暮らしで、信者の女を抱き放題の放埓三昧の暮らしを送っていた。しかし、なんの因果か、気が付いてみれば大きな流れの中で何時しか学会に合流し大幹部の一人に祭り上げられていた。
そこでただお飾りになっていればいいと考えるほど彼は馬鹿ではなかった。
 そう言う合流組の末路は哀れである。彼のような外部の人間はたとえ一時は(やむなく)幹部としても結局は学会にとっては異物であり除去しなければならないトゲであった。
 そこで、彼は一か八かの賭けに出た。貪理壊滅作戦である。幸い、権の配下に都市工学の専門家がいて適切な爆破ポイントをいちいち丁寧に教えてくれた。作戦の大半はこの専門家、参謀が建てたもので爆破や水道に関する破壊工作などは完璧だった。
 しかし、貪理壊滅作戦はほぼ成功したが教主の命を取る事だけは失敗した。

77 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/03/27(木) 07:57:53.61 ID:ADTa52t2
 犬田はため息をついた。
 「朴が撃たれるところはすべて見ておったよ……」
 「ええっ!」
 「驚くのも無理はない、今の時代は便利になったもので、インターネッツで奈良いきいきテレビの生放送を見ておったのだ」
 カメラマンは何かに取りつかれたように朴と、白や貴理子を撮っていた。奇妙な事に人海戦隊チャイナマンは全く写っていなかった。
最後に教主にチャイナマンが駆け寄るシーンはどう言う訳か撮影していなかった。
 だから、これだけを見ていると突然襲ってきた暴漢に素手で立ち向かう教団幹部と、最後に教主が敵から奪った拳銃で敵の一人と壮絶な撃ちあいをするシーンが印象に残ってしまう。
 その教主が生きているというのだから最低の展開だった。
 「インターネッツでは、もうこの映像が爆発的に視聴されていいるらしいではないか」
 「は……」
 もみ消しは不可能だった。
 「どこの病院に入っているのか、分からんのか?」
 「そ、それが……これは奈良県警にとっても最高機密です。それに分かったとしても刺客を送る訳には行きません」
 「捕まってしまった馬鹿どもは?」
 「同じです」
 「奈良県警に潜り込ませてあるスパイは?」
 「最高機密は分からない小物でして」

78 :名無しさん@お腹いっぱい。:2014/03/27(木) 09:59:45.78 ID:P/zFyTEA
「んもー、奈良いきいきテレビなんて名前替えた方がいいんじゃないか!」

いきなり犬田が独り言を呟きだした。
(飯田の脳裏には直ぐキンマンコが浮かんだ)


「うまく、駄目か」
「いきいきっぽい、いきいきっぽい」
「もっと、いいねー、もっとその」
「″いきいきごんぼ″だよ」

犬田は特段池田大作の現状を指していきいきごんぼ
と言い出したのかは謎である

79 :大阪:2014/03/27(木) 15:41:04.75 ID:ry7cYICX
「は、いえ、しかし、いきいきは固有名詞でして、ごんぼはその」
飯田は言った。狂ったかと言う目は伏せて隠した。

80 :大阪:2014/03/27(木) 15:48:11.50 ID:ry7cYICX
池田大作の「それ」はネットで書いたと言うだけで処刑されるからだ。
真実に限りなく近いであろうネタは推測している。
だが、それは

81 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/03/27(木) 19:42:46.12 ID:ADTa52t2
創価学会の総本部で真実を暴露され
「書いても良いぞ」と許可されたのならとにかく、推測を書くのはいけないことだろう
良い人と悪い人はネットの上でも厳重に区別されて存在するべきだ
悪い人に進んでなることはない

82 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/03/27(木) 19:46:15.07 ID:ADTa52t2
 「その、邪魔者についてはなにか分かったのか」
 「そのう、何も分からないと言う事だけが分かりました」
 「なんだと、からかっとるのか」
 「いえ、人海戦隊チャイナマンの仮面をつけ貪理の法被をつけていた事はわかっています。そこまでは簡単でした。
 しかし、人間は目立つ仮面とか法被とかをつけているとそれにばかり目が行ってしまい、肝心の事が全く見えなくなる物なのです。たとえば髪型です。
どんな髪型をしていたのか、極端な話、男か女かもわからないのです。無論、声から男である事はわかっていますが……下もそうです。おそらくズボンは履いていたでしょうが
それはどんなだったか誰も覚えていません」
 「下が裸でフルチンだったら誰か覚えておるだろう!」

83 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/03/27(木) 21:02:02.61 ID:ADTa52t2
 飯田は話を変えようとした。
 「その、行動隊の方は……実は行動隊の奴らは幸福の錬金術とつるんでいるらしいですぞ、貪理のこの件、奴らはチャンスと見ておるのではないでしょうか」
 「それは聞いておる。しかし……なぜいつもこうなのだ?」
 「は……」
 「最初は山中で行動隊の訓練中のチームを襲った時、完全にやったはずなのに一チームだけに完全に裏をかかれた。続いては悪夢の日曜日だ。突然末端の信者が暴走して大事件を起こしてしまった。
 それ自体は我々にとっては害になるものではなかったが計画は変更せざるを得なかった。そして今回だ。邪魔者が現れ、計画の一番のターゲット、朴は生き残った」
 「しかし、あいつはもうICUでただ単に生きているだけの状態でしょう。私も問題の画像を見ました。あれだけ弾をくらって平気なはずはありません。あるいは数日のうちに死んでしまうかも……」
 「甘いぞ、朴は死んでも、画像の中の朴は生きている。次に貪理が誰を立てるにせよ、我々にしっぽを振ってくる事は絶対にないだろう。多分、貪理は報復を叫ぶだろう」
 犬田はパソコンの画面の方に手を振って続けた。

84 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/03/28(金) 07:06:11.67 ID:y1gFZtXl
 「ネットでは、もうすでに貪理は動いておる。チャイナマンの画像をアップするなと言う呼びかけだ。その理由はあいつが貪理にとっては最後の希望だからだ。
画像がわしらの手に入り、チャイナマンが処刑されたらもう彼らの敵を討ってくれるものはいなくなるからだ」
 インターネットの事はインターネッツとなまるのにネットはネットだった。それはともかく犬田はそれなりに勉強も情報収集もしていた。
 そこへ、権が入って来た。死神博士こと馬淵を伴っている。
 「ハイ!」
 二人は犬田にハイル・ヒトラー式敬礼をした。(作者注、正確にはローマ式敬礼と言うようである。作者は敬礼の研究者ではない)
 「それで?」
 「装甲車を運搬する車両運搬船の手配が出来ました。しかし、車両運搬船も装甲車自体も使い捨てになります。回収は出来ません」と馬淵が言った。
 「そうか」
 「それで、全車を投入する事は出来ません。全てが成功しても装甲車部隊が失われる事があってはなりません……」
 犬田は軽くうなづいた。

85 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/03/28(金) 07:09:18.67 ID:y1gFZtXl
 「二つだけ確認したい、一つは補充をかける場合、装甲車は一体どれぐらいの時間で確保できるか、もう一点、どの程度市街を破壊するのが妥当か、品川の街を……」
 「は……馬淵?」
 「はい、装甲車に関しては、車体はすぐに発注をかけても一カ月以上はかかると思います」
 「逆に言うと、その程度で済むか?」犬田は言った。
 「は、それは細かく言いますと、車体の積み出し地はシンガポールと言う事になりますが、そこに在庫がなければもっとかかります。
 ヨーロッパにある装甲車のメーカーに発注しないとなりませんが、最悪の場合は半年待ちという事になるでしょう。まあ最小が一カ月、最大が半年以上と言う事です。
 私個人の観測ですが、今のご時世ですからシンガポールに装甲車の在庫がないとは考えにくい。ですからそれは多分大丈夫でしょう。
 しかし、それは車体が到着するまででして、整備や乗組員の訓練にそこから最低でもニ三ヶ月はかかってしまいます。むろん、乗組員は脱出することが前提になりますし整備隊は残りますから多少期間は短縮できるものと思います。
しかし、やってくる車体もやはり寸分たがわず前と同じという訳にはいかないと思います。メーカーも配慮はしてくれるでしょうが自動車が毎年モデルチェンジするように装甲車も多少は変化するのが実情です。自衛隊の戦車なんかは逆に
どんなに欠点があっても改良しないで使い続けますが民間ベースの兵器会社では全く改良なしは無理なのです。
 第二の問題ですが、品川は完全に破壊する必要はありません。むしろ限定的な建物を半壊にとどめるほうが無難です。装甲車の中に対戦車仕様のミサイル車がありますからそれを使いましょう」
 「品川、と申しますと?」と飯田。戸惑った表情だった。

86 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/03/28(金) 19:39:24.35 ID:y1gFZtXl
 「あなたの計画が失敗するとは思わなかったが、我々も次の作戦を考えずにいる訳にはいかなかった」と権は言った。静かな口調であった。
 「そうかね」と飯田。
 「ああ、さいわい、死神博士と言う『武器』がこっちにはある。
 お高い身分の飯田幹部はご存じないかも知れんが、幸福の錬金術が最近武装強化を図っているという報告が入っている。油断は出来ない。貪理は遠いが幸福の錬金術の本部がある品川は近い」
 現代の市街ゲリラ戦ではそんな近い遠いは論じるに値しない話であったが彼らは激しく睨みあった。
 「あの、貪理は遠いと言っても、その遠い街を我々は吹き飛ばしたのですから……」と馬淵。
 「馬淵、何が言いたい?」

87 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/03/28(金) 19:47:23.86 ID:y1gFZtXl
「逆もまた真なりです。私は今は品川攻撃よりはここ品野町の防衛が先決かと思います。貪理は現実に今、ネット上では匿名ではありますが報復を唱えています。
 現実にチャイナマンの画像をネットにアップするのを自粛しようと言う動きも起こっていまして、それも話題になっています」
 「なんだそれは?」権は言った。
 「チャイナマンは確実に貪理の信者の一人で、何らかの事情で高度な戦闘訓練を受けた者であると考えられます。
だから祭りに来ていて、法被を着ており、顔がばれる事は非常にまずかった」
 「うむ」とうなずく犬田、他の者もみな真剣に聞いている。なにしろチャイナマンは当面の最大最高のライバルなのだから当然だ。
 「奴は、最初の一発だけは何らかの銃を使った事は確かですが、後は奪ったウージーを使っています。
 銃には慣れています。一瞬でウージーの操作を一つ、やっているのですが、専門家によると銃を奪った直後に誰でも最初にする事はとにかく引き金を引く事、
それで弾が出ないと次にする事は安全装置をいじる事だと言う事です。こいつのした事はそのどれでもありません。ウージーにはなれているという印象があります」
 「行動隊か? 奴らなら山の中で奪ったウージーの操作に熟練しておるだろう。これだけ時間が経過しておるんなら」と権田。
 「一人と言うのが変です。その、想定として行動隊がひそかに貪理に潜入していて偶然ぶつかったと言う事はありそうですがそれなら一人ではないでしょう。
また、こいつの行動はあくまでも教主を守ろうと言う物でした。十対一と言う絶対的不利を覚悟の上での行動で、自分の身を危険にさらしても、です。
幹部の安全も確保しようとしています。貪理の一人ではないかと思います」
 「それで?」と犬田。

88 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/03/29(土) 07:38:16.28 ID:Lh+lR3Ss
 「はっ……そのう、壊滅した街には絶望が渦巻いて、もうそこには何も残っていないと思われた時にたった一つだけ残っていたもの……」と馬淵。
 「古い貪理の言い伝えです。江戸時代からの……ただの迷信です。その時に、最後の希望が現れるだろうという言い伝えが残っています。そんなものがいるわけがない」と権。
 「そして貪理にとってはまだその希望が残されていて、それを頼りに貪理を再開するのだともうすでに都市伝説になってきています」
 「それは?」と犬田は言った。
 「一つ目の希望は朴です。彼が拳銃で戦う姿はもう何百万回も繰り返し再生されています。まさしく現代のヒーローです。
 彼は生きています。やがては傷が癒えて教主の座にもどると信じられています。
 そしてもう一人のヒーロー、最後の希望はチャイナマンです。名前こそ人海戦隊ですがただ一人で十人以上の学会の特攻隊と戦い、傷一つ負わずに立ち去った姿を見た人数はかなりいます。
おそらくこれだけ携帯やスマホがあふれている時代、必ず一人や二人はこいつを撮影したでしょう。
しかし、こいつが我々学会につかまったら最後、教主の仇を撃つ者はいなくなってしまう。だから絶対ネットに映像をアップしてはならないし、彼の事はネットでも世間でも語ってはならないと言うお触れが出ていいるらしいです」

89 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/03/29(土) 07:40:40.51 ID:Lh+lR3Ss
 「バカバカしい、ナンセンスだ。そんな物に怯えはしないぞ」
 唐突に犬田は大声を出した。みなびっくりした。
 「貪理の信者か、なら、奈良県民か? 貪理市民か?」
 「そうは言えないでしょう、祭りには全国から信者が集まってきます」と馬淵。
 「では東京かもしれないと言う訳だな」
 「可能性はあります。しかし、やつはたった一人です。奪ったウージーもほとんど弾が残っていない状態のはずです。
恐れるには足りません」と権。それを見て、媚びへつらうとはこの事だなと馬淵は思った。
 「だが、もうすでに伝説が生まれてしまったと言うのだ。こいつは叩きつぶさなければならん。
 ぐずぐずとここで会議を開いたり次の作戦の準備に時間をかけたりしている間に、伝説は一人歩きを始めるだろう。
それは、現実のチャイナマンがここ、品野町にきてわしの首を取るなどと言うことはあり得ないが、人々はそれを期待し始めるだろう。そうなってからそれを打ち消す事は……」
 「は……」
 「出来ないだろう。人間と言う物はそういう出来事を期待する物なのだ。
 それに当局はどう出てくると思う? あれほどの事件で、しかも生き証人まで出してしまった。当然彼らはしゃべるだろうし、そうなればこちらは立場が危うくなる」

90 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/03/29(土) 07:46:10.01 ID:Lh+lR3Ss
 馬淵は犬田の意見とも権の意見とも正反対になることは承知で自分の意見を言った。
 「は……ですから、ここ品野町を固めるほうが先決だと思います。チャイナマンの素顔は分からないのです。次回はわざわざチャイナマンのあの、
安いお面をわざわざつける事もありません。奴の手元に武器はまだ残っており、素顔は割れていない。いつなんどきでもどこにでも来る事が出来ます。そして貪理であると言う我々の推測が正しければ、
あれで終わりだとは奴は夢にも思っていないでしょう。今この瞬間にこの本部の前の道に立っていたとしても我々には手の打ちようがありません」
 「だからこその品川なのだ。品川には幸福の錬金術の総本部があり、関連施設がある。そこを行動隊に扮した親衛隊が襲う」
 馬淵は、自分自身も生華学会の親衛隊に属しているのだが、この複雑な組織の絡み合いにくらくらしてきた。この宗教戦争はもう単純には終わりそうもなかった。
 「権田、装甲車も兵も好きなだけ使え、小川降法は生かしたまま捕らえられればベストだが、無理なら殺してかまわん」
 「ははっ、奴らの総本部には武装したごろつき集団が数十名おるようですから装甲車の機関砲で切り刻んでしまいましょう。装甲車は三台、兵二百を投入いたします。実行は明日、正午」

 第一部 完 第二部に続く (4月より再開予定)

91 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/03/29(土) 20:56:30.54 ID:Lh+lR3Ss
 番外編 第二血の日曜日の翌日 月曜日の夕方。
 
 大村パン本社。

 「あなた。おねがいだからやめて」
 大村の妻は言った。
 「そんな、いきなり……」
 「綾子さんから聞いたわ、相手は戦車や装甲車まで持ってるって言うんでしょう」
 「あいつ、余計なこと吹きやがって」
 大村は言ったが、一面は事実だった。敵である生華学会の親衛隊は装甲車を使っている。その中にはまじで大砲を積んでるものや対戦車ミサイルを積んでいる奴もあって、そうした奴は「装甲車」のカテゴリーに入るのかどうかも疑問だ。
 一応、キャタピラーがついている奴が戦車だ、と言うことになっているからそういうのも「装甲車」と言う事になっている。
 だが、現実問題として警察がどうやっても勝てないだろう。
 ニューナンブを振りかざして「逮捕するぞ」とか言ったとしても無駄だ。
 「あなた、もうジャムおじさんと呼ばれていたのは遠い昔の事なのよ」
 「うるさい」
 「これから乗ろうとしているのも、アンパンマン号と呼ばれていた訳分からない車じゃないのよ、ベンツなのよ」
 「俺が無免許だとでも言うのか? ほら、ここにゴールド免許がある。昔の特攻隊だった俺はもういない」
 「行動隊だったら大差ないじゃない、警察につかまったら誰がパンを焼くのよ」
 妻は痛いところを突いてきた。行動隊はテロリストだから警察にばれたら社長だろうが一発で逮捕だ。

92 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/03/29(土) 20:58:11.20 ID:Lh+lR3Ss
 「俺はな、かくかくしかじかで行動隊に入ったんだ」
 「それは知っているけど、テログループは駄目よ」
 「しかしな、俺がリーダーなんだし、涙田は明日ミッションがあるから寝ないといかん」

 その涙田は、社内で美雪にブローニングハイパワーを突きつけられていた。
 「レッツ、セックス」
 「わわっ」
 「美雪、男女の仲に飛び道具は反則よ」と女子社員の一人が言った。
 「そんなんだから、出入り業者に男を掴みさらわれるのよ!」と綾子。
 「ちっ、命拾いをしたな」かちっとハンマーを下げ、ゆうゆうと美雪は去って行った。酒の匂いがした。

93 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/03/30(日) 08:36:29.24 ID:vGzxNt71
「あの娘、今日は昼から飲んでたわ」と同僚の総務がこぼした。
 「そうそう、流し場で隠し酒、焼酎のロングパックをがぶ飲み」ともう一人の同僚が言った。
 「はああ……」涙田は、彼女を大阪に連れ帰り更正させるしかないなとこの時思った。
 実は奈良にはアルコールに関する実績のある病院が少ないと言うことは知っていた。だから実家のある大阪に連れ帰るか、ここ某県かと言う事になる。
 ただ、ここ某県でも本気でアルコールに取り組むとなると、大村の世話になりっぱなしかと言う訳には行かないだろうし、病院も本気で探すとなると大変だ。
 通院は無理だ。入院しかない。ベットがあいているか。
 しかし入院となると会社は、今の状況では涙田が武器搬入作業で「明日休む」で大ブーイングなのだ。美雪の世話をすることが出来るか?
 ここはひとまず捲土重来を期すではないが一旦実家に戻ったほうがいいのではないか。

 「あなた、某県とはどこなの?」
 「いきなりなんだ」大村は言った。
 「読者お問い合わせセンターに質問が来るのよ」

94 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/03/30(日) 08:39:16.12 ID:vGzxNt71
「ちっ、神奈川県って書くつもりだった作者が設定書の某県を誤って日本語エディターに入力しましたなんて口が裂けても言える訳が無いだろう」
 「言ってるじゃないの、じゃ神奈川県なのね」
 「いや、ニホンゴエヂターが途方も無く古いと言う事も含め、某県で通す」
 「分かったわ、某県なのね」
 「ああ、それと、エヂターはだな、なにしろ、PC-9801の時代から使われていたソフトを使っているんだ。いまさら乗り換えることは出来ないらしい」
 「かくかくしかじかの多用も読者お問い合わせセンターにご指摘が来ているのよ」
 「それはお前、かくかくしかじかを使わず全部平で記述したらネットの空間の無駄遣いだぞ」
 「それはそうだけど」
 「ほかには読者お問い合わせセンターになんか来ているのか」
 「銃は有名な物しか使っていないから、抗議は来てないし創価学会からも、さすがにこれだけ「違う」と明記されるとガチャは逆につけにくいようね」
 
 綾子は、涙田に特別よと言って女子トイレの一番奥の個室の隠し戸棚を見せてくれた。一応立会いの下なので男性である涙田も入れたわけだが通常は男子禁制なのだ。
 「こ、これは!」涙田は目を疑った。
 「すごいでしょ」
 そこには完璧な酒のミニバーが隠されていた。流石に氷はないがミネラルウオーターはある。
 「これじゃ駄目だ。うーん」
 月刊GUNもあった。さすがはガンキチだ。

95 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/03/30(日) 08:53:01.70 ID:vGzxNt71
 「それじゃ、行って来るよ」大村は言った。
 「あなた、せめて神風の鉢巻はやめて」
 「そうか、じゃ」大村はしぶしぶ鉢巻を「必勝」の物に変えた。
 「まあ、昔からのしきたりで、集会は使われていない埠頭でやるからな」
 そう言う訳で、大村がベンツで埠頭に行くとBMWで水村らがすでに集まっていた。
 「全員集合しています、涙田以外」と浜中が言う。
 「敵はやらかしたぞ」と大村は言った。
 「すでに一万名が死んだとかニュースでは言ってましたが、信じられませんよ」と大久保。
 「爆薬はC4と言うことらしい」大村は本部からの情報を伝えた。
 「それと貪理の、情報と言うのか、情報管制ですが」と水村が言った。
 「ああ」と大村。
 「作者は無意識のうちに執筆しましたが、これは「強大な勢力が現れた場合、インターネットでも表現の自由が奪われる」事を示唆する話ですよね、この場合表現はチャイナマンの画像と言う形を取ってるけど」と水村。
 「そうだ、それがこの番外編の言いたいことなのだろう。2ちゃんねるの仕組みは知らん。だが……」
 「は」

96 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/03/30(日) 08:58:37.88 ID:vGzxNt71
 「「強大な勢力が現れた場合」書き込みのIPアドレスから身元を割り出すことは容易なことだろう。
 実はIPアドレスはインターネット上に一つしかない。通常はプロバイダが管理しているから、警察が捜査したら分かる」
 「それは、警察は強大な勢力と言えばそうですが」と水村は言った。当然の事だから少し戸惑った表情だった。
 「他の強大な勢力が現れるかどうかは、分からない」大村は言い放った。
 水村は大村の言外の意に気がついた。
 「しかしそうなってから、ああ、あのころは良かった、と言っても遅い。その事のためにこの番外編は記述された。
 もし強大な敵が現れてインターネットの自由が奪われたら真っ先に狙われるのは政教一致@大阪のような自由な表現者だろう」
 「……」
 大村は続けた。
 「これまでの経緯から創価学会は彼を名誉毀損で訴えると言うプランを持った事はあるだろう。しかし、それはネット上の特定できない個人を相手取った訴訟と言うことになり注目度は非常に高いものになるだろうし、
いくら固定ハンドルをつけトリップがあるとはいえ全ての書き込みが一個人が書いたものであると同定する必要がある。作者自身が作品の散逸がひどいと言っている現状、困難を極めるだろう。固定ハンドルはいくらでも他人が使うことが出来るからトリップだけが
頼りということになるが、そもそもこれはそう言う訴えられることを前提に導入されたものではない。非常に大きな論議は呼ぶだろう。
 それに、この個人だけなのかの問題もある。インターネットにはたくさん創価学会批判、池田大作批判があるが、それら全てを敵にまわすとなると第二の言論出版弾圧事件になるだろう。
それを共産党や宗門が黙視しているとは思えない」
 「はい、そうですね」水村は今度は素直に言った。

97 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/03/30(日) 09:20:38.98 ID:vGzxNt71
 「インターネットでも表現の自由が奪われる事態が発生するのは突然で、大きな事件に付随して起こる。
 おい、今から貪理がチャイナマンの画像を解禁にすると思うか」と大村が言う。
 「は? いいえ」と今度は大久保が答えた。別に振られたと言うわけではないのではあるが、フリートーク的に会議をするやり方は行動隊のやり方であり、そこは上意下達の生華学会、親衛隊とは違っていた。
 「それはなぜか」大村は重ねて聞いた。
 「それは自分たちの仇を討ってくれる存在がいなくなってしまうからです」
 「そうだ、つまり、かなり経過してからはどうかは分からんが、短期的には不可逆だと考えられる」
 「そうなると、言論の自由がないと言うことになるんじゃないですか」と浜中が言った。
 「そうだ。
 俺らは偶然戦いに巻き込まれたが、しかしこれは容易ならないものである。全ての人の自由が奪われようとしている」
 「はい」
 「はい」
 「はい」
 「武器が幸福の錬金術に渡れば、品川は貪理にはならない。こちらはそうやって反撃拠点を増やす戦いを展開していくんだ」
 「はっ」
 「しかし、こちらから親衛隊を攻撃したほうが早いのでは」と浜中。
 「無論、そこは考えているが親衛隊は普段は一般の信者にまぎれて生活している。合コンとかもしているらしい。攻撃は難しい」
 「ちっ、そんなんかよ」
 「合コン会場を襲うとか言うわけにはいかんだろうしな」
 みないろいろ言ったが、攻撃は出来ないと言うのが結論であった。
 「まあ、あせらずとも向こうから攻撃してくるだろう」と大村は言った。
 しかし、それはまさか翌日に、しかも言っていた品川を攻撃してくるなど予想だにしていなかったから言ったことだったのである。

 番外編 完 第二部に続く

98 :名無しさん@お腹いっぱい。:2014/03/30(日) 17:14:34.03 ID:HFNbBLll
チャイナマンにはマトリクスのキアヌ(ネオ)の様な活躍を期待してるよ
犬田の養分である信者達(人間電池)を解放するのは圧倒的な光を放つ
覚醒(悟り)したチャイナマンと

99 :大阪:2014/03/30(日) 19:27:12.22 ID:pd3NIftN
あれを小説でやるのは至難の業です。

100 :大阪:2014/03/31(月) 15:39:37.93 ID:/3mEJowa
番外編では大村の衝撃的な過去が明らかになり、美雪の未来がちらっと見えライバルがほのめかされました。

101 :大阪:2014/03/31(月) 19:46:13.52 ID:/3mEJowa
ライバルはおいおい登場いたします。
登場人物としては最後に唐突に出て来る人もいます。池田大作さんは出て来ません。

102 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/03/31(月) 22:03:59.39 ID:F4bit8RZ
 特別付録
言論に関する事例はほかにもあると言う指摘もあると思うが(一例を挙げれば朝日新聞襲撃事件など)ここではどこで線を引くかが難しいためこの事例二つでとどめおくこととする。

創価学会が自分たちに不都合な作家を名誉毀損で訴えて勝利した事例

月刊ペン事件

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%9C%88%E5%88%8A%E3%83%9A%E3%83%B3%E4%BA%8B%E4%BB%B6

創価学会が言論を弾圧した事件

言論出版妨害事件

概要の概要
創価学会が自分たちに都合の悪い言論を弾圧しようとした。だが、それは大学のグラウンドに本を積み上げて廃棄すると言う
非常行為にまで及んだにもかかわらず失敗、後に池田大作が公式に謝罪するまでにいたった。1970年の事らしい。

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%A8%80%E8%AB%96%E5%87%BA%E7%89%88%E5%A6%A8%E5%AE%B3%E4%BA%8B%E4%BB%B6

103 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/03/31(月) 22:36:24.53 ID:F4bit8RZ
幸福の錬金術側は事件以前より武装を進めていたことが覗える。
無論、その一つが「行動隊から銃を百丁買う」であった。
ただ、それは奈良の事件でやばいと言うことで繰り上げになった事だろう。
いざとなったら敵も味方も考えることは同じなのだ。
火曜日に、両者は激突する。
所詮、主力は拳銃程度の装備の幸福の錬金術はマジ軍隊の生華学会の敵ではないはずだった。
だが……

104 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/04/01(火) 07:12:45.23 ID:e8Q3bb/F
あるなんの変哲もない火曜日 午前11時三十分
 その日、涙田は大村パンを休んで、臨時兵器輸送チームの一員として横浜港に向かった。
 涙田が休むと言う事は送迎バスが動かない事を意味するから大村パンでは大ブーイングが起こっているであろう。
 もうみんなすっかり大企業の社員みたいに朝夕社員専用のバスに乗るというぜいたくになれてしまっているからだ。大村の作戦は当たっていた。

 警備会社のビルが集合地点だった。その会社は行動隊の所有する会社なのだ。
 現地では七名の臨時チームがもう集まっていた。さっそくビルの中で警備会社の制服に着替えた。
帰る時に備え、各自大きなバックを持ってくるように指示されていてそれに今まで着ていた服をしまう。実は涙田はこれの中にお面を入れていた。悪い予感がした。

105 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/04/01(火) 13:07:51.33 ID:e8Q3bb/F
 装甲車は警備会社の塗装やマーキングが入っており、拳銃の弾程度なら弾くとのことだった。もちろん、普段は集金や普通の業務に使われている。
 装甲車の中には、金の仏像ならぬG3突撃銃が50丁づつ、実弾一万発づつが積んであった。彼らは一応確認した後で二台の扉をロックし、さらに鎖を通して大げさな南京錠をかけた。
 彼らは一台の装甲車に4人ずつ乗った。
 「この南京錠のカギはどこにあるんですか、現地に着いた時……」
 「ああ、さっきバイク便で目的地である幸福の錬金術、秘密倉庫に送った」仲間の一人、近藤と言うサブリーダーが言う。
 荷台にはそういう訳で大量の武器弾薬が積んであるとはいえ彼らは非武装で、いざ襲撃されても武器を取りだして戦うと言う訳にはいかなかった。
 装甲現金輸送車は車列を組んで出発した。目的地まで一回、警察の検問があった。
 「はい、免許証」
 「はい」
 「荷台開けて」
 「いえ、それはできません」
 当然もめたが、出来ないの一点張りで通した。警察も令状はない以上荷物の検査は強行できなかった。

106 :大阪:2014/04/01(火) 13:22:26.60 ID:uR3LrzvO
ライフルのバージョンに関しては記述していないが無印のG3ではなく最も一般的なG3A3である。

107 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/04/01(火) 13:30:55.36 ID:e8Q3bb/F
 目的地の倉庫では十人ほどの作業員が待機していた。南京錠のカギもだ。しかし、倉庫は住宅地の中に立っていた。外は昼飯時でどこかのカレーの匂いがした。
 「ここが秘密倉庫? ずいぶん秘密じゃないような気がしますが」
 涙田の質問に幸福の錬金術の主任らしい棚橋と言う四十代の男が言った。
 「秘密基地じゃないからな。荷物の出入り、人の出入りは秘密には出来ないのだし、そんな無意味な努力をして見たってしょうがない。
 ここは主に武器弾薬の倉庫だ。あんたたちには今後も世話になると言う事だから教えるが、都内には他の倉庫もある。そこに仕舞われている物も実に様々だ。
 だから、これからはここだけじゃなくいろんな倉庫にブツを納めてもらう事になるが他言は無用だぞ」
 「もちろん」
 「銃は梱包のまま下ろしますか?」と近藤。案外簡単にいったのでみんな楽勝モードだ。
 その時だった。血相を変えて外に見張りに出ていた幸福の錬金術の若いのが駆け戻って来た。
 「た、大変だ。し、品川に……」
 「品川に? 」
 「行動隊が攻めて来たってラジオの臨時ニュースが!」
 「はあ?」

108 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/04/01(火) 21:44:41.94 ID:e8Q3bb/F
 すぐに棚橋の携帯が鳴った。
 「はい、はい、銃は今、届きました。は、装甲車ですか、装甲車で攻撃されている? 
 は、いや、今、目の前に現金輸送用の装甲車はありますがそれで反撃など無理です。
 ええ? 攻めて来たのは行動隊? どうしてそんなことが分かるんですか?
 装甲車の車体に行動隊と創英角ポップ体で書いてあり突入してきた歩兵もひらがなで「こうどうたい」と書いたジャケットを着用しているですって」
 涙田の悪い予感は的中してしまった。
 「はい? 武器弾薬を持って応援に? いやしかし……分かりました。後で連絡します」
 棚橋は近藤に言った。
 「銃を幸福の錬金術の総本部、品川まで運んでくれないか。無論、追加料金は出す」
 「何だと、いや、しかし……」
 近藤はためらった。追加料金は美味しいとしてもそんな戦争状態のところへ行くなんて普通の契約ではない。
 もちろん、幸福の錬金術は行動隊にとって大切な取引先であり、臨時の契約を取れればそれが有利になる事はあれ不利になると言う事はない。それはテロリストの世界でも変わらない原則だ。
 無論、幸福の錬金術がこのまま倒産するなら話は別だが。

109 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/04/02(水) 06:26:01.19 ID:rln5KjT+
「しかし棚橋さん、銃では装甲車にかなわないでしょう、なにか対戦車兵器はないんですか、この倉庫には?」と涙田。
 「なんだ涙田、やる気まんまんじゃねぇか、まだやるとは俺も誰も一言も言ってねえぞ」と近藤。
 「すみません、そんなつもりじゃ」涙田は言った。一応近藤が上だからだ。
 しかし、涙田の視点からすると「偽の行動隊」は、もう経験済みであった。近藤はやっぱり行動隊でも下のほうだから大局的な視点は持っていない。
 昨日の会話から大村ならすぐ行けと命じただろうと涙田は確信はしていた。ただ、いかがいたしましょうかと大村に今から指示を仰ぐことは出来ない。行動隊の規律では近藤が上なのだ。
 やるなら涙田が自分の「行動」でするしかない。後で査問にかけられるかもしれない事を覚悟の上でだ。
 「ま、待ってくれ、すぐ話をつける、上の方にだ。五分、いや、三分待ってくれ」と棚橋、ここで行動隊に帰られたのでは話は詰んでしまう。彼の責任は重大だった。
 三分後、棚橋は思い切った条件を出してきた。なんと、現金輸送装甲車を「買う」と言うのである。これには近藤も涙田ら部下も口をあんぐりさせた。
 「それじゃ、おれたちは帰るわ、涙田、行くぞ」

110 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/04/02(水) 06:32:30.04 ID:rln5KjT+
 「あ、いえ、実は、自分品川に急用がありまして」
 「あ? 命令違反だぞ、涙田!」近藤は怒鳴った。
 「いえ、今日のミッションはここまでです。だからここから先は「自由行動」ってことで……」彼の言う事にも一理はあった。
 彼はチーム大村の一員でありミッションが達成されたら仮のリーダーの近藤の指揮下には無いことになる。そこいらの行動隊の指揮系統や理論は確立していた。
 そして涙田には「用」があった。彼は貪理で見た光景が忘れられなかった。一万の人々が無残にも殺されたことが到底許せなかった。
 今、「それじゃ」と帰ることは出来なかった。
 「なんだと涙田、貴様、どうするつもりだ」
 「装甲現金輸送車で、品川まで行き、偽の行動隊とやらをこの目で見てきます」
 この目で見るとは体のいい口実、実際は戦うと言う事なのだ。
 近藤はびっくりしたが、あっさり涙田を見捨てた。
 「好きにしやがれ、行こうぜ」
 涙田以外の行動隊は警備員の服を着替えて秘密倉庫から出て行った。
 「あんた……」と棚橋が言った。彼もびっくりした様子だ。
 それも当然で、彼らは行動隊を根性も無い武器商人に落ちぶれたテロリストと思っていた。
いざと言う時、立ち上がって助けてくれる奴がいるなんて想定外だった。

111 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/04/02(水) 06:38:26.59 ID:rln5KjT+
 「さあ、早くしないと……銃の一部は下ろそう。おい、みんな力を合わすぞ」
 涙田は仕切り始めた。早くしないといけないが、G3突撃銃では装甲車には歯が立たない。
 「戦車に役立ちそうな武器は、LAW、米軍のM72対戦車ロケット弾ランチャーだけです。弾薬数十発」
 先ほどの見張りの若いのが言う。中崎と言うらしいその男は武器に詳しかった。涙田は即席でLAWの使い方を教わる。見返りにみんなにG3の使い方をレクチャーする。
 ここにいるのは本来は倉庫係だから戦闘員ではないのだと中崎は言った。
 「手りゅう弾もいるな、あと機関銃も必要だ」
 「手りゅう弾は米軍の奴があります。機関銃はNATOのM42があります。ちょうど百連発の箱型マガジンが入荷したばかりですから持っていくと役に立つでしょう」
 「本部で頑張っている連中ももう弾薬が尽きているころだが?」
 「使用拳銃はロシアのマカロフです」
 ロシア製の軍用拳銃マカロフはヤクザの銃として有名なトカレフよりも銃としての基本性能は格段にいい。なにしろトカレフには安全装置さえついていないのだから
比較する方が間違いかもしれないが、とにかくそいつで統一されているのは好都合だった。
予備の弾倉や、マカロフそのものを箱単位で次々と現金輸送車に積み込んだ。
 一方で棚橋は情報収集に入った。幸い、現地ではわずかな数とはいえ武装した応援が来る事、強力大量の武器弾薬が来る事を心の支えにしているため連絡は絶えなかった。
 それによれば、高浜運河から出現した装甲車は三台、内一台は対戦車ミサイルだけを積んだ特殊なタイプらしい。NTTのビル群を破壊して進んでくると言う事だった。兵の数は数百という答えだったが、
これは乱戦ではよくある答えであり、つまりは999人から百人までの間であり、分からないというのをオブラートに包んだ答えだった。
 しかも彼らは女子供であろうと構わず機関砲をぶっ放し、進んできて今は総本部前まで来ていると言う。総本部は決死の防衛戦闘に成功しているらしい。
 急がなければならなかった。

112 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/04/02(水) 20:39:57.60 ID:rln5KjT+
 品川事件当日 11月 火曜日 午後一時
 品川の街は燃え上がっていた。
 醜悪なパチモノのギリシャ神殿のような幸福の錬金術総合本部付近には、「こうどうたい」の歩兵部隊が展開してウージーを握りしめていた。
その背後から「行動隊」と「パソコンの大型プリントソフトでプリントアウトした奴をもとに大急ぎでペイントしました」感で一杯の装甲車が援護射撃を加えている。
 だが、無意味に頑強に作られた神殿は機関砲の弾丸に耐えていた。その頑丈さはこんな状況は想定しえたはずはないのだから全く無意味だとしか言いようがないが、今は大いに籠城側を助けている。

113 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/04/03(木) 07:05:02.67 ID:ZaaAOPGt
 少し現場から離れた場所にあるパチンコ屋の駐車場に指揮用のパネルバンがとまっていて、内部に指揮官がいた。
 指揮官は親衛隊には珍しく女性で、近藤春菜という名前であり、ちょっぴり、いや、太っていた。ちなみに近藤も春菜もありふれた名前だったが彼女は芸人に同名がいるのを気にしていた。
 死神博士こと馬淵は、同席していてこれ以上品川の街を破壊しないように進言した。それは別に馬淵が善人だからではなく、行動隊だと言う触れ込みと大きく矛盾する行動は困るからだった。
 馬淵は貪理壊滅作戦を立案した男だから都市を壊滅させると言う事は出来る男であったものの今回の任務はそれとは趣旨が違った。
 品川の街を適当に破壊して、小川降法を捕えるか殺すこと、それが今回の作戦の目標だった。そして、後日「やっぱり行動隊だ」と言いふらす作戦であった。
 だが、行動隊のジャケットを偽装する際からけちが付いた。ロゴについて業者がつべこべ聞いてくるので「いいから言われた通りに作れ」と厳命したら言われた通りに業者も作って来た。ひらがなでだ。もう作り直させる暇はなかった。
 実際に行動隊がジャケットを作るとしてもひらがなで「こうどうたい」はないだろう。しかし、仕方がなかった。
 何らかの制服を着用しないと同士討ちなどの危険性があるし、指揮官が部下を把握するなどのために制服は必要だった。
ださいから着用しないと言うことは出来なかった。

114 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/04/03(木) 07:38:47.63 ID:ZaaAOPGt
 「了解、移動本部より一号車、S1どうぞ」と春菜は呼びかけた。春菜の指揮自体は順調だった。作戦もまあまあ滞りなく行ってはいた。男だとちょっと戦況が不利になるとかっとなって
怒鳴ったり居丈高に実戦部隊に命令しがちだが彼女にはそんな心配はない。
 ところが、S1こと一号車の車長、鰻原公平はちょっと困った男であった。
 彼は殺人と放火と破壊行為がとにかく大好きだった。世間ではともかく隊内では公言していた。いくら親衛隊でもこれは困った性癖であった。
 そこへもってきて前回の貪理壊滅作戦であった。彼にとっては時限式の遠隔爆破などいくら大規模でも蛇の生殺しのような物で本物の殺戮を求めた。
 「S1より移動、たあまんねえなあ、女子供をひき殺すって言うのは、わっはっは!」
 馬淵は顔をしかめた。だめだこいつ、完全にいってしまっている。って言うかあの鈍重な装甲車で女子供と言えどひき殺せたのか?
 「こちら死神博士、本当に女子供をひき殺しているのか、その遅いうえに小回りもいまいちの装甲車で? どうぞ」
 「あ、そういえば……失礼、死体を二度びきしていた模様」
 「しっかりしてくれ、機関砲の弾はまだ残っているのか。補給は必要ないか、どうぞ」
 「まだあるが、このままではすぐに弾がなくなる。先に二号車、三号車の順で補給に入らせるのが得策だと思う。
一回に全車が戦場を離れるのは危険だ。どうぞ」と鰻原、戦術面では冷静なようだ。
 「ラジャー、まずはその順番で補給に入らせるのなら、一旦二号車に全弾撃ち尽くさせろ、移動本部アウト」と春菜。それから彼女は歩兵隊に今の決定を伝えた。

115 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/04/03(木) 07:47:27.44 ID:ZaaAOPGt
 歩兵隊の指揮官は安藤と言うもう三十代も半ばの男だった。歩兵隊は二十代までの若い信者が大半を占めていたから彼は「オジン」だった。安藤は装甲車が一台づつ後退すると聞いて顔を曇らせたが、弾がない装甲車は役に立たない。
 作戦開始から約一時間、安藤と部下らは神殿付近に展開し、神殿から道路を隔てた前の建物一階は占拠したが、その幸福の錬金術関連のビル(スポーツジム)の二階に上がる事も向かいの神殿の内部に突入する事も出来ないでいた。
拳銃(マカロフだった)で武装した幸福の錬金術の戦闘員が阻止していたからだ。
 すでに彼の部下からは死傷者続出、敵よりも兵の数でも武器でも準備した弾薬量でも優位なのにだ。信じられなかった。奇襲攻撃をかけられたらこんな無様な事はなかったと思う。
 だが、街の向こうから「行動隊」と大書きした装甲車が機関砲を撃ちながら迫ってくるのでは奇襲になる訳ない。幸福の錬金術も手元に拳銃しかないという不利を応急資材でバリケード築いて補う時間はあった。
そして今は応援を呼び寄せているに決まっているのだから、長引けば安藤の方が逆に包囲殲滅される恐れが大だった。

116 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/04/03(木) 18:42:15.12 ID:ZaaAOPGt
 元々、行動隊は共産党のシンパで、武装革命を目指す赤化勢力だった。ソ連式の革命を研究していて、工場労働者や農民が蜂起するタイプの革命を夢見ていた。
 それは、本当に夢見ていた、だった。共産党とたもとを分かつと、もう彼らの後押しをしてくれる勢力はなく革命など遠い夢、今の行動隊はただのテロ集団だ。
 装甲車を走らせると言う設定はどう考えてもおかしい。武器はそこそこ持っているという話だし、構成員の中には自衛隊上りがいて、戦車や戦闘機もいざとなれば乗っ取って使えるのだと言う話は聞いた事があるからそういう線でこう言う事になったのだろう。
 しかし、今現在はとにかく戦闘終了後に自衛隊の専門家が調査すれば装甲車がユーロ製だと言う事はすぐにばれてしまう。特に三号車はミサイルしか搭載していない特殊な車両だ。これを行動隊が乗り回している筈がないぐらいはばれてしまうだろう。
 日曜に貪理でやって火曜日にこれでは、日本国政府も国家の威信にかけても学会つぶしにかかるのではないか
 安藤は馬鹿ではないから、急がなければならないとは思った。しかし……

117 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/04/03(木) 18:45:55.80 ID:ZaaAOPGt
 「だめです、二階へは上がれそうにないです」
 「道に出たら殺されます、マカロフと石で」
 「石かよ!」
 「隊長、大人の握りこぶし大の石がビルの高層から投げつけられるんですよ、死にますって」
 「汝らのうち、罪なき者よりまずその女に石を投げよか!」
 「そんな複雑かつ難解な突っ込みは誰にも分かりませんよ」
 汝らのうち、罪なき者よりまずその女に石を投げよ、はイエスの言葉である。詳細は略する。
 そうこうしているうちに時間が過ぎて行った。

118 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/04/04(金) 05:50:43.67 ID:0Av6LW/h
 武器を運搬する現金輸送装甲車二台は第一京浜を降り、煙が上がっている方角に向け前進を始めた。第一報を受けてから三十分程度がたっている。
 途中、パトカーが残骸になっているのを見かけた。警察の姿は全く見かけない。女子供が機関砲らしきものに撃たれてばらばらになっているのも見た。
 「警察の連中、自衛隊を呼ぶつもりなんだろう」と棚橋が言う。
 「それまで総本部が持つかどうか?」中崎が言った。
 「どうかな」
 「とにかく急ごう」

119 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/04/05(土) 06:34:41.32 ID:cb2UaypM
 信じられない事だが、総本部の裏口付近は幸福の錬金術が完全に確保していた。担架で次々に負傷者が搬出されていく。搬入されている物もあった。石だ。石を投げてまで抵抗しようとする本部員のガッツに完全武装の「こうどうたい」は突入できないでいるのだ。
 ……勝てる。
 涙田は勝利を確信した。
 「みんな、弾薬が着いたぞ」装甲車を飛び降りて棚橋が叫ぶと、皆がおおっとどよめいた。
 「負傷者搬出の手を休めるな、それと、騒ぐと奴らに気づかれるぞ!」涙田が注意する。その声も大声なのは仕方がなかったが、すぐにドアが開かれた。二台の装甲車はぎっしり武器弾薬を搭載していた。
 「おい、そこをどけ」突然、ハンドスピーカーで怒鳴る声がした。でかい音だ。
 「は?」
 涙田ら倉庫から到着した救援隊とたかっている本部員らがびっくりしてそっちを見た。
 と、いい年をした大人たちが、本格的な冬にはまだ早いのにおしくらまんじゅうをしていた。背広を着ているし年齢からみても幹部クラスと思われた。何をしたいのかが分からず、涙田らがポカンとしているとマイクの男が叫んだ。
 「何をしておる、猊下に道を開けろ」
 「ゲイカってなんですか」と涙田が聞くと、棚橋は緊急時なので短く答えた。
 「小川降法の敬称だ」

120 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/04/05(土) 21:55:46.31 ID:cb2UaypM
 涙田はそれを聞くとマイクの男につかつかと歩み寄り、ハンドマイクをもぎ取った。
 「何をする」
 「静かにしろ、戦闘中だぞ、今も敵は建物の向こう側にいるんだ、マイクでここに小川がいることを知らせるなんてまずいに決まっている」
 「お、お、小川だと……」マイクの男は、今はマイクを持ってはいなかったが口をパクパクさせた。個人崇拝が頂点に達している幸福の錬金術ではたとえおしくらまんじゅうの向こうにいるとしても小川の目の前で小川と本人を呼び捨てにする事は最高のタブーであった。
 「それで、どうするつもりなんだ? そのままそのおしくらまんじゅうで逃げるつもりか」
 もう、涙田はもちろん周囲の本部員らにも、おしくらまんじゅうの真ん中に小川がいる事が分かって来た。つまりこれは彼ら幹部にしてみれば「猊下」の盾になっているつもりなのだ。そしてそれはある程度は正しかった。
 なぜなら拳銃弾程度なら人間の肉体を貫通しないか、しても致命傷にならない可能性が高かったからだ。
 しかし、それは相手が装甲車を装備しているという事実を無視していた。今はこの裏口付近は完全に味方が支配しているがそれは道路のこちら側に装甲車が回ってきていないからと言うそれだけの理由であった。よく考えれば敵にしても、
手元に一台しかないと言うならともかく三台も装甲車があるのだから一台をこちらに回せば包囲はできるのである。
 涙田にしてみれば、敵がこの本部を包囲していないという事実が謎だった。敵のリーダーが馬鹿なのか、何か他に本当の理由があるのか? ここが品川を蹂躙しようという場合には最大の抵抗拠点になる事は明らかだし、他の抵抗拠点としては警察署があるが
警察がここまで頑強に抵抗するとは思えない。撤退して後日を期するだろう。

121 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/04/05(土) 22:01:34.74 ID:cb2UaypM
 「猊下は脱出する。その装甲車で」偉いさんらしい一人が言った。
 涙田はまた頭をめぐらした。
 リーダーが逃げるのは卑怯だと非難するのはたやすいが、
そんな安っぽい「道徳」は戦場では通用しない。むしろ小川を失えば教団にとってはこの戦闘自体の帰趨よりも痛手であろう。
 ここで小川が何か指揮をとっているとか言うのならとにかく、今は明らかにお荷物、どこかへ落したほうが良い。
 脱出を条件にするなら、装甲車で脱出した方がいい、それもここを確保できている今の内にしたほうがいい。さらに言うなら、他の者は全員捨て石になる覚悟で総攻撃をかけた方が脱出の可能性は高くなるだろう。
絶対に高くなるだろう。脱出する瞬間が一番脆弱なのだ。
 そしてその攻撃の為には武器弾薬が前提条件となるだろう。第一、乗ろうにも今はぎっしり武器弾薬が積んであるのだし、
涙田らが乗って来た運転席周りは防弾でも何でもなかった。

122 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/04/05(土) 22:08:38.30 ID:cb2UaypM
 「少し待て、全員聞いたか。ゲイカは脱出したいらしいぞ、みんな全速力で荷物を下ろしゲイカのお席を用意しろ、早く」
涙田は叫んだ。
 「手分けして武器弾薬を運ぶんだ」
 「向こうのビルまで、なんとか弾薬だけでも届けたい、志願者は?」
 本部員らはてきぱきと武器弾薬を下ろした。小川が逃げる事に文句を言う者はいない。
 すぐに「お席」は用意できた。
 「おい、ガードマン、運転しろ。警視庁までノンストップで行くんだ」とマイクの男が言った。
 涙田はガードマンと言うのが自分の事を指すのだと言うのを理解するまでにしばらくかかった。
まだ警備会社の制服を着ていたからだと気がついた。
 「あ、いえ、自分は警備会社ではないんでして」と涙田は言った。
 「え?」
 「行動隊なんです。本物の行動隊なんです」と棚橋。
 あたりの空気が凍りついた。
 「みんな、本物をごらんに入れて見せる。中崎くん、LAW二発とMG42一丁、百連マガジン一個を用意してくれ。
それとなにか着替えないといかんが本当の私服以外ないんだ。それはまずい。身元がばれる」
 「それだったら、幸福の錬金術本部員のブレザーを着ろよ」本部員の一人がブレザーを出してきてくれた。新品でサイズもぴったりだった。
ワイシャツも出してくれた。ネクタイは葬式用の黒だ。縁起が悪いような気もするが敵の葬式用だからいい。

123 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/04/06(日) 12:16:31.71 ID:1ZRSeloe
 「状況は」ブレザーを着ながら涙田は聞いた。
 「まずい、装甲車は二台姿を消してる」と棚橋。ちらっと彼らが目をやると小川が装甲車に押し込まれていた。側近らしき人物が後から何名か乗り込む。
 「前にいるのは一台だけか、やったら戻ってきて再度補給を受ける」と涙田。
 「あんたが一人でやる必要はない、こちらの若いのも……」と棚橋。
 「いや、装甲車一台だけなら一人でいい」
 涙田は自分の私服の入った大型バックから問題のお面を取りだした。
 「それは?」いかにも安っぽいお祭り用の面に誰かが疑問の声を上げた。
 「素性がばれると、あんたらにも迷惑がかかる。顔はばれないようにしなければならん」と涙田。詳しい説明はしている暇はなかった。
 用意は完了だった。

124 :名無しさん@お腹いっぱい。:2014/04/06(日) 12:24:50.37 ID:1ZRSeloe
 馬淵はいらいらしているのを鎮めようとペットボトルの茶をがぶ飲みした。春菜にも差し出したが彼女はそれは断り、「ダイエットコークにしているんです」とかすかに笑った。
 それは無理に笑っている事が感じられて、可愛いと言えなくもなかったが、彼女ががぶ飲みしているのはどう見ても普通のコーラだった。春菜がちょっと体を動かすとすえたような汗の匂いがした。
それも無理やりに言えばセクシーと言えなくはない。軽い吐き気がするのだが。
 そう言えば彼女の年は何歳なのか? 馬淵は本物(?)の近藤春菜と同じくらいだと聞いた事はあったが本物が何歳なのか知らなかった。
 それと、飲み物と言えば、前々回の山の中の作戦で水筒もないと言う装備で苦汁をなめ、前回の作戦では要員が末期がんなどのため仕方がなかったとはいえドラッグとアルコールのやりすぎで失態をさらした
苦い経験から今回は水筒を装備に加えている。もちろん中身はミネラルウオーターかお茶限定だ。
 「今回の作戦は……」
 「はい……」春菜は馬淵を見た。
 失敗だ、と言いかけて馬淵はためらった。彼女は良くやっている。前線で戦っている兵も良くやっている。これは参謀である自分が責めを負うべき事項であり彼女を責めるのは間違いだ。
 小川降法の身柄を抑えられなかったのは失敗だった。

125 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/04/06(日) 14:44:24.65 ID:1ZRSeloe
 「撤退の準備に入らせよう」馬渕は言った。
 「博士!」
 「いいんだ、これ以上は兵に犠牲は強いる事は出来ん。撤退の瞬間を敵は突いて来るものと考えられる……」

 完全武装で幸福の錬金術のブレザーをまとい人海戦隊チャイナマンのお面をして涙田は総本部の正面玄関から表の道に出た。
 装甲車は思っていたよりも小さかった。確かにでかい字で行動隊と書いてあった。何かの冗談のようだがこれは全く冗談ではない。それに距離はもう三十メートルもない。
 砲塔がくるりと回り彼の方を向いた。だが涙田はネットで調べてこのタイプの装甲車の致命的な弱点を知っていた。この距離だと発砲しても機関砲が人間に当たらないのだ。
うそのようだが本当だった。
 コスト削減のために対人用の機銃を削ったらこうなってしまったらしい。つまりこいつは歩兵部隊と同行することが大前提の装甲車であり、このような場合涙田を始末するのは歩兵部隊だった。

126 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/04/06(日) 14:46:37.70 ID:1ZRSeloe
 その歩兵部隊の安藤は部下と向こうのビルの一階でまだ粘ってはいたが、装甲車の援護どころではなかった。
 さっきからなぜか敵の銃撃が激しさを格段に増してきている。それに数丁に過ぎないがライフルらしいものが敵の手に渡った様子だ。ビルから出ると狙撃される。
 安藤にはそのライフルはG3であるなどとは分からなかった。たった今到着したのだなど知る由もなかった。
 銃撃が格段に激しくもなるのは当然で、マカロフの弾薬がこれでもか、これでもかと前線に届いたから、前線ではこれでもか、これでもか、と安藤らに撃ち込んだのだった。
 安藤は、道路になにやら人が一名いるらしいのは見た。が、それを報告したのは彼ではなく鰻原であった。

127 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/04/07(月) 07:45:47.46 ID:R9JeSz8Y
 「移動本部! 大変です!」
 「こちら移動本部、報告せよ」
 「チャ、チャ、チャ……」と鰻原。
 「どうした、のどが渇いたのか」と馬淵。
 「チャイナマンです、人海戦隊チャイナマンが出ました」二号車の車長が代わって報告する。二号車は補給から戻って来たばかりでまだ遠く戦闘に入れなかった。角度も悪い、狙えなかった。
 「なんだと!」
 「なんですって?」
 「くそう、ばかにしやがって、今度は幸福の錬金術のブレザーを着ている。本部、こいつは俺が殺す」
 鰻原は機関砲の照準を合わせて引き金を引いた。
 カチッ
 「あ?」
 鰻原は阿呆のような声を出すと数回引き金を引いて叫んだ。
 「弾切れだ!」
 目をチャイナマンの方に戻すと彼はパイプのような物を肩に担ぐ動作をしていた。
 ……ヤバい!
 鰻原はとっさに車長用ハッチを開けると外に飛び出した。

128 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/04/07(月) 22:41:57.58 ID:R9JeSz8Y
 涙田はLAWの発射ボタンをぐっと押しこんだ。LAWの場合引き金ではなく発射ボタンを上から押すと言う独特の発射システムなのでこれが分からないと敵の前で往生する羽目になるのだ。文字通りに往生する羽目に。
 ロケット弾は外れようがなかった。装甲車はしばらく、ぐずるように薄い煙を吐いていたがやがて轟音とともに爆発した。
 二号車はその爆発が静まってからしずしずと進んできた。
 「移動本部より二号車、チャイナマンが見えるか?」春菜は言った。
 「不明、歩兵の応援を乞う」
 「歩兵部隊、聞こえたか」春菜が言った。
 「聞こえたが対応できない、幸福の錬金術はどこかから手りゅう弾を手に入れた。損害が激増している」
 「チャイナマンが武器弾薬を運んで来たんだ。そうだ、そうに決まっています」二号車の車長が言う。鋭い意見だがもう手遅れだった。
 「もう持ちこたえられない、上から手りゅう弾を次々に投げ込まれて二階に上がるどころか、一階から駆逐されそうだ」と安藤。背後からは怒号と銃声が聞こえている。
 馬淵は無線を春菜から取った。ぽんぽんと彼女の肩を叩く。それから無線に言った。
 「こうなってはもう仕方がない、総員、撤退準備に入れ」
 春菜ははっとして馬淵を見た。たった一人の男、チャイナマンの前に栄光ある親衛隊が敗走するという事になるからだ。
 「死神博士、動かせない負傷者は?」と安藤が言った。
 「一か所に固めてあるか」
 「ああ」

129 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/04/08(火) 09:33:51.32 ID:ytXecPwk
 「やむを得ない、安楽死を与えてやれ。警察に自白される訳にはいかん」
 「何名かは担架で連れ帰れるかも……」
 「それは無理だ。向こうは見逃してくれないだろう。こちらは幸福の錬金術の女子供まで装甲車で大虐殺してしまったし、何といってもこっちは行動隊なんだからそうするのが自然なんだ」
 「あんたにとっても自然なのか」と安藤、激高するというよりむしろ冷ややかな口調だ。
 「ああ、そうだ。動けない負傷者は殺すんだ。以上」

130 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/04/08(火) 09:48:47.05 ID:ytXecPwk
 涙田はそっと二号車の様子をうかがいながら三号車はどこにいるのか目で探した。彼は知らなかったが三号車はミサイル装甲車で全高が少し低い上に彼が捜している砲塔とは上部構造が違っていた。
 ……こいつを片づけてからにするか
 彼は決断すると隠れていた植え込みから出た。LAWを片手に走る。

 「チャイナマン発見、射殺します」二号車の車長が言う。
 彼は照準を決め、引き金を引いた。ドドドッと頼りになる銃声がした。
 ところが、その砲弾は一発もチャイナマンに当たらない。彼の頭上をむなしく通り過ぎていく。
 「おわっ、本部!」
 「どうした?」馬淵は何を驚いているのか分からなかった。
 「砲弾がチャイナマンに当たらない、一発も当たらない」
 「何だと?」

131 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/04/08(火) 09:55:40.02 ID:ytXecPwk
 馬淵は訳が分からず混乱した。彼らの装甲車にそんな欠陥があるなんて知らなかったからだ。
 メーカーが歩兵を同伴させろと強調している事は知っていた。だがそれにはこんなとんでもない裏があるとはメーカーも説明しなかった。
 「来る、チャイナマンが来る」
 それが二号車の最後の通信だった。
 「二号車炎上中、近くにチャイナマンがいる」三号車の車長、鈴木が冷静に報告して来た。
 「三号車、チャイナマンを撃てるか」馬淵は素早く言った。こうなると春菜は展開についていけなかった。硬直して青い顔で馬淵を見つめている。
 「こちらの武器はミサイルだけだが、ミサイルで撃っていいか」
 「許可する」
 そう言って、馬淵は春菜を安心させるように言った。
 「ミサイルでふっ飛ばせば、奴も終わりだ。どう逃げようがミサイルが追尾してくれるはずだからな」
 「はい、馬淵さん」春菜は指揮権を奪われた事を怒るどころか、すがるようなまなざしで馬淵を見た。
 「最近は本名で呼んでくれる人がめっきり減った」ぽつりと馬淵は言った。

132 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/04/08(火) 14:20:44.47 ID:ytXecPwk
 三号車はハイテクの照準にチャイナマンを捉えていた。
 距離は50メートル、外れる距離ではない。
 「発射!」
 ミサイルは炎の尾を引いて走った。命中はしたはずだった。
 だが、涙田もミサイルが命中するまで棒立ちで待っているほど素人ではなかった。とっさに身を地面に投げ出した。彼の頭上をミサイルが走った。
 悪夢の日曜日が頭によぎったが、彼は立ち上がると全力で走った。
 ミサイルは走るチャイナマンを追おうとして旋回したが追い切れず、アスファルトの地面に突き刺さった。
 爆発はしなかった。安全装置が本体から百メートル以内だと判断したからだった。
 「なにっ!」三号車では車長が目を剥いた。
 涙田は取りあえず、マシンガンで装甲車を流し撃ちした。それは無意味だったがそうしながら後退した。
 「ほ、本部、だめです。奴はミサイルをよけました」
 「なんだと?」
 「このミサイルは対人用じゃありません、だめです」
 「三号車、引き上げるんだ、撤収せよ」
 「了解」
 ここで時間を食う事は不利になるだけだった。もう装甲車は一台しかない。これの援護なしでは撤退が難しくなる。
 「歩兵部隊」
 「了解、今、やるところだ」
 無線の向こうで、短い連射音がした。馬淵と春菜にはなにをやったのかは説明がなくても分かった。

133 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/04/09(水) 07:01:43.15 ID:DQ+T73V0
 「敵は撤収を始めたぞ」
 涙田が総本部裏の、臨時武器集積所に戻るとそう告げられた。
 「そうか……」
 「装甲車二台撃破が戦局の流れを決定的に変えた。また、これは一人だけの功績じゃないが武器弾薬の補給が完全に流れを変えた。
 それまでの防戦から攻撃に、反撃にフェーズが移行した。君のおかげだよチャイナマン」
 棚橋の言葉に本部員らが拍手した。
 「いいぞ、チャイナマン」
 「人海戦隊チャイナマン!」
 「そのださいお面がすてき!」
 その向こうで追撃の銃声が続いていた。
 ……勝った、か?
 涙田は戸惑いながらも思った。

134 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/04/09(水) 07:08:07.24 ID:DQ+T73V0
 「何だと、敗退」
 権は電話で絶句した。
 「後退は、予定のことです。そのまま品川にいると言うわけには行きません」と馬淵。
 「うむ、分かった。御苦労」と電話で犬田。彼は権を見てちょっと微笑んだ。電話を切る。
 「やむを得ん。参謀の言う事は当然だ。腹がたつが、それは兵にも参謀にも指揮官にも見せてはならん」
 「はっ」
 「彼らは戦ったが、敵は一枚上手だったと言う事だ。チャイナマンめ!」

135 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/04/09(水) 07:10:01.08 ID:DQ+T73V0
 警察は、サイレンもけたたましくやって来たがそれは「こうどうたい」が完全に去ってからで、本部員らは氷の目で彼ら警察を見た。
 「貴様らピストルを持っているな、銃刀法違反で逮捕する」と警察。
 「やってみろよ」が答えだった。
 もう、何人もの本部員らが集まって来ていた。
 「帰れ」
 「警察署はあっちだぜ」
 「こうどうたいは帰ったが、また来るかもよ、そしたらどうする、また逃げるのかい。銃刀法違反だ? 笑わすな」
 「逃げる警察はいらん、まだチャイナマンの方が頼りになるぜ」
 「そうだそうだ」
 そして警察はほうほうのていで帰って行った。

136 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/04/10(木) 07:01:31.53 ID:RRg+n/Ml
 十一月 品川騒乱の翌日 水曜日 
 首相官邸・危機管理センター 午前9時
 閣僚らが三々五々集まって来た。各省庁からも人が集まって来た。
 また会議だ。
 総理大臣太田純一郎は精神的に参って来ているのを感じていた。
 太田は現場の警察官から正義感に燃えて政界へ飛び込んだと言う異例の前歴を持つ首相だったが今回の事件は正直彼の手に余った。
 だが、それは投げる事が出来ない仕事だし、太田も覚悟はできていた。ただ、参っていると言う事は事実なのだった。
 「それで、後田君、自衛隊の展開はどうなっとるのか」太田は問うた。
 「今は、予備的な段階でして」防衛省から来たキャリア官僚、後田が答える。
 自衛隊は今回の事態を受けて今までの態勢からより警戒を強めてはいたが、それはまだ予備的な段階だった。
 もちろん装甲車にニューナンブが通用しない事は分かっていたが、では自衛隊が戦車を繰り出せば
万事解決なのかと言うとそうではないのだった。

137 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/04/10(木) 22:00:53.36 ID:RRg+n/Ml
 「警察の調査、報告は」と太田。
 「はっ、今のところ……」
 警察庁から来たいかにもキャリアといった男は、きびきびと報告したが太田はその内容のなさに眉をひそめた。
 「なんだその、分かりませんづくめの報告は?」
 「は……目下、調査中でして」
 「もういい、君、もう来なくていいよ。警察庁長官には君はもう来させるなと私が言っていると伝えたまえ」
 「ははっ」
 そそくさと男は去った。
 「総理、このまま舐められて黙っておられるつもりですか」農林水産大臣竹下康之が言った。彼は公明党からの入閣組で、もちろん信仰は創価学会だ。
 やる気はまんまんだ。そしてそれは生華学会をたたきつぶすと言う事だった。
 「舐められて黙る? そんなつもりはない。だが、情けない警察は証拠がないと言う。そしてわたしは法律を守るべき立場なのだ」太田は言った。

138 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/04/10(木) 22:03:00.27 ID:RRg+n/Ml
 「しかし……」竹下は不満そうだった。
 「みんな、いいか、この三日で二回も内戦のような騒ぎだ。諸外国も注目している。
さっきの男は違うが、警察の現場ではみな必死の捜査が続いている。
 もうじき証拠が上がって来ると思う。そしたら品野町へ自衛隊の、第一空挺団を中心とした突撃隊を突入させる」
 太田の断固たる言葉に皆押し黙った。
 「あの、もし証拠が無かったらどうしますか」と文部科学大臣の鏡涼子がおずおずと言った。
涼子は一回だけだが太田とセックスしたことがあった。はずみのようなものであった。しかしお互いにそれを忘れたことはなかった。
 「ない場合は……」
 太田はやや間をおいて続けた。
 「そう、ないという事も考えられる。証人はいる。私はみんなも知っているように警察官だった。
 普通の人は刑事ものの影響で刑事が手錠をけたら事件が終わると思っているが、実は違う。
裁判で犯人が有罪にならないとどうにもならないだろう。もし今回チャイナマンガいなかったら最悪だった」
 「それはそうですが、彼も犯罪者です」と竹下は創価学会員らしい反応を示した。

139 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/04/10(木) 22:05:28.73 ID:RRg+n/Ml
訂正
誤 チャイナマンガ

正 チャイナマンが

140 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/04/11(金) 07:52:46.07 ID:8yf+umEQ
 「俺は俺なりにチャイナマンのプロファイリングをしてみた」と太田は言った。
 「はあ」
 「ほう」
 「首相の……」
 首相のプロファイリングにみな興味をひかれた。
 「高度な軍事訓練、これはある。もう一つは生華学会が行動を起こすたびに現れる事。ここからの推理だが」
 「はい」
 「奴は生華学会の内部にいる人間なのではないか?」
 「は?」
 「だから、先手を打って学会が行動を起こす現場に現れる事が出来るのだ。そして学会の邪魔をする。
 その目的はむろん正義の味方だからとかそう言う事ではない。学会内部も一枚岩ではなくてこう言った軍事行動で
得をする者もいれば損をする者もいる、その損をする者がチャイナマンを派遣してもう一歩のところでの阻止を行っているのだ」
 「ほほう」
 「へえ」
 「なるほど」
 皆感心した。涼子などはさっき逃げるように去った警察の男より太田の方がよほど警察らしい仕事をしていると思った。

141 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/04/11(金) 18:14:50.41 ID:8yf+umEQ
しかし、彼女も思った事を言ってみた。
 「しかし、軍事行動を阻止すると言うのなら警察への密告電話一本で事足りるのではないでしょうか」
 「残念ながら、警察は無力だと言う事が分かって来た。悪夢の日曜日で薄々分かっていた事だが、一般の警官はニューナンブしか持っておらずこれでは学会の武装集団には手が出せない」
 そいつは痛いところだった。
 「それに、こいつが目指しているのはもう一歩のところでの阻止だ。ドラマの演出じゃないんだからな。これが意味するのは完全な失敗に終わってしまうと学会全体としてまずいと言う事だ。
だからほどほどには作戦を成功させなければならず、その意味でも事前に密告したのでは全てが失敗してしまうから駄目だという事なのだ」
 「なるほど」
 「その為には、作戦の現場にいて、進行を見守り、ほどほどに成功するまで待って、いざという所で介入して失敗させるという高度なテクがいる。
 ただ、なぜ一人なのかは謎だ。一人軍隊で金を儲ける傭兵はこの世にごまんとおると聞く。だが、やつらは学会だ。探せばいくらでも軍事訓練を受けた人材なんか出てくるだろうに」
 皆、さらに感心した。警察の正規の報告よりも総理大臣の推理の方が聞かせると言うのだから困ったものだが、それは非常に筋が通っており納得できるものだった。

142 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/04/11(金) 19:52:17.26 ID:8yf+umEQ
 「とにかく、今は証拠が上がってくるか、学会の次のアクションを待つ。断わっておくがこれは
行動隊の仕業だとは私はわずかにでも思わない。だが、万全の警戒態勢をとるべきだ」
 「すでに、準備は出来ていますが、出動となりますと命令を頂きませんと」と後田。シビリアンコントロールなのだから当然の反応だ。
 「今は出動命令は出さない。品野町へ自衛隊の出撃は電撃的である方が効果的だ。
警察にも今はあえて生華学会を遊ばせておくように指示しておく。どうせあそこには軍事的な機能はない事は分かっている。
つまり装甲車のガレージや武器弾薬庫はどこか別のところにあるのだ。だからあそこを必死に見張っていたとしても奴らにはそんなに痛くはない話だろう」
 「それはそうだろうと思いますが、監視は必要ではないでしょうか」
 「もちろん、遊ばせると言ってもそれはこちらの手のひらの上でだけだ。もうこんな無法は許さない」
 「首相、現に主に国外からの観測ですが、内戦状態一歩手前という判断で株の相場が暴落しています。
今は反発していますが長引くと景気そのものに影響してくるでしょう」財務省から来た官僚が言った。
 「経済担当アナリストの見解を聞こう」太田は言った。

143 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/04/12(土) 06:37:31.47 ID:3k9wB0yR
「貪理は一地方都市であり宗教都市です。亡くなった方にはお気の毒だとは思いますが経済全体からすれば無視できます。しかし品川は東京で、ここは大きなインパクトがありました。
米軍が警戒態勢をあげてきていますが、そこらも経済と関連してくるポイントでして」内閣府の経済アナリストが言う。
 太田はこの男が嫌いだった。話のおちがすべて『経済と関連してくるポイントでして』だったからだ。それじゃ経済と関連しないポイントってなんだと思ったからだ。
 もちろんそれは個人的な感想であった。太田は言った。
 「後田君、見積もられる敵の兵力は?」
 「貪理では約20名、品川では装甲車三両兵約200から250、いずれにせよ経済がどうこうというレベルではないかと思いますが?」
 「後田君、仮定の問題だが、学会が日本国に対し全面戦争を挑んできたとして、勝ち目はあると思うか、君個人の意見でいいから今ここで聞きたい」
 皆これにも興味を惹かれた。
 「やりようによっては、国会議事堂に彼らの三色旗がひるがえり我々全員が死ぬか彼らに捕らえられていると言う事はあり得ますが、国民の大多数が、長期的には彼らを支持するとは考えられません」
きっぱりと彼は言った。
 「よろしい、みな、仕事にかかろう。一回解散し一時間後にまたこの会議室で。それと今日は自宅に帰りたい者は帰って良し。
事件発生以来もうずっとここにいると言う者もおり、健康面でも限界が来るかも知れないからな」
 太田の指示で彼らは散って行った。

144 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/04/12(土) 19:13:33.98 ID:3k9wB0yR
涼子が来た。
 「お疲れ」
 「ああ……」
 太田はほほ笑んだ。
 「我々はみんな、永遠の会議地獄にいるのかもしれないね」
 「そうかも……」
 「いつもあの「こうどうたい」のひらがなは笑いをこらえるのに苦労する。
あれはきっと我々みんなを笑い死にさせるための罠に違いない」
 「ま……ふふふ」
 「一体どうやったらあんな間抜けなジャケットが出来るのか分からんよ。どこかの服メーカーに注文したのか? 
間抜けに見える服をくれ? 「行動隊」に化けるためにと言う目的ならこれほど失敗する服はない」
 「馬鹿には「こうどうたい」って見える服なのよ。きっと」
 太田は久しぶりに笑った。
 竹下が来た。彼は太田とも涼子とも仲が良かった。
 「竹下君、われわれはみんな馬鹿なのさ」と太田は言った。
 竹下は「馬鹿には「こうどうたい」って見える服」と聞かされても「裸の王様」が分からず、このギャグが分からなかった。

145 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/04/12(土) 21:09:48.57 ID:3k9wB0yR
 「総理、アメリカ大使が! かなり酔っ払って官邸に、ここに来ます」と外務大臣の喜納が駆け込んできた。彼は「ダッシュマン喜納」と言われていた。
 それはこんな時に駆け込んでくるからついたあだ名だった。大臣は走ったらいけないと言う事が喜納には理解できていないのであった。
 しかし太田の反応はこうだった。
 「なに!」とダッシュで出て行ったのである。

146 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/04/12(土) 21:21:28.10 ID:3k9wB0yR
 駐日アメリカ大使スミスは問題のある男だった。
 名門のハーバード卒で、米軍にいたことがある。
 一応、日本大使になるぐらいである。日本語はかなり喋れたし在日米軍時代は少年野球のコーチを買って出るなどの実績はあった。
 主な軍歴は陸軍の機甲師団だった。
 だが、在韓米軍にいたころ、米軍病院の看護婦のレイプ事件に連座して、主犯ではないとされながらも軍を追われ
(機甲師団の面汚しと言われた)そのまま母校のハーバードに戻ったのだった。そこで日本文化の研究をしていた。
 そこから何がどうなったのか、広島、長崎のキノコ雲の夢を見ると噂になるとか(もう一度やれと夢枕で先祖が言うらしい)、好きな言葉は
キルジャップと日本文化を紹介する大学の講義で口を滑らせるなどの失態が続いたのだった。
 極めつけが、内輪のグループの会話の中でだが「自分が在日米軍を支配したら三日で日本を支配してみせる」と言ったというとんでもない失言で、
しかもこれは酒とマジックマッシュルームを決めていたらしいと言う話だったから大学当局もとうとう調査に出た。
 ただ、その当時はジャパン・バッシングが最盛期のころで、彼も調査に対してそんなことは言っていない、何かの間違いだと主張した。
 誰かが日本文化を研究している自分をはめるためにそんな事を「作った」のだ、と言った。
 証拠はあがらず、彼は一応「白」だと言う事になった。
 そんな男が今は色々あって駐日アメリカ大使なのだ。それに酒とドラッグは続いているらしい。

147 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/04/12(土) 21:34:32.84 ID:3k9wB0yR
 しかも、S&Wの44マグナム M29を常時携帯しているというとんでもない男だった
 ダーティハリーの影響か、これが最強だと吹聴していた。
 名前がスミスだからなのかもしれないが、そんな事は紳士の太田は聞いたことはない
 大使だから不逮捕特権がある。銃刀法違反で逮捕は出来なかった。

148 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/04/13(日) 08:54:58.72 ID:5aycixNQ
 「総理、実は……」と廊下で官房長官赤旗正(あかはたただし)が言った。
 赤旗というのも由緒正しい名前で戦国時代から続いているという誇りある武勇の家だった。
 旗が赤いと言うのは、元はほかの旗印だったが血で染まり、それを振ったというのだ。この家も硫黄島で最後の最後まで戦った勇敢な将校の一人を出した家であった。
 ちなみに赤旗しんぶんとかとは関係ない。完全に関係ない。

149 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/04/13(日) 18:30:37.88 ID:5aycixNQ
「何か?」太田は赤旗に言った。
 「米軍が、東京に兵を集中させ始めていると言う報告があります。海兵隊を中心にしています。在留アメリカ人保護を名目としています」
 「何だと?」
 「すべては大使が握ると言っています。大使には指揮権はありませんがあ奴は子飼いの将官を金や女、麻薬で手懐けています」
 「ばかな」
 「それがその、その上未確認な、こんな事を言ってもいいのか……」
 「赤旗君、何かあるんだな」
 「は、日本再占領計画があるという事です」
 「は?」
 あまりの事にその場(廊下だったが、みな総理に続こうとして一列縦隊だった)にいた全員が凍りついたが、しかしスミスなら言いそうだった。
 「複数の拠点に極秘裏に戦術核を搬入しているとの未確認情報があります」と後田が言った。
 「ノーと一言でも言ったら日本中を焼き尽くす、そういうことらしいです。すでに虎視眈々と狙って来ていると見た方がいいでしょう」赤旗も言った。

150 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/04/14(月) 17:34:27.24 ID:MVCQWlNf
 太田はスミスに会ったが、スミスはぐでんぐでんに酔っていて話にならなかった。
 アルコール依存症、それもかなり進行している様子で、随行している副大使が気の毒なぐらいだ。いつからこうなったのか、どうしてこうなってしまったのか、太田には分らない。
 おそらく、日本占領とか言うのはアルコールの影響も大きいのではないか。
 太田は警察のころ、そんな人間をよく見たことがある。誇大妄想や被害妄想だ。人種差別的傾向もアルコールの影響下では大きくなる事はあっても小さくはならないだろう。
 日本文化の研究とかをやっていると、日本の良い面も見えるが悪い面も見えるのだろうし、それは仕方がないが、征服計画は飛躍している。やはりアルコールやドラッグの影響か。
 大統領に話をつけたい。このスミスという男は危険だ。しかしアメリカ本国も今は微妙な情勢で大使を交代させるのは難しい。
 少なくとも、大使はクレーム電話一本で変えることが出来る物ではない。
 副大使は良い人物で、なおさらスミスのひどさ加減が際立った。

151 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/04/14(月) 17:36:49.43 ID:MVCQWlNf
 この副大使は日系でカトウと言うのだが、アメリカ側ではシャドウと言うあだ名で呼ばれていた。彼は目立たぬよう行動しており、本国からも大使からも馬鹿にされていたが、日本ではとても良い人として知られていた。
 彼は、先祖が長崎で被爆した人で原爆反対、戦争反対と言う立場でこっそり何回も広島や長崎を訪れていた。慰霊の行為、平和を祈る行為に国境はないとはっきり言った。
これは日本国政府の耳に入ったし、天皇家のお耳にも入った。
 そのため、米国政府の副大使としてではなく、私人として、また戦争被害者の子孫としてこれもひそかに天皇陛下からお言葉をかけられると言う極めて異例の名誉を受けた人で、
これも(本国政府にばれたらどんな制裁が待っているのか分からないからだが)秘密裏にされていたが、日本国政府の人たちからは逆にきわめて尊敬されていた。とても異例な人だった。
 カトウは、やっとスミスをつれて引き揚げたが、その際に少しだけ赤旗と立ち話をした。
 「失礼しました」日本語でカトウは言った。
 「いえ……」赤旗は何と言ったらいいのかわからず、英語を使うのが礼儀なのだが日本語で言う。
 「軍は、その……民間人保護のためです。昨日の一件は装甲車が現れ、戦争になりました。我々も……」
 赤旗はカトウが苦しいのが分かった。

152 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/04/15(火) 08:12:47.77 ID:k5/RNUlO
 「分かりました、もう何もおっしゃらないで下さい」
 「?」
 「語ればウソになる時には、沈黙も必要でしょう。外交官としては失格でしょうが、あなたには……あなたは偉い人だ。あのスミスよりは偉い人だ。どうか、ウソは語らないで下さい」
 太田が来た。赤旗が少し太田に話をすると太田も言った。
 「カトウさん、あなたは一言も言わずに、官邸を去るのです。語ればウソになる時には、沈黙も必要と言うのは名言だ。シャドウはペラペラしゃべらない、大使のそばにいて、必要な時に大使を助けるんだ、それがあなたの勤めではないか」
 カトウは、はっとした表情になり、彼らに一礼した。そしてその場を去った。スミスはまだ訳の分からないことを喚いていた。
 副大使は、官邸を去りながらこの国の内閣は人物が揃っているとしみじみ思った。
 これなら何が来ても大丈夫だろうと。

153 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/04/16(水) 18:31:15.24 ID:4fiSOSdN
「Racequeen incは、2ch.netというドメインの所有者であり」の件について

しかし、こう言う、元祖だの総本家だのという話になってくるとは思っていなかった
正直戸惑っている。
この文も転送はおそらくかかるが、それがいつまでかかるのか分からないし、そもそも
どちらが正しいのかは判断できない
ただ、勝ち組についたほうがいい それは言える

154 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/04/16(水) 18:38:09.10 ID:4fiSOSdN
情報を集めて、勝つほうにつきたいと思う。
戦国時代から、それは変わらないのだし、今だってウクライナを見ても分かるように
平和じゃない。
そう、平和はまだ来てはいない。
サーバーがあれば良いと言う時代は終わった。
もうこれからはどっちが2ちゃんねらーをつかむかの戦争なんだし
それは間違いない。
「Racequeen incは」と全ての板に貼れば済むという問題ではない。

155 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/04/16(水) 18:42:22.85 ID:4fiSOSdN
勝敗は、法廷でつけるらしいことを言っているが本当の審判者は
2ちゃんねらーではないかと思う

一日お休みをいただき、2014年4月18日より 再開といたします

156 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/04/17(木) 18:41:58.86 ID:8/4EfH5J
対応について

今回の、2ちゃんねるが二つ事件について作者はこうする。
実は、「人海戦隊チャイナマン」はブロック工法で作成されている。
テキストエディタで、通番名前.TXTと言うファイルで著述されている。これには著作権が当然ある。
ちなみに冒頭の山のシーンは1山1.txtであり、先日の危機管理センターのあたりは23危機管理室である。最後は、通番は65である。ただし、欠番や、追加がある。
で、通番24までは、今の2ちゃんに書き込みをするとして、その後はどうするか、決めかねているのである。

正直、どちらでも良いのであるが勝てば官軍はネットの世界でもそうで、勝利者はユーザーをより掴んだほうだろう。

157 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/04/17(木) 18:43:35.94 ID:8/4EfH5J
明日より再開いたします。

158 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/04/18(金) 19:25:27.21 ID:WbbY2qYr
 品川騒乱の翌日 十一月 水曜日

 SIO翻訳支援センター、地下会議室。
 重い空気が淀んでいた。

 犬田は体調を崩し、入院してしまった。ちなみに犬田の妻はもうおらず病院での主任看護師は今年40の大年増だった。
 彼女は独身だった。彼女は満面の笑みで犬田を迎えた。後妻に納まりたいとの野望を抱いているとのうわさもあった。
 「ぬふふ……犬田先生、いらっしゃい〜」と言うのであった。
 「ひ、ひぃ……」
 犬田を羨む者はいなかった。そして敗戦の上に大将が病に倒れたのでは軍の士気が上がろうはずもなかった。

159 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/04/18(金) 20:35:43.54 ID:WbbY2qYr
 「今回も失敗か!」
 大幹部の一人が吐き捨てるように言った。
 その言葉に、馬淵は、今度の作戦を少し考えて見た。
 目標の一つ、品川の街を適当に破壊する事は成功、もう一つの小川降法の身柄を抑えるか殺すことには失敗。目標の達成という点では半分だ。
 しかし、そこは正直に言って個人としての小川が街にいるかどうかなんて事前に分からないケースなのだ。
 前回は祭りであり本人がいない事はありえないが、今回はふたを開けてみたら本人はニューヨークにいましたと言う事だってありえる。
 今回の作戦は品川破壊がメインであろう。問題はそれに要した損害の多さだ。
 損害で一番痛いのは、歩兵隊の人的損害だった。
 装甲車はもともと回収は不可能と考えられており使い捨てであった。しかし、歩兵隊は半数近くが死亡または負傷と言う惨憺たる損害を受けた。

160 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/04/18(金) 20:39:12.49 ID:WbbY2qYr
 大体、現代戦では半数の損害は部隊戦闘の続行は不可能、つまり全滅同然と言う判定になる。
 士気の面も無視できなかった。歩けない負傷者の処分は必要な処理だった。しかし、処分に当たった兵らも
歩けない負傷者が現代の医学では連れて帰りさえすれば多くの者が助かったはずだと気づいていた。
 馬淵は命令する側だから彼の面前で口に出す者はいないが、親衛隊を辞めたいと言い出す者が続出している模様だった。
 また、親衛隊の中にはチャイナマンにやられて敗走したと大げさに言う者もいた。馬淵は慎重に話を聞くうちに人間心理の問題を垣間見るような気がした。
 親衛隊のプライドを、少なくとも仲間内でだけでも守るためには強力な敵に負けたのだと言う合理化、正当化が必要だった。それがチャイナマンという具体的な形を取って投影され拡大されるのだった。
 確かに、装甲車連続二台撃破は大きい、だがチャイナマンの出現以前に撤退は決定されていた。ただし、それを知っているのは馬淵と春菜だけだ。
それに、まったくもって初歩的なミスだが戦車と歩兵は分断されてはいけないと言う基本が守られておらず、そこを突かれた格好になってしまった。
そんな基本的なミスが今回の作戦ではあまりにも多かった。
 現実問題、始めは装甲車と歩兵は連携していた。
 しかし、幸福の錬金術も馬鹿の集まりではなかった。付近のビルから、当初は武器が拳銃しかないにもかかわらず果敢に反撃してきた。高いフロアから拳銃で狙撃を加えて来た。
そのうちに投石がくらわされた。それも大人の握りこぶし大の石だ。
 普通は狙撃はライフルでするものだと思うが石をくらっても兵は死ぬ。

161 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/04/18(金) 20:45:08.55 ID:WbbY2qYr
 たまらず歩兵はビルに入り一階から隣のビルの一階へと移動する戦術を取った。
そこまでは安藤も馬鹿ではなくまた春菜の指揮が適切だった事もあって激しい損害はなかった。しかし問題は例の神殿のような建物だったのである。
 実際、後で検討してみると、敵の神殿みたいな建物は実に頑丈だっただけではなく、裏側は敵の支配下にあり補給や負傷者の搬出もここから行われたらしい。まったくぬかっていた。
 当日の小川の動きも分かって来た。最初は地下のシェルターに避難していたらしい。そこは核攻撃にも耐えられると言う堅固なものだが、総本部の一階が敵に占拠されるかもしれないと言う不測の事態には対応していなかった。
だからこそ本部員らは総本部の死守に命をかけたのだ。そしてそんな事を知らない親衛隊は総本部に突入しようとしていたずらに犠牲を出す羽目になった。
相手は拳銃程度でこちらは装甲車まで繰り出しているのに繰り返し撃退されると言う信じられない事態が発生した。
 小川は最終的には総本部を捨て脱出したらしい。馬淵からすると賢い選択だ。
 小川の姿が最後に確認されたのは警視庁に入るところだった。そこに今もいると言う事はないだろうが、現在の所在は不明なままだった。もっとも、馬淵は春菜に命じて小川の動静は探らせていた。

162 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/04/19(土) 19:54:31.40 ID:DfBpMNcs
 「権田君、君の作戦は失敗したな」飯田は勝ち誇ったように言った。
 「飯田幹部の作戦こそ、失敗したではありませんか」
 馬淵はまた、こいつらは馬鹿なのではないかと思った。
 「今は仲間内で争っている場合ではありません」大声で言う。
 「馬淵、よくぞ言った。状況を説明してくれ」と大幹部の一人が言う。この大幹部は信望のある男だった。惜しいことにこの数日後に北海道に帰ってしまうのだった。
彼が東京に留まっていたらこの後の経過はずいぶんと違ったと思われる。
 「警察は、幸福の錬金術に対し武装解除と銃で戦った戦闘員全員の出頭を命じましたが教団は拒否しました。また、偽行動隊からの脱落者が今回は出なかった事で警察は決定的な証拠を掴んでいません」
 「装甲車や銃はどうなのだ」と別の大幹部が言った。
 「手は打ってあります。銃の線からは手繰れないようにしてありますし、装甲車はダミー会社を通じて偽の取引を繰り返して手に入れています。絶対に大丈夫です」
 「そうか」
 「今回もチャイナマンのお面をかぶった戦闘員が出てきました。こいつの前に装甲車部隊は完全に破れ去りました。しかし、こいつの正体はいまだ不明です」
 「貪理ではなかったのだな」と飯田。
 「違ったようです。今回は幸福の錬金術の本部員のブレザーを着用していたようです。
 気になりましたので確認しましたがセキュリティ上からも、また選ばれた本部員の誇りからもこのブレザーは大切にされ幸福の錬金術の本部員以外が手に入れることは不可能とのことでした。
 また、出てくるところは確認していませんが交戦中であった事を考えると、奴が出て来たのは総本部の正面玄関からとしか考えられません。つまり奴は幸福の錬金術の本部につながりがあると言う事になります」
 「しかし、貪理のあれは? 別人物か?」とまた飯田。やはり貪理作戦の事は気にしている様子だった。当然と言えば当然だ。
 「その可能性もあります。ただ、引っかかるのは……」馬淵は言い淀んだ。

163 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/04/19(土) 19:59:00.62 ID:DfBpMNcs
 「何だ?」と権田。
 「お面です。チャイナマンのお面はレアものでしてネットオークションでも高値で取引されています。偶然そこらにあったと言うのは話が出来すぎています。
最初の貪理の時は祭りだったしお面を売る露店もあったという報告があります。
 何らかの偶然で流通ルートのエアポケットみたいなものに乗ってしまったレアものがたまたま露店に並んだのかもしれないという可能性はあります。
 私が奴の立場だったらレアとか高いとか考えず取りあえず手元にあるお面を使うでしょうからそうだったかも知れません。だが二回目の、今回の時はそこらにあったはおかしい」
 「意図的だったと」と権田。飲み込めてきた様子だ。
 「我々へのメッセージだと思います。だから一人だったんです」
 「一人?」
 「どう考えたって、一人で戦う必要はないのですし、お面も付ける必要なんかありません」
 はっとした表情で黙りこむ幹部ら。

164 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/04/19(土) 20:06:07.06 ID:DfBpMNcs
 「あの時点で幸福の錬金術の戦闘要員は下を見ても百はいました。実際には三百以上はいました。五百はいたかもしれません。戦うと言う気持ちを持って避難せずあそこにとどまっていたものはもっといたでしょう。
だが奴は一人で来た。おそらく対戦車戦闘の訓練を受けていない本部員では駄目だとの判断からでしょう。
 奴はそんな所も含めて悪魔のようにクールでした。普通の人間は装甲車の前に立つ事は出来ないものなんです。
 だって機関砲が付いている本物の装甲車で敵が乗っているんですよ。
 しかし、奴は我々でさえ知らなかった装甲車の構造上の弱点を知っていたのでしょう。歩兵が付いていないと言う事も観察して分かっていたでしょう。
 それはそうであのタイプのロケットを構えている間は全く銃に対して無抵抗になるんですからね」
 「じゃあ、あいつは我々を脅すためにあのマニアックなお面を着けて一人で来たと言うのか」と権田。
 「そう言う事でしょう。そしてこちらは総崩れになり撤退を余儀なくされました。パニックにならなかったのは逆に撤退で、幸福の錬金術が総攻撃をかけてくるのを防ぎながら逃げるのに精いっぱいだったからです」
 「くっ」と権田。
 「しかし、品川の街を適当に破壊すると言う目的は完全に達成できました。小川をどうこうするのは今後時期を見て別の手段でやることも可能かと思います。
 二兎を追う物はのことわざではありませんが一兎は得た訳ですし決してこれで終わりではありません」
 「それで、行動隊のせいにする工作はどうか」と権田。
 「完全な失敗です。特にあのジャケットの「こうどうたい」の文字が発表されると生華学会は漢字も書けないのかと良い物笑いのタネでして」メディア担当の幹部が言う。
 「なぜ生華学会だと言う事になるんだ」と権田。
 「それは色々あります。貪理の事件の直後と言う事もあり、また行動隊が装甲車を繰り出して幸福の錬金術を襲撃すると言う不自然さがあまりにも来ていますもので」
 「そこを何とかするんだ」
 「駄目です。もう悪者の生華学会と言うイメージは決定的です。全ての、全てのメディアからCM、広告を断られました。あと残っているのは盛況新聞だけです」

165 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/04/19(土) 20:17:26.64 ID:DfBpMNcs
 会議はまだ続いていたが馬淵は廊下に出た。春菜がいた。待っている間にのどが渇いたのか相変わらずペットボトルのコーラを飲んでる。
 「あ、会議は?」
 「まだ続いている……」
 会議では奴を倒す事は出来ないだろう、と馬淵は思った。
 チャイナマン、あいつ一体何者なんだ?
 「その、小川降法の動きが分かりました」と春菜は言った。
 「え?」
 「金で動くスパイが幸福の錬金術の大幹部にいまして、札束で動かしました」
 「やったな、よくやったぞ」
 素直なほめ言葉に春菜はほほ笑んだ。

166 :大阪:2014/04/20(日) 15:15:12.79 ID:3Uu8Exh7
突然書き込めなくなった。
弾圧の開始か

167 :名無しさん@お腹いっぱい。:2014/04/20(日) 22:19:02.33 ID:2YmayJ7d
>>166
俺も書き込みがたびたび重くなるんだよね
サーバーの方で何か問題が起きてるのかも

168 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/04/21(月) 17:41:32.06 ID:/VLkwQUw
 「それによりますと、奴は近々徳島の実家に戻ると言う事です」
 「チャイナマンに関しては何か分からないか、そう、奴が自宅で風呂上がりにビール飲んでくつろいでいるところを百人以上で取り囲んでやってしまうとかできるといいんだが」
 馬淵は春菜が目を丸くしているのを見て
 「なんだ?」と言った。
 「あ、いえ、とても分かりやすい作戦だったものですから」
 「ああ」
 「博士は、風呂上がりにビールでくつろぐ派なんですか」
 「そう」
 「わたしもそうなんですが、最近太って来たんで我慢してるんです」
 馬淵は最近じゃねえだろ、と突っ込みたかったが、それはレディに対して失礼すぎるからやめておいた。春菜の機嫌は損ねたくない。
 「ま、そっち方面も探りを入れてくれ」
 「分かりました」
 「あのお面を手に入れないといかんな」
 「あの、人海戦隊チャイナマンのお面をですか?」春菜は言った。

169 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/04/21(月) 17:45:22.73 ID:/VLkwQUw
 「そう、あれをつけて女をレイプしている画像とかをインターネットで流して……」
 馬淵は春菜が不服そうな顔をしているのをみて言葉を切った。
 「そんなアダルト動画、すぐにばれてしまうでしょう、それでまたまた学会の欲求不満のカップルの変態プレイ流出とか言われるにきまってます」
 「……おまえアダルト動画とか見た事あるのか」意外だった。
 「う、その、ときどき家で」
 「学会の欲求不満のカップルの変態プレイ流出ってなんだよ」
 「それ専用の動画サイトまであるぐらいなんです。スワッピングの相手募集とか変態プレイのパートナー募集とかやってます」
 馬淵はそんなサイトを春菜が食い入るように見ているところを想像してくらくらしてくるものを感じたが何とかこらえた。

170 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/04/22(火) 07:29:45.10 ID:5q3rwk1J
 品川騒乱の翌日 十一月 水曜日 午前中
 涙田は出勤し朝バスを三便回すと椅子に座る。
 机には花瓶が飾ってあった。
 「どうだった、お休みは」と隣の席の綾子が聞いてきた。
 「いや、いろいろ……」
 まさか本当の事は言えないから口ごもりながら花瓶を見た。
 「ああ、これ? 美雪よ」
 「やっぱり」
 「昨日は大変だったのよ」
 「は?」
 「浮気してるに違いないって女子トイレで泣くんだから」
 「そんな」
 「相手は『トナカイ』だって」
 「ええっ」

171 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/04/22(火) 07:37:44.15 ID:5q3rwk1J
 『トナカイ』とは大村パンに文房具を入れている八千代文具の若い娘、遠藤さおりのコードネームだった。
 なぜ八千代文具の営業にコードネームがあるのかと言うと、それは彼女が恵まれない子供たちの施設
「子供収容所」のクリスマスパーティでトナカイの衣装を着てプレゼントの乗ったリヤカーをひっぱっている姿が動画サイトに投稿されたからだった。
 リヤカーの上で仁王立ちして鞭でトナカイをしばくサンタがいた。
 必死でプレゼントを積んだリヤカーを引っ張るトナカイの姿は感動的で、次の動画はトナカイさんをいじめるなと子供たちに殴りつけられているサンタの動画だった。
サンタを殴る子供の動画は珍しかったが、それは前の動画を見ないと意味が分からない。
 「なんでトナカイなんですか」
 「ああ、これは間違いがあったら困るから黙ってたけど、さおりはあなたを落とすと同僚に言ってたらしいのよ」
 「はあ?」
 「八千代文具に潜入させているこちらのスパイからの報告ではね、
 あなたの事をかっこいいって。あんなアル中には負けない、必ず奪って見せるって息巻いてたらしいのよ。それが悪い事には美雪の耳にも入ってしまって、
しかもスパイからの情報では昨日は偶然トナカイも休みだったらしいの」
 「そんなスパイ大作戦があるんですか」
 「この世界では常識よ」
 「そうですか」
 「まあとにかく、今年の忘年会までは持たせてね、それまででいいから」
 「はあ」あきれてものも言えなかった。
 「エサ、つまり酒をあてがうのよ、アル中なんだからそれでOKよ」
 と、言う訳で涙田は大村と営業に出かけた時にはすっかり力がなくなっていた。

172 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/04/22(火) 17:51:21.16 ID:5q3rwk1J
 「昨日は大変だったらしいな」と大村。叱責しようと言うような雰囲気ではない。
 「はい」
 「幸福の錬金術からはお前の事を軍事教官として雇いたいとの申し入れがあったらしいぞ」
 「ええ?」
 「それは困ると言っておいた。昨日の一件で分かったが、わが社はバスの運転手がいないと大ピンチだ。ベンツの運転手もいる。角来には彼氏も必要だ」

 法律上はともかく、行動隊の鉄の規範に照らせば涙田の行動は問題はないのだった。
 涙田はミッションを終了して近藤の指揮下にはなかった。
 また、武器も幸福の錬金術側から供与されたものであるから勝手に武器を持ち出してはならないという武闘の一般規則を破ったことにはならなかった。査問にかけることは出来ない。

173 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/04/22(火) 21:22:32.81 ID:5q3rwk1J
 もうすぐ今日の営業先、旅行社「夢の逃亡先」だった。
 「学会の野望は潰えていないだろう。そして二度にわたってその前に立ちふさがったチャイナマンはまた現れるとみんな思っている。
みんなとは貪理の民であり幸福の錬金術の人たちであり、そのほか学会の脅威にさらされている全ての人たちだ」
 「は……」
 「世間ではヒーローが出来るのも忘れられるのも早い。だが本当のヒーローとは、薄っぺらい作り物のスーパーヒーローではなく悩みもあれば弱点もある等身大の人間なんだ。おまえのようにな」
 「はい」
 「おまえも学会の野望にぶつかる事4回、いずれも偶然の産物だが五回目はないと思う。安心して生活しろ」
 「安心しろと言われましても……」
 「面はわれておらん。幸福の錬金術のごくごく限られた人間はお前の正体を偶然知ったが、それは漏らさないだろう。
彼らは貪理の事件の事は良く知らないし、お前の事を話したりネットでバラすと言う事は自分たちの不利になると言う事は理解している。万が一お前が死んだら困るのはあいつらだ。あの戦いを覚えている限り学会は品川に来る事はない」

 その日、仕事が終わった後で涙田は美雪を連れて美味いワインを飲ませる店に行った。
 仲直りのキスはロゼワインの味だった。

174 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/04/23(水) 07:47:58.07 ID:TOFqi7wV
 十一月 品川騒乱の二日後 木曜日 午前中
 犬田代作は品野総合病院の特別病室にいた。
 この病室は貴賓室なのだが、やはり医療の最前線の場所にある。それは天井に飛び散っている血の痕が物語っていた。
 今朝は早くに犬田代作の長男、弘忠が見舞に来た。彼は生華学会ではなく高校の教員だった。
 「お前、仕事は?」
 「ああ、それなら、今日は体育祭の振り替え休日なんです。全員が休むわけにはいかんので交代で休むんです」
 「ほう、高校の先生も大変だな」
 弘忠夫婦には子供がおらず、後継ぎは代作の義兄、百田修二郎の孫娘に当たる龍子と言う娘が養子に入っていた。
 彼女はもう高校三年だ。ゆくゆくは、彼女が婿をとり、犬田家と百田家の完全な跡取りが生まれることになる。
 だが、弘忠は自分の子供とは教室の教え子であると言う教育信念を貫いており、奉職して以来、教団の幹部の地位など目もくれなかった。いや、信仰さえ捨てていた。
 公立高校(都立高校)で教鞭をとる以上、過剰な信仰心は不要だった。教室にはいろいろな宗教の子供がいるのだ。
 だから、代作は表向きは「信仰心がないから子供が出来ないのだ」などと心ない事を言ったし、自分には後継ぎがいないのだと公言したが、内心では本当の信仰とはそのような言葉を投げつけるものではないと考えていた。むしろ正しいのは弘忠の教育信念だ。
 そして、生華学園高校が大阪に開校した時に、そこの初代校長に弘忠を誘った。
 だが、弘忠はそれも断り、今も一教諭だ。
 そして、彼には学校があり授業がある。生徒がいる。
 犬田代作は自問する時がある。自分には何があると言うのか?
 弘忠は見舞の果物を置いて帰って行った。

175 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/04/23(水) 20:38:09.43 ID:TOFqi7wV
 ドアがノックされ、権田が入って来た。
 「面会時間は少ないのですが」
 「そうだな、座ってくれ」
 「は……」
 「あれから、負傷者から死人は出なかったか?」
 「大丈夫です」
 「死神博士には気にやまないように言っておいてくれ。それと彼を処罰してはならん。
 彼の命令は私の命令なのだ。今度はお前がわしの代わりに命令する番かもしれんが、非情の命令を下すその時は躊躇する事はならん」
 「はっ」
 「それで?」
 「警察は大丈夫です。品野町には来ないでしょう」
 権田は口ではそう言ったが、実際は首相の太田は突入の腹を決めており時間との戦いだった。
 ただ、太田は警官上がりである事は否めず、証拠固めに慎重だった。
 今は奈良県警で抑えている「終わりの人」の自白待ちであった。しかし、太田としてはもっと物的証拠がほしかった。
 太田は公判が維持できない段階での品野町突入は新たな騒乱を呼びかねないと言う考えだった。

176 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/04/23(水) 21:26:29.37 ID:TOFqi7wV
 「小川は行方をくらましています。臆病な奴です」
 幸福の錬金術の総裁、小川降法は消息不明だった。
 「ふむ、貪理の朴はどうなった」
 「生きています。しぶとい奴です」
 「最悪だ」犬田は言った。
 「そのう、親衛隊の方なのですが、装甲車の補充と隊員の補充ですが」
 「装甲車も隊員も今の倍にしなさい」
 「は?」
 「今の倍だ。前は敵は行動隊とか貪理とかだったが今は違う、チャイナマンと言う強敵がいる」
 「その事なんですが……」
 権田は今朝早くに起こった事件を語った。

177 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/04/23(水) 21:37:04.80 ID:TOFqi7wV
 学会では警備などにつくボランティアを「班」と呼び、本部警備のボランティアの事を「居城班」と呼んでいた。
 そして警備を特に厳重にしていた。貪理や幸福の錬金術の報復を警戒していたのである。
 そんな早朝の事、生華学会本部前にチャイナマンのお面をつけた男がいきなり現れた。警備に入っていた居城班員が飛びかかったがその男はただの貪理大生で「道にいただけでいきなり襲いかかられた。
暴行罪で訴える。流石は悪者の巣窟品野町だ」と言いだした。
 駆け付けた警察も大学生が指差した居城班員を逮捕しなければならなかった。ただ単にお面をつけて立っていただけでは犯罪でも何でもなかったが、飛びかかって殴りつけるのは犯罪だった。
一部始終は共犯者の貪理大生に撮影されておりネットにアップされてしまった。

178 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/04/24(木) 07:44:08.45 ID:wYoEVou8
 「このような事件は今後も起こるものと考えられます」
 「ううむ、言っておった通りの展開になってきおったではないか」
 「ははっ」
 「早くチャイナマンを何とかしなければならん」
 「そ、それはもちろんですが、貪理で吹き飛んだ建物の下から赤ん坊の遺体が出てきたり、
品川での一件で、装甲車が逃げようとしている民間人に繰り返し機関砲を発射している動画とかが出回ったりで悪の生華学会のイメージは強まる一方です。
 テレビの特番はご覧になりましたか」
 「入院生活ではそれぐらいしか「楽しみ」はないからな」
 「このままでは、警察が来る以前の問題としてわが学会は最大の危機を迎えてしまいます」
 「それは……」
 がらりと病室の扉が開いた。
 「ヌフフ……」看護婦が笑う。これが噂の看護婦かと権はまじまじと見た。
 美熟女だとは思うもののなにか白衣の天使というイメージよりは安いギャラのAVのナースのようだ。

179 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/04/24(木) 07:51:21.46 ID:wYoEVou8
 「はい、そこまでですよ」
 「わ、まだなんにも話していないぞ」
 「え? 偽チャイナマンの話はしたじゃないの」
 「は? お前、盗聴してたのか」権は言った。
 「当然ですわ、ここは24時間モニターですもの」
 「そのモニターって話を盗み聞きするのとは違うんじゃ?」と権
 「ぬふふ、ダーリンの会話を盗み聞きするのはたまらない役得なのよ」
 とんでもない病院に犬田を残して権は早々に退散した。

180 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/04/25(金) 06:34:49.71 ID:pL10M5xS
 十一月 ある平凡な一日 木曜日 午前中
 涙田は朝のバス運転を終えて席に着いた。
 今朝はトナカイが来ていた。バチバチ火花が散っている。美雪は手元にあのブローニングハイパワーでもあったら撃ち殺しそうだった。
 あれは流石にアル中には危なすぎるから綾子に預かってもらっている。
 トナカイは素早く涙田と綾子のシマに来た。
 ちなみにこのシマは社長直属部のような格好で社長室の真ん前にあり、社長宛の電話も綾子が取り、社長のスケジュールも涙田と綾子が管理していたが、
綾子の本来の所属は経理課で涙田は総務課の配車係のはずだった。
厳密に言うと会社内での上下関係では美雪が上と言う事になる。
 しかし、ベンツもバスも両方、配車も何も、バスは定期運行、ベンツは社長のスケジュールに従って運用だから配車係の入り込む余地はない。
 「おはようございます」
 トナカイ……さおりは挨拶してきた。刺すような視線を美雪が送ってくる。
 涙田は命のやり取りを十月以来短期間に4回もしてきたが、スリルと言う意味ではこれはそれ以上だ。あの幸福の錬金術総本部前での装甲車退治なんてこれに比べればピクニックだ。
 「おはようございます」
 涙田はさおりがしなやかな肢体をもった細顔の美人である事は前から知っていたが、この娘が自分に気があるのかどうか分からなかった。綾子も涙田が目移りしたら困るからか全く情報は渡さないようにしている。
 「あの、これ……」
 トナカイがすばやく可愛いメモを差し出してきた。涙田は受け取ったが、トナカイが立ち去った後で綾子は手を突きつけて来た。涙田はやむなくメモを渡す。
 「携帯を貸しなさい、断わりのメールを入れてから送信履歴を消去して手繰れないようにしとくから」
 流石にスパイの親玉は違う。名字的に言うとB(別府=べつふ)なのだが彼女は本当はMなのではないか。(007シリーズのM)

181 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/04/25(金) 06:50:59.91 ID:pL10M5xS
 「じゃ、その間にトイレに行ってきますよ、ほんとに送信するんですか」
 「あたりまえでしょう、ついでにざっと浮気してないか、美雪に代わってチェックしとくから長めにトイレに行ってきなさい」
 涙田はトイレには行かず、駐車場に出た。寒い朝だった。
 ベンツのワイパーに第二の、本当のメモははさんであった。
 トナカイは馬鹿ではない。もちろん生物学的にはトナカイはどちらかというと鹿の仲間だが(分類学上はシカ科トナカイ属)それはさおりが馬鹿かどうかには全然関係ない。
 あんな事をすれば綾子が手をつきださなくても美雪が涙田の席まで突進する事は目に見えている。そして、メモは回収される事は見え見えだ。
 そしてそんな事をあえてする以上、それはパフォーマンスだ。トナカイは賢いからそうやって涙田に気持ちを正面から伝えると同時に美雪に左手の手袋を投げるように、メモを渡したのだ。
 メモにはメールアドレスがあった。

 生華学会、平和祈念館
 権と親衛隊の面々は会議室に集まった。暖房が利き始めていたが寒い朝だった。
 ここは親衛隊にとってはもっともふさわしくない場所だが会議の場所がないのでは仕方がなかった。それに、内容が内容だけにどこでもいいと言う訳にはいかなかった。
 正式には学会には「親衛隊」という組織はないため会議のたびに伝説のさまよえる民のようにさまよわなければならないと言うのが痛いところだった。
 「幸福の錬金術の小川総裁の予定がつかめました」
 近藤春菜の報告にみな顔を見合わせた。

182 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/04/25(金) 20:25:56.97 ID:pL10M5xS
 貪理教は倒れたままだったが幸福の錬金術は違った。目の前で幸福の錬金術の女子供が装甲車の機関砲でなぎ倒されたのだ。それはこんな短期間で忘れられる訳がない。
 彼らは総力を挙げて合法かつ非暴力で攻撃してきた。まず最初にしたのは全マスコミを使った「こうどうたい」告発キャンペーンだった。
 もちろん、それは何者かが行動隊の名前をかたって幸福の錬金術を攻撃してきた事を告発するものだった。
 全く異例の事だが、行動隊の長老、長石武も入院している病院からメッセージを出した。長石は名前と違ってもう長い事はなく、武闘から『卒業』していた。
 長石は、幸福の錬金術の総本部長、水田と言う男にあてて(個人的な親交があった。大学時代の同窓生だった)短い手紙を書き、
犠牲者全員の冥福と負傷者の一日も早い回復を祈ると書き送った。
 そして、行動隊は漢字くらいは書けるし、今時こんな猿芝居を思いつく団体がいるとしたら生華学会ぐらいであるが、もちろん一宗教団体である学会はそんなことはしないだろうと書いた。
 これは事実上、生華学会を告発したようにとられたのだった。これまで行動隊は一切犯行声明だの爆破予告だのメッセージだのは出した事はなかった。
それは行動がメッセージであるからであり、わざわざ犯行声明を出すなど行動隊からするとナンセンスだった

183 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/04/25(金) 20:28:04.68 ID:pL10M5xS
 幸福の錬金術が次にしたのは、全国紙に、「生華学会員に告ぐ」と言う意見広告を載せることだった。
 それに対する生華学会の反論を新聞は掲載する事を拒んだ。事件が進行中で生華学会の意見をうかつに取り扱う事は出来かねると言ってだ。
 「それは幸福の錬金術さんは被害者の立場で、それは動きようがありません。しかし、今、生華学会さんの意見を新聞に載せる事は、
いかに表現の自由があろうと出来かねます。その理由は犯罪の捜査が進行中なのですからその渦中にある当事者の意見を載せるという事は下手をすると犯罪に加担する事になりかねないからです」
 その次が、生華学会の様式に沿った学会脱会届けの大量配布だった。
 それと並行して、生華学会お断りのステッカーも大量配布された。
 今や、学会は追い詰められようとしていた。
 しかし、もう一度幸福の錬金術を攻撃すると言う訳にはいかない。

184 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/04/26(土) 07:33:37.41 ID:bIpMCcGL
 「それで、どんな予定か」と権。彼は事前に報告は受けていたが作戦はなかった。そこで皆に知らせたかったから「芝居」でこう言った。
 「土曜日に故郷の徳島に向けて動きます。空港までは行動隊の精鋭と合流した幸福の錬金術総本部員が護衛します。乗るのも装甲車だと言う事です。
 無論、警備計画は掴んでいます。しかし、相当厳重な警備です」
 「ちっ」と馬淵。
 「難しいな」と安藤。
 「徳島では、空港から事前に特別に手配した宅配便のトラックに乗ります。一旦これに乗ってしまったら最後、もうどのトラックに乗っているのか我々には分かりません」と春菜。
 「くそっ、生半可な警備より強い警備だな」と安藤はうなった。
 「手当たり次第に止めればいいんじゃないですか」
 「宅配便のトラックをか? 会社は特定できるが、ルートは分からない。無理だ。目的地の直前の交差点などではもう敵の支配下だろうから逆に止めるも何も、兵を出せば戦争だ」
 彼らはああでもないこうでもないとアイディアを出し合ったがどれもダメだった。

185 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/04/26(土) 20:17:26.65 ID:bIpMCcGL
 「それで、最終的な目的地はどこなんだ?」と鰻原。
 「先祖代々の屋敷と称する屋敷がありましてそこに行くようです」
 「そこを犠牲を覚悟で襲うか、逆に」と安藤が言った。
 「それが、小川は蔵にこもると言いだしたようでして、これは核シェルター兼用の堅固な建物で、爆破は出来るでしょうが……時間はかかってしまうでしょう。県警の機動隊が駆け付ける前に作戦が遂行できるかどうかは疑問です」と春菜。
 「前の総本部と言い、奴は核シェルターが好きなのか」と馬淵が言った。呆れた顔だ。
 「あの……信じられませんがどうやらそうらしいです。第三次世界大戦が来ると言う本も出版しているようですし……」と春菜。
 「どうしてそんな奴に我々は追い込まれるんだ」
 「そ、それは私に言われても……」
 彼らは自然と馬淵を見た。死神博士というあだ名は伊達ではない。彼の専門は都市工学で博士号も持っているから博士と言うのもあながち間違いではなかった。今や彼が親衛隊の軍師だ。
 「消去法で行こう。空港に着くまでは駄目だ。飛行機もハイジャックは出来ん事はないがどこに着陸するのかという問題が今からでは解決できん。
 だからどうしても徳島到着後だ……いや、待てよ」
 「何か思いついたんですか」と春菜は目を輝かせた。
 この二人があやしい事はもう皆知ってはいたが、こう言う時そのつながりが最高に輝く事も分かって来ていた。親衛隊にとってはこの二人が切り札だ。
 容姿はともかく情報収集係としての春菜は優秀であり作戦係としての馬淵も優秀だったからだ。そして春菜が指揮を取る時背後に作戦参謀の馬淵がいるといざという時には瞬間に指揮を交代する二人プレーも出来る事も分かっていた。
 「そうだ、宅配便のトラックだ」

186 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/04/26(土) 20:26:31.42 ID:bIpMCcGL
 奈良県立医大病院特別病室
 「目の合図ごとに酸素マスクを外します。一回に会話できる時間はわずかです」女性看護師は言った。
彼女は敬虔な貪理教徒ではあったがこの面会に賛成していなかった。
 だが、朴はこの面会に思う所があった。回復はしているが、それは彼が望んでいるほどではない。
 しかし、完全復活まで待つと言う事は出来ない。それには時間がかかりすぎる。それでは遅すぎる。
 世界を救うのには。
 警備の白の息子、白東和が入って来た。息子と言っても彼はもう40を超えていたはずだ。
 「久しぶりだ、お父さんの事は残念だった」
 「仕方がありません」
 マスクが戻される。
 「命令だ、犬田代作と権克日を殺せ」朴ははっきりと言った。
 「はっ」
 「お前が行くのか」
 「全貪理の中から、戦闘意欲がある者で体力があってかつ若くはないものを選びました。
理由はここで殺人罪で懲役に行くのは年が行ってもう先がない者がするべきだからです」
 「そうか、良く言った」
 マスクが戻される。

187 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/04/27(日) 18:01:51.71 ID:mxJcAdW0
 「あのお面は用意したか? あれをつければ正体が隠せるし奴らをびびらせることができる」
 「はい、高かったですが用意できました」
 「警察はいまだに犯人を捕まえていない。この街で一万人殺されたのに……だからお前らも無理に自首する必要はかけらもない」
 「はい」
 マスクが戻される。
 「そうそう、これでお前の気が晴れるかどうか、分からんが私も怪我が治ったら逮捕されるらしい。殺人と銃刀法違反でだ。そう言う物なのだ」
 「はっ」
 「だから」
 朴はせきこんだ。マスクが戻される。
 「大丈夫ですか。教主様、もうこの辺で……」
 手で合図があった。しぶしぶ看護師はマスクを取る。
 「チャイナマンが最後の希望だと口では言いながら、そして死んだように見せかけておいて、決着は自分たちで付けるのだ。
チャイナマンのお面をつけて、あたかもチャイナマンがやったかのように見せて。
そうすれば誰も逮捕されない。誰かがやってくれるまで座って待っているなんて我々のやり方ではない。それに」
 「もう……」
 「いや、最後まで言わせてくれ。調査の結果、チャイナマンは、正確にはチャイナマンの面をつけた男は貪理とは関係がないらしいことが判明している」
 「な?」
 白東和は絶句した。彼は法被の件があったから多分自衛隊経験者の貪理教徒という説を取っていた。

188 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/04/27(日) 18:40:15.75 ID:mxJcAdW0
 「あの時、彼がなぜあんな事をしたのか分からないが、彼が私を救ってくれた。彼は恩人だ。幸福の錬金術のところでも戦ったらしいではないか。彼は戦っている。
 今わしはここから一歩も動けないが、命令して犬田を殺させる事は出来る。それがわしの戦いだ」
 「はっ」
 「犬田と権は取り除かなければならん。彼らは放っておけば第三の悪事を働く。その前に殺す。
そうして世界を悪から救い出す。たとえその結果として殺されるか逮捕されても。出来るな?」
 「は、必ず!」
 マスクがまた戻された。朴は眠り始めた。

189 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/04/27(日) 20:07:32.68 ID:mxJcAdW0
 白は廊下に出た。副官の長居と言う男が待っていた。彼は妻と三人の子供を貪理の爆破で失っており何としても参加したいと言った男たちの一人であった。
 「終わった。命令は受けた」
 これで、彼らの行動は私的な敵打ちではなく貪理の行動になった。
 「しかし、警察もせこいですのう、教主様を逮捕して刑務所に送るのか? それでは自分たちの職務怠慢はどうやって償うんじゃ」と長居。
かれは独特の方言なのかなんなのか良く分からない言葉を使ったがそれがよく似合っていた。
 白は、父の事を思った。
 父の着けてくれた東和と言う名前は特別な名前だった。東洋の平和の短縮形なのだ。読みも「とうわ」だった。
 当然のようにいじめが待っていた。彼は耐えていたがそれには裏があり、実は少林寺拳法を習っていて相手を叩きのめすつもりだったのである。
 しかし、彼の計画はいじめがひどくなるとかえって巧妙になって来た。これだけ我慢したんだからと叩きのめす相手のリストも増え復讐の方法もクラスの皆の前で、
正当防衛的に、そして相手が再起不能になるまでやる、というところまでいった。
 彼がその計画を実行に移す前にいじめに気がついた母親が学校に連絡した。
 その後、東和は父に暴力をふるうために少林寺を習わせたのではないと説教された。覚えている限りではそれぐらいしか説教された覚えがない。
 白東和のその後はその名前に忠実に平和だった。貪理高校から東京音楽大学に入学し卒業してからは数年ヤマハ楽器に勤務、その後はピアノ調律師として生計を立てて来た。
ヤマハ時代に社内恋愛で結婚した妻との間に二人の子供がいる。もうじき孫が出来る筈だ。父の白もひ孫を待ち望んでいた。
 その父も死んだ。ビデオで貴理子の死にざまも見た。みな教主の命を守るために必死だった。
 今も貪理に行けば廃墟が広がっている。再建は意図的に行っていない。宗教団体としてここは死んだふりも必要だった。極秘裏に集めた軍資金と銃器はただ一つの目的のために使うのだ。
 犬田と権を殺す。
 「作戦会議だ、犬田の退院予定は?」
 「週明け早々らしいですぞ」
 二人は病院には似つかわしくない会話をしながら歩いて行った。寒い朝だった。
 

190 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/04/28(月) 07:52:41.92 ID:ysGvBrfL
 十一月 金曜日 

 生華学会の親衛隊の面々は午前中に徳島に向け空路の旅に出た。お遍路さんに偽装している。
 馬淵は春菜と隣の席だったがこれは打ち合わせなどがあるだろうからという事だった。しかし実際には打ち合わせする事はなかった。馬淵はビールを、春菜はスプライトを飲んでいる。
 馬淵は暇だったので子供の頃の話をした。
 「子供のころは仮面ライダーを良く見ていたなぁ」
 「はあ」
 「仮面ライダーは伝説がいくつもある」
 「そうなんですか」

 馬淵は、子供のころの仮面ライダーの話をした。
 無論、彼の子供の頃には昭和ライダーは本放送は終わっていた。彼が見たのは再放送だったがそれでも彼は熱中して見たと語った。
 大体、仮面ライダーに憧れて走り屋になったと言う奴はいるが、ウルトラマンに憧れてウルトラマンになった奴は(シャバには)いない。
 等身大のヒーロー。人生への影響度はウルトラマンとは違うものがあった。

191 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/04/28(月) 07:55:45.84 ID:ysGvBrfL
 「今の死神博士と言う二つ名も嫌いじゃないよ」
 「そうですか」
 「近藤の小さい頃ってどうだったの」
 「関取って言うあだ名でした」
 「それは女の子にしては元気があっていいね」
 「そうですかぁ、そんなほめられたの初めて」
 この二人がいい空気だと他の人間も不思議なもので落ち着いて来るものなのであった。
 そして、今回の作戦ではこの二人が主役なのであった。

 涙田はちらっと時計を見た。もう午後も遅い。
 今日も、昼食時に美雪とひと悶着あった。
 その朝、涙田の携帯には遠藤さおり=トナカイからのメールが入っていた。彼は用心深くそれを自宅のPCに転送して消去していたのだが、
アル中のカンなのか幻聴が聞こえるのか彼女は「携帯を見せろ」と要求してきた。
 それは証拠を消しているのだから彼は素直に応じたが、それを見て美雪は
 「怪しい、すなおに携帯を渡すなんておかしい、なにかある」と言いだした。
 そこからが大変だった。やっと振り切って午後の仕事に戻ると社長の大村とベンツで八千代文具に行くと言うこれまたやばいミッションが待ち受けていた。
 般若の顔の美雪を残してベンツに乗りこむ。暖気運転(死語)をしていると大村がやって来た。

192 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/04/28(月) 21:50:43.48 ID:ysGvBrfL
 「涙田、出がけに本部からメールが来た」
 「は」
 「明日、幸福の錬金術の総裁、小川降法が徳島へ旅立つ。
 我々行動隊から選抜した精鋭部隊が護衛にあたる事になった。集合は明日の8時、幸福の錬金術の浅草秘密基地前だ」
 「了解、え、浅草に秘密基地があるんですか」
 「そうだ。武器弾薬は携帯する事」
 「そのう、電車で移動するのですが?」
 「ま、今は東京都内であちこちの宗教団体が公然と武装化しつつある、警察は身体検査どころではないから大丈夫だ。モスクなんかに行ってみろ、
イスラム過激派のアジトかってぐらい武器が飾ってあるそうじゃないか」
 「はあ」
 それは事実だった。各宗教団体は「対生華学会用」として武装を急いだ。それは当然で、品川では警察がパトカーの回転灯を回し
サイレンを鳴らして逃走し、戦闘の間中全く手を出そうともしなかったからだ。
 戦闘終了後、警察は幸福の錬金術に来て拳銃の提出と戦闘に関与した本部員全員の警察への出頭を命じた。
 幸福の錬金術は公然とこれを拒否した。そんな事をしたらいったい誰が幸福の錬金術を守るのかという質問に警察は沈黙するしかなかった。
 そして生華学会に警察が踏み込むのか、と言うとそれも無しであった。そちらも当然で、証拠は奈良で入院している男らの証言だけで、これでは捜索令状の出しようがなかったからだ。
 令状無しで踏み込んで、どんなにすごい証拠が見つかったとしても裁判では無効となってしまう。それでは意味がないばかりか逆効果だった。

193 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/04/29(火) 10:10:43.61 ID:2J3aqd79
 八千代文具ではさおりが待っていた。
 待ち合わせは、美雪がうろついていそうな飲み屋街を避けてJR駅前の小さい映画館。八千代文具の廊下でトナカイはそう言った。
 もうメールは危険だと涙田は言った。さおりはしなやかな体をひるがえすと席に戻って行った。

194 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/04/29(火) 10:39:29.45 ID:2J3aqd79
 大村パンに戻ってくると綾子が言った。
 「八千代文具の廊下での空白の一分間、トナカイと何を会話したの」
 「わわっ、もうキャッチしたんですか」
 「こっちの諜報網はNSAのスパイ衛星を上回るわ」
 「別に、ただ、この間のメールの事でしたよ。綾子さんがねつ造した断わりのメール、どんな内容だったのか分からなかったから、それで長引いたんですよ」
 「本当?」

195 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/04/29(火) 13:56:21.05 ID:2J3aqd79
 涙田は約束の映画館に急いだ。
 隣のポルノ映画館では「女子高生、危ない放課後」と「校長とPTA会長、熟れ過ぎた校内会議」
「真昼のポルノショップ」をやっていたが、お目当てはそれではなくて、いやそれも十分興味をひかれるんだけれどもそれではなくて、隣でやってる「自由ポーランド空軍」だった。
 待ち合わせの時間ぴったりに遠藤さおりはやってきた。
 「待ちましたか」
 「少し」
 「遠藤さんはこんなの見るの?」
 「スピットファイアのファンなんです」
 意外な答えだった。英軍マニアに好まれる何かを持っているのか?

196 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/04/29(火) 17:46:02.18 ID:2J3aqd79
 映画は全編を通じてドイツ側が大阪弁を使うと言う大阪人にとっては屈辱的な設定であった。
 時代は1940年、ナチスはヨーロッパを占領し後はイギリスだけとなる。
 「イギリス、いてもたろか」とヒトラーは言い、レーダー(ドイツ海軍提督)にドーバー海峡の幅を計らせる。
 「あきません、ドーバーの幅むっちゃありますわ、メジャー届きませんわ」とぼけるレーダー。
 「あかんか、お前の代わりにデーニッツにやらすかのう」
 「いえ、その」レーダーは言った。
 「いけるか」
 「多分、せやけど、それにはたった一つ条件がありま」
 「なんや」
 「ドーバーを渡る間、制空権がある事、これでおま」
 「ゲーリング、聞いたか」
 「オス」

197 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/04/29(火) 18:36:07.47 ID:2J3aqd79
 ナチス空軍の総攻撃、たちまちイギリスは存亡の危機。
 チャーチルが空軍訓練所を視察するとパイロット候補生はまだ子供、チョコレートを食べて女の子の尻を追ったりサッカーしてたりする年頃の子どもが訓練している。
 全イギリス帝国からなりふりかまわずパイロットをかき集めているが、それらパイロットは船で来るため時間がかかる。
 「せめてこの子たちが、空を飛べるようになるまで」と言うファンタジーのような、しかし血を吐くような願いに応えたのは英語もろくに話せない男たちだった。
 自由ポーランド空軍、自由チェコスロバキア空軍、自由フランス空軍、それとこれは英語をしゃべれるがアメリカ義勇兵。
 ふぁっくとかしっととか言いながら彼らは離陸していく。当時のドイツ空軍は優勢だった。そこへ彼らは突入して行く。

 戦闘が終わった時、生き残ったのは少数だった。死者には勲章すらなかった。
 と言うのも、当時は彼らの国はドイツ占領下で本名がばれれば家族に危機が及ぶと考えられたからだ。
戦争は継続中だから士気をくじくためにそう言う事をナチはしただろう。
 最後には海を越えてヨーロッパを爆撃する爆撃機が出撃して行くようになる。
 もちろんドイツも爆撃目標だが彼らの母国も爆撃目標なのだ。複雑な表情でそれを見守る自由空軍パイロットらで映画は終わる。

198 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/04/30(水) 07:37:44.03 ID:aIOq+fhh
 さおりは敬虔なクリスチャンだった。トナカイも志願してやっていた。
 リヤカーには本当にプレゼントが積んである。トナカイの使命はそれを届ける事なのだった。
 子供が「トナカイさんをいじめるな」とパンチをサンタにくれたのは予想外の事だった。
 「子供は正直な観察者ですよ、彼らが言う事は本当の事ですよ」
 本当の事……
 彼にとって本当の事とは行動隊でチャイナマンで美雪の彼氏だと言う事だった。今日のデートでもそれは揺るがない。
 美雪には世話をする男がいる。親は遠くで無関心に生きているのだから仕方ない。

199 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/04/30(水) 17:59:46.64 ID:aIOq+fhh
作者よりのお知らせのコーナー
 本当はチャイナマンではなく「自由ポーランド空軍」が前作、「池田大作の死 北朝鮮事変」の次回作になるはずでリサーチにも入っていた。
 その傍ら執筆していたのが山の中で謎の集団に襲われると言うシーケンス、天理市が壊滅するシーケンス、そして孤独な老婆がスーパーにて一人、
警官隊と拳銃で戦うと言うシーケンスだった。
 老婆にはモデルがいた。彼女にはもっとセリフがあったが諸般の事情で全てカットされた。最初の「死ね」だけが残ったので謎の発言になった訳だ。
 だからチャイナマンの最初のほうはばらばらの別作品で涙田は出てこないか、出ても別人で脇役だった。

200 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/04/30(水) 18:04:43.96 ID:aIOq+fhh
 実は涙田という人物はエロ作品に登場する主人公と言う設定の人物だった。「真昼のポルノショップ(別の名前のエロ小説でこれは仮題)」に出る人物だった。ただ、
名前が印象的だったため生き残り本作に起用された。
 その時は大学生だと言う設定だったが本作では高卒で自衛隊に入ったと言う事になっている。年齢も上がっている。

201 :名無しさん@おなか一杯:2014/04/30(水) 19:26:35.96 ID:PZ3KGIq8
創価関係の出版社って角川文庫とあとどこだ?

202 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/04/30(水) 21:39:41.98 ID:aIOq+fhh
 天理のシーケンスは、特記事項として「万が一実行した場合天理市に本当に一万名の死者が出る」リサーチを実施していた。
 しかし、いざとなるとそれは廃棄せざるを得なかった。

203 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/05/01(木) 18:52:10.48 ID:DqO7ml+s
 例えば、水道なら水道で実際の天理市の水道にはここに毒を投入すれば良いと言うポイントが存在するが、これを公表するとまずい。
 関西では実際に和歌山カレー事件があるからだ。

 天理教には大事な場所はあったがこれは逆に破壊する必要は無かった。

204 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/05/01(木) 19:00:25.32 ID:DqO7ml+s
 彼らには失礼かも知れんが信仰は人の上に立てるもので決して「奇妙な石の物体」の上に立てるものではないと作者は考えているからだ。
 だから、大量のC4を使ったと言う設定にあえてした。これなら不可能だから。また、逆にそれが可能な団体なら止める事は出来ないから。
 だから、貪理と言う架空の宗教と都市を作りそれを破壊すると言う体裁をとった。
 真実、小説中語られる子供がいない町と言うのは実は池田市で実際にあった事件がモデルである。それは多くは語らない。

205 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/05/01(木) 19:02:25.05 ID:DqO7ml+s
 「自由ポーランド空軍」を執筆しなかったのは、小説ではどうやっても「複雑な表情」が出せなかったからだった。
 また、読めば分かるが、チャイナマンはヒーロー物の徹底的な否定から入っている。
 否定することがスタートなのは作者の作風の特徴だが、それはおそらく生い立ちにも関係がある複雑な話しであろう。
 だが、否定形から入ってやはり流れていくと、話が流れていくとヒーローになって行く。ここが読者の評価の分かれていくところだと思う。
 小説は最終的には読者が判断するべきだ。そして、作者は作者でこうやって自己の意見や見解やヒストリーを述べるべきだと思う。
 もちろん、最初からかっこいいヒーローがバイクかなんかで出てきて敵を倒す。それも正解だと思う。小説には絶対の正解は無いがそれもまたありだとは思う。
 まあ、没になった「自由ポーランド空軍」は自分にしてみればこういう形でしか供養できない。
 作者よりのお知らせ 終わり

206 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/05/02(金) 07:00:45.79 ID:KkKUxOYo
 11月 旅行シーズン外れの一日 土曜日
 朝早く、涙田は武器と幸福の錬金術の本部員のブレザーを大型バックに入れて出発した。
 大村が予言したように、途中で身体検査される事はなかった。
 幸福の錬金術の浅草秘密基地は、はなやしきの近くにあり、化学工場に偽装していた。
 そこに例の装甲現金輸送車が二台とも止まっていた。後で聞いた話ではこの車は幸福の錬金術では重宝していると言う事であった。
 小川ら幹部は固まって何か話していたが聞こえない。また涙田にしても盗み聞きする必要はなかった。
 棚橋や中崎が近寄ってきて挨拶してきた。
 「例のお面は」と中崎が言った。
 「今回は必要ないよ」
 「そうだと良いがな」と棚橋。

207 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/05/02(金) 07:03:03.71 ID:KkKUxOYo
 行動隊の水村が来た。彼は作業服姿だがウージーを手にしている。
 「まあ、仕掛けてはこないだろう」と水村も言う。それから段取りの説明に入った。
 「装甲車の前後を戦闘員のマイクロバスで固める。先頭のテクニカル(ピックアップトラックに機関銃やロケット砲をつけた攻撃車両)三台は
行動隊が担当するが、涙田は装甲車の助手席に乗るようにとの取り決めになった」
 「は?」
 「一応、保険としての意味も兼ねて、戦闘の実績のあるお前を総裁がじきじきにご指名なんだ。俺も一名を選ぶとなればお前だと推薦しておいた。そんな訳だからよろしくな」
 「はあ……」
 「それで、涙田さん、新品のG3A1があります。50連発のドラムマガジンつきですよ! 予備マガジン一個、LAWも三本用意しました」と中崎。
 「ほう……」
 「どっちも持って帰ってもらっていいと、許可が出ている。この事態ではいつ何時共闘しなければならないか分からない」と棚橋は言った。
 共闘(きょうとう)と言うのは共に戦うと言う意味で、実社会ではあまり使わない用語だが「ともにたたかおうぜ」は会話文では長いからこの言葉は使われた。

208 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/05/02(金) 17:22:02.55 ID:KkKUxOYo
 「それはそうですが、ようかんとかではなく武器ですよ」
 「あの時、臨時のチームを率いていた近藤と言うサブリーダーは部下を連れて帰ってしまったがあんたは違った。やってきて戦ってくれた。
 今度そうなった時、手元に武器があるかないかで話は変わってくるだろう。今日のようにこちらが準備している時は来ないで、準備していない時に奴らは来る。この間それをいやと言うほど思い知らされた訳だしな」
 「幸福の錬金術は武器も本部員も警察に渡さなかったとか」
 「当然だろう。そんな事をして見ろ、翌日に奴らは来るぞ」
 「それはないでしょう」
 「いやいや、もちろんあの作戦だけで見ると戦術的に何かを達成したかと言うと何もしていない訳だし、遺棄死体は七十を超えてた。失敗だ。
 だから、もう一回来て当然なんだ。失敗しましたんでもうこれからは平和にやって行きますなんて事、生華学会に出来る訳がない。
 兵隊はいくらでも集められる。武器も買えば整えられる。
 装甲車は高いし密輸だから時間も多少かかるだろうが一回やった事は二回出来る」
 棚橋は一介の倉庫係にしては鋭い分析を吐いてから、こう続けた。

209 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/05/02(金) 18:04:42.43 ID:KkKUxOYo
 「こちらの情報網では、やつらがチャイナマンに怯えているさまが捉えられている」
 「そうですか」
 「それはそうさ、一瞬で形勢が逆転したんだからな。当然責任転嫁という部分もあるだろう。撤退を命令したのは誰かは知らんが、
そいつは犬田に報告する時でっち上げであれ何であれ正当な理由が必要だろう」
 誰かが近づいて来たので涙田はそちらを見た。名前は知らないがこの前のマイクの男だ。今回はマイクを持ってはいない。男は言った。
 「一号装甲車に乗ってくれるか」
 「了解、あの、目立たないようにブレザー着ても良いですか」
 「いいよ、あれはあんたに上げたものだし、目立つとまずい」マイクの男はこの間の事は根に持っていない様子だった。幸福の錬金術の人たちは涙田=チャイナマンを仲間と認めていた。

210 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/05/03(土) 07:07:15.35 ID:OvqX71ex
 護送はつつがなく終了した。涙田らが見守る中で徳島行き国内便の飛行機が飛び立っていく。
小さな軍隊並みの車列は空港エリアの外までしか入れないのであった。
 涙田が敵なら、どこかから携帯式対空ミサイルを手に入れてこの瞬間を狙うだろう。それが確実だ。
 しかし、敵はそうはしなかった。
 ……仕掛けてくるとしたら徳島か?
 手では持ち帰れない量の武器弾薬を、棚橋は「弾薬トラック」と大きく書いた4トントラックに積み込んでいた。
 「某県の家まで送っていくよ」と棚橋が言った。
 「こんな、大丈夫ですか」
 「マッポか、逆にビビッて職質してこねえよ。乗りな」
 警察も落ちたもんだな、と涙田は思った。
 だが、それが実情だろう。各宗教が武装している時代に突入しているのでは下手をうったらあの世行きだからだ。

211 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/05/03(土) 19:40:35.36 ID:OvqX71ex
 徳島。
 徳島阿波おどり空港では幸福の錬金術徳島支部の幹部らがそろって総裁を出迎えた。
 ちなみに、徳島阿波おどり空港は固有名詞で、なにも常に阿波踊りをしている訳ではない。
 「総裁、遠路はるばる、ご苦労様です」
 小川はなにか不満げにぶつぶつとつぶやいたが、少したってからようやくうなずいた。
 「すぐに迎えの車が参ります」
 「うむ……」

212 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/05/03(土) 19:42:41.68 ID:OvqX71ex
 実は、彼ら錬金術の予想では小川が襲われるポイントは飛行機の中だった。それも飛行機ごと爆破されると言うのがその不吉な予想だった。だから飛行機で同行してきたのは一握りの側近だけだった。
その人たちはいざとなれば盾になる覚悟を決めている人 周りには空港警察がいる。襲って来るとしたらここではないだろう。
たちだが、彼ら以外の幹部要員は東京に残り、復活と生華学会との対決のエンジンになることを期待されていた。
 実は小川には母親が違う子供が多数おり、その誰もが後継者を主張すると言う泥沼の相続がもう今の時点で予想されていた。したがって小川個人の生存が最も望ましいのだった。
 『新生スピード宅配』の緑色のサービストラックがやってきた。空港警察が飛んでいく。
 「こら、宅配はここじゃない」
 「いえ、こちらに伺うようにと、お客様のご都合でして」と助手席の女性助手が言う。制服姿だった。
 「ああ? なんだ? ここで荷物の受け渡しなんかされたら困るじゃないか」
 警官は言った。明らかに「シッシッ」だ。
 「いえ、その、人の配送なんです」
 「は?」

213 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/05/05(月) 10:29:01.17 ID:oovpUYiW
 幸福の錬金術が気づいてやって来た。
 「おまわりさん、このトラックはうちが手配した送迎トラックです」
 「え、人の宅配もやってんの?」
 「二種免許も持ってます。こっちが県の許可証です。こっちの助手がヘルパーの資格も持ってます」
 ドライバーが言う。
 警官は免許を調べた。
 「住所は東京ですか?」
 「応援なんです。このサービスをここ徳島で立ち上げるための」
 「助手の方の免許も拝見」
 「どうぞ」
 警官は免許を見て、近藤春菜と書いてあるのを見て思わず「角野卓造さん?」と言ってしまった。
 「角野卓造じゃねーよ!」と春菜。
 「失礼しました」

214 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/05/05(月) 10:31:25.53 ID:oovpUYiW
 彼らは後部へ行き、小川がトラックに乗り込むのに手を貸した。警官たちもそれを見守りながら交通整理をしてあげた。トラックの中は一人用の座席が設けられていた。
 「え、一人だけか」
 徳島支部の幹部の一人が言う。
 「は? お一人とお聞きしておりますが? それにこれは座席が一つだけですんで一人乗りです。
車は大きくても座席なしではお客様は乗せられません」ドライバーは言う。
 「どこかで行き違いがあったみたいだな」と幹部の一人。
 「仕方ない、警察も見ている前で道路交通法違反はまずい」ともう一人の幹部。
 トラックは小川を乗せて走りだした。

215 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/05/05(月) 18:48:23.64 ID:oovpUYiW
 「ふう……」と馬淵は言った。
 「角野卓造かと言われた時にはどうしようかと思いました」と春菜。
 「ああ、だがこんなに上手くいくとはなぁ」
 「まだ心臓がバクバクいってます」
 「大丈夫か」
 「しかし、博士は二種免許なんて持ってたんですね、尊敬しちゃう」
 お前、都市工学の博士号は尊敬しとらんのか、と突っ込もうかと思ったが、
馬淵は運転に専念することにした。

216 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/05/05(月) 18:53:19.99 ID:oovpUYiW
 彼らがした事は単純だった。空港から立ち去った後にトラックを捕捉することは困難であると言う事は分かっていた。だが逆は? つまり空港に到着する以前は?
 『新生スピード宅配』の徳島支社には生華学会の信者が複数おり、彼らから今回の小川の輸送計画については詳細が報告されていた。
トラックは小川ピックアップ後は絶対に事前に待ち伏せされないように気をつけていた。
輸送計画が事前にばれている場合も想定して完全にランダムに走ることとされ、その為のサイコロまで用意されると言う周到さだった。
 だが、空港に向かう途中、最短ルートでお客様を待たさないようにしているトラックを、人気のないところで前後を車で挟むのは簡単だった。
後は拳銃を突き付ければよかった。ドライバーは武装なんかしていないから手を上げるしかなかった。
 後は簡単だった。運送業の許可証はトラックにある奴を見せればいいだけである。制服も事前に信者を通じて用意できた。
 ただ、ドライバー役の適任者が馬淵と春菜だったのは偶然だった。無線で照会された場合に備えて免許だけは本物を使うしかなかったのだった。馬淵は実際に二種免許を持っていたし、春菜もヘルパーの資格を持っていた。
普通免許も持っていた。別に春菜でなくてもいいと言えば言えたが、女性が助手の方がもっともらしいと言う意見が出た。
 それに、馬淵と春菜の黄金コンビが良い仕事をするというのはもうみんなの常識になってきつつあった。
 多少の事は頭を回転させて切り抜けてくれ、となるとこの二人が適任だった。やはり、息も合っている。
 これが無理に鰻原でも押し込んで失敗したら目も当てられない。何のためにこんな徳島くんだりまで来たのか分からない。
 生華学会徳島文化会館本部会館には戻らず、アジトに決めた今は営業していないホテルに向かう。ありがたい事に宅配便のトラックは人目を引かなかった。

217 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/05/06(火) 16:06:32.38 ID:PSuNQ1jW
 「おお、良くやったぞ」
 「すごい、大手柄じゃないか」
 「この前の失敗を帳消しにして余りある成果だ」
 皆に褒めそやされて二人は喜んだ。
 小川の診察をしていた梅原はるかと言う若い女医が戻って来た。お医者さん鞄から薬袋を出す。
 「今は眠ってるわ。あきれた、こいつ、かなり精神を病んでいるようね。精神科の薬がドカドカ」
 「それは、東京へ連れ戻るのに支障は出そうか」と馬淵は言った。
 「支障と言うほどではありません。ただ、定期的な投薬が切れた場合どうなるか分からないという不安があります。
私か誰か医師がついて服薬を管理した方がいいでしょう。どう利用するにせよ殺すのでない限り狂われたら困るのでは」
 若い女医は少し考えて付け加えた。
 「これ以上」

218 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/05/06(火) 16:09:42.91 ID:PSuNQ1jW
 「そんなにひどいのか、はるか?」と安藤が言った。
 「そう、私は精神科が専門ではないので分からない部分もありますけどもう元の、教祖様として活躍していたころの状態には戻らないでしょう。そのころはチャネリングと
言ってたみたいですけどそれは妄想とか幻聴とかと紙一重の世界なのでしょう。どうもそう言う「症状」を抑えようとしていた節がありますね」
 「その、偽者と言う可能性はないか? どうも変だぞ。我々が聞いている小川の状態と今の小川の実態には差がありすぎる」と鰻原。
 「そうだな、偽者かもしれん」馬淵も不安になって来た。
 「薬袋には小川後方の名前があります。後方は降法の本名です」と春菜が冷静に指摘した。
 「そう、考えてみれば、向こうは本物のトラックが来たものと考えていたはずだから偽者を押し込むと言うのは矛盾しているな」
 「トラックにいる私たちが偽物だと見破ったのではないでしょうか、それで、時間を稼ぐため偽者を送り込んだのかもしれません」と春菜が言った。
 「いや、それなら警察にこいつら偽物だと言う方が早くないか」
 「それにあらかじめ偽者を用意しておくと言うのも良く考えると矛盾しているな」
 「そうか、いやしかし……それじゃ小川の実態ってこんなのだったのか」
 みな唖然とした。

219 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/05/06(火) 16:42:17.09 ID:PSuNQ1jW
 「そう言えばもう一つまずい事がある」馬淵は角野卓造の事を話した。
 「それのどこがまずいんだ」と鰻原。
 「いや、角野卓造は別にどうでもいいが、警官の頭の中に「近藤春菜」と言う名前が残ったと言う事なんだ」と馬淵。
彼自身の名前もさらした訳だから彼もまずい訳だが、それは気にしていないところが馬淵らしい。
 「角野卓造はまずかったな」
 「警官の頭の中で角野卓造が来たと言うように記憶違いが起こってくれればいいんだが」
 「いっそのこと、角野卓造と改名したらどうか」
 「それではなんの解決にもならんだろう」
 「いや、中途半端に角野卓造だからいけないんだ。いっそマイケル・ムーアと改名したらどうか」
 みな色々言った。
 春菜は泣きながら部屋を出て行った。
 「みんな、言い過ぎだぞ!」
 馬淵はそう言って春菜を追った。

220 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/05/06(火) 20:17:21.73 ID:PSuNQ1jW
 使われていない荒れ果てたホテルの中庭で、春菜は泣いていた。
 馬淵は近づいて声をかけた。
 「近藤……」
 「来ないで!」
 「……」
 「どうせ私は醜いんだ、どうせ私は太っている。どうせ私は結婚できないんだ!」
 「それは全部違う」
 「えっ!」
 「近藤より醜い人間はいくらでもいる」
 「えっ」
 「これまで一杯醜い人間は見て来た。だけど、近藤は醜くない。少なくとも最も醜い人間じゃない」
 「は、はあ……」この人は私を慰めてくれているのかどうなのか、春菜は戸惑ったが涙は止まった。
 「近藤より太っている人間もいる」
 「は、はい……」
 春菜は馬淵にそう言われると、そう言う気がするから不思議であった。
 「東京に帰ろう、一緒に」
 馬淵は両手を差しのべた。春菜はその腕の中に飛び込むとまた泣いた。

221 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/05/06(火) 20:25:15.56 ID:PSuNQ1jW
 「がっぷり四つに見えるな」と安藤は遠くから言った。
 「それは禁句よ」はるかがその横で静かに言う。
 「東京だな」と鰻原は言った。
 こうして土曜日の大作戦はささやかな奇跡とともに終わった。

222 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/05/07(水) 07:40:21.29 ID:vMPgsX5X
 11月 月最後の日曜日
 日曜日の朝だった。太田は首相官邸で新聞を開いた。飛び込んできたのは
 「高野山で僧兵の出陣式」だった。
 朝からくらくらめまいがした。彼は電話を取ると官房長官を呼んだ。官房長官の秘書が出た。
 「朝刊を見たか、なんだあれは?」
 「はっ」
 「今はいつの時代だ?」
 「いやこれは、ライフルが南海電車高野線で高野山にわたってしまいまして」
 「そういう、どうやってライフルが山に渡ったかを聞いとるんじゃない。それにこの写真で見るとライフルはカラシニコフではないか。
ロシア製か、どこか他の共産圏からの密輸入か、調べさせろ」
 「はい」
 「どうせ他の宗教団体も軒並み武装化しておるだろうが」
 「はあ、そう言えばこの間なんかは伊勢神宮から自衛隊の戦車を貸せと言ってきました」
 「なんだと?」
 「無い袖ならぬない戦車は振れないと言う事で断わりました」
 「まったく」

223 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/05/07(水) 17:12:13.25 ID:vMPgsX5X
 電話を切ると、太田はソファでしばらく瞑想した。
 太田は馬鹿ではなかった。彼には将来的にはあの新聞記事のライフルが宗教団体同士の抗争に使われていくだろうと考えていた。
 また、もちろん武器は民間に流出する。「民間に流出する」はきれいな用語で、やくざやストリートを流している半グレらが突撃銃で武装する事の婉曲な表現だ。
これからは治安は悪化の一途をたどるのだろうし、それをとどめる術はない。
 「ま、あなた、寝たの?」
 妻が驚いた声を上げたので太田は顔を上げた。
 「あ、いや、考え事をしていただけだ」
 「びっくりさせないで、最近過労死が増えてるんだから」
 「うーん」
 妻の言う事ももっともだった。今日は久しぶりの休日だし明日からは韓国訪問が控えている。本来外遊出来るような状態ではないが、あえて一泊外交をするとなるとやはり近場の韓国だった。
 韓国側もあまりストレートな政治的スケジュールは組んできていない。今は下手に刺激したくないのだろう。疲れている太田が切れたら困るからだ。正確に言うと太田夫妻が切れたら困るからだ。
 「明日は焼き肉だぞ、おまえ、にんにくは大丈夫だったな」
 「まあ、あなた。今回は生きている牛を連れてきてもらわないと困るわ。この間は生きている人間だったけど」謎の発言。それはのちに分かる事になる。

224 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/05/07(水) 17:59:40.30 ID:vMPgsX5X
 太田の妻、貞子も元婦人警官だった。柔道では全国を狙えるレベルだった。
 交際は太田の熱烈なファンレターがきっかけだった。
 貞子という名前は例のホラーの関係で気にはしていたものの変えるわけにもいかないのだった。この名前でずっと生きてきた以上、これからも生きていくしかない。
 太田はその貞子と二人三脚で天下取りをしてきたが、そして三人の子宝を授かって来たがここは妻にもいい目をさせてやりたい。韓国で焼き肉もいい目の一つだ。
 前回の訪問時は貞子の体調が悪く楽しめなかった。今回は楽しくやれそうだった。
 「しかし、この製鉄所見学で鉄を砕くデモンストレーションと言うのは何だ、向こうがやるのか?」
 「何かしら、この書き方だとこっちがやるのをみんなで見る見たいだけど」
 「あれか?」
 夫妻には元警察であり挌闘家出身(太田自身は空手)なので色々な秘密があった。その秘密の一つは鉄に関係があったが、それは秘密なのだった。

225 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/05/08(木) 19:22:53.62 ID:RvvHckWE
 太田はまた考えをめぐらせた。韓国はまあ大丈夫だろうが、中国が問題だろう。どう言う訳か(当然か)『チャイナマン』に過剰反応していた。
 それは元ネタの自主製作映画は徹頭徹尾反中だが、実在のチャイナマンが反中かどうかなんて太田を始め日本国政府には分かりようがない。
 だが、中国は「反動分子、日帝による暴力反革命運動反対」と本気で言ってきた。
 「暴力」は当たっているかも知れなかったが、どう考えても反革命は違う。少なくとも太田の見ている範囲ではそうだ。
 もちろん太田の知らない、チャイナマンの家では彼が日の丸を飾り君が代を歌っているかも知れないが、それは彼の自由であり日本国憲法のもとでは犯罪ではない。
 そして、チャイナマンはひそかな人気者だった。今や彼を知らない者はいないと言っていい。現代の伝説だ。
 人々はひそかに彼を最後の希望だと言っている。中国は彼を逮捕して引き渡せと言ってきたが、それは出来ない相談だった。
 まず、逮捕できるものならとっくにしている。
 それに最後の希望を逮捕するなんてできるわけがない。

226 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/05/08(木) 19:27:46.02 ID:RvvHckWE
 一方では、生華学会の衰退はもう隠しようがなかった。幸福の錬金術の合法、非暴力攻撃の前にその野望はくじかれていた。
 退会者は相次ぎ、街のあちこちに「生華学会御断り」のステッカーが貼りだされている。
 これはやってしまって失敗したケースだった。警察としてやくざなどを見て来た太田が良く見たケースだ。
逆にやらなくて失敗したケースもあるので一概に犬田が愚かとは決めつけられないが、とにかく今は学会は衰退してしまっている。わずかな時間の間にだ。
 もちろん、ここから奇跡の逆転が起こらないとは断言できない。気を引き締めておかなければならない。
 その時だった。SPが来て、在日アメリカ副大使夫妻が来たと告げた。
 「護衛もほとんど連れず、通訳を連れてはいますが……」
 太田は、何かがあったのだと思った。

227 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/05/08(木) 19:45:13.04 ID:RvvHckWE
 副大使は、妻と通訳を連れて部屋に来た。通訳は明らかにCIAか何かのまわし者だろう。
 「通訳は必要ですか」と太田。英語でだ。
 「君、はずしてくれたまえ」と副大使は言った。
 「NO、それは出来ません」と通訳。
 「貞子、この通訳の方は本当の貞子パンチの体験が必要らしいな、なんて言ったかな、十分の一貞子パンチのあの韓国のSP?」
 「さあ、死んじゃったから分からないわ、それでも彼は立ちあがって笑って一礼し、自分の足で廊下まで出たわね」
 「あのう、忘れ物が車に」通訳は飛ぶように出て行った。
 「それで?」と太田
 「お別れです、来年には本国に帰る事になりました。実は今日ぐらいしか護衛を連れずに外出できません」カトウは日本語を使った。
 貞子はじっと彼の顔を見て、英語で言った。
 「あなたは殴られましたね」
 カトウはさっと手をほほにやったが、それが答えだった。

228 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/05/08(木) 19:46:51.68 ID:RvvHckWE
 「大使にですか」と太田。
 「被害届は出したりはしませんが……」太田が元警官だと言う事を知っているから、ジョークにしてはいるが事実だと認めた。涙ぐんでいる。くやしさがこみ上げているのだろう。
 「なぜ」
 「いや、それはもうどうでもいいことなのです、もっと大事なことです」カトウは言った。
 「なんですか」
 「実は冷戦時代の遺物で超小型の核弾頭、潜水艦の魚雷に取り付けて発射するタイプのものが十二発、日本国内に搬入されています」
 「なんですって! 魚雷用の核弾頭? 詳しくお願いします」
 「広島級原爆より強力です。爆発すれば何百万人もの無力な、罪のない市民が死にます。途方もない武器です。それが十二発です。
 もとは魚雷用ですから地上爆発はしない仕様です。しかし、それらを無線で地上で爆破できるよう改造しました。
 無線は大使館から発信すれば良いのですが、無線キーは二つあり、一つは大使が、もう一つは私が持っています。
 つまり、私が在任する今年のうちは、大使の野望はどうしても果たせないものなのです」
 「そんな……」太田はまた絶句した。

229 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/05/09(金) 07:03:30.93 ID:/4uj/KHH
 「もともと、東京には米軍は兵隊はほとんど置いていませんでした。しかし、大使は今年の初めから少しずつ兵力を東京都内に置くことにしました。それは今回の事件とは無関係で名目は米国の国民保護でした」
 「それは聞いています」
 「しかし、スミス大使は野望を抱き始めました、昨日、とうとう……」
 「大使の悪口を言ってもいいのですか」
 「これは非常の時なのです。私はどうなってもかまいません、命さえもどうなってもかまいません」
 「しかし……」
 「話を省略します。昨日起こった事は全て省略する、そんな事はもうどうでもいいのです、彼を止めてください、早くです」
 「そ、それは……」太田は絶句した。
 「早くしなければなりません。彼が行動を起こさない理由はもう一つあります」
 「それは何ですか」
 「チャイナマンです」
 「は?」太田はびっくりした。
 「彼はチャイナマンを非常に恐れています。
 元軍人ですからそこら辺は匂いが分かるらしい。
 アメリカ大使館は警備厳重ですが、それとこれは別です。
 私が日本側と通じチャイナマンと何らかの方法でコンタクトを取れば企みは崩れてしまうでしょう。
 彼は彼なりに計算する力は残っていて恐怖も残っているのです」
 太田はすばやく頭を回転させた。

230 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/05/09(金) 07:07:45.28 ID:/4uj/KHH
 「しかし、日本国政府も彼とコンタクトするすべは持ってはいません」
 「分かっています。しかしスミスは、おろかにも日本がチャイナマンとグルだと考え、
彼がアクションを起こせば必ずチャイナマンが来ると考え、そうして野望をどうにかこらえているのです。
 ですから彼の考えている狂気のプランでは来年になれば私が出て行ってしまうからもっとやりやすくなるんです。また兵の増強が望めます。
 第七艦隊が来るのです。これにも海兵隊と海軍航空隊がいますから作戦はよりやりやすくなるでしょう」
 「大使には軍の指揮権はないのでは」と太田。
 「そこは、間接的に、軍の将軍らを操縦して、うまくやっていくつもりなのです。彼には金や女がついています。
本国の汚い野望を抱いた者どもが彼に与える力は計り知れません」
 阻止するためにはスミスを解任しなければならないだろう。
 「そのことは本国には報告しましたか」
 「しましたが、いろいろありまして、逆に私が排除されることになったと言う事なのです。考えられません。信じられません。
 私が宣誓し忠誠を誓った国と今のアメリカ合衆国は全く違う国に変わってしまったと言ってもいいでしょう、
後一ヶ月で日本は危険な状態になってしまいます」

231 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/05/09(金) 21:20:00.65 ID:/4uj/KHH
 「あなた……」貞子が言った。
 「うん」
 「カトウさんがアメリカ政府から放り出されたら、すぐに日本政府で雇い入れて顧問か何かになってもらうといいわ。それから、核兵器は……」貞子も思案した。
 「難しいな、だが、無線キーなしでの爆発はしないのですね、無線キーをあなたから奪って爆発させるとかは可能ではないのですか」
 「無理なんです。爆破に至る具体的な手順はこうです。核弾頭はエックス社の各地にある配送倉庫にあります。荷物を装っています。
 警備はありません。それは警備兵は核兵器の爆発とともに蒸気になると知れば警備にならないでしょうからね。
 しかし、爆発させる日が来たら、本国からある桁数の数字が、暗号化された電子メールで送られてきます。無線キーはそれと組み合わせることで初めて活性化される仕組みです。
核弾頭はそれがないと爆発は絶対にしません。たとえ百メートルの高さから落としても火事になっても大丈夫らしいです。
 大使が何らかの手段で私から無線キーを奪ったりしないように暗記してメモは廃棄しました」

232 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/05/10(土) 07:42:44.01 ID:q8XVS9SX
 突然、副大使の妻がややたどたどしい日本語で言った。
 「彼が最後の希望です」
 「おまえ……」とカトウ。
 太田はじっと彼女の目を見た。澄んだ瞳には何かが揺れていた。
 「最後の希望……」太田は副大使の妻に訊ねた。
 「核兵器が使われれば、先ほども言ったように何百万もの人々が死にます。
 しかもそれは始まりにすぎず、多くの人々が後遺症に苦しみながらある者は死に、ある者は長くつらい人生を送る。
 しかもその害は戦争には全く無関係な、後の代の子供たちにまで及ぶ。いったい何世代にわたってこの被害が続くのか、私たちには分からない。
 傷痕は永遠に消えない。核兵器はちょっと大きな爆弾なんかじゃない。
 それを絶対に阻止する人を指す言葉、何もかもが失われてしまったと思った時にたった一つだけ残った物」
 太田は、彼女を見直した。
 カトウが彼女を連れてきた意味が分かってきた。そう、カトウは非常にいい人だがそれはこの妻に支えられてきたからなのだろうし、
この緊急時に二人でどうしようかと話し合ったと言う事は想像がつく。
 話の内容は、あまりにも大きい。しかし戦っているのはチャイナマンだけではない事を雄弁に物語っていた。

233 :名無しさん@お腹いっぱい。:2014/05/10(土) 07:44:12.40 ID:qxTMT0Z3
テムジンが怒ってる モンゴルで暴れている朝鮮人に対して。。。。

234 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/05/10(土) 19:44:00.93 ID:q8XVS9SX
テムジン「中国人、悪い、あるよ。朝鮮人、悪い、あるよ」

後に、彼は革命を起こすがそれは別の物語である。

235 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/05/10(土) 20:03:30.33 ID:q8XVS9SX
 二人が帰っていくのを見送った後、太田は赤旗を呼んだ。
 「これはもう私たちの戦争だ」
 「はっ」
 「チャイナマンだけが戦っている時はたった今終わった」
 「はっ」
 「時と言えばアメリカ東部時間では今何時だ? テレビ電話でアメリカ大統領と直談判する、今夜だ」
 「はっ」
 「許さん、君も妻も同席してもらう。証拠になりそうなものはあるか、核の」
 「搬入しているところを撮影した写真があります。しかし、輩(やから)はそれがなんだとつっぱねるでしょう。アメリカ系の運送会社エックス社が関与していますが、
そこの荷物を装っていますからたくさんの荷物の中に紛れさせて移動させると言うせこい手口をつかってます。
運送会社が運んでいる荷物にすぎないだろうと言いはられればしまいです」

236 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/05/11(日) 18:34:07.12 ID:6K5SN76/
 「今のアメリカ大統領は相当な役者だが、根性も度胸もない。君は度胸はあるか?」
 度胸はあるかと首相から言われてありませんと言うほど赤旗は情けない男ではなかった。彼の先祖は硫黄島でアメリカと戦ったのだし、今ここで戦えませんは、ない。
 「あります。しかし、やつらは、はいそうですと白旗を揚げるようなことは決してしません。だから、こちらがなにをどう言っても無駄になるだけではないでしょうか。
 ここは一つ特殊部隊で有無を言わさず爆弾を奪取するとかのほうがいいのでは」
 「問答無用でか? いいか、カトウさんは何もかもを投げ捨てる覚悟で知らせに来た。
 そうだな彼は平和の人だ。彼の事は、アメリカ副大使の事はチャイナマンの友達、そうだな、ベトナムマンと呼ぼう」
 「そうですね、ベトナムマンはいいですね」
 「まあ、それでだ、一応、大統領に言ってみる。アメリカ大統領は否定する。そんな物はないと言う。そこで特殊部隊なり警察のSATなりで奪取する。ブツの場所はカトウさんが教えてくれた。
 奴らがどうのこうの言ってきたら、ないって言ったじゃないか、ない物が奪えるか、そういい返す。こういう段取りだ。子供の喧嘩だ」
 「ずいぶんな子供の喧嘩ですね……しかし、そんな手が通用しますかね」
 「するだろう。大統領は実際にはチキンで、韓国での妻の逸話でびびったと聞く」
 「まあ、あなた、あの話なの。だったら鉄の屏風があるわ」と貞子。
 「あれか」

237 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/05/11(日) 18:38:17.90 ID:6K5SN76/
 「国家危急の際に使えと今はない大日本製鉄小倉製鉄所が記念に下さった、それは歴代首相が大事に大事に使って来た物だけど、核兵器から
数百万の罪のない人を守るためになら粉々に打ち砕いても、それが「国家危急の時」なんだわ」
 問題の鉄の屏風とは、文字の通りのものであった。おだやかな顔をした武神が描かれている。
 小倉製鉄所は兵器のための鉄を作り続けてきた。その任務を終えたとき、記念に、永久に平和が続き二度と兵器が使われる世が来ないようにとの祈りと、
万が一にもその時が来た時には「ある事」が起こると言う祈り籠めて制作されたものであった。
 物体としても万が一首相が命を狙われた時の盾となるもので、国家安護を祈る物であった。
盾としての性能は例えライフルや機関銃で数百発撃ちこんでもびくともしない、いや微動だにしないだろうと言われていた。
 「では、そのようにしよう。室内用のクレーン車を用意させるように」
 この屏風は人力では移動させられない。だが、これは全世界の人々が知っている伝説の屏風であった。
 「アメリカ人もこれは知っているからな、だが……貞子」
 「そう、今は祈りましょう」

238 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/05/11(日) 22:42:50.48 ID:6K5SN76/
 大村は上機嫌だった。パンの売り上げは好調だったし、もうじきクリスマスだ。クリスマスケーキ自体は大村パンの商品ではないのだが、スポンジケーキを焼く事になっていた。
 土台のスポンジケーキ以外はクリームで、スポンジケーキを作るためには窯という施設投資がいる。各ケーキメーカーは自社で不足する分のスポンジケーキを大村パンに注文してくる。
こいつは大村パンにとっては臨時で美味しい収入であり、ボーナスに反映するものであった。
 そして、営業回りの足としてベンツは大切なものだった。
 もう、社長と連絡がつかないと言う事は激減した。ベンツで移動中は大村が携帯に出る事が出来たし、商談中でも涙田の社用携帯にかければ、どこにいて何時から商談に入ったか分かった。
以前のように社長がどこにいるのか分からないと言う事はない。これは大村パンにとっては大きな前進だった。
 会社の信用と言う事もあった。やはり社長が運転手つきのベンツを乗り回していると言うのはべただが大きい。
 そこは涙田も承知していて白手袋と自腹で買った運転手の制服で、商談先に着いたらさっと降りて社長のためにドアを開ける。相手はそう言うイメージと言うものを評価するものだった。
 現実問題として社長の時間は限られている。それを最大限に生かすのが涙田と綾子の役目だった。
 それはそうと、大村はこの一月ほどの間に一回だけ、雨降りの日に涙田に自宅に迎えに来てもらった事がある。ベンツは自家用車ではないし
涙田は召使ではないから問題だが、今後もやはり大雨の時とかはベンツのお迎えが欲しいのは事実だった。
 楽でいい。近所にも見せびらかしたい。
 涙田は角来美雪と順調に付き合いを続けているらしい。結構な事だ。酒の匂いをさせている総務課の娘に困っていたところだったから
このまま順調にいけばまた寿退社でまったく大村パンとしてはバラ色の未来が待っている。
 「ふふふ……」
 「まあ、あなた、もうボケて来たの」
 妻は上機嫌ではなかった。娘二人にはそれぞれ彼氏がいて今日も二人ともお出かけしているのだった。

239 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/05/12(月) 18:09:43.49 ID:HgvJQO4v
 「犬田の野郎、退院か」
 「ははっ 明日のようです」
 農林水産大臣竹下康之は部下に、下がってよいと言った。
 平日は健康のために控えて来たのだが、今日最初の葉巻に火をつける。
 彼は公明党出身で、無論創価学会だ。
 「いぬだだいさく……」
 竹下は当面の敵の事を違う面から考えてみた。
 犬田が創価学会の名誉会長、池田大作と読みが一字しか違わないのは全くの偶然だった。
 犬田の先祖は博多の豪農、百田家が朝鮮から連れて来た奴隷で農耕に従事していた。
 明治に入り名字を名乗るように法律が変わると百田は怒って「こいつはイヌだ、イヌ畜生だ」と言い、犬田と言う苗字をつけたのだと言う。
 百田と言う名前は百の田んぼ、すなわち多くの土地を意味する名前でそれも一代限りという制限付き(百姓身分だから)を代々切り替えつつ受け継ぐという形で
名乗ってきたのだ。時代が変わったからと言っても一農耕奴隷が名字を名乗ると言う事に反感があった事は当然かもしれなかった。
(なお、百田と言う有名な作家はこの百田家とは無関係である。)
 代作と言う名前も本当は、小作人と言う意味で、父の名前が小作だったから代作と言う名前にしたと言う事だった。
深い意味はなく職業としての小作業を表すものだった。
 すなわち、代わって耕すの意だったのだ。
 それが、今や国家を脅かす存在にのし上がって来たのだから運命と言う物は分からない。

240 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/05/12(月) 22:07:37.09 ID:HgvJQO4v
 竹下は武闘家上がりでカンフーをあやつり、軍事マニアであり、元々はいわゆる国防族という国会議員だった。
しかも創価学会だというのだからある意味これ以上やばい人はこの世にはいないと思われた。
 彼は太田ほど生華学会については楽観的ではなかった。太田は警官上がりで公判の維持とか証拠の上がり具合とかを現場の警官のように気にしている。
 しかし、わずか三日で二回も軍事的行動を起こした学会の軍事能力は今も温存されている。街で銃を振りまわしたのが二百人だったと言う事で、皆はそれに惑わされている。
 戦争のセオリーとして実際に残された死体の数の十倍の兵力が投入されたり後方で動いたと考えるのが自然だ。現在残された死体の数は70ほどだ。つまり、実数700と言う事になる。
二倍以上と言う事になる。多分、千が本当のところではないか。
 創価学会の秘密資料で読んだところでは、彼らの私設軍隊「親衛隊」の兵力は500、少し実数が少ないものの秘密資料が作成された
時点は一年近く前で、増強されているだろうと考えるとほぼあってくる。
 残念な事に、創価学会の秘密資料の事は閣議では出せない物であった。彼としては強く進言したかったが、出来なかった。
 また、創価学会は彼らの敵が膨大な数の銃器を密輸したと言う重大な情報を得ていた。しかし、これも伏せておかなければならなかった。
 いくら今の世の中でも、敵がサブマシンガンやワルサーやマニアックな特殊ルガーをザクザク持っていると言う事には疑問を持って当然だし、
調べてみるとそこからは輸出元も先も調査ができないと言う事に疑問を持つべきだった。

241 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/05/12(月) 22:12:31.39 ID:HgvJQO4v
 ウージーはかなり前にヨーロッパでライセンス生産された後スペイン軍の倉庫にしまわれた物であった。
 ワルサーも戦後西ドイツで生産された物である事までは判明していた。
 その両方とも輸出の記録はない。
 ルガーに至っては密造品で調べようがないという結論になった。それは本体には旧ドイツ帝国の生産番号がもっともらしくついていたが飾りだと判明した。
 装甲車もそうだった。ヨーロッパ製であることはすぐに分かった。しかしそこから先が分からなかった。製造元は一切の情報の提供を拒んだ。
そうなるとお手上げであった。
 向こうも兵器輸出で儲けているのだからペラペラしゃべると言う訳にはいかないし、そんな会社からは誰も兵器を買わなくなる。
 結果、分かって来たのはチャイナマンがいなければ、貪理もあの被害に加えて教主を殺されていただろうし、幸福の錬金術も総本部が陥落していただろうと言う事だった。
 今、犬田は何を考えているのか。竹下が総理大臣ならとっくに生華学会は解散させられているだろう。

242 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/05/13(火) 12:53:18.03 ID:6X3FkpZK
 そこから逆算式に考えると、敵もそれはキャッチしているだろうから何かは仕掛けてくるに違いない。
 もちろん犬田が退院したその日にわざわざ作戦開始日を設定するほど馬鹿ではないから、数日後に、と言う事になるだろう。
 幸福の錬金術をもう一度襲うのか? 
 しかし、あの総本部はいまや要塞化していると聞く。
 焼けただれた装甲車は撤去されたが本部構内は臨戦態勢を完全には解除しておらず今や公然と銃器を本部員が携行していると聞いた。再襲撃は難しい。
 貪理の教主は、あの撃ちあいは何百万回何千万回も再生されて、現在の生きている英雄となったから復活してきたら貪理もまた蘇って来るのではないか? そう竹下は思った。
 あの教主を、病院で襲うのはたやすい事だがイメージ的には失う物の方が大きい。動けない怪我人を襲うのはかっこよくない。
 竹下は創価学会の守りを固めるよう進言する事に決めた。

243 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/05/13(火) 14:04:13.87 ID:6X3FkpZK
 涙田は真昼の飲み屋で美雪をあやしていた。
 彼女はトナカイと私とどっちをとるのかと言った。
 どっちを取るも何も、俺たちなにもしてないじゃないかと涙田は言った。
何回かキスしただけで、それも毎回酒の味のする奴。
 「トナカイとはもう寝たの? この獣姦野郎」
 「ねてへんわ」
 「そう、じゃ、これからしてあげるわ。
 ホテルへ行こう。テカテカのまっピンクのこれぞラブ・ホテルって奴へ行こう。今すぐ行こう」
 「お前、ああ、さてはここに来る前から飲んでたな! 
 これっぽっちでこんなに酔うはずない」
 これっぽっちとは生中三つであった。アル中の基準では少ないのだ。
 「うおー、獣姦野郎、今、ここででもいいぞ、すぐやれこら」
 「わわっ」
 涙田はショーツを脱ぎにかかった美雪を飲み屋から連れ出した。
それから店にとって返して勘定を済ます間に涙がこぼれそうになった。

244 :名無しさん@お腹いっぱい。:2014/05/13(火) 14:05:47.39 ID:6X3FkpZK
 涙と言えば涙田と言う名字は字のごとく「涙が出るほど小さな田」と言う意味だったらしい。
 明治時代の先祖は軍隊にその活路を見出した。遠いご先祖は東郷提督の指揮下でバルチック艦隊と戦いこれを撃破した。命がかかっていた。
 彼の手紙を涙田は読んだことがある。郷里にあてた手紙だが若年の二等水兵が書いたとは到底思えないもので、
最後になるかもしれない酒を飲みタバコを吸っているが、敵はタバコにすら事欠いているに違いない。必勝を確信しているとつづられていた。
 事実、敵艦隊の司令官ロジェストウェンスキーは一時吸う葉巻に事欠いたことがあるほどバルチック艦隊は補給が途絶えがちだった。彼の予測は見事なほど当たっていた。勝利もだ。
 大阪に移住した涙田一族は軍人や軍属として活躍した。敗戦とともにそれは終わったが涙田はその復活版だった。
 涙田は幼いころから、一族の武勇談は何回も聞かされてきた。硫黄島のデビルもそうだ。国立国会図書館で読んだことさえある。
 秘密の資料なのだ。涙田の一族だけが閲覧できるのだ。無論、それは最高の名誉なのだがここでは関係ない。

245 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/05/13(火) 22:01:59.54 ID:6X3FkpZK
 美雪には秘密だが、涙田はテロリストグループの行動隊だし、もっと秘密だがチャイナマンだ。
 そう、貪理で、あの時、絶対的不利を覚悟で戦った時、どこからそんな勇気がわいてきたのか涙田には分らない。
 涙田が店から出ると、美雪はもう次の店に行こうと言いだした。今の事をもう忘れたかのようだ。と言うかもう忘れた可能性がある。
アル中が酔った時特有の記憶障害だ。
 美雪を引きずるように彼は自分のマンションに帰った。美雪は暴れたが、少しすると路上で盛大に吐き、それからはぐったりしていた。
 マンションで、彼女は意味不明の事を言い、すぐに涙田のベットで寝てしまった。
 襲う気にもなれなかった。彼は隠してあった焼酎「いいちこ」25度を水割りで飲み、自分はソファで寝た。
 夢の中で、彼はサンタだった。乗っているのはそりではなくリヤカーであり、鞭でトナカイをしばく、そのトナカイは美雪だった。

246 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/05/14(水) 07:34:57.76 ID:/+JLJJlg
 「襲撃のチャンスは一回きり、ワンチャンスにかける」
 白東和は部下に言った。
 ここは品野町の中心地、品野中央美術館の地下保管庫だ。
 この部屋にはセキュリティはないが、一歩外へ出たらセキュリティが鳴る。携帯トイレ持参だった。
 彼ら襲撃隊十名は美術品に化けた。爆破された貪理美術館から『出土』した美術品と言う触れ込みでここに搬入されることに成功したのだった。
 ちなみに、襲撃までの絵は書いてあったが脱出は考慮されていない。警察に身柄を確保されると言う事になるかもしれなかった。
 それ以前の問題としてここは敵の本拠地、彼らが襲撃行動に入ったが最後、黙って見ているとは思えない。銃をもった警備がどれぐらいいるかは分からないが、全員が取りあえず撃ってくるだろう。
 「まあ、わからないですだ、この賭けは」と長居が言う。
 武器は、全員HKMP5K、全長が短い事と数が十丁揃う事が条件だった。弾は30連発マガジンが二個、テープで互い違いに止めてある奴だった。9ミリ拳銃弾を使用する。
 それ以上は持っていたとしても撃てないと判断された。それにいかに犬田がボディガードに囲まれていたとしても600発近くの弾を受けて死なないとは考えられない。
 「すこし眠ろう、明日の朝には……」
 犬田は死に、権も死に、我々の何人か、もしかしたら全員が死ぬだろう……
 白はそこまでは言わず、床に横になった。
 体力は温存しなければならなかった。

247 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/05/15(木) 07:06:50.50 ID:23YB86Eh
 夜になった。
 「テレビ会見の用意は出来ました。総理」と赤旗。
 「うむ」
 会見はすぐに始まった。
 「大統領閣下、由々しい情報が入ってきました」太田は言った。以下一々は書かないが日本側は通訳が英語に通訳している。太田も赤旗も英語はしゃべれるのだが国家の危急の際微妙な部分では何があるか分からないからだ。
 「どんな? 私も忙しいんです」
 「赤旗君」
 「日本国内に核兵器が十二発も搬入されているとの報告があります」と赤旗
 「そんなクレイジーな話を誰がしているのですか」
 クレイジーなのは誰だと太田は思った。
 その瞬間までカトウには悪いが彼の名を出すつもりだった。彼が昼にここに来た事は米側も知っているからだ。
 しかし、太田はおとぼけに転じることにしたのだった。
 「チャイナマンのお友達、ベトナムマンです」太田。
 「なんですって?」
 「彼は平和の人です。突然にこの官邸に来たのです」
 ざわつくホワイトハウス側、太田が狂ったのかという顔である。
 「あなた、わたし、恐ろしいわ」と貞子。
 「おお、そうだな、もし、ベトナムマンがお友達のチャイナマンに電話した日には……」
 「ガクガクブルブル! 貞子パンチ!」
 鉄の屏風が見事に砕けた。
 「このパンチでも身を守ることさえできはしないでしょう」
 「ああ、だが心配する事はない、彼は心得ているだろう、真の敵が誰かを」
 太田は意味ありげに鉄の屏風の破片に目をやった。さっと大統領の顔が強張った。

248 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/05/15(木) 07:08:19.66 ID:23YB86Eh
 この鉄の屏風には二重の意味があったのだ。
 平時においては文字の通り鉄の盾となって総理の身を守り、そして国家危急の際には、再び鉄の形に戻してそれで兵器を作りなさいと言う意味が込められていたのだ。
 もう二度と兵器を作ることがなくなった製鉄所が平和の尊さを永遠に後世に伝えるために、そして一朝事あればそうしなさいと言うメッセージを込めて作った物であった。
 だから屏風の武神の姿も、手を後ろにまわしてかすかな笑みを浮かべている姿であり、砕いたならば神が解き放たれて敵を倒すと伝えられていた。
 「アンビリバボー」大統領は言った。
 「なにがですか」
 「人間が手で鉄を砕けることがです」
 「それは、核兵器で無数の人間を焼く事ができる非道な人間がいる事に比べればなんら驚くには値しません。赤旗」と太田。
 「我々は、核兵器が国内に持ち込まれたと言う事実をつかんでいる」と赤旗はサーもつけずに言った。テロリストのようだった。だが……
 「この写真を見ろ」核兵器の写真を彼は示したのだった。
 「ただの荷物のようだ、フンフー」と大統領。
 「これには警備も何もないようだな」
 「それが」
 「ベトナムマンは偉い人だ」と赤旗は言った。
 「は?」と大統領。間抜けの見本のようだった。
 「だが、彼の友達のチャイナマンはどうかな? 
 ベトナムマンは平和を重んじる人だから、やめろと言うと私は確信している。きっと言うだろう。
 彼の行動は、君ら腐った外道の徒の何倍も高いからだ。
 だが、チャイナマンはファイターだ、真のファイターだ。彼は10対1のガンファイトでかすり傷一つ負わずに去った。そんな事が出来たのは世界の歴史では彼だけだ」
 実は、それはうそだった。貞子がいたからだ。

249 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/05/15(木) 22:46:09.58 ID:23YB86Eh
 結婚してからの話だが貞子は護身用に英国製スピットファイヤMKUと言うプロ好みの9ミリ拳銃弾を使用する拳銃を使っていた。
 無論、警視庁の銃器係に命じて最高にチューンナップし、元からプロ仕様の銃を「神の銃」となしたものであり、通常のマガジンではなく延長した大型マガジンを装着していた。
 しかもそれを電光石火のごとく交換するので事実上無限弾のように見えると言う代物だった。
 ところが、ある超巨大特定暴力団の組長が、銀座の高級クラブで、酔った挙句、そんな無限弾なんかあるわけないと笑った。
 そして、あろうことか先代組長の墓前に貞子の首を捧げられるかどうか賭けをしようと言い出したのであった。
 クラブのママは、貞子様があなたのような外道にやられたら、私は坊主頭で店に立つと言った。供養のためにそうすると言うのだった。
 続いて、店一番の娘が言った。
 もしそんなに強い組長様なら、私、いつでも抱いていただくわ。無論ただでよ。
 それを聞いた店に来ていた客で、元大企業の会長だった男が言った。
 わしは、かたぎだから賭けそのものには乗らないが、軍資金が要るだろう。貸そう。
 相手は貞子様だ。いくらいるか。百万か。いや、一千万貸そう。利息はいらない。今はキャッシュがないから明日持って行かせる。借用書は今書いてくれとは言わん。
 それを聞いた組長はその場で借用書を書き血判を部下のドスを借りて血を出して押した。
 そしてこう、いきまいた。
 利息の代わりにわしが先代組長の墓前で貞子の首を持ってガッツポーズを取った写真をつける。この店にもその写真を持ってくるぜ。全員に配るぜ。
 引くわけには行かない戦いになってしまった瞬間だった。
 無限弾の銃を持つ女、貞子、対、面子もあって全力をあげる暴力団。

250 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/05/15(木) 22:50:29.83 ID:23YB86Eh
 賭けは成立したが掛け金は途方もない額になった。
 軍資金も集まった。やはり貞子によい感情を持つものばかりで世の中が構成されていたわけではなかった。
 その金で、件の組長はかき集められるだけの兵を雇った。銃も集めた。
 訓練もした。あたふたしたのでは、相手は貞子なのだ。殺される。
 ある時点からは、組長にとってはもう儲けなんかどうでも良くなっていた。これに失敗すれば貞子が報復に出ることは間違いない。成功したって夫の太田アンド警察が黙っているとは考えられない。どちらにせよ彼はやるしかなかった。
 事前のリサーチでは、移動時には護衛のパトカーが前後に一台ずつ着くものの、そして貞子本人は防弾のトヨタセンチュリーに乗っていて
護衛の超精鋭である女子SP二名を連れ、問題のスピットファイヤで武装はしているものの、所詮はそれだけ。
場所を選んで軍隊並みの大人数で襲えば行けるだろうと言うのが大方の予想であった。

251 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/05/16(金) 06:48:38.66 ID:mfPyVmnc
 ふたを開けてみると、軍隊は敗北した。
 無限弾は本当だったと言ううわさが流れた。
 SPはHKMP5A2(要はサブマシンガン)を装備していてそれの火力を勘違いしたものと考えられるが、たったこれだけの警備対軍隊で
警備が勝つというのだからどれだけ貞子が強いのかがわかるエピソードではある。
 やくざの一人が手りゅう弾を投げつけたが女SPが投げ返し、それが大被害を与えたことが敗北のきっかけだった。
 しかし、それも時間がたつと、うわさでは貞子がやったことになって行った。
 組長は、ガッツポーズを取るどころか先代組長の墓の前で腹を切った。
 後日、問題のクラブを大田夫妻は訪れて、愉快に酒を飲んだ。祝杯だった。SPらもソフトドリンク飲み放題だった。
 ママも大いに喜んで店のおごりでドンペリをあけたのだった。外道が一人減って頭を丸めずにすんだのだから当然それぐらいのお祝いはするべきだ。
 貞子伝説はこうやってまた新たな一ページを刻んだのだった。
 ちなみに因縁のある韓国首脳部にはこのうわさは百倍に拡大して伝わっていた。
 貞子が投げ返した手りゅう弾は250キロ爆弾に空中で変化したと言うことになって行った。襲った人数も三百人以上で取り囲んだが貞子が全員殺すと宣言し、
そのようになったと伝えられた。
 韓国側は皆ガクガクブルブルだった。

252 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/05/16(金) 19:53:32.88 ID:lLV2lQ3o
 赤旗は続けた。
「しかもチャイナマンはその二日後、兵二百装甲車三台の軍隊を一人で敗走させたんだぞ。
 そんな男が核弾頭を十二個も奪って北米大陸に乗り込んだらもうお前たちはおしまいだ。ニューヨークは大きいから二発核弾頭を使うと予測している。
 多分その場所はニューヨーク湖に地名変更されるだろうし、メキシコやカナダに逃げる車の列で国境は大渋滞になる。シリコンバレーなんかは無人だろう。真っ先に全員ヨーロッパに逃げるだろからな、ああいったIT貴族は。
 そして、最後の核弾頭はワシントンで爆発するだろう」
 「馬鹿げている、そんな核弾頭なんかない」大統領は粘った。しぶとい。
 「911の時は? ペンタゴンに飛行機が突っ込んでいるのを見た記憶がある。あれは私の記憶違いか」と赤旗。
 「核弾頭はない」
 「そうか、最初のキノコ雲が見えてからでもそう言うのか」と赤旗。
 「そう言えば大統領、スミスがキノコ雲の夢を見るのは予知夢かなにかなんですか? このままでは……」と太田。
 「チャイナマンは日本政府の命を受けているんですか」
 「ノー、しかし、チャイナマンが核の恐怖を黙って、座って見ているとお思いですか? 大統領、もはや砕け散った屏風は元には戻りませんぞ!」
 「恫喝するつもりか」
 「誰が誰を恫喝しているのか? 赤旗君、一個確保して国連総会でご披露しようか、大統領、私も警官上がりで警視庁の当番の電話番号ぐらいは知っている。パトカー一台がエックス社の倉庫に行けばもう確保できてしまいますよ、え?」
 「しばらくお待ちを」
 太田は、怪訝そうな顔で無人のオフィスを見やった。

253 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/05/16(金) 19:55:56.45 ID:lLV2lQ3o
 アメリカ側では皆悪党面を突き合わせて相談した。
 「どうする?」
 「どうするもなにも」
 「鉄をも砕くとは!」
 「そんなのんきな事を言っている場合じゃありませんぞ」
 「うむ、ここはしかたがない、やってしまうんだ」
 「は?」
 「爆破だ」大統領は言った。

254 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/05/16(金) 19:59:31.77 ID:lLV2lQ3o
 カトウは緊急コードのメールを見て、顔色を変えた。追い討ちをかける様にスミスから電話がかかって来た。
 「もしもし、カトウです」
 「レッツ、核爆発!」
 彼は、妻を見た。
 昼間の妻の発言を思い出した。

255 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/05/17(土) 07:11:15.24 ID:pkmrdhKe
 スミスは、受話器を耳に当てたまま意気揚々と核爆破コードを入力した。
 「ふはは、ふははは〜」
 彼のオフィスには米軍の偵察衛星から送られてくる日本のリアルタイム衛星映像が投影されていた。もうじきここに花のような核のキノコ雲が投影されるのかと思うと心が弾んだ。
 「カトウ、今、私は大統領から与えられた任務を遂行したぞ」スミスは言った。
 「そうですか」
 「GO」
 「はっ」
 カトウはそう言って……

256 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/05/17(土) 07:13:34.56 ID:pkmrdhKe
 太田は電話を置いた。
 「野郎、やはり出ない」
 「では……」赤旗。
 「時だ、貞子」と大田。
 「分かったわ、部隊に招集をかけなさい」
 「いえ、すでに出動にかかっております、私が命じておきましたゆえ」赤旗はにやりと笑った。
 「そう、あれは?」
 「し、しかしあれは最強の武器です。核兵器以外では」赤旗は一応止める人がいないといけないと思って、言うだけは言った。
 「そうでもないでしょう、最新のかっこいいライフルやらPDWやらがいっぱいあるけど私はあれが好きなのよ」
 赤旗はうやうやしく一丁の軽機関銃を出した。いや、正確には軽機関銃に見えるものだ。
 「BAR12.7ミリバージョン。これに日本製光学サイトを付けた最強の携帯可能な機関銃」
 一応国際条約で人間を撃てる銃の弾の大きさには限界があって、これはその上限に近い銃だ。元になったBAR、ブローニングオートマチックライフルは
ライフルとは言っているが実際は軽機関銃、それもとても優秀な軽機関銃だ。
 それを限界近くまで大きな口径にパワーアップした銃だから、その威力たるやそんじょそこらの最新ライフルが束になってもかなわないものがある。
恐ろしい威力なのだ。しかも現在はそれに最新の日本製光学サイトが乗っているのだ。
 スペイン革命で試験的に投入されたこの銃はたった一丁で八両のイタリア軍戦車を撃破した。
 あまりの威力にかえって敵に捕獲され自軍に使われるという事態を恐れた米軍は、この銃を第二次世界大戦前に全て本国に引き上げた。
 そういう経緯がある銃だ。幻の銃でもあった。現存するのは数丁であると言われていて銃の事典なんかには載っていない。
 スミソニアン博物館にあった奴も今はない。
 それはNRA、アメリカライフル協会がからむややこしい事情があるがそれは省略、とにかくすごい銃なのだ。
 一発で人間の体は破裂する威力があるとされていた。貫通力はを徹甲弾を使用した場合、軽戦車や装甲車を軽く撃破できる。
 「どうやら今日は、すごい夜になりそうね」と貞子は言った。
 大田は、彼女をまぶしいものを見るような目で見たが、何も言わなかった。

257 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/05/18(日) 11:58:11.31 ID:4NEYcDK4
 カトウは、妻を抱きしめた。
 「とうとう、この時が来てしまった。
 後悔はしていない。この任務に就いた時から、もう分かっていた。いつかはこうなることは分かっていた。
 愛している」
 「あなた」
 「何も言うな」
 「いいえ、私も愛しているわ」
 「早くやれ」とスミスが言う。
 「ノーサー」
 「なんだと」
 「爆発はしません、私が爆破コードを入力しないからです」
 「貴様、反逆罪だ、逮捕する」
 「大使、逮捕することはできるし、殺すこともできるが爆破するには爆破コードがいる」とカトウは言った。
 「ふふん、すぐ、本国から送ってもらう。すぐにだ」
 「そう、すぐに来る、しかし、今はそのわずかな時間が重要なのです。今、まさに今この瞬間、日本国政府は事態に気が付いているのではないでしょうか?」
 「なんだと?」

258 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/05/18(日) 12:00:08.39 ID:4NEYcDK4
 「輸送会社の倉庫に核兵器は転がっているだけだ。それはそうで、見張りに「しっかり見はっておくんだぞ、それはそうとこの核兵器は予告も何もなしにいきなり無線で遠隔爆破するからな、
注意しろよ、じゃあな」って訳にはいかないからです。だから速攻で回収され自衛隊の専門家によって無害化されるでしょうよ。それはつまり、日本が核武装すると言うことを意味するんです。だから反対だったんだ。
 平和とは、口先だけで説くまやかしのものではなく実際に守れば尊い効力があるものなんだ」
 「……」
 「戦争するぞ、戦争するぞって言いながらこうやって来てしまった。もう止められないとなった時私は国を売った。そして、今太田の手元には核兵器がどこにあるかのリストがある」
 「そうか、おまえは殺すしかないようだな。今からそちらへ行く。カンパニー(ザ・カンパニー=CIA)の者をつれてな。ああ、しかし……こうしようじゃないか」
 「は?」
 「おまえにはガードや使用人、それにもちろん妻もいるんだし、それらの前で「裏切り者、死ね」はあまりにも残酷なショー過ぎる。
 裏の教会墓地まで来い。そこで処分する。
 無論、来ないという選択肢もあるんだぜ。あんたのことだ。日本側がかくまってくれるだろうが……」
 スミスはカトウの性格を見透かしていた。スミスの言う通りなのだ。この場合の正解は教会墓地へなど行かず日本側のところへ行き救助してもらうことだ。
 そして、カトウはそうした命が惜しいばかりにそういう風にしますと言う事が最も嫌いだった。裏切った男の最後は死あるのみだ。これはどこへいっても変わらない事なのだ。

259 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/05/18(日) 17:44:17.81 ID:4NEYcDK4
 驚いたことには、スミスはたった一人の日本人を連れて墓地に来た。
 「誰だね君は?」
 「スズキです」彼は名刺を出した。
 「あ、どうも……」カトウが反射的に名刺を出した。
 「ノーサー。私はホンダでありトヨタであり日産であり、はなはだしい場合、NECなのです」と男は言った。
 「おお、君は、と言うか、君がカンパニー、つまりCIAの処刑人なのか?」
 「イエス・サー。カンパニーマンです。大使、ここは、ここからは私が……返り血を浴びるとその高価なスーツが台無しです」
 「おう、ファック」
 スミスは去っていった。
 二人きりになるとカンパニーマンはすっくとカトウと対峙した。処刑人とは思えない態度であった。
 それがカトウには不思議だった。どうしてこの男には、殺しの暗い影がないのか。
 カンパニー……CIA……の処刑人、カンパニーマンはホルスターからワルサーP38を出した。
 「事件で、使われている奴ですから」とカンパニーマンは言った。
 「そうかね」とカトウ。
 「弾丸は、一発だけしか用意してきませんでした」とカンパニーマンは言った。
 その言外の意味にカトウは気がついた。

260 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/05/18(日) 17:46:43.16 ID:4NEYcDK4
 走って逃げろと暗に示唆しているのだ。ワルサーは八連発なのだからわざわざ一発だけ用意してわざとそう告げるというのはそう言う意味なのだろう。
 無論、ピストルから走って逃げるなんて元から無理な上にカンパニーマンは処刑のプロだ。
 つまりはそう言う事なのだ。故意に外すと言うことなのだ。
 「心は有り難く受け取っておく。だが、祖国を裏切った者は死なねばならん」
 「あなたがいなくなったら、誰がその「仕事」をしますか。私は大変悲しい」カンパニーマンは故意に下手くそな英語を使った。
 もちろん彼が英語ができないはずがない。これは一種の暗号だった。しかし最後の部分は本心だろう。
 「「仕事」か」
 「そうです、サー」
 少し間をおいてカンパニーマンは言った。
 「スミスは戦争を、あなたは平和を主張している。あなたが負けてしまえば戦争が勝つと言う事になってしまう。
平和に戦争が勝つ。そのような事があってはなりません」
 悲しげな眼でカンパニーマンはカトウを見た。その視線にカトウははっとなり、やはり走って逃げることにした。
 「君は弾よりも速く走る人間を見たことがあるか」カトウは聞いた。
 「ノー・サー、しかし、もうすぐ見ることができます、楽しみであります」

261 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/05/19(月) 17:32:57.94 ID:525kccBx
 スミスはイライラしてきて、彼らの方へ来た。そして素人とは思えない一動作でワルサーをカンパニーマンからもぎ取った。
 「あっ!」
 「念仏でも唱えろ、カトウ」
 ……神様、どうかあの弾が不発になりますように、一瞬カンパニーマンは思った。
 スミスは引き金を引いた。
 カチッ
 金属音がした。
 「不発だ!」カンパニーマンは叫んだ。
 「何い!」呆然と立ち尽くすスミス。
 とっさにカトウはダッシュした。
 カンパニーマンはスミスからワルサーを取り返すとカトウの背中を狙うふりをしつつ何もない空間を撃った。こいつは問題なく発射できた。銃声が何かを告げるかのようにこだました。
 弾はどこか遠くへ去って行った。神様の元へと帰って行った。
「しまった、弾が切れた」我ながら臭い芝居だった。
 だが、正義と平和のためなら幼稚園のお遊戯クラスのお芝居も許される。
 「貴様。猿芝居を!」
 「どうだか? 不発は本当でしたよ、トリックは無かった」カンパニーマンは言った。
 「くっ、まあいい」とスミスは言った。
 「手は打ってあるんだ」

262 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/05/19(月) 21:46:22.14 ID:525kccBx
 カトウはこれからどうしようかと思いながら墓地の中に潜んだ。
 「カトウ、出てくるんだ!」
 スピーカーでスミスは呼びかけてくる。
 「逃げられるとでも思っているのか、こっちはなあ……」
 キュラキュラキュラ……エンジン音とまごうことなきキャタピラ音が聞こえてきた。
 「軍隊を動員しておる。逃げられるか! それに、カンパニーマンを殺すぞ、貴様をかばったんだからな」
 M1A1エイブラムス戦車に乗ったスミスは吼えた。
 ガガー 
 戦車は進んできた。
 「歩兵部隊は千名、いずれもKKKの精鋭だ。黄色人種を殺すことに喜びを感じることにかけては彼らは最高の兵だぞ」

263 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/05/19(月) 21:47:23.41 ID:525kccBx
 その時だった。どこからともなく声がした。
 「ははははは!」
 「ややっ、セオリーどおりに笑いながら登場するとは何奴?」とスミス。
 「動かざること井戸の中に潜むがごとく、早きこと画面から出が如し」
 「な、なにぃ」

264 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/05/19(月) 21:51:00.03 ID:525kccBx
 「最高の兵ならここにいましてよ」
 「何い!」
 「貞子アンド覆面グライダーズ、ただいま遅刻」
 たたた、と覆面の兵士が来る。銃はAK74だった。数も千に対して二百もいないがひるむ様子もない。そして!
 「ガラガラガラ、教会の壁を崩して十式戦車登場」
 「どこから教会に入れた? ドアより戦車はでかいだろ」とスミス。
 「モコモコモコ、教会墓地の土の中から十式戦車登場」
 「いつから潜んでたんだ、お前?」とスミス。
 なんだかんだであっという間にスミスの兵は十式戦車に取り囲まれた。
 「ヘイ、大使、上から音がしませんこと?」貞子は涼しい声で言った。
 「なんだと?」
 確かに、上からヘリの爆音が!
 そしてヘリは馬鹿でかいスピーカー音で(馬鹿でかくないとヘリ音にかき消されるから)英語でこう言った。
 「ヘロウ、こちらゴールデンバットワン、夜戦仕様のアパッチでして、すでに上空からロックしてます」
 「何だと?」

265 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/05/20(火) 07:57:46.53 ID:nbVp4znv
 「ガンシップも来てるわ、C−130を改造した奴、夜戦に投入するのは初めてなのでドキドキなの」と貞子。
 サーチライトでC−130が照らし出されると、確かに75ミリキャノン砲と30ミリ対戦車機関砲を積んだガンシップ仕様だった。
 だが、実はこれだけは角川から借りてきた奴だった。「時をかける少女IN戦国自衛隊」の撮影用の奴であった。
 悪い者を懲らしめるためにならと貸してくれたのだった。金は後払いでいいとも言ってくれた。
 「じゃ、はじめましょうか」と貞子。
 「な、何を?」
 「このヘッドセットを着けるのよ、これは衛星国際電話よ」
 「何だ?」とスミス。
 カトウとカンパニーマンも同じ電話に出た。電話会議のようだった。
 「そろいました」と貞子は言った。
 「そうかね、自分は国連事務総長のイワンと言う者だ。これより各自会議に入る前に名を名乗るように」
 国連安保理の各国の代表が名乗った。
 「当事者である日本とアメリカには当然議決権がない。裁判長は誰がするのが適当か?」とイワンが言った。
 「上席者は、在任がもっとも長いフランス大統領ですが、ここはあなたがするべきかと思います」と中国の首相が言った。
 スミスははっと気がついた。これは……
 うわさに聞く人類裁判だ。

266 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/05/20(火) 07:59:47.81 ID:nbVp4znv
 「待ってください、アメリカは異議を申し立てます」アメリカ大統領。
 「まずは裁判長を決めてからでしょうよ」とイギリスの首相が言った。
 結局、裁判長はイワンに決まり、異議は却下された。
 「さて、ミスターカトウ、報告をしたまえ」
 カトウは全ての顛末をしゃべった。大統領が爆破を命令したことも。
 「カトウ、貴様、国家反逆罪で死刑だ」とアメリカ大統領は言った。
 「ほう、じゃそういう事実はあったわけだね」とイワンは言った。
 「あ、い、いや、そう言う、あうあう」
 「日本から核兵器の実物の写真が送られてきました。わが国にもエックス社はあり、
こういう悪だくみが無いとは言えない事を考えると、厳罰にするべきです」とドイツ首相が言った。
 「日本からも意見を聞こう」とイギリスの首相が言った。
 「わが国は核兵器を持つことになってしまいますが、アメリカに返す訳には行きません。
 この事は韓国など近隣諸国に知られてはならないと思いますが、いかに」と太田は返した。
 「そうだ、人類裁判の秘密は守らなければならんぞ、これは全人類の存続が危うくなった時にのみ開かれる秘密裁判なのだ」とイワンは宣言した。

267 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/05/20(火) 08:01:42.02 ID:nbVp4znv
 「そこで、日本としては南にある絶海の孤島、硫黄島という無人島にすべての核兵器を持って行き厳重に保管します。赤旗を保管責任者に指名します。
 それらの核は、すみやかに国際委員会の元で適切に処分される事を望みます。
 さらに、日本国政府としては、カトウさんの活躍に感謝するところが大であります。
 彼こそが平和の人です。平和の使者、ベトナムマンです」太田は言った。
 「アメリカの言い分は?」
 「われわれは(中略)なんだ!」
 「長かったな」とロシア大統領がそっけない感想を言った。
 「大統領、今回の核の件はあなたの罪か、合衆国の罪か?」とイワンは言った。
 「そ、それは……」
 「兵器はある、もう押収はパトカー一台で済むとミスター太田は言っている。正確には十二台。
 チャイナマンが……」
 「ワー、ワー!」
 アメリカ大統領は突然、叫んだ。電話の向こうで鈍い銃声がした。

268 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/05/20(火) 22:19:50.27 ID:w/c9nFPl
 「こちらはホワイトハウスです。大統領は自殺しました」
 「君は誰だ」とイワンが聞いた。当然の質問だった。
 「ふ、副大統領のミーンズです」声が震えていた。
 「おめでとう、きみは昇格したぞ」イワンは非情に告げた。
 「では、主犯が自殺したことだし、解決としよう。
 スミスは、今回は大統領の駒だったから殺したりはしないし、処罰はアメリカの国内問題だから当法廷の管轄外である。
 ただ、カンパニーマンは解放するんだ」とイワンは言った。
 ただちにカンパニーマンは解放された。
 「日本政府は、核兵器を接収し一時保持することを認められべきだ。管理責任者として当法廷は日本が指名したとおりミスター赤旗を管理責任者に任命する。
 この核兵器はしかるべき国際委員会の監視の下、ロシアにある「核の墓場」へ送るものとする。経費はアメリカが負担するものとする。
 そして日本国はカトウ副大使を迎える正式な「副大使館」を直ちに作り、そこに星条旗を掲げることを認めるか」とイワン。
 「もちろん、その全費用はわが国が負担いたします。護衛もわが国がします。ミーンズ副大統領、彼らが赤の海兵隊制服を着てもよろしいか」
 赤の制服とは、海兵隊が海外公館の警護に当たるときに着用する奴だ。
 ミーンズは、シークレットサービスが「物」のように運び出していく大統領の遺体をチラッと見て言った。
 「無論、それはかまいません」
 「では、これにて一件落着」イワンは言った。人類裁判はあっけなく終了した。

269 :1& ◆GeagnNhGCc :2014/05/20(火) 22:50:31.23 ID:7WNrls+5
森の中を散歩していて、知らん間に、一匹の蟻さんが・・・
一匹の蟻さんがパンツの中に入った。

運動好きな蟻さんがあちこち走り回って、
僕はただ「こそばゆい!こそばゆい!」と感じて、散歩し続けた。

しばらく歩くと、トイレがありました。
トイレに入って、パンツの中の蟻さんを捕まって捨てた。

http://ameblo.jp/21point/entry-11550114876.html

270 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/05/21(水) 20:30:13.62 ID:s6uucVz+
 スミスの兵らは武装解除された。戦車も没収された。
 「ファック」スミスは言ったが、やはり助かったが本音であった。覆面グライダー隊は一撃で彼らを抹殺できたはずであった。イワンが「死刑執行」と言ったら出来た。
 「では、失礼します」
 カトウは、そう言って、カンパニーマンと去った。
 「君が警備を担当するんだ、カンパニーマン」とカトウ。
 「はっ、カトウ副大使」
 「かっこいいわ、ベトナムマンは」と貞子は言った。
 それから覆面グライダー隊に、赤の制服を着るものを選ぶように命じた。

271 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/05/21(水) 20:31:23.58 ID:s6uucVz+
 大使館と領事館があるというのは良くある構成だが「副大使館」など聞いた事があるものはなかった。しかし、そこは日本的な素早さで、その夜が明ける前に「副大使館」が確保されていた。
 やはりカトプを慕っているフェルプスと言う若い三頭書記官など一部のスタッフはここに自主的に移ってきた。
 スミスの野望は完全に砕かれてしまった。ただ、こんな具合だったので生華学会への手入れはどうしても後回しになっていたのだが……
 翌日!

272 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/05/22(木) 07:45:01.02 ID:UrLA6zkt
 12月 犬田襲撃 当日 月曜日
 権は品野総合病院の前にリムジンを滑り込ませた。
 病院から犬田が逃げるように出て来た。追うように例の看護婦が出てくる。やはり美熟女であり犬田が後妻を迎えるのであればお似合いとも思ったが素早く犬田はリムジンに乗り込んだ。
 「出せ」
 リムジンは看護婦を置いて走りだした。
 「退院おめでとうございます」
 「お、おお……それで、小川めを捕らえた所までは聞いたが後はどうなった」
 「もうじき東京まで戻ってきます。昨日は一回名古屋で一泊させましたんです」
 「ほう?」
 「幸福の錬金術も小川がさらわれた事にはすぐ気がついて、運ばれるのはここだと思っているでしょうから一日名古屋で時間をつぶさせるとともに、ここ品野町以外で小川を安心して監禁できる場所を用意しました。それに時間がかかりました」
 「ふむ、奴はたっぷりと痛めつけたいが、最終的には殺さず向こうに返す」
 「え?」
 「それは、こちらとしては恨みはある。殺したい……しかし、利用出来るとなると話は別になってくる。まずは例のばかげたキャンペーンをやめさせる」
 「は……」
 「それから……」犬田はリムジンの中で捕虜の利用計画を滔々と述べた。
 権は犬田の計画に本心では賛成ではなかったが、彼は犬田の計画にはきわめて合理性も作戦面の効果もあることは認めていたので黙って聞いていた。
 リムジンは護衛の車列と共に生華学会総本部ビルの前のロータリーにさしかかった。総本部前で本部員らが整列して待っているのが見える。
 帰って来たという感慨を抱いて、犬田は視線を権から総本部の方へ移した。その視界にどこか不審な居城班のかたまりがいた。
 ……ん?

273 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/05/22(木) 07:46:56.54 ID:UrLA6zkt
 「行くぞ!」
 白は短く言った。手に提げたバックの中に手を突っ込む。
 そこからまず取りだしたのは人海戦隊チャイナマンのチャイナグリーン27624のお面だった。
 お面をつける。周りがどよめくのが分かった。襲撃隊の方を指さしている。
 白はそれにかまわずバックからHKMP5Kを出す。マガジンを装着した。
側面のコッキングレバーを引いてボルトを後退させる。ここまでは訓練通り流れるような挙動だ。
 「人海戦隊、リムジンを狙え」
 それが合図だった。襲撃隊は発砲を始めた。前列は訓練通り膝射の姿勢になり後列は立射である。

274 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/05/22(木) 18:45:36.47 ID:UrLA6zkt
 「危ない」
 リムジンの運転手はとっさにブレーキを踏むと、非常シャッターのレバーを引いた。
 ウイーン
 低い音とともにリムジンの後部座席の窓は下からせり上がって来た超合金シャッターで遮断された。運転席と後部座席の間もシャッターで遮断される。もうフロントグラスには無数の着弾があった。
 このままでは防弾ガラスが破られるのは時間の問題だ。
 ただ、運転手はシャッターは非常に防弾性に優れていると聞いていた。拳銃弾は全く問題ない。ライフルで狙撃された場合を想定した装甲で、通常の軍用ライフルで400メートルからの狙撃に耐えると言う設定だと言う事だった。
 通常の軍用ライフルと言っても色々だが、ゴルゴ13のM16を想定しているとか言う話だった。
 運転手がちら見した限りでは襲撃者の武器はサブマシンガンのようだ。このリムジンの後部座席は落とせないだろう。
 ……それで、俺はどうなるんだ?

275 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/05/23(金) 17:46:25.99 ID:1xLA+GQI
 白東和はマガジンを交換した。後三十発。
 先ほどから銃弾がこちらにも飛んできている。
 根性の勝負になってきていた。リムジンは火も吹かず銃撃に耐えていた。
 くそっ! どんだけ撃たれ強いリムジンなんだ! 戦車か?
 白にもこいつがもはやリムジンと言う範疇を超える乗り物であることが分かって来た。

276 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/05/23(金) 17:47:27.92 ID:1xLA+GQI
 「応戦!」
 「親衛隊、前進せよ」
 怒号と銃声が渦巻いた。
 馬淵は春菜を伴って玄関から表に出た。
 道の向こうに不揃いな二列横隊がいた。距離は百メートルもない。向こうは全員がチャイナマンのお面をしているように見えるがここからでは良く見えない。
 「死神博士、すぐに下がってください」親衛隊・歩兵隊の下級兵が二人を押し下げた。その時になって馬淵は二人とも銃を持っていない事に気がついた。
 生華学会側の反撃は効果的ではなかった。数では上回っているものの配置が固まりすぎていて有効な反撃が出来ていない。
 今からでもいいからさっと動いて奴らを包囲するべきだった。
 そう考えているうちに敵の弾が尽きた。
 「奴ら弾切れだぞ、やれ!」
 安藤が叫んだ。
 親衛隊は突撃した。距離は百メートルもない。

277 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/05/24(土) 06:49:59.56 ID:dA44QNzq
 白は必死の形相で死体のMP5Kを取った。そいつにはほぼフルに弾が残っていた。
 間抜けな親衛隊は走ってこっちへ来る。それに向けて連射を始めた。

 親衛隊はこれで勝ったと言うおごりから銃弾の嵐の中に突き込まれて奇妙なダンスを踊るようにしてバタバタと倒れて行った。
 白は踵を返すと「逃げるぞ」と逃げ出した。もう生き残っているのは彼を含め二三人と、早い時期に逃げた長居だけのようだ。
 白らが裏道に入るとすぐに、生華学園幼稚園のバスが向こうから走って来た。
 「乗りなされ」
 「長居!」
 「ほっほう、やつら必死で追ってきますわい。しかし、このバスを頂戴するのに手間取ってしまいましてなあ」
 「OK、出せ」

278 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/05/24(土) 06:57:26.61 ID:dA44QNzq
 親衛隊は幼稚園バスを撃つかどうか、ためらった。安藤は撃たないように命じた。
 「どうせあんな目立つバスで遠くまで行ける訳ない」と彼は駆け付けてきて負傷者の手当てに当たっているはるかに言った。
 「それは正解ね、チャイナマンは幼稚園児を人質にはしないだろうけれど」

 バスを品野川の土手の手前で乗り捨てると、彼ら襲撃隊の残党は川辺へ降りて行った。
 上流からゴムボートが来た。ジャストタイミングだがこれは不思議でもなんでもなく一分ほどで流れてこれる上流で待機していただけの話だった。
 「乗れ」
 「OK」
 「バスは傷一つつけてはおらんから、また明日も幼稚園で使えると思うがのう」と長居。

 「追跡は後でいい、犬田先生の確保だ」と馬淵。さっそく春菜がインカムをつけて指揮にあたっている。こうなると親衛隊は本来の強さを発揮するのだった。
 馬淵が取ったのはリムジンを包囲する歩兵の壁の構築だった。まずい事にはリムジンのドアが開かなくなってしまっていた。運転手は救助できた。彼にはかすり傷一つなくリムジンの強靭さを見せつけた。
 だから、犬田と権田は怪我はしていないはずだが、確認できなかった。車内内線電話も通じなくなっていた。権田の携帯も、このシャッターは電波を遮断する性質があるらしく通じない。
 「移動本部、警察が来ました。本庁機動隊です」と隊長格の一人、山原が言った。
 「全員武器を隠せ」と春菜。指示に従い親衛隊は武器を隠した。

279 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/05/24(土) 07:00:18.49 ID:dA44QNzq
 機動隊がやって来た。
 「ここの指揮官は誰だ?」
 馬淵は周囲を見渡したが、大幹部クラスはおろか、平の幹部クラスさえ消えていなくなっている。指揮を取っているのは、「指揮官の狭義」では春菜だが、
機動隊が言っているのはそんな戦術上の指揮官は誰かと言う問題ではない。
 「私です」と馬淵は仕方なく言った。
 「お前か、一緒に署まで来い」
 「は、いや、しかし……」
 この場を離れるのもまずいが、彼らはリムジンを犬田らごとレッカーで持っていく構えだ。
 そのまま連れて行かれ、あれこれ質問されたらどうなるかは分からない怖さがある。
 もたついていると太田首相がSPの大群とSATの大部隊を引き連れてやってくると言う情報がちらっと漏れて入って来た。やってくるというのがここになのか警察署へなのかが分からなかった。
 完全にまずい状況になった。
 「近藤!」
 「はい!」
 「これからの処置だが……」
 馬淵は春菜に素早く指示を出した。春菜はもちろん馬淵も幹部ではない。生華学会には大勢の幹部がいるのに今は頼るのが彼女しかいないのは情けない話だった。

280 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/05/25(日) 10:22:00.78 ID:XDJgUvRc
 「頼んだぞ!」
 「いってらっしゃい、気をつけて」
 春菜は小さく手を振った。彼女は指が太く、指輪を買う時サイズに困るのではないかと馬淵は場違いの事を考えた。
 「ホームドラマの行ってらっしゃいのシーンかっ!」安藤が長い突っ込みを入れた。
 「まあまあ」はるかが言う。
 この二人も結構あやしいのではと馬淵は思った。

 連れて行かれたのは近くの警察署ではなく桜田門の警視庁だった。そこのガレージで待っていたのは東京消防庁のハイパーレスキュー隊だった。
 「何だこれは」
 「戦車か」
 「こんなに分厚い装甲があるならガンダム塗装にして、バンダイから売り出せ」

281 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/05/25(日) 10:25:43.19 ID:XDJgUvRc
 彼らはリムジンの防弾装甲を見て一様に驚いたが、レスキュー業務としては曲がったドアからの救助と言うだけであり普通の消防隊でも十分だったと言われた。
 それでも十分間時間がかかった。リムジンはもう走れないから文句を言うのはお門違いだが、ドアは引っ剥がされ床に派手な音を立てて転がった。
 犬田と権は失禁している以外、外傷はなかったが。
 「ようし、容疑者を確保したぞ」と警官の一人が言った。
 「え?」と馬渕。目が点になった。
 「警視庁名物、かごめかごめだ、みんな囲め」わらわらと制服警官がこれでもかこれでもかと集まってきた。
 「よっしゃー」
 「それそれ」
 「おらおら」
 かーごめかごめ、かごのなかのようぎしゃは、いついつでやる、よあけのばんに、つるとかめがしゃべった、
うしろのしょうめんだーれ。
 超がつくほど陰気な歌が歌われた。
 これで後ろの正面の警官のフルネームを当てられると釈放されるのだ。しかし、過去それが出来たものはいない。
「診察する」と言う名目で馬淵の目の前から二人は担架で連行されて行った。

282 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/05/25(日) 20:45:30.89 ID:XDJgUvRc
 馬淵は取調室に連れて行かれた。俺が襲撃した訳でもないのだから取り調べはおかしいと抗議すると、取り調べではなく事情聴取で、これほどの事件では当然のことであり任意なので拒否もできるが、
その場合は後であの時協力しておけばよかったと思っても遅いと脅された。
 馬淵にしてみれば早く春菜がいる現場に戻りたかった。これまでのいきさつから彼ら二人、馬淵と春菜がいて初めて親衛隊は威力を発揮することが分かって来た。
 今は権がいない状態なのだから親衛隊では馬淵が最先任と言う事になる。ここで時間を取られる訳にはいかない。
 しかし、ここで脱出するのは簡単だが、犬田や権田が取り調べられたら何をしゃべりだすかは分からない。早い事もらい下げないととんでもない事になる可能性が大だ。
 「それで、襲ってきたのは誰なんだ」
 「分かりません、チャイナマンのお面をかぶっていたようでした」
 「十人前後いたようだな、ところで学会は今日はどう言った事であの戦車かガンダムか分からんリムジンを乗り回していたんだ」
 「今日は犬田先生の退院の日でして、それで大幹部の権田さんが迎えに行った帰りでした」
 「ほう、そこを襲われた訳だな……」
 「はい」
 「ところで襲撃してきた側もどう言う訳だか射殺されて倒れとったな、やったのはお前らか?」
 痛いところを突いてきた。はいそうですはまずい。いいえ違いますは嘘だし、では誰がやったになるに決まっている。
それは、その『誰か』を探さなければならないと言うロジックになり品野町を捜索する絶好の名目を与える事になってしまう。

283 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/05/25(日) 20:51:34.81 ID:XDJgUvRc
 「それは分からないんですよ、私が出て来た時は騒ぎが終わりかけたころでして」
 それはちょっと誇張だが、まるきりの嘘ではなかった。春菜と二人でコーラとお茶の中間点を模索して
今日は三ツ矢サイダーを飲みながら武器調達の打ち合わせをしていたら銃声が聞こえて来たと言うのが真実なのだ。
 「ほう、なら誰なら知っている?」取調官の目つきが変わる。
 「いや、そこらはちょっと……」
 「ほう、お前責任者なんだろう?」
 「あの場では一番偉いだけでして」
 「まあ責任者にしては若いなとはわしも思ったよ、横にいたのが嫁さんか?」
 「いや、それは……」まだ嫁さんではない。
 「ふむ、それで、ここは重要だから嘘はなしだぞ、逃げた犯人もいるんだな?」
 「はい、それは確かです」
 「目撃情報では幼稚園バスに乗って逃げたらしいな? ショッカーか」
 ショッカーは違う。自分の死神博士と言う二つ名は名乗るとややこしくなるだけだろう。それに「なぜそう呼ばれるようになったのか」と言う問いに対して
「貪理壊滅作戦の作戦を立てたから」と言う答えは超まずい。あの作戦では一万人以上死んでいる。
 「それはあいつらに言ってください」と馬淵は無難に返した。しかしなんとなくショッカーは幼稚園バスを
乗っ取ったりしていなったような気がした。(仮面ライダー・ショッカー篇では幼稚園バスを乗っ取る作戦はない)
 「あいつら? 知り合いか?」
 またちょっとしたフェイントをかけて来た。
 「いいえ……」

284 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/05/26(月) 06:35:59.53 ID:ZPRTdcMn
 馬淵は、証拠は全くなかったものの襲って来たのは貪理ではないかと思っていた。幸福の錬金術は小川を人質に取られていた。
取り返すための行動としては今朝の襲撃はちょっとおかしい。チャイナマンだとは考えられなかった。奴は一人だし、もっと冷静だ。
道でひと塊りになって銃を乱射すると言うのは彼の戦術とは違うような気がする。
 しかしそれらはすべて彼の想像だった。そしてそれをしゃべるのは極めてまずい。
 「知り合いな訳ないじゃないですか、何を馬鹿な」
 「ふん、それで?」
 「幼稚園バスは、そうらしいです。部下から報告がありました。誰だかは知りませんがこっちは被害者、大迷惑です。死傷者も出ています。死傷者も出ていると言えば先生たちは?」
 「警察病院だ。気の毒にな、病院から病院へと渡り歩く事になった訳だ」
 「そんな!」
 「二三日検査入院らしいよ、またその方がいいだろう。あそこは機動隊が四六時中ガードする事になっている。また犯人が襲ってきたらどうする? お得意の装甲車で反撃するか」
 皮肉めかしているが馬淵の返答は録音されているに決まっている。事情聴取だが実質は取り調べ、答え一つがどう転ぶか分からない。
 「そんな事にならないよう祈ってますよ、貪理と言い幸福の錬金術と言いうちといい、宗教団体は軒並みやられてる。警察は事件の間は何もしないで、
こうやって後から来て質問するだけ、ああ、警察の旦那がうらやましい」
 「なんだとこら」
 取調官は一応挑発に乗るポーズは取ったが、すぐに質問に戻った。
 「恨みを買ってるようだな」
 「それは一介の現場責任者の立場ではどうこうは言えません、広報を通して下さい」
 「こっちが聞いてるのはそんな表向きの事じゃない」
 「裏でもそうですよ、それに世間じゃチャイナマンが暴れまわっている」
 本当は暴れまわっているのは学会なのだがそれは言えない。その意味ではチャイナマンは便利と言えなくはない。

285 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/05/26(月) 21:49:37.70 ID:ZPRTdcMn
 「チャイナマンは何者だ」
 「こっちが知りたいですよ」
 馬淵はふと、今まで考えた事もなかったがチャイナマンが警察のイヌと言う可能性を考えてみた。
 しかしその可能性は低い。貪理の件はともかく幸福の錬金術の総本部の玄関から出て来た一件が説明できない。
 警察のイヌだとすると、ブレザーの件はなんとなく説明がつくような気がするものの、じっと幸福の錬金術の総本部に隠れていてあの時出て来たというのは妙だ。出てくるならもっといいタイミングはあった。
 やはりチャイナマンが外部から武器を搬入したと言う二号車の車長の観察が正しい。だとすると警察のイヌはおかしい。
 「それはそうと、今日犬田が退院する事はどの程度知られていた? 誰でも知っていたレベルか」取調べは続く。
 「それは本部では今日だと言う事は皆知っていました。少なくとも秘密ではありませんでした。病院の事もありますから秘密には、完全な秘密には出来なかったと思います」
 「そうか、銃の話に戻るが撃ちあいがあった事は分かっている。さっき見たら総本部の前の道には9ミリ拳銃弾の物と思われる空薬きょうがたくさん転がっていた。どうせウージーだろう。違うか」
 「さあ? 道には落し物がよくあります」
 また痛いところを突いて来た。
 「まあいい、がさ入れ出来る訳じゃなし、しばらく待ってろ」

286 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/05/26(月) 21:51:07.69 ID:ZPRTdcMn
 言われたとおりにしばらく待っていると、がちゃっとドアが開き、太田首相が入って来た。
 これにはびっくりした。向こうもびっくりした様子でちょっと先ほどの取り調べ官とやり取りがあった。
 「あー君が現場の責任者かね」
 「そうです」
 馬淵は最初の驚きが過ぎると太田が警官出身なのを思い出した。これは一難去ってまた一難と言う奴ではないか? 
 「犬田先生が襲われたそうだね」
 「そうです」
 「状況を説明してくれたまえ」
 「それが、私は現場には銃声を聞いて後から行ったのですが、何でもチャイナマンのお面をつけた男たちがマシンガンで襲って来たと言う事でした。しかし、犬田の専用リムジンは防弾でして、敵は幼稚園バスを奪って逃げました」
 「ほう? そうか」
 太田は取り調べ官ではないから突っ込んではこなかった。
 馬渕は、ここぞとばかり先ほどの主張を繰り返しながら太田の表情を読んだ。無表情だった。
 太田の回答はこうであった。
 警察=政府としては、証拠も無く宗教団体を弾圧するようなことは無い。
 「ただし……」
 「は」
 「これは貪理で捕らえた男らが正式に逮捕の運びになりそうだから言うが、彼らが主張するかのように生華学会が何かの悪行に手を出しているとするなら、警察は黙って見ているなどと言う事はない。
 オウム事件もそうだったように、法の華三法行のように、悪い宗教団体は必ずそれなりに行き詰る」
 「うっ」これは馬渕には「死の宣告」だった。
 つまり太田は「やる」と言っているのだ。
 「御苦労さん、帰っていいぞ」

287 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/05/26(月) 22:16:50.13 ID:ZPRTdcMn
 太田は、韓国行きを中止にさせた今回の事件を怒ってはいなかった。
 なにしろ、犬田の身柄を押さえることに成功したのだ。それも向こうの方から飛び込んでくる形でだ。昨夜の件といい、ほくほくだ。
 太田は韓国の大統領には国際電話を入れ、国内事情がまたも悪化したと詫びを入れた。向こうは明らかに怒っていたが、しかし「それでも来い」とは言わなかった。

 実は、韓国大統領の金は太田の妻、貞子を大いに恐れていた。いや、韓国では大統領以下偉い人々はみな恐れていた。背筋が凍るかと言うぐらい恐れていた。夜、寝小便をした経験がある者さえいた。
 実はこの前の太田夫妻の訪韓時、よせばいいのに韓国側のSPの一人が「柔道が得意なファーストレディのお手並みを見たい」と言ってしまったのだった。
 では十分の一貞子パンチを見せると彼女は言った。生きている牛を連れてくるように。
 まったくこのSPは怖いもの知らずで、自分が受けて見せると言った。行きがかり上であるとはいえ国家の威信がこのSPにかかる格好になってしまった。
 貞子は体調が悪かった事もあって、有無を言わさず一撃した、「十分の一貞子パンチ」を韓国首脳ら総出の前で出した。
 SPは香港のワイヤーアクションのように壁まで吹っ飛んだが、笑顔で立ち上がり一礼して退出した。
 それを見た貞子は「驚いたわ」と言ったが、顔色が青いを通り越して真っ白の女性通訳の訳は違っていた。
 震えた声で彼女は通訳した。意訳だった。
 「十分の一貞子パンチを受けて生きている人間は初めて見た」
 それからというもの、彼らは「貞子パンチは鉄をも砕く」と噂したが、それは事実だった。そして空港まで送った金大統領に太田が言った言葉は衝撃的だった。

288 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/05/26(月) 22:17:39.55 ID:ZPRTdcMn
 「あのSPは大丈夫ですか」と太田。
 「大丈夫です、元気です」金はにこやかに言ったのだった。まさか搬送先の病院で死んだとは言えなかった。
 「それはよかった。心配していたのです。実は……」
 「なんでしょうか」
 「あの「十分の一貞子パンチ」は実は本当の十分の一ではなく、彼女の体調が悪かったために二十分の一にすら達してはいなかったので大丈夫だったのでしょう。本気を出したら……いや、それは私だけが知っていればいい秘密なのです、さよなら」

289 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/05/27(火) 18:08:09.47 ID:oySjq8Ki
 韓国では勇気のある、国威を守ったSPの葬儀が国葬級で行われた。そしてこの次に太田夫妻が来た時にはどうなる事かと恐れていたのだ。
 何しろ貞子パンチは二十分の一以下で人間が壁まで吹っ飛んで死ぬのだ。そしてその夫だ。いざとなったら夫婦でどんな技を繰り出してくるか分からない。
 すぐに太田が空手をやっていたと言う情報が入ってきていた。若いころは地方の警察で水泳を子供に教えていたとの情報も入ってきていたが、
それは古式泳法で泳ぎながらニューナンブで犯人を射殺する訓練を子供コマンドに授けていたとか、空手で暴れ牛を殺している所を貞子に見初められたのが馴れ初めだとかとんでもない噂が入ってきていた。
 さらに、「貞子が来た夜」の話が伝わってきて、彼らをびびらせた。これはまだ貞子が婦人警官だったころの逸話だが、実話であり警察伝説としては有名な話であった。
 日本大使が面白がってこんなガセをつかませた。
 実は北海道を視察中、凶暴なヒグマ三頭に太田夫妻は襲われたことがあるが太田が一頭、貞子が二頭殺した。素手でだ。
 しかし、それは狩猟法に触れる上、動物愛護の観点からもまずいため秘密にされていると。
 こんなの確認のしようがないため、韓国上層部はそれも信じ込んだ。
 噂が噂を呼んでいた。無限弾の拳銃を所持しているらしいとか、いやいや地上最強のライフルを愛用しているが夫に人道上の理由で使用を制限されているとか、軍隊に襲撃され、
逆にお前たちを全員殺すと宣言しただ一人でそのようになしたとか、そんな話が伝わってきた。そこに今回の事件である。
 街が一つ吹っ飛んで一万人死んだとか、戦車が暴れまわっているとか言う話が入ってきていた。実際は装甲車だがそんな細かい差異は韓国人には分からない。暴れまわっているは事実なのだから。
 そしてチャイナマンのうわさも入ってきていた。一人軍隊のヒーローがいて人は彼を最後の希望と呼んでいると。
 それで気が立っている貞子が本気の貞子パンチを出したらどうなるか、韓国首脳部の誰にも分からなかった。
 彼らは、出来るなら北朝鮮に行ってもらいたいと思ったが、そんな訪問先の変更など出来る筈もなかった。
 第一、北も噂を聞いて震えあがっており、太田夫妻が来たらピョンヤンから偉いさんが我先に逃げるに違いなかった。

290 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/05/28(水) 06:56:26.41 ID:OjQdI/QA
 太田は警視庁で直接情報収集に当たる事にしたのだった。
 なにしろ官邸で会議ばかりしていたのでは情報が入って来るまでに何段階も官僚的段階を経過するため時間がかかりすぎる。
NHKを見ていた方が早く情報が入る事がままある。
 収穫はあった。今の男は生華学会の相当下のほうの担当者らしいが、そこに直に吹き込みを入れることが出来た。
 士気の問題もあった。
 今回の犯人の武器はHKMP5Kだ。ドイツのヘッケラーコッホ社の短機関銃だ。特殊部隊用である。こいつは短い全長が特徴で9ミリ弾を連射できる。
一般の警官はニューナンブしか持っていない。この差は精神や射撃の腕では埋められなかった。
 つまり、この犯人と直接対決する時には警察は必ず負けると言うのが結論なのだ。そんな馬鹿な話はない。
 早くこの事態を収拾できなければ治安と言う物が根底から崩れかねない。
 今はとにかく、このままでは各宗教が完全に独立した武装勢力になってしまう。皮肉な事にそれを阻止してくれているのは警察ではなくチャイナマンだ。
 今回もそうで結果的にはチャイナマンの襲撃によって犬田は捕まった。
 太田のチャイナマン生華学会説はまだ生きている。今回のチャイナマンはどうも別人、別チームのようだ。
 人数と言う点もそうだし、襲撃の首尾を見ても前の二回は高度な軍事的訓練を思わせるのに今回はどうも素人的だ。
 「偽チャイナマンか」太田は呟いた。

291 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/05/28(水) 07:00:24.72 ID:OjQdI/QA
 相次ぐ事件に警察も対応は急いでいた。今は主装備は拳銃だけしかないが、急遽HKMP5A2サブマシンガンを千丁、メーカー(ドイツのへっケラー&コッホ社)に発注した。
すでにSATなどが装備している実績がある銃である。
 千と言っても日本の全警察で千だからそれほど大量ではないがそれでも前進だ。年度の途中だから緊急に政府の予備費から支出せざるを得なかった。
来年度まで発注を待っていたのでは銃が手元に届くのは来年の半ばになってしまう。それから訓練するのでは遅すぎる。到底今進行中の事件に間に合わない。
 さらに、それが到着するまでのつなぎとして、在日米軍から同型のHKMP5A2を50丁、東京警視庁のSP用に貸与してもらうと言う事にした。来日する国賓の警備を強化すると言う名目で、事実上かつあげだった。
貸与と言ってもいつ返せるのか分からないからだ。
 次に、ニューナンブ用の38スペシャル弾、9ミリ拳銃弾、SATの装備する狙撃銃の弾丸などを各警察署に計画的に備蓄すると言う事にした。事件が起こってから警察本部に取りに行ったのでは間に合わないからだ。
 また、東京都に限ってだが桜田門にある警視庁庁舎は特に出撃基地であり本部の要塞と言う位置づけが行われていた。
 もちろん、桜田門にあるここに全てがある訳ではない。ここから全員がパトカーに乗って行くなんて事はない。
 例えば都内の各拠点にSATは分散していた。これは「出撃基地であり本部の要塞」と言うのは建前であり実際には装甲車の前には早期に桜田門の警視庁の庁舎は陥落すると言うシビアな現実を幹部らが認めていたからだった。
 ただ、警視庁には特に大量の弾薬が用意されていると言う事はあった。特に9ミリ拳銃弾は太田首相の命令で東部方面自衛隊から直接警視庁に十万発も持ち込まれる事になっていた。
 これは威嚇の意図があった。警察も武装を強化しているぞと言う事を知らしめると言う事で、それが秘密の取引みたいに郊外の拠点でやったのでは効果が薄かった。警視庁に自衛隊のトラックで弾薬が持ち込まれる事で
戦争が起こるかのような緊張感を演出しないと、駄目だったのである。
 

292 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/05/29(木) 07:02:38.31 ID:NRfkXogz
 馬淵が品野町に帰り着いた時にはもう正午近い時間になっていた。
 春菜が明らかにほっとした表情で駆け寄って来た。
 「お帰りなさいのチューは?」
 はるかが言う。安藤が横で眺めている。
 「いやいや、それどころでは」と馬淵は言った。
 幹部連中は皆逃げていない。
 組織が落ち目となると人間はこうなのだ。
 それに機動隊はまだいて、品野町は占領されたようだった。
 流石に死体は片付いていたが、鑑識もまだいた。
 「犬田先生は当分帰ってこないらしい、困ったことになったぞ」
 「権田さんもか?」と鰻原。
 「ああ……」
 「まずいですね」春菜が言った。
 「うむ、しかし、明日の武器購入は外せない。俺たちだけでやるしかない」と馬淵。
 「そうなると、おまえら二人だけ?」と安藤が言った。
 大きな取引だが、馬渕と春菜がやるしかなかった。

293 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/05/29(木) 07:04:11.04 ID:NRfkXogz
 チャイナマンが犬田を襲ったと言うニュースを涙田が知ったのは午後三時だった。
 ええっと言う感じだった。ベンツのラジオはそれ以上詳しくは説明してくれなかった。
 会社に帰ると、例によって綾子が説明してくれた。
 「襲撃者の数は十名、武器はヘッケラーコッホのMP5Kらしいわ」
 涙田は綾子がチャイナマンと言わず襲撃者と言った事に気がついた。MP5Kは知っていた。特殊部隊仕様の全長の短い銃である。
もちろんこれを含めて短機関銃は銃砲店では売っていない。特殊な裏ルートで手に入れたに違いない。
 「ラジオではチャイナマンだと」
 「彼は一人しかいないわ、それにこれは相当素人くさいわ。武器のチョイスも含めて」
 「はあ……」
 MP5Kは9ミリ弾を使用する短機関銃だ。相手が防弾の車に乗っている事ぐらい予想できる事態だから適当な装備かどうかは疑問だ。
むしろ手に入るならバズーカなどの対戦車兵器があるとベストだ。もちろん、護衛との銃撃戦が予想されるから十人全員対戦車兵器では王手をかける前にやられてしまう。
 しかし、そんな細部はともかく、襲撃者は誰なのか? 
 今回の事件はお面さえあれば誰でもチャイナマンになれることをはっきりと示した。カンのいい一部の人間(たとえば綾子)はこれがチャイナマンではない、あるいは少なくとも真実のチャイナマンではない可能性があると言う事に気が付いているだろう。
 しかし、現実的には大部分の人間がチャイナマンが来たと思っている。
 はっきり違うぞと言えるのは涙田一人だしそんな事を言える訳がない。
 ……まあ、なんにせよ、これで学会の崩壊も一段と進むだろう
 その涙田の見通しは甘かった。彼はすぐにそれを思い知らされることになる。
 

294 :21point:2014/05/29(木) 08:13:42.39 ID:EHVfmcRN
シカゴ郊外のある村に、村長マジックは村民100人を集めて、月10%の配当を約束し、1人1万ドルずつを集めました。

村長マジックは集めた100万ドルを商品先物投資に投じ、村民一人一人に自分の頭像付きの十字架を配って、
シカゴ商品先物取引所の立会い時間に家で十字架に向って祈りを要請した。
祈り経文は「マジック必勝!」「○○上がる」「●●下がる」、○○、●●は村長マジックの売買ポジションによって、時々変わる。

村民の強い祈りの元に大胆に売買し、百戦九十五勝の確率で月々資金倍増。
ところが複利運用の言い訳で、お約束した配当は一度も行われなかった。
村民アップルは嫌な予感をして、自ら取引口座を作った。

村長マジックと反対の売買をし、祈り経文は「マジック必敗!」「○○下がる」「●●上がる」に変えた。
相場はアップルの祈った通りに動いて、数倍の利益を上げた。村長マジックは大敗して村から姿を消した。

http://ameblo.jp/21point/entry-11863100455.html

295 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/05/30(金) 07:44:37.89 ID:Q5cFhKAf
 12月 犬田襲撃の翌日 火曜日
 馬淵はゆりかもめの船の科学館駅で降りた。お供は春菜だけだ。
 こう言う任務にはどかどか大人数で行っても仕方がなかった。大幹部の誰とも連絡が取れないと言う異常事態は続いていたがそれも彼らの立場になって考えれば当然であった。
 犬田は死んではいない。後で責任を取らされる事になるのは誰もがいやなのだ。
 それに、警察に逮捕されるのもいやだし、誰だか分からないヒットマンに狙われるのもいやなのだ。
 二人はどちらからともなく手をつないでゆりかもめ沿いに少し歩いた。水と緑のプロムナードに来た。そこはクリスマスの飾りつけできれいだったが人影はまばらだった。
 「もうすぐクリスマスですね」春菜は言った。
 「学会が天下を取ったらクリスマスはなくなるんだ。あれはキリスト教起源だからね」
 馬淵は少し考えてからまた言った。
 「夏祭りもなくなるだろう。そう言う物が全てなくなって生華学会の世界が来る。信じられるか」
 「私が信じているのは馬淵さんだけです。あなたの強さを信じています」春菜は強く言った。
 「俺はそんなに強くはない。作戦を考えるだけだ、春菜はそれを具体化するための情報集めと、さらにそれを具体化するための作戦指揮をする。俺たちは二人いて初めて強くなれる」
 馬淵はそう言い、ちらりと時計を見た。少し早くに着いた。

296 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/05/30(金) 07:45:57.26 ID:Q5cFhKAf
 目的の噴水広場に問題の人物はすでに来ていた。ハトに餌をやっている。彼の名前はチャン・リーと言い中国人の武器商人だった。怪しさ満載の男だったが困った事にもはや学会にはまともな(?)武器商人は寄って来なくなっていた。
 チャン・リーの恰好はまさに怪しい中国人そのものだった。チャイナ服で丸ぶちのサングラスをしている。どう見ても中国雑技団から脱走して来たかのように見える。
 「お名前は、チャンさんでよろしいか、それともリーさんですか」と馬淵。
 「どちらでもいいあるよ」が答えであった。
 「は?」
 「私、こういう商売、チャン言う名前も使いました。リー言う名前も使いました。いつの間にか混ざってしまったあるよ。日本名もあるけどそれは公共の場では名乗れない名前ある」
 「どんな名前なんですか、良かったら聞かせて下さい」と春菜が言った。
 「変態人間おまんこ君ある」
 「えっ、本当にそんな名前だったんですか」と馬淵、春菜も目を丸くしている。
 「んなわきゃねえだろうが!」チャン・リーは流暢な日本語で怒鳴った。この声にハトが飛び立っていった。
 「私は馬淵、こちらは近藤です」と馬淵はあわてて自己紹介した。
 「夫婦かと思ったあるよ。それで武器の話ね」
 「とりあえず、何があるんですか」
 「何でも、核兵器はないが」商談に入ると怪しい中国人しゃべりはかなぐり捨てて標準語に戻すあたりが只者ではないところを物語っている。
 「さしあたって、ライフルが欲しい」

297 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/05/30(金) 18:58:19.48 ID:Q5cFhKAf
 「一口でライフルと言ってもいろいろだが、聞くところによると学会の主力装備はウージーらしいな。それに代わる突撃銃が欲しいのか」
 「そうです、数は最低でも千はいる。それも納期も来年とかでは困る」
 「数が少なくてもいいのならステアーAUGが百丁以上あるが、納期が急ぐのは困ったな。時間がかかってもいいなら北朝鮮製のカラシニコフが手に入る。
 それは安いぞ」
 「品質的に大丈夫じゃないでしょう」
 「それはある、生産管理が出来ない状態で、だから安い。誰も買わないから、安い。
 この間北朝鮮に行ったら兵隊が射撃訓練していて、遊底が爆音とともに吹っ飛んでいた。カラシニコフで遊底が吹っ飛ぶなんて事故は初めて見たし、ありえない事故だ」
 「ちなみに、その事故で操作していた兵はどうなりました」
 「死んだよ、ある意味当然だが。弾薬の方に問題があったのかもしれん」
 「それはいくらなんでも駄目だ。他はないんですか」
 「中古になってしまうが、M16A1が三千ならすぐに手に入る。A2との転換で余った奴で、状態は良好だ。中にはほとんど撃ってない新品同様の奴もある」
 M16のバージョンについての詳細な説明は割愛するが無印のM16とM16A1とM16A2は全く別の銃である。M16を改造したらM16A1になりましたと言うものではない。従って、銃の在庫が昔は膨大な量、米軍の倉庫に存在した。
 「どんな管理してたんですか」古い銃の中には錆びているような奴があるのではないかと馬渕は恐れた。
 「どこか本国の後方の大きな倉庫できわめていい加減な管理をしていたらしい。予備兵器の扱いでベトナム戦争のころから保管していて、今回スクラップにするという事でこちらに来た。
 だから全体的な程度は兵器として使用可能な状態を保っている。常識として兵に渡して使う前に検査は必要だがね。
 まだ使える銃をスクラップにするというのもあれだが、検査らしい物も一切なしで業者に丸投げで渡すと言うのも来ている」

298 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/05/30(金) 20:08:00.03 ID:Q5cFhKAf
 「製造番号からの追跡は可能な事になりますね」
 「それは無理だと思うね。確かに部隊にわたって使われていた時の記録は残っているだろうが、そんな管理をしているところが、だぞ。一丁ずつ銃の製造番号の記録をつけていると考える方がおかしい、おそらく数の把握さえしていないだろう。
 こう言っている俺のレベルではその問題の倉庫がどこの何と言う倉庫なのかもわからない。
 つまり手繰ろうとすれば何段階にも分断された迷路のような武器の道をたどる必要がある。まず不可能だ。今世界中で問題になっているのはこう言った武器の止めようのない拡散なんだ」

 冷戦が終わって世界は平和になったはずだった。超大国は戦争をやめた。平和が来るはずだった。
 今はどうだろう、世界は少しでも平和になったと言えるか?
 馬淵は2001年9月11日の夜(日本時間)そびえるビルに旅客機が突っ込むところをリアルタイムで見た。そういう時代に突入したのだった。
 それが現実であった。
 「まあ、話が横道にそれたが他は?」
 「付属品もいる、銃剣、スリング、予備弾倉、弾倉帯、ああ、それから当然弾薬もいります」
 「十万発ぐらいか」
 「五十万発欲しいです、素人兵はどうしても撃ちまくってしまうだろう。撃ち尽くしてから弾薬を発注しても遅い」
 これも古典的な戦場の常識だ。

299 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/05/31(土) 07:49:11.46 ID:qkXjFAvZ
 「なるほど、問題はない。ただ、M16A1は技術的な問題として古い5.56ミリ弾薬に適合している。
 それになるがいいか? ベトナム戦争中の奴ではないから発火に問題はないが古い事は古い」
 「構わない」
 武器の細かい事になると春菜は全くついていけなかった。
 戦闘訓練は受けていたし武器の事は女としては詳しい方に入るがそれでも細かい点になるとお任せするしかない。
 「それで、他には?」
 「マシンガンが欲しい、今でもあるにはあるんだが」と馬淵。
 「それは何だね、もし差し支えなければ教えてくれ」
 「M60だ。米軍の奴だ」
 「ああ、それなら100丁そろえられるよ」
 「本当か、それは都合良いな」
 「そうそう、手りゅう弾はいらないか?」
 「ぜひ欲しいですな」
 「米軍用の奴になるが、これも数はそろえられる」
 「一応聞いておきますがそれも管理のルーズな倉庫からの流出品ですか」
 「そのようだ。こちらにわたってくる時にはどこからかはあまり分からない事が多いんだよ」
 とんとん拍子に話は進んでいく。

300 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/05/31(土) 07:50:10.74 ID:qkXjFAvZ
 拳銃も、なんと、ワルサーP38が手に入るということになった。相応の9ミリ拳銃弾もだ。
 ワルサーに関しては、どうも大戦後かなりの数量が裏に流れたと言う事情があった。
 今になってそう言った武器が「通貨」として流通を始めたのだった。これはインターポールにも防げない事だった。

 「中国製とかが入ってくる事はないんですか、あんたは中国人と言う触れ込みだし、中国は輸出に熱心でしょう」
 「それはもちろんあるよ、ただ今は時期が悪い、チャイナマンに神経をとがらせている。まあ、もともと「チャイナマン」と言う呼称自体が中国人に対して差別的に使われる。
そこへ持ってきて今回の騒ぎだ。チャイナマンがヒーローになって行く事は、日本にたとえて言えば中国で「反日マン」がヒーローとしてもてはやされるようなものだ。しかもこのヒーローは武器を使って暴れている。そんな所へ武器輸出はいかんと言う事になってる」
 「はあ?」
 「まあ、現実には武器がチャイナマンに渡る訳ではないが、これ以上日本国内が乱れてくれるのは困ると言う事もあるな」
 「いやいや、乱れないと言うのはこちらとしては困ります」
 「それで、装甲車がいるんだろう? この間失ったのと全く同じ装甲車があるんだがいるかね」
 「え、それは好都合だ、いります」
 「ああ、でかい買い物としては、巡航ミサイルがあるんだがいらないか」
 「ええっ、そんなものがあるんですか」
 「安くしておくよ」

301 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/05/31(土) 19:00:00.37 ID:qkXjFAvZ
 巡航ミサイルの相場なんて分かりようがなかった。安いかどうかなんて分からない。
 「地上発射タイプの小型の奴だ。通常の軍用トラックから発射できる。発射台も単なるレールだし、最悪の場合は垂直真上発射でもOKだ。威力は相当ある。
小型と言っても炸薬量はかなりの物だし強力な新型爆薬だ。一発で普通のビルなら吹っ飛ぶ」
 馬淵は、爆破工学の経験から「普通のビル」はないと言う事を学んでいた。百のビルがあればそれは一つ一つ違う。何でもいいから大量の爆薬を使って吹き飛ばせと言う貪理の作戦は例外中の例外だ。
 「照準はどうするんです、レーダーですか」
 「それも使えるが、グーグルマップイメージのパソコン画面のマップ上の目標をマウスでクリックするだけで攻撃目標を指定できるシステムもある。
地上の固定目標にしか使えないシステムだが、例えば国会議事堂を吹っ飛ばしたいと思えば一発、いや三発か四発でいける」
 「はあ、いや国会議事堂を爆破するかどうかはちょっと……」
 「あ、そうそう、作戦は秘密だろうね」
 秘密も何も、まだ作戦は立てていない。
 こんな強力な武器が手に入るとは計算外だった。小川もどう利用するか決まっていない段階で今回の襲撃があった。作戦は練り直す必要がある
 しかし、それにしても予想外の収穫だった。

302 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/05/31(土) 19:02:11.88 ID:qkXjFAvZ
 馬淵は値段の交渉から武器の引き渡しまでの取り決めに入った。
全部が終わった後でふとチャン・リーの横を見ると今まで気がつかなかったが大きなトランクがあった。
 「そのトランクにも武器が入ってるんですか」馬淵は気になって聞いてみた。
 「あ、これか、これは違う、表向き俺はアクセの路上販売してることになってるんだ。この恰好もだからそれ用なんだ。
 つまり、俺は「夢」を売ってるんだ」
 「なるほど」と馬淵。死の商人が言うに事欠いて夢を売るとは! とは思ったものの、チャンはまじめにアクセサリーも売っている様子であった。
 チャンはまた別の商売人の表情になった。
 「まあ、なんだ、一つ見るだけ見て行くか? 見るだけならタダだしな。
 噴水の公園まで来たわけだし殺気立った話だけで帰って行くのもその、心に悪かろう」
 アクセサリーと聞いて春菜はがぜん目を輝かした。
 「え、見たいです」
 「ほう、指のサイズ何号かな、お嬢さんの気に入る奴があるかどうか」
 トランクの中には、確かにきれいなアクセサリーが入っていた。
馬淵でさえほうと感心するぐらいこのトランクの中には「夢」がつまっていた。

303 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/06/01(日) 08:59:36.64 ID:dW8zDe1l
 だが、春菜が一番気に入り、馬淵もまた非常に心を惹かれたのは何の飾りもない安っぽいステンレスの指輪だった。
 「これかい、これはステンレスなんだ、普通の指輪を仕入れる事が出来ないほど金に詰まっていた時にプラチナだとか銀だとか嘘言ってだまそうと思って
用意したんだが思いとどまった。そんな時があったと言う事を忘れないようにと並べるだけは並べておいたんだが、これまでこれを欲しいなんて言った客は誰もいなかった」
 「そうかぁ」
 「売ってる方が言うのもなんだがこんなのがいいのかい、飾りもない、きれいに磨いてはあるがステンレスだぜ。」
 「錆びないところがいいよ、強いしな」
 「私も飾りがないのが好き」
 「これ、ペアであるかい? 」馬淵は言った。
 「あるよ、ほら」
 「いくらだ」
 「馬淵さん?」春菜はうれしそうな戸惑いを見せた。
 「五千円でいい」チャン・リーは言った。ステンレスの指輪で五千円は高いのか安いのか、これも馬淵には謎だった。
 ステンレスの指輪は冬の陽光の中でキラキラ光った。馬淵はステンレスは錆びる事はなく硬くて強いから永遠を象徴しているのだと春菜に言い聞かせるように言った。

304 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/06/01(日) 09:00:54.42 ID:dW8zDe1l
 春菜は品野町に帰ってから、はるからに指輪を見せびらかした。
 それは測ったように彼女の指にぴったりだった。馬淵は馬淵で指輪をさっそくはめてアピールした。
 おまえらデートに行っていたのかと皆突っ込んだが巡航ミサイルを買ったと言う話を聞いてみなびっくりした。
 お台場でミサイルの買い付けに成功する奴は生華学会広しと言えどそうそうはおらず、土曜日の件と言い、やはりこのカップルは只者ではないと皆感心した。

 涙田は美雪とコンビニの前でデートしていた。もうすでにワンカップ大関が二つ片付いていた。
 寒くはないがこれは酒がまわってきているからだ。
 「もう一軒行こう」
 「もう一軒コンビニ?」
 「行こうよ、ねえ」
 「しかたないな」

305 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/06/01(日) 09:02:56.15 ID:dW8zDe1l
 コンビニや酒屋の自販機の前で飲むのが一番安い飲み方で、彼女は良くこれをする。
 今はまだ涙田が付いているからいいが誰もいないと凍死の危険性がある危険な飲み方だった。
 実はワンカップ大関はまだ上等なお酒なのだった。これにしている理由は蓋を取れば電子レンジで燗できるからだ。日本酒で一番安い銘柄は関西のコンビニでは鬼ころしという愛知県の酒造会社が出している紙パックの百円の奴(2014年1月現在)が主流だが、
同じく愛知県の酒造メーカーの焼酎の紙パック「ええなも」もありこれも捨てがたい。(これも百円)
 ああ、こんな生活にどっぷりでいいのかと思う涙田だったが、生華学会は大ダメージを受けた事は行動隊の情報ルートからも確認できた。
 犬田は入院が長引く可能性があると涙田は綾子から聞いていた。犬田の息子は警察病院の入院同意書にサインしたが取り調べ等を行わないようにと言う申し入れを弁護士同伴で行った。

 実際には犬田は薬でちょっとぼんやりした状態で聴取したくてもできなかった。また仮にしたとしても法廷で使えないだろう。
 もちろん犬田が投薬されているのは自白薬ではない。良くドラマである自白薬と言う奴は都合よくデフォルメされている。
 確かに自白させやすくする薬はあるがそれを用いたインタビューには特別なテクニックが必要になってくる。
 それでも特別な薬物の影響下にあると人間は誘導された事を何でもしゃべってしまうと言う事は知られており、やってもいない犯罪でも自白してしまう。だからどんなに衝撃的な日本征服計画を犬田がしゃべろうともそれは証拠として使えなかった。
 (作者注、ある種の薬物を投与すればどんな犯罪でも自白させる事が出来ると言うのはほぼ真実のようである。警察の取り調べで自白薬が広く使われる事がないのはこう言うことが原因だと思われる。しゃべらせられるが法廷でそれが維持出来ないのだ)
ああ、それにしても、執筆時期がばれてしまうな

306 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/06/01(日) 17:27:30.16 ID:dW8zDe1l
 権は検査結果は良かったが、一応水曜まで保護観察と言う事になっている。
 行動隊は権が黒幕的存在らしいと言う所まで掴んでいた。綾子の情報網もそれを掴んでいた。
 だから、涙田はのんびり酒に浸るカップル生活を満喫できるのだった。
 もう近所のコンビニには顔を覚えられている。大村パンの同僚は一日でも早く結婚してくれ、そして美雪の寿退職をと望んでいる。
普通ならそれは心暖まるストーリーだがこれは不良パーツの引きとりに近い話だ。人間ハードオフだ。

307 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/06/01(日) 17:28:13.45 ID:dW8zDe1l
 彼女を放り込む病院はもう、あてがあった。
 新いずみ病院と言う和泉市にある精神病院である。彼の実家のある河内長野市からなら車ですぐだ。チャリではきつすぎる。電車はちょっと接続が悪い。
 ただ、ここはアルコールを専門としていて、大阪南部ではここしか女性が入院できるアルコール専門の病院は無い。
 「さあ、行こう」美雪は幾分ろれつの回らない声で言った。最近は飲む物の主流がハードリカーなので酔いが回るのが早い。
 美雪のパンツを洗わなければならないこともあった。失禁したからだ。仕事中意識が混濁した美雪をアパートまでベンツで運んで担ぎあげ、パンツを脱がせて手洗いする時の水の冷たさなんて、
ヒーローが体験する物じゃないと思った。
 それでも、彼女を支えて行かない訳にはいかないだろう。そう涙田は思った。
 二軒目のコンビニでの酒も苦い酒だった。

308 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/06/02(月) 07:44:43.65 ID:auCP2pbJ
 12月 平凡な一日 木曜日
 (作者注:この項目の生活保護についての記述は、すべてを書き終えた今となってはどうかと思うが、逆に生活保護を受けている人全員がクリーンでホワイトかと言われるとそんな断言は出来ない。
 「生活保護=悪ではない」との作者メッセージをはさみ、あえて当初の記述を残す)
 涙田は朝のバス運転が終わると、自分の席に座った。
 今日は静かな一日になるはずだった。

309 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/06/02(月) 07:46:49.30 ID:auCP2pbJ
 もうじき生華学会は崩れ去ってしまうに違いない。そしたら美雪のアル中を何とかしなければならないだろう。
 精神病院への入院が一番近道だ。奈良県にも病院はあるにはあるがアルコールを扱うと言う点では薄いと言わざるを得ない、連れて帰ると言う事になると大阪である。
 大阪南部と言う選択肢になると新いずみ病院あたりが無難な選択かもしれない。それか北部だといくつか候補地となる病院があげられる。新阿武山病院か? 小杉記念病院か? 
 新いずみ病院はやはり女性が入院できると言う点で軍配が上がるだろう。アルコール依存症で入院するからには治療も生活も長い期間をかけないとならないのだから信頼できるところが一番となる。
(作者注、作品中の医療機関名は実在の病院とは関係がなく、本記述は全く架空のものであります。万一この記述で医療機関を訪問される(あるいはされない)場合の結果について免責とさせていただきます)
とにかく北大阪より南大阪の方が都合がよかった。涙田の実家は河内長野に今は存在していたからだ。
 ただ、涙田は松原市出身で、第一中学と言うひねりも何もない名前の中学校を卒業していた。
 高校は父が転勤したため府立に入れなかった。交野市内の共学の私立高校でキリスト教だった。
 そこで大学に行かず自衛隊に行く事になったのはあるきっかけがあったからだった。
 それは今や遠い話、そして行動隊に身を投じる事になったのも今は昔の話だった。

310 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/06/02(月) 17:46:51.00 ID:auCP2pbJ
 「何を考えてるの」
 美雪が話しかけて来た。まだ酒臭くない。これだと普通の娘だ。美人だ。ちょっと太ってる。
 「おとぎ話」言いながら涙田は彼女を愛おしいと思う。
 「聞かせて」
 「昔々、あるところに武装したサンタさんと勤勉なトナカイさんがいました。
 サンタさんは急ぎます。遠くで泣いている子供の声がするからです。
 プレゼントを積んだリヤカーを引いてトナカイさんは必死で走りました。
 二人が子供たちの最後の希望なのでした。
 実は北極にある秘密のおもちゃ工場からプレゼントを運ぶのはサンタさんではなくてトナカイさんなのです。サンタさんは最後に煙突からプレゼントを配る係の単なる乗客なのです。
しかしこの秘密がばれてしまうと彼らは死んでしまい永遠にクリスマスはこなくなってしまうのでした」
 「なんか違う」
 「うん、そう」

311 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/06/02(月) 17:48:37.61 ID:auCP2pbJ
 社長の大村が来た。
 「緊急の配送が入った。涙田、お前しか空いてない」
 「はい」
 「子供収容所にごはんを運んでくれ、車は二号トラックを使え」
 「了解、しかし、緊急の配送とは? それもごはんを?」
 「あそこの炊事場に排泄物がばらまかれた。悪質な嫌がらせだ。それでお昼ごはんが間に合わないとSOSが来た」
 「了解」

 呼んでいるあの声はSOSだ 2号 発進

 涙田は二号トラックで出発した。大村パンはパン会社なのだからこのご飯は商品ではなく社員食堂からの流用品だ。
 そこで今日の社食はパンが出るのだろうと予測ができた。違う場合には商品であるパンの納品を行うのだが相手が子供ではその手が使えない。
 やむを得ないと大村は判断したのだろう。
 子供収容所は文字通りのところだった。付近の住民から迷惑施設と思われていた。

312 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/06/02(月) 17:52:40.78 ID:auCP2pbJ
 多分犯人は近隣住民だろう。その近隣住民にだって子供がいるのではないだろうか? 
 涙田はやるせない気持ちになる。きっと大村もそう思ったに違いない。儲けがあるとは考えられない納品だった。
 子供収容所には偶然か八千代文具のバンが止まっていた。もしかしたらと思っていたらやはりトナカイがいた。
 トナカイ=さおりの話によると、汚しは徹底していた。それ専門の業者を入れるが、もう子供収容所の炊事場は当面使えないだろうと言う事だった。
 しかし、子供に食事をするなとは言えない。対策を打たなければならないがお金は全くめどが立っていないと言う事だった。
 犯人はもう捕まっていた。近所に住む生華学会員だった。流石はと言うのか、この近辺では見かけないバキュームカーまで事前に手を打って用意していた。
そんな用意周到さはどこか他の所で役に立てたらいいのにと思ったが、これが学会のやり方なのだから仕方がない。

 子供収容所の所長はちょっと変わった人で、橋口と言い、ナチマニアだった。
 彼は善人だがヒトラーを尊敬していて「ゲシュタポ女囚収容所」の大ファンで、子供収容所の求人広告にただ一人応募してきたという逸話の持ち主であった。
ゲシュタポでもきっと出世したであろうが、子供収容所でも出世して所長になった。

313 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/06/03(火) 09:10:56.04 ID:wBzgfH6g
 彼の所に涙田は行き、ご飯を持って来たが保温ジャーをどこへ置いたらいいのかと言った。
 「ああ、それは……」橋口は言葉に詰まった。かなりまいった様子だった。
 「食堂に置きましょう」とさおりが言う。彼女は不撓不屈と言う言葉を具現化していた。
 「そうだね、そうしかないね。もうじき食事だから君、待っててくれるか、ご飯を盛りつけたらジャーを返すから」
 食堂までさおりと一緒に保温ジャーを運ぶと、まかないのおばちゃんたちが帰って来た。至急買い求めた食器類を下げていた。
 おかずは、これは寄付されたコロッケだった。
 「寄付、こんなに」と涙田。
 「奇跡だと思うの、わたし」とトナカイが言った。
 「何が」
 「ご飯までの短い時間でなんとかそろったわ、何もかもが、ご飯もおかずも食器も……」
 涙田は彼女の言わんとしている事は分かった。彼はキリスト教についての教育を受けていて
彼女とそんな話をさりげなくしていて、それは美雪が先にいなければと思ったこともあったからだ。

314 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/06/03(火) 09:11:55.10 ID:wBzgfH6g
 イエス・キリストの奇跡と言われている物の中にはわずかな食材で信じられないほど多人数の信者に食事をふるまったと言う物がある。
 最も初期のキリスト教、原始キリスト教研究Tの授業を受けた涙田は、キリスト教成立の背景を理解するには当時の社会を多角的に見る必要がある事を知っていた。
 多人数での会食と言うのは、ありていに言って食に飢えていた当時の人たちを食べ物で(汚い言い方だが)釣っていたイエス・キリストの姿を浮き彫りにする。
 それは聖人でも神の子でもなんでもない、ただの新興宗教の教祖(紀元ゼロ年当時はキリスト教も新興宗教だった)の姿だ。
 そして、それは汚いぞ、インチキだと言う前に、それを色々な角度から見る必要があるのだ。
 後から、時代が過ぎ去ってから非難する事はたやすいが、その当時の視点に立てば、それほど事はたやすくはない。
 他の宗派との争い、ローマの弾圧、色々な困難に直面していただろう。原始キリスト教にとっては飯と言うのは布教の強力な手段だったはずだ。
 そして食事がそろえられたと言うのは、裏読みすればかなりキリストの教えが受け入れられる下地のような物が存在していた事を示唆している。
 新約聖書を批判的、科学的にみるとイエスが生きていたころのキリスト教が金に困っていた事が伺える記述がかなりある。従って、そうした食事はイエスを支持する人がいて、
そうした人々が自主的に用意したと考えるのが自然だ。
 聖書は、それを奇跡と呼んでいるのに過ぎないのであろう

315 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/06/03(火) 09:17:18.31 ID:wBzgfH6g
いわば呼称の問題だ。

 涙田は奇跡は信じなかった。しかし、現実は信じた。現実とは排泄物まみれの炊事場であり、目の前のコロッケとご飯だけのお昼ごはんであり、
それを奇跡であると信じる人が実際にいると言う事であった。その一部に自分自身も組み込まれているのだから否定する方がどうかしている。美雪がアル中であることを否定するのに等しい事だ。
 「学会はひどいな」涙田はそう言葉を絞り出すのが精いっぱいだった。
 学会のひどさ加減だけはやけに現実であった。

316 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/06/03(火) 21:52:33.61 ID:wBzgfH6g
 涙田はキリスト教は信じていなかった。理由はいろいろあった。彼は大阪人であり、筋金入りのリアリストであった。
 もう一つは彼はキリスト教の世界が、理想の社会ではないと言う現実を知っていたからだ。
 彼の受けた原始キリスト教研究Tでは触れられていないがその後、ローマ世界はキリスト教を受け入れ世界宗教としてのキリスト教が成立する。
 この小説はキリスト教のテキストではないから詳細は割愛する。
 そして、キリスト教はとめどもなく腐敗しきっていく。反動で改革運動がおこり新教と旧教に分かれる。
 その結果来たのはキリスト教徒同士が果てしなく血みどろで殺しあう地獄の世界だった。神の愛とか言いながらやっていることはおたがいに殺しあう事だった。
 さらに彼らは外の世界へも進軍しようとし始めた。宣教師とか言うのは実は侵略とワンセットの存在で、宣教と言うのは野蛮人にありがたい神の教えを説くと言う事であった。
それが軍事的野望とワンセットだった。
 今は違うが、それはキリスト教もちょっとは賢くなってきたと言うだけの話に過ぎない。ほぼすべての宗教においてちょっとは賢くなると言う現象は起こっている。
 創価学会は別かもしれないがそれは彼らがそうしたいのだから仕方がない。生華学会はもう完全に時代を逆行していた。止めようもなかった。

317 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/06/03(火) 21:55:09.25 ID:wBzgfH6g
 子供たちは不平不満を言いまくりながらご飯を食べた。
 まかないのおばちゃんが保温ジャーを洗う間に子供らは人海戦隊チャイナマンごっこを始めた。
手書きのお面でチャイナブラックになった子供がヒーローで、泣きそうな子が悪の生華学会役だった。ヒロインは女の子がのりのりで演じた。
 「『やってきたな、チャイナマンよ、だがここがお前の死に場所だ』」
 「『チャイナマン、来ないで、あなたこそが最後の希望なのよ!』」
 「『悪の生華学会め、その子供を放せ』」
 「『ぬはは、子供は放してやろう、だが変身をとけ、永遠にクリスマスの来ない生華学会の世界を拝むがよい』」
 「『くっ、しかたがない』」
 涙田は子供たちの演技力に舌を巻いた。台本を書いたのはトナカイか?
 「『さあ、変身を解いたぞ』」チャイナマンはお面を脱ぐ。
 最後まで見ていたかったがジャーが洗い上がった。

318 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/06/04(水) 06:48:08.39 ID:GU9VX7Yy
 帰り間際、涙田は社長室に呼ばれた。
 「今日の一件だが」と大村。
 「はい」
 「実は町内会で話し合いがもたれた。取り調べによると件の学会員は金は一銭もないとか言ってるらしい。自分はポルシェに乗ってるのに生活保護で、車は友人の奴を借りてるだけだとか言いだしやがる」
 「はあ、学会ではよくある話ですね。しかし、もうそれも終わりでしょう。刑務所行きだし」と涙田。
 「それだ、こやつはどうしても刑務所に行きたかったらしい」
 「は?」意外な話に涙田は秘孔を突かれた北斗の拳のチンピラみたいに口を開けた。
 「生活保護を打ち切られる、たよりの学会はもう機能しておらず、こいつは刑務所に行きたかった。
 どうしても、何が何でも働きたくない、それでこんな事をしでかしたらしい」
 「え、ええ?」
 「学会にはいるんだよ。本当に働かないで生活保護で生きて行きたいと言う人間が……
それはそれぞれに事情があるから生活保護を受ける事そのものは全く悪くないが、生活保護を切られるから刑務所に行きたいと言う事は全くの間違いだし、そのために子供のための施設の炊事場に糞尿をぶち込むのは犯罪だ。
 まさに奴の望み通りになった。やりきれないのはその点だ。今奴は警察の檻の中でムショに行く事になるがそれは奴の望んだ事なんだ」

319 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/06/04(水) 06:50:43.75 ID:GU9VX7Yy
 「それは……そいつには家族はいないんですか」唖然としながら涙田は言った。
 「いる、妻は半狂乱だ、それはそうだろう。やっと夫が改心して働くと思った矢先にこの状態だからな。
 それで、子供はどこに行くと思う? 子供収容所だ。いじめられないと良いが」
 涙田の心の中にも絵が浮かんだ。
 「それで、八千代文具の社長が一大決心をして百万円の寄付を子供収容所にした。わが社はご飯の炊き出しを行う。
 炊飯は子供収容所の賄いのおばちゃんたちがして米は町内会の寄付だ。今米櫃にある分は全部駄目だからな。
 そんな所は完璧にしてのけるんだから、俺には犯人の気持ちが分からない」
 「はい」
 「今は寒いから子供には温かい飯がどうしても必要だ、八千代の社長はそうおっしゃった。それには町内会の全員が拍手をした。パンは万能ではない事はパン屋として認めたくはないが真実だ」
 「はっ」
 「だからご飯はお前と八千代文具の担当者が当分は分担して運ぶしかない、昼はお前で朝夕は八千代が分担する。賄いのおばちゃんたちは自転車で来るからご飯まで持って帰るのは無理だ」

320 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/06/04(水) 06:54:25.52 ID:GU9VX7Yy
 八千代文具の社長は熱心なキリスト教徒だと言う事は聞いた事があった。カトリックなのかプロテスタントなのか……お金持なのかもしれないが、今聞いた話でぽんと百万円は大した決心であった。
 大村の決意もそうであった。全く知らない子供のために自社の社員食堂の設備を使うのだ。やりくりすれば飯は何とか自社の分を合わせ4回炊けるが光熱費などは持ち出しに決まっている。
町内会だって本当はかつかつの予算で成り立っている。
 生華学会とこの人たちとの差は何なのか、涙田には分からない。
 宗教的バックボーンではない。生華学会の大多数は仏教を信仰しているだけの無害な人だろう。全員が子供の施設に糞尿をぶち込んでやろうと企んでいるなんて事はあり得ない。
 大村は共産主義者だ。社長が共産主義と言うのは矛盾も甚だしいが、とにかくそうなのだ。町内会のメンバーは宗教はバラバラだろう。涙田自身はキリスト教への理解はあったが信者ではない。
トナカイは敬虔なキリスト教徒だ。

 自分は命がけで戦った。それは確かで現実の事だがどこか遠い所でではなかったか、涙田はそう思った。
 この街で現実に「奴ら」はまさに今、仕掛けて来た。
 「奴ら」は何なのか、そう、そこだ。今考えたように生華学会の大多数は仏教を信仰しているだけの無害な人だ。
 涙田はまた、今度はトナカイの事を思った。涙田はさっきのでたらめな話を思い返してみる。トナカイはずっと子供たちのために頑張っている、
 これは無視できない現実だ。鞭でしばかれながらそりを引っ張っている。鞭でしばくという描写が今はないのは動物愛護団体の抗議があるからだが、
そう、ロジカルに考えるとプレゼントを運んでくるのはトナカイさんなのだ。
 (しばく=大阪・関西弁で(鞭などで)殴ること。素手で殴る、を主として意味する「どつく」とはやや違う意味である)

321 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/06/04(水) 17:59:43.38 ID:GU9VX7Yy
 真実の英雄って何だろうか、自分はかっこいいヒーローになったつもりで浮かれていなかったと言えるか? 
本当にえらいのはトナカイのような、世のため人のため、子供のためにけっして目立たないが頑張る存在ではないのか。
 そう、誰でもがチャイナマンになれると言う事が今度の品野町事件で分かって来た。逆説的に言えば自分はお面をかぶって
ヒーローになったつもりになっていただけの、ただの(?)高度な戦闘訓練を受けた戦闘員だ。
 自分の席に戻ると、美雪がいた。口が酒臭い。多分ウイスキーのポケット瓶をトイレで一気飲みすると言う困った裏技を使ったのだろう。
 「何だったの」
 「うん、コンビニの前で話すよ」
 涙田は思った。
 そう、誰かがチャイナマンを代わりにやってくれて生華学会が壊滅すると言う考えは甘すぎた。現実は厳しい。
 今日も寒い夜になりそうだった。

322 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/06/04(水) 18:33:37.49 ID:GU9VX7Yy
 その頃、橋口は、厳しい現実を噛みしめていた。
 彼は若い頃、酒とドラッグにはまり、やはりナチを崇拝したからナチの軍帽をかぶり勲章をつけて「とう、ナチスマンだ」と言って変身した。
そしてかぎ十字のスプレー落書きを兵庫県加古川市でしていた。
 加古川は関西でも比較的のんびりタウンであった。
 その頃はまだ「校門の前に生首が転がっている」事件の前であったから人目はひかなかったが、その事がかえって彼を傷つけた。
 彼はその事の救いを「創価学会」に求めた。
 しかし、橋口が見たのは、すさまじいまでの三代会長、池田大作への個人崇拝のありようであった。
 当時は、「池田本仏論」が本気で信じられていた事もあって、特に関西では個人崇拝の度合いは激しかった。
 ナチスよりもひどい、と感じた橋口は酒とドラッグと「創価学会」を絶つと、この地へ流れてきて「子供収容所」の求人に応募したのであった。
 「だが……」
 橋口は自戒のために読むようにしている「アンネの日記」を、今日も読むことにしようと思った。
 「ナチスマンはもう二度と現れない。そうとも……ナチは罪もないユダヤ人を虐殺した。生華学会と同じだ。生華学会と同じになってはならないんだ!」
 彼は数分後、本も排泄物まみれになっていることを発見した。
 今日も寒い夜になりそうだった。

323 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/06/05(木) 06:53:21.47 ID:73hcF/GC
 12月 ある一日 月曜日
 幸福の錬金術 総本部。
 「これはなんですか」
 英会話の会話例のような不自然な疑問文を長島副本部長は発した。
 「いや、あの、その……」
 彼らの総裁、小川降法が誘拐されてから9日が経過している。今までは何とか誤魔化してきたがもう限界に達しかけてきていた。
 「総裁自らの命令書のようでして」と秘書の澤田治夫が言った。まだ若いやり手の男で野心家だった。秘書と言う事になってはいるが小川には
もう総裁として命令を発するような能力はなかった。だから彼の仕事は小川の権威を取り繕う事であった。
 したがって今の状況下では全く失脚するはずだがこの「印籠」を最大限利用しようと言う腹は見え見えであった。それが長島には気に入らない。
 「チャイナマンがすべて悪いから彼の首に賞金を懸けるだって?」
 「そう書いてあります」
 「生華学会への攻撃は全てやめる」
 「はい」
 「そんな命令が聞ける訳がないだろう」長島は言った。
 沈黙があった。
 もう一人の副本部長、水井修二郎が思案しながら言った。
 「これは本物なのかどうか、ですよね。何者なのかは分からないが、いたずら的にやっているのかも知れません。
 慎重にするべきです。筆跡鑑定はどうでしょう」
 「昨日の時点でさせましたが本人の物のようです」と澤田、そこはぬかりはない。

324 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/06/05(木) 06:54:30.16 ID:73hcF/GC
 「賞金の額は?」と長島は聞いてみた。
 「その紙に書いてある通りです。十億円です」
 「大金だな」と長島は投げやりに言った。
 「そうですよ、そんな金なんか出せない。第一、どうやって首実験をするんですか? お面は誰でも使える事は品野町事件で立証されてる」と水井。
 「では、どうあってもこの総裁のご命令には従えないと?」
 「あたりまえだ」
 「当然だろう澤田君」
 「やむをえません、あなた方を逮捕します、総裁に対する反逆の容疑でです」
 ドアが開き、澤田の息のかかった本部員らが銃を構えて入って来た。

325 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/06/05(木) 06:55:53.38 ID:73hcF/GC
 太田首相はあっけにとられた。午後7時のNHKでは幸福の錬金術がチャイナマンに賞金を懸けたニュースを終わって次のニュースにかかっていた。
 「貞子、見たか今のニュース」彼は妻に確認して見た。
 「見たわ、何なの今の」
 びっくりしていると電話が鳴った。出ると官房長官の赤旗だった。
 「今、報告がありまして」
 「幸福の錬金術か」
 「え、ご存じだったんですか?」
 「今、テレビでやってたぞ」
 「は?」
 「HNKでやってたぞ」
 「ほんとですか、そんな馬鹿な、これは最新の情報のはずなのに」
 「それより、十億円って何だ?」
 「訳が分かりません」と赤旗は正直に言った。
 「なんでそんな事を幸福の錬金術がするのか分からない、もう一歩で生華学会がつぶれるかと言う状況下でそんな敵に塩を送るような事をするなんて心優しい奴らではないはずだ、何かあるはずだ」
 「はっ、調べさせます」

 涙田はこのニュースをかなり後になるまで知らなかった。相変わらず美雪との酒で忙しかったからだ。

326 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/06/06(金) 07:06:30.53 ID:94v+8chF
 12月 チャイナマンに賞金がかかった翌日 火曜日
 行動隊の『暫定本部』は銀座の目立たない雑居ビルの二階にあった。
 大幹部の一人、下田は大村からの電話を切ると、作戦部を呼びだした。
 作戦部の黒島参謀はすぐに来た。本部と言っても狭いからすぐに来ざるを得ないが、今日は特別だ。
 「まずいことになった。涙田に十億の懸賞金がかかった」
 「はっ、その件ですが、しかし当面は問題はないでしょう。
 チャイナマンのお面さえつけなければ彼がチャイナマンだと知っている者はごくわずかです」
 「そうだ、だがこれでチャイナマンは封じられた。
 分かるかこの意味が? 本当に十億なんか払う必要は全くない。
 払うぞと言う広告宣伝だけで、チャイナマンのふりをして学会にちょっかいをかける事は命の危険を伴う事になってしまった。
 世間一般は馬鹿だと笑ってるが、これは巧妙な心理戦だ」
 「はっ」

327 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/06/06(金) 07:07:15.25 ID:94v+8chF
 心理戦は彼ら行動隊も研究している分野だった。
 これはもはや戦争だからあらゆる手段でチャイナマンを狩ることが必要となってくる。チャイナマンを銃で撃つのと同様の効果を懸賞金は発揮した。
 下田が指摘した通りで本当に十億を払う必要はないのだからこれは非常に効果的だ。
 「それで、どこまで分析は進んだ?」
 「幸福の錬金術も口は重かったですが小川が拉致された事はやっと認めました。だからこれは人質にとられた小川本人が出した命令、
あるいはそのふりで学会が出した命令でしょう」
 「く、人質か、汚い事なら何でもやるな」
 「あまりこっちも他人の事は言えませんが、そうですね」
 「ところで、例の件だが」
 「装甲兵器ですか」
 彼ら行動隊は戦車や装甲車を合計4台所有していた。
 東京都内の某所に、旧日本陸軍の95式軽戦車一両を隠し持っていて全面リストアしていた。
 「実行」号と命名されたそれは、車体は95式軽戦車だがエンジンも武装も全部、完全に載せ変えていた。
 一応今は組み上げてエンジンがかかるかどうかだけはチェックしている。OKだ。
 しかし、ものが旧陸軍のそれも軽戦車であると言う事は否定できない。
 こいつで親衛隊の装甲車と戦うのは自殺行為だ。奴らの機関砲は連射できる。95式は15ミリ程度の装甲しかない。
 一応主砲は37ミリ長砲身キャノン砲に換装しているが苦戦は免れないだろう。連射の利く機関砲にはかなわないだろう。
 ただ、行動隊としては武装があるのに使わないで大事にとっておくと言うわけにはいかなかった。これは戦争なのだ。
 軽戦車も戦争で破壊されれば本望であろう。

328 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/06/06(金) 17:20:33.08 ID:94v+8chF
 その他は、北海道に豆タンクが三台あった。
 北海道には行動隊の基地がいくつかあり、それらは過去にはソ連と連帯して武器弾薬を初めとする密輸を行う「事業場」だった。
 今はロシアと細々と水産物の密輸をしているだけで純粋な軍事基地となっている。
 基地で待機中の豆タンクは旧日本軍の94式軽装甲車を参考に、と言うか現代によみがえった94式軽装甲車そのものであった。
まったく同型である訳ではないが近いものがある。
 そもそも同じコンセプトで同じサイズで作れば同じような物になってしまうのは仕方がないことで、内部では豆タンクと言う以外には正式にこれを新94式軽装甲車と呼んでいた。
 日本軍が滅びる時までどこまでも連れて歩いた装甲兵器「94式軽装甲車」の名前をつけられたこれらは武装が機銃のみだった。NATO標準のMG42であった。
 だから、豆タンクは、親衛隊の装甲車と戦うことなど出来ない貧弱なものだったが、銃では貫通できない装甲は持っていた。
 北海道ではウージーは当然、M16、G3いずれでも100メートルから射撃して大丈夫だと言うことは確認済みであった。むろん、警察のニューナンブでは貫通はありえない。
 だから、偵察や連絡などには相当使えると考えられた。
 もう一つの点として、戦争ともなれば道路の状態は相当悪くなると考えられた。パトカーが走り回れるのは最初だけで、ガラスの破片やらコンクリート片やらが散乱する
環境になると頼りになる乗り物は豆タンクだと彼らは考えていた。

329 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/06/06(金) 17:23:18.63 ID:94v+8chF
 現在残っている94式軽装甲車の写真には同時に兵が映っている物が多く、歩兵の乗り物であったことが覗える。
 だから、行動隊が装甲兵器を持とうと決意した時、最初に生産すると決めたのはかっこいいタイガー戦車などではなく、
ぶかっこうでちっぽけな、だが歩兵が最後まで愛したこれの「子孫」だった。
 「北海道から新94式軽装甲車を移動させます」と黒島参謀は言った。
 「ああ、チャイナマンはいなくなるが、奴らの好き勝手にはさせてはならんのだ。
全ての人々が生華学会の信仰を押し付けられる世の中はわれわれ行動隊のとっては戦って阻止するべき未来だ」
 「涙田はどう処置しますか」
 「大村にまかせる。あいつの社員だから。
 多分、大村のところで隠し玉と言うのが正解だと思うが、どうかな」
 「そうですな、チャイナマンは廃業ですね」

330 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/06/07(土) 07:45:43.67 ID:oPUq90ti
 当の涙田は忙しかった。バスの運転、ベンツの運転、子供収容所へのご飯の配達。
 楽しみは、トナカイとの逢瀬だった。二月ほど前の自分に「お前はすぐにトナカイと会うことを楽しみにするようになる」と言ったらどんな顔をしただろうか? だがそうなのだ。
 辛抱も必要だと分かって来た。今は耐えるしかない。
 チャイナマンの首には十億円の懸賞金がかかっている。もうあのお面をつけて戦う事は二度と出来ないが惜しいとは思わなかった。
 さおりと会える事は楽しみだ。子供たちは腹を減らして待っている。自分が捕らえられ、あるいは殺されたら誰が彼らに飯を運ぶと言うのだろうか。

331 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/06/07(土) 07:46:59.35 ID:oPUq90ti
 馬淵も忙しかった。歩兵隊の訓練は安藤に、装甲車部隊の訓練は鰻原の担当で、新たにクールな三号車の車長鈴木を加えた体制で急ぎ親衛隊の充実を図らなければならなかった。
 武装は格段に強化された。M16A1は銃としてウージーよりもはるかに強力であった。
 その一方で、馬淵は春菜と一緒に、末端信者らに武器を配布し生華民兵隊を組織すると言う大事業にも取り組んでいた。これは既存の生華学会の組織を通じていたから一から起こすと言う部分が少なく、
比較的楽であった。命令すれば数千の兵が関東を中心に蜂起する手はずであった。
 自衛隊、警察内部にいる学会員の組織化も急がれる課題だった。もう時間はあまりない。
 実は、太田首相はもうとっくの昔に生華学会に捜査を入れると決めており、その事は内閣の内部にまで入り込んでいるスパイの報告で分かっていた。したがってこれは時間との闘いであった。
 そこへもって、今回の宣言である。これは名目はチャイナマン狩りであり主体は幸福の錬金術と言う事になってはいるものの、すんなり太田=日本国政府が騙されてくれるとは思えない。
 少なくとも何かはあると考えるだろう。つまり、それまででも導火線に火がついた状態なのをさらに導火線を短くしたも同然、遊んでいる時間はない。

332 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/06/07(土) 18:36:14.05 ID:oPUq90ti
 くたくたに疲れて馬淵はマンションに帰ってくる。お風呂を沸かして待っているのは春菜の役目だった。だから春菜は忙しくても馬淵よりもマンションに先に帰れるようにスケジュールを調整しなければならなかった。
 それで風呂上がりにきゅっとビール、これが馬淵にはたまらない一杯だった。生きていると痛感させられる一瞬だった。ちなみにビールの補充も春菜の仕事だった。
 時々、といっても一緒にマンションに暮らし始めて数日しか経ってないのだけれど、乾杯がしたくなって二人は無理やり一緒に風呂に入った。浴槽はどう見ても一人用なので、
公平にじゃんけんで入る順番を決めなければならなかった。
 春菜は一緒に飲むビールの味は格別だと思ったが、反面で馬淵が太った(これ以上太った)自分に幻滅して離れて行く事は嫌だったからビールは飲む半面コーラはやめた。そして、
はるかや数少ない友達に「昨日も一緒にお風呂に入ったの」だのいろいろ、のろけ話を披露して優越感に浸るのだった。
 これまで感じたことなんかなかった幸せだった。

333 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/06/07(土) 18:38:31.17 ID:oPUq90ti
 そんなささやか(?)な幸せの裏で、巡航ミサイルの準備も着々と進んだ。チャン・リーのミサイルはスペック的にも親衛隊の目的にぴったりであった。
 大体、巡航ミサイルと言ってもそんなに無茶苦茶な大射程は必要なかった。極端に言えば東京都内の空き地から発射すればよい。
 だが高精度はどうしても必要であった。
 いきなり弾着のばらつきが一キロぐらいあったのでは使いたくても使えない、どうしても高い精度がいる。
 ミサイルの中心部は驚いた事にPS3だった。パソコンからGUIでGPS数値を入力する事によって目標まで飛ぶようになっている。その精度は完璧だった。
気象条件やGPS衛星との通信状態その他状況にもよるが最大精度は50センチ程度の誤差らしい。これはカタログデータであるから、
実用上はそんな高い精度は出ないだろうが建物を目標にするなら百パーセント命中する。例えば自民党本部ビルだ。ここは全壊してもらわないと困る。

 チャン・リーは一度だけ若い女性の技術スタッフを伴って視察に来た。ミサイル以外は従来兵器だから問題は起こりようがないが、こいつはマニュアルは付属するものの英語だから予想外のトラブルがないか、確かめに来たのだ。
 ミサイルは当然ながら試射は出来ず、シミュレーターでの発射を各オペレーターが七回やって確認した。
 「これは傑作だよ、好きな武器のうちに入るねぇ」とチャン・リーは言った。

334 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/06/08(日) 08:35:59.31 ID:pP/9FyrZ
 「ん、そのう、一番気に入っている武器って何なんですか」と春菜が言った。
 「それは、少々長い話でこの本筋には関係ないんだけど」
 「ふむふむ」と馬淵。
 「昔の事だ、まだ私は堅気で、失業者で仕事に戻りたかった。それで、ハローワークがやっている職業訓練とかによせばいいのに通ってたんだな、ああ、懐かしいなあ。
 それでアクセスの授業で架空の本屋のサイトを構築する授業があった。それの中で一冊の架空の本があったんだがタイトルが「強くなる言葉」って言うんだな」
 「は、はあ」馬淵は面食らった。
 「それで思った。『俺にとって強くなる言葉ってなんだろう』その時最初に浮かんだ言葉はこうだった『ショットガンを持ってこい』」
 「は」馬淵。
 「え?」春菜も絶句している。
 「そして、ショットガンの密売を皮切りに武器商人へ俺はなったのさ、でも本業は夢を売るアクセの路上販売……スイス銀行の指定の口座への振り込みは完了したか?」
 「しました」と馬淵。
 「ではこれにて失礼するあるよ、でも、お二人さん、幸せは大事にするある。いざこの時と言う瞬間、離れてはいけない、必ず後悔する」
 チャン・リーは去って行った。
 馬淵は彼が女性スタッフとペアリングをしている事に帰り間際にようやく気がついた。

335 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/06/08(日) 10:01:54.65 ID:pP/9FyrZ
12月 とある一日 未来へとつながる日

 12月のこの日、犬田代作は「孫」の龍子を病院に呼び出した。
 この時点では代作はかなり元気だった。

 犬田弘忠には子供が出来ず、犬田代作は公式の場では「信心がないから子供が出来ない」などと言ったが、その実は心を痛めていた。
 幸い、犬田代作から見て義兄に当たる百田の家の方から百田龍子と言う娘を養子として迎えることが出来て、犬田の名が絶えると言う事は避けられるようになった。
 代作と弘忠は弘忠が信心を捨てたことからうわべは絶縁状態であった。公式の場では何回も代作は心無いことを言った。
 しかし、実情は違った。やはり、親子の縁そのものは切れていなかった。
 代作が弘忠の保証人になるなどの形で、縁は続いていた。
 そして龍子は大阪の南部にあるプール学院大学に推薦で入学が決まっていた。
 東京では龍子は「犬田代作の孫」として命を狙われる危険があるため大学は(別に大阪でなくても良いが)東京以外と言う選択をしたのだった。

336 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/06/08(日) 10:07:46.65 ID:pP/9FyrZ
 実を言うと、プールは龍子の学力からすると絶対確実。推薦で入る必要性はなかった。
 プール学院大学はキリスト教系で南大阪(堺市)にある大学で、決して悪くはない大学だが、偏差値その他のデータで言えば龍子は実力勝負に出ればもっといい大学に行く事も出来た。
 父の弘忠は進路指導の先生と色々打ち合わせもした。彼自身も教員だからそこは餅は餅屋であった。
 ただ、実際の受け入れの面で打診すると、ここは前向きだったが他大学はいまいちと言う感触であった。
 推薦で入れてくれると言うところでも、ここは前向きで、祖父がどうのは全く考慮しないと言ってくれた。偽名使用OKもあっさり出た。
犬田ではなく母親系の百田を偽名として使用してもいいと言うのである。
 実際、例えばオウムの事件では浅原の子供が、事件には全く関係ないはずなのに大学に入れないと言う事例があっただけに、
そんなに受け入れてくれるのならここにしようと弘忠も代作も意見の一致を見たのだった。
 入れてくれる大学に入れたほうが絶対にいい。それが高校の常識だ。それで、プールを選んだのだった。
 

337 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/06/08(日) 19:53:31.23 ID:pP/9FyrZ
 さらに、12月に「下見」に大阪に行くと言う事も弘忠は報告していた。受験は東京の会場で受けたので、大学自体はまだ見ていないのだった。
 これは今のご時勢、よくある話だった。
 このように、龍子の件では、相当密に弘忠は代作に連絡をしたのだった。
 それはやはり「龍子の安全だけはなんとしても守らねば、犬田の名も百田の血も絶える」と言う思いがあったからだった。
 実際には百田系の子供は他にもいたが犬田の名前を継ぐ、犬田家の子供として育った子供は彼女一人だ。代作にとってはかけがえのない「孫」であった。
 血のつながりと言う点でも、百田なのだから全く無関係な子供ではなかった。
 百田とは多くの田、つまり大地主を表わす苗字であり、犬田とは、「犬だ」と口走ったのがそのまま名前になったと言う経緯があるひどい名前である。
 その二つの家系が代作の代で夫婦になり、弘忠が生まれたが、惜しいことに子供が出来ず龍子を迎えたのだから、龍子を失うことは絶対に許されない事であった。
代作にとっても、弘忠にとっても。

338 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/06/09(月) 06:45:12.32 ID:dWMYbHD5
 病院に龍子は一人で来た。制服のままだ。その方が目立たない。彼女は賢かった。
 場所は安全な場所と言うことで、ガードは遠ざけた。
 代作はまぶしいものを見るように、さわやかにやってきた制服姿の孫娘を見て、突然、12月22日にはどこにいるのか、と言った。
 当然、龍子は、12月22日にはどこにいるのかと言う質問をされて怪訝そうな顔をした。
 「ああ、その日ぐらいが、年内に会える最後の日ではないかと思うのだよ。近々退院はするが、23日には予定が入っているのだ。祝日だからな。そこからも忙しい。正月も。
 来年にはもう大阪にいく準備に入らなければならないだろうし、ここでこうやって会うのさえ危険だ。この間もマシンガンで襲撃された」
 実は、代作は22日に会えるはずがなかった。これは口実でその日に龍子がどこにいるのかが気になったのであった。
 「22日には大阪にいます」
 「そうか、では別の日に会う手はずを考えよう」
 犬田代作は東京は大変なことになる。だから大阪のほうがまだ安全で、大阪の幹部に念のために「戦争行為はいけないぞ」と言う警告を入れておこう、と思った。

339 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/06/09(月) 06:48:34.31 ID:dWMYbHD5
 ところが彼の前で龍子は予想外の夢を言った。
 「実は、私の夢は、お経と聖書とコーランを読んでみたいということなんです」と龍子は言った。
 代作は、びっくりして龍子をまじまじと見た。
 彼女とは高校生になるまでに何回も会っていて、幼いころには絵本を読み聞かせたりもしていた。彼にとっては本当の孫だ。
 そんな娘からこんな言葉が出るとは……
 彼女は続けて、聖書は新約聖書を、ギデオン(新約聖書を配布する団体)の奴を隠れて持っていて読んでいて、
般若心経も岩波の文庫本を古本屋で買って持っていると言った。
 「あれか」
 犬田は複雑な表情をした。
 般若心経は仏教でも短いお経になるが、その真理から多くの宗派で特に葬式などで唱えられることが多い。
 岩波の文庫は、隠れたベストセラーで犬田でさえ持っていた。(作者注 岩波文庫版般若心経は実在する。大乗仏教の根本のお経、
金剛般若経とセットである。原文は古いが変化がありえない内容である。驚異のロングセラー本だと言える)
 犬田代作が他宗との問答で負けることが無いと言うのも仏法の勉学があっての話で、それ無しでは単にきゃんきゃん吠える犬になってしまう。

340 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/06/09(月) 22:15:52.42 ID:dWMYbHD5
 「龍子、それは分かったが、それは学問かな? お父さんは学費を出してくれている。無論、お前ももう大人、読むな、とまでは言わないが、夢中になって、
そう言う事に夢中になってしまうだけで4年があっと言う間に過ぎた、じゃ困ると思うがな」
 「それは分かっています。そう言う事を研究している学者が、大阪にいました」
 「ほう?」
 「近所の、桃山学院大学の教授で、大坂という人です」
 「近所の大学?」
 「それが……」
 プール学院大学と桃山学院大学は協定を結んでいた。元々キリスト教系で宗派も同じであったことから交流もあった。
 その教授は、自分のゼミの女子大生を新大阪まで出して、道案内させ、プールと桃山を実際に見学させると言ったらしい。また当然ながら早速実際に会う約束も取り交わしたという。
 「その、人物は確かそうか、おまえはわしの孫ということになるから、お前が研究の対象とかになったりしないか?」
 「そこを会って確かめようと思いますが、電話とかではまず間違いはなさそうです。
 ただし、ここまでは百田を名乗ってますから「本筋」のおじいちゃんが犬田代作だと知ったらどうかは、そこは慎重にしないと」
 「そうだな」
 そこは流石に「犬田代作の孫娘」であった。人物を見る目、段取り、すべてにおいて同年代の女子高生をはるかに超えていた。
 血筋としては、犬田の血は流れていない事にはなるのだが百田の血筋は争えないものであった。

341 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/06/09(月) 22:17:17.37 ID:dWMYbHD5
 「その人のやってるのは、比較宗教学と言って、宗教を研究する事で、色々教えてくれるらしいです。
 大学同士が近くで、協定も締結しているから行くことに問題はないと言う事です」と龍子は言った
 「ほう、じゃ最初から桃山に行けば良かったな」
 「いや、そこはプールのほうが後々いいとか言ってました。そこは分からないんですけど、就職とかはプールのほうがいいかもしれません」
 「まあ、そこは4年先、どこがどうで、など分からない話しだ。遊学という言葉があるが、まさにそれだ」
 犬田は日蓮が比叡山に遊学した話をした。(作者注 元は記述していたが詳細略)
 「ええ、先生が言うには、京都にその名も仏教大学と言う大学があって、そこともその大坂先生はつながりがあって、かなりの勉強ができそうです、
 そこに、仏教大学に行けば公開されている全ての経典が閲覧できるそうです。
 また、常に仏教に精通した教授がいて質問に答えてくれるそうです。
 イスラムはちょっと大阪には適当な勉強ができる場所がないんですけれど。
 大阪には別に、東大阪に大阪府中央図書館があって、そこの利用者証を作ればすばらしい書物にアクセスできるとか」
 「そうか」
 「高野山とも、コネがあるらしいです。だからその大坂という先生についていれば、まず間違いない勉強ができると思います。
 とにかく実際に会ってみないとなりません。その教授は腹黒いとは思えない人でしたけれど、電話やメールだけでは人間は分かりません」
 龍子は、そう言った。
 今時の子供とは思えない発言だった。

342 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/06/10(火) 07:22:20.63 ID:alON0TU1
 犬田はもちろん比較宗教学の事は知っていた。当然研究される側としてだが。
 大坂は知らなかった。大阪の学者だから当然だ。まあ、キリスト教系だからそっち系から比較、と言う入り方かもしれない。
 だが、今の孫の言葉を聞くと、胸が熱くなる。
 自分自身、お経と聖書とコーランを読むなんてしたことはないのだ。
 お経に関しては法華経については詳しいものの、そして他のお経に関しては知識は一般人よりは
はるかにあることは事実であるものの、読んだかと言われたら答えはNOだ。

343 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/06/10(火) 07:24:59.46 ID:alON0TU1
 仏教の経典とは膨大な量だ。お経を全く知らない人が仏教を語ることなんか出来ないのだ。(作者注、ここから経典についてのかなり長い記述を削除した)
 「そうだな、そこでだ。ここに二つの封筒を用意してある」と犬田代作。
 「え?」
 「ひとつは、もちろんキャッシュだ。もう長い間お年玉もお小遣いもあげていないし、これからの新生活では何があるか分からない、お前のお父さんが先生になる時、
色々な援助をした。お前にも若干はしないといけないだろうと思う。特に、マシンガンで狙われるというこの時、いつ再びこうやって合えるか分からないと考えたときに、
やはり「がんばれよ」と口先で言うだけではなく、現生を渡すというのもまたおじいさんの気持ちの表し方ではないか」
 「はい、これはありがたく受け取っておきます」
 「もう一つは、色々なカードだ。するっとKANNSAIや大阪市営地下鉄のカード、テレカなどだ。足が無いと困るだろう。無論、これらは金券ショップで
換金する事も出来ないことではないが賢いお前ならそのまま使えば額面どおりに使えると理解していることだろう。金券ショップでは確かに現金にはなるが、割引されてしまう。
 お前のやりたいことのためには、電車はどんどん使い電話はどんどん使うといい。
 ああ、それは今は携帯の時代、しかしテレフォンカードと公衆電話の組み合わせはどこでもと言うわけには行かないものの、現在でも緊急時には非常に役に立つ。
 携帯は使いたい時に限って電池が無くなったり、アンテナが立たなかったりするからな」
 「はい」

344 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/06/10(火) 22:32:47.96 ID:alON0TU1
 「それと、これも渡しておく。USBメモリと言う物で、何でも今時珍しい1ギガの奴らしい」
 「え?」そんな物をと龍子は驚いた。
 「これには、大阪の生華学会の主要施設、関西の主要施設が記録されている。ここには決して近寄ってはならんぞ」
 「近寄るな? 行け、じゃなくてですか?」
 「奴らは覚せい剤の密売を総本部の制止を振り切って続けているのだ。
 そのような事をすればどれだけの人がシャブの闇に溶かされて消えていくか」
 「シャブの闇!」
 「仏法などとは程遠い鬼畜の所業なのに大阪の学会は金のため、続けている。
 だから、大阪の総本部は御殿のような豪華なもので、そして醜悪だ。最悪だ。
 大体、宗教団体が御殿のようなものを作り始めたら要注意だ。お寺や神社が建て替えを名目に信者から金をむしることがある。
 とにかく、絶対に近づいてはいかんぞ。また、向こうはわしの孫と知ったら人質にとるなどの手段に出るかも知れん。奴らはもう学会であって学会ではない。
 悪の権化なんだ」
 「そのような恐ろしい所……見てみたいような気もしますが」
 「いかん」
 龍子はびくっとしたがはいと言った。

345 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/06/10(火) 22:40:57.77 ID:alON0TU1
 「そう、大阪なら四天王寺とか住吉大社とか天満宮にしておきなさい。そう言う良いパワースポットは良い心を持って訪れるときっと良い結果が出る」
 「はい」
 「大阪は怖いところだ。特に怖いところはTダムのようなダークゾーンで、暗黒の力がそこから出ようとしている危険なパワースポットだ。
 Eランド跡地などもそうだ。
 岸和田ではだんじり祭りがあり、テレビで放送をするがそれで死ぬ人が出ることがある。ほかにも危険な所が……」
 しかし、犬田代作は、弘忠からプールのあたりは学園地帯であまり無法の地ではなく、治安は良いと聞かされていた。
 「西成には行ってはいけないぞ」
 それは常識であった。女子大生が行くところではない。
 

346 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/06/11(水) 19:02:09.48 ID:yORkEr+q
 現在のところ日本最後の暴動が起こったところなのだ。治安の悪さは特Sだ。
 「そんな所、命がいくつあっても足りませんから行きません」
 「そうだろう、だが、研究を続ければ、色々と分かってくるだろう。
 宗教というものが持つ意味のようなものがわしのような特定の宗教に立つ人間には逆に分からなくなるが、
全ての宗教を全て高い視点から理解したときにまた違う「意味」が現れて来るのかも知れない。
 シルクロードの砂漠に埋もれていた遺跡がある日突然現れるように、それは突然その日に出来たのではなくて、何百年も砂の中に埋もれていて発見されるのを待っていたのだ」
 「それは、先生も言っていました。比較と言うが、良いとか悪いとか言う比較をする学問ではない。
もしそういう学問を目指しているなら他所に行ってほしいと言っておられました」
 「ほう、なかなか言うな。その通りだ。比較宗教学と言うのはそういう学問だぐらいは知っている。研究される側として」

347 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/06/11(水) 19:03:09.40 ID:yORkEr+q
 「先生は、この世の中には単なる鍵カッコつきの「宗教」しかない。もっと言うなら「悪い宗教」しかないと言いました。
 もし「良い宗教」があるなら全人類がそれに入ってしまい、全ての他の宗教が絶滅するはずだからというんです。
 そんな人ですから命を狙われているらしいです。おじいちゃんのようにです。人間何かをなす大人物は命を狙われるものかも知れません」
 犬田代作は義理の兄と妻を失ってから初めて、理解してくれる親族が現れた瞬間を感じ、熱い物を感じた。
 血族ということでは妻の一族なのだから、幼いころから弘忠の教育を受けている彼女が彼にとっての「最後の希望」だった。
 犬田代作はまた少し角度を変えて言った。
 「その先生は宗教的にはキリスト教か?」
 「いや、無宗教らしいですけど、それも会って確かめないと……」
 「そうか」
 「そう、どうもキリスト教徒ではないらしいです、キリスト教とユダヤ教の違いはグフとザクの外観の違いだと言ってました」
 「かなり違うと思うがな、グフとザクは」と犬田代作は言った。
なるほどキリスト教がユダヤ教より新しく、グフのほうがザクより新しいからグフとザクと言う並び方かと妙なところに感心した。
 それから、大坂が唱えているウルトラホーク一号と三位一体説についての話が出たが、それは本筋とは全く関係が無いので省略する。

348 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/06/11(水) 19:05:09.98 ID:yORkEr+q
 「それに、大阪には、セブンという高校生のグループがいて、緊急事態に備えて聖書や経典、コーランなどを常時隠し持つという特殊なサークル活動をしているらしいです」と龍子は言った。
 「セブンか」
 犬田代作は、セブンについて知っていた。と、言うのも犬田代作も生華学会である以上、そうした潜在的な宗教的レジスタンスに脅威を感じていたからであった。
 学会の報告書によると、元はある私立高校の七人委員会と言う名前だったが、学校とは切り離され委員会ではなくなったためセブンになったと言う。
 だから、現在はセブンとはいえ七名とは限らないだろうと犬田代作は龍子に言った。接触は難しいのではないかとも言った。さらに、暗に接触は避けたほうがいい様な事をほのめかした。
 比較宗教学の学問の道の者が高校生のセブンに「教えをたれる」のはまずいだろう、と言う話をしたのだった。

349 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/06/11(水) 19:06:40.15 ID:yORkEr+q
 犬田ら生華学会の立場からすると、セブンは敵だった。
 彼らセブンが中立であると言うのが弾圧する時には余計に困る。それが特定の宗教と密接に結びついているのなら排除は簡単で、そこを攻撃することで終わる。
 しかし、全ての宗教を排除するなど不可能だ。セブンは中立だからどこの寺でも神社でも教会でも、モスクであっても支援を受けられる。
 また、支援しなければ「なぜ、セブンを支援しなかったのか」と他宗から非難を浴びることになるから、どこでも支援するに決まっていた。
 したがって、政権を握った後ではセブンはチャイナマン以上の強敵になりかねないと馬渕は報告してきていた。
 もちろん、セブンは非武装だから攻撃も何もないが、セブンの側では龍子が犬田代作の孫と言う事情は知りようがないから攻撃はしてこないだろうと考えられた。
だから大阪でも龍子は安全だろう。

350 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/06/12(木) 06:18:47.06 ID:7O3H4QRF
 犬田は、龍子を見ながらさらに慎重に考えを進めた。
 自分の野望の事は弘忠にも龍子にも隠している。だからセブンについて、これ以上あまりどうこう言うのはカンの鋭い龍子に悟られる危険性がある。黙っておいたほうがいい。
 どうせ接触は無理だろう。
 そして、計画が成功に終わったらもちろん、大失敗したとしても龍子がはるか大阪にいれば安全圏だ。
 また、まかり間違っても共犯とか逮捕とか言う事はない。ここで作戦計画を話したと言うなら別になるが、代作はそれだけは避けたかった。
 長男の弘忠も、取調べは受ける可能性が、まあ、ある程度はあるが、彼が宗教から遠のいていると言うことは誰もが知っている。
 実際調べても彼は何も知らないと言う事実が分かるだけだ。
 逮捕されることは絶対にない。
 しかし、東京ではこの状況、そこへプール学院が「祖父が有名人(?)でもOK、偽名でもOK、推薦OK」と言う何もかもOKの好条件で出してきたのだから、
大阪へ言わば「逃す」事がいいとなったのだった。
 昔から渡世人は東京で危なくなると大阪など関西へ行くのがしきたりであったが、龍子もそうなってしまったのだった。

351 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/06/12(木) 06:19:41.50 ID:7O3H4QRF
 「昔読んであげた青い鳥を覚えているかな」と犬田代作は優しく言った。
 「はい、ティルティルとミティルの奴ですね」(原作に近い発音ではこうなるらしい)
 「そうだ、幸福の青い鳥を探すのだが、結局見つからずに家に戻ってくる、そして……という話だ」
 「ええ、そうでした」
 「龍子、お前の青い鳥は大阪にいるようだ。行って、捕まえてきなさい。未来がそこにあるなら、そこに行って探してくるんだぞ」
 「はい、そう言えば、青い鳥にも未来の国の話がありましたね」
 「そうだな、未来の国は子供で一杯なんだったなぁ」
 犬田代作は、知らず知らずのうちに後日の作戦での自分の振る舞いを暗示する言葉を言った。
 「子供がいなければ未来は作れない。龍子、おまえも早くわしにひ孫を見せてくれよ」
 「まあ」
 龍子は微笑んだ。

 犬田代作も孫が可愛い、息子が逮捕されたらいけない、と言う点では普通の人間であり、冷血な人ではなかった。
 だから、事件は予想外の方向へ動いていくのである。

352 :政教一致@大阪:2014/06/12(木) 08:46:18.62 ID:hB4HqsMV
本日は更新はこれだけです。

353 :政教一致@大阪:2014/06/12(木) 08:48:49.28 ID:hB4HqsMV
出張します。

354 :政教一致@大阪:2014/06/12(木) 19:51:03.61 ID:hB4HqsMV
金曜日には戻れそうです。
さすがに週末の宿泊費は出ません(笑い

355 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/06/14(土) 07:04:48.07 ID:qhFH4h04
 その日が、作戦の発表日かつ発動日と定められていた。昨日、チャイナマンへの賞金発表で反撃の「のろし」を上げたと言う事で士気も上がっていた。
 場所は生華記念体育館、親衛隊はもちろん、生華民兵隊幹部、生華学会幹部、光明党幹部、その他幹部が集まって来た。
 名目は犬田が明日退院する事の打ち合わせで、権田が主宰者だった。
 「皆集まりました」馬淵は権田に言った。
 権田はつかつかと演壇に歩み寄った。
 「諸君、ご苦労様、長かった訓練と準備の時間は今終わった。
これからは作戦の時間に入る物と思ってもらいたい。もちろん、作戦と言ってもまだ何も聞いていないのだし、中には作戦など初耳だと言う者もおるかもしれん。
 用心のためこの体育館は作戦説明が終了するまで一時閉鎖する。ドアをロックする。また、ここは携帯電話が使えなくする特殊設備がある。それを作動させる。
では、作戦参謀の馬淵と作戦指揮官の近藤に後を任せる」
 指揮官の春菜はこの場合説明はしないので、馬淵の独壇場であった。
 「作戦名は東京壊滅作戦、Xデーは12月22日、平日だ。最終占領目標の国会議事堂はまだ会期ではなく見学者がいる程度に過ぎん。
都内の他の重要目標は破壊、占拠、監視の三段階に分類する。それぞれは配布した書類およびUSBメモリのPDF文書を参照する事」

356 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/06/14(土) 18:26:40.57 ID:qhFH4h04
 「参謀、この付近は日本の重要機関が最も密集している地帯です。現在の状況も勘案すると警察の配備も相当では?」民兵隊の将校が言った。
 当然の話だった。国会議事堂付近には首相官邸、議員会館、内閣府、記者会館、国立国会図書館などがあり、主要官庁の合同庁舎や財務省、警視庁がある。当然24時間365日警察が多数張り付いている。
ここは国家の中枢でありここが陥落する事は日本国を一時的とはいえ落ちることを意味する。
 「その疑問は当然だ。もちろん警察はいる。しかし、かれらの装備はいまだニューナンブだ。数がいても我々の敵ではない。可愛そうなぐらいだ。
 M16A1は30発の5.56ミリNATO弾を機関銃式に連射できる。それが五人十人、グループで襲撃するとなると警察の能力では支えられない。彼らはおそらく一部のSPなどを除いて警視庁方面へ下がるだろう。
退路を塞がないようにせよ。窮鼠猫をかむ」
 計画はもちろんこれだけではなかった。この作戦は複数の作戦が同時並行で進行する。911がそうだったように同時にテロが発生すると治安側は対応ができなくなる。
 「それに我々は強力な武器を手に入れている。巡航ミサイルだ」
 馬淵の発言にいきさつを知らない親衛隊以外の人々は激しくざわめいた。親衛隊の人たちにしてみれば馬淵・春菜カップルが信じられないような事を可能にするのにもう慣れていたが彼らは違った。
 「どこから手に入れたんですか」と光明党の若手議員が言う。信じられないと言った表情だ。
 「入手ルートは秘密だ」
 まさかデートのついでに怪しい中国人からお台場で買ったとは言えないので馬淵はそう言わざるを得なかった。
 「ミサイルで破壊目標は破壊する。例えば対立する政党の本部、宗教団体の本山などだ」
 馬淵の話は流れるように続いた。テロはあくまでも同時でなければならない。占拠目標はNTT東の
秘密にされている中央指令センターや東電の中央通信司令室などの爆破した場合東京はもちろん関東一円が大被害を受ける中枢施設を選択して占拠する。占領部隊は特攻爆破もありえる決死隊だ。

357 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/06/14(土) 18:30:16.68 ID:qhFH4h04
 「第一次作戦終了と同時に犬田先生を国会議事堂にお迎えする。襲って来たのはチャイナマンを頭に頂く不逞の輩だと言う事にする。
 NHKによる生放送の中、超党派の生き残った国会議員による臨時特別対策国会により暫定臨時政府が即時発足、
臨時首相に権田大幹部、そして臨時大統領に犬田先生をお迎えする。副大統領には小川降法総裁が就任する。
 翌日に実行する「超憲法の国民総集合」と言う八時間ぶっ続けの、テレビ番組を通じた国民の民意を問う臨時の巨大な企画番組で、この臨時政府はあくまで次の総選挙までの
期間限定と言う但し書きつきで承認される。もちろん、未来の話になるが総選挙はやる。光明党の圧勝になる予定だ」
 体育館はあまりの事にしんと静まり返った。
 「こ、これは無理がありすぎでは?」と誰かが言った。
 「無理、どこに? 今発言したのは誰だ」
 春菜がさりげなく腰のポシェットに手をやったのを皆見逃さなかった。そこにはワルサーP38が入っている。
 また静けさが戻った。
 「臨時特別対策国会は問題ない。全員が光明党と、家族を人質に取られている国会議員だけで行う。
 それ以外の国会議員が生き残っている筈はないが、いたら死んでもらう。これは戦争だ。逆らう者、邪魔になる者は殺す」
 馬淵は言い放った。彼はここ数日の甘い同棲生活などどこへやら、すっかり死神博士の本領発揮だった。

358 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/06/14(土) 18:38:40.85 ID:qhFH4h04
 「その翌日に行う超憲法の国民総集合だが、これも生華学会のチャンネルと化したNHKで呼びかけ、生華学会のタレント、文化人を総動員して結論をでっちあげる。
もう結論は出来あがっているんだから、異を唱えるような者はさりげなく排除する、いや強行手段でも排除するしかない」
 「し、しかし、日本国憲法では……」光明党の野村と言う長老格の男が言った。彼は憲法研究で著作も出しており党内でも憲法通として信頼が深かった。
 春菜は素早くワルサーを出した。目の高さに上げる。
 「春菜、まだ待て、野村、普通の市民が、高校の授業以外で憲法を読むと思うか?」
 「それはないだろう」野村は苦しげに言った。当然の答えだ。
 「ならばそれでいい」
 馬淵は今度はみんなの方に向かって言った。
 「実は国会議員や内閣の大臣がみんな死んでしまったらどうするのかと言う議論は過去に一度だけだが、実際にされた事がある。
戦時中で、国会の本会議中に国会議事堂に爆弾が落ちたらどうするのかと言う質問が出た事があったのだ。その時の結論はすみやかに総選挙を開く、だった。
 それは爆弾が落ちた場合の対応で戦争中の話とはいえ、そしてその後改憲しているとはいえ基本的、法律の上では、まだ生きている。
つまりそう言う事態が起きたら総選挙を可及的速やかに開くしかない。それは合法だし、
それまでの間生き残りの国会議員によって暫定政権が結成され運営される事も非合法ではない。それしかありえないだろう」
 野村は何か言いたそうにしたが、ワルサーを見て黙った。野村は知らないが春菜の射撃は上級だった。十歩も離れていないこの距離では外す訳がない。

359 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/06/15(日) 18:06:52.85 ID:p0R7IyTe
 「問題は米軍だが、介入してきたらまず沖縄をチャイナマンが核弾頭つきの巡航ミサイルで攻撃する。
そしてそれでも攻撃してくるなら24時間以内にハワイを核兵器で攻撃すると予告の手紙が来たと言う。
 完全なはったりだが、はったりかどうかの判断は彼らの軍事衛星がどんなに優秀でエシュロンがどれだけ通信を傍受しようとできはしない。
大統領選挙で負ける事は嫌だろうから、彼らは攻めるより外交で解決しようとするだろう」
 また沈黙。
 「もう質問はないか」
 質問はないかと言いながら、拳銃をしっかり構えている彼女が横に待機しているのだから、馬淵に質問がある者がいようはずがなかった。
 「では、権田大幹部」
 「うむ、諸君、いよいよ犬田先生を日本の大統領に頂く日が来るのだ。皆死ぬ気で頑張ってもらわなければならん。これが成功した暁には……」

360 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/06/15(日) 18:07:50.52 ID:p0R7IyTe
 長い演説が始まった。馬淵は素早く別の事を考えた。
 もはやクリスマスもバレンタインデーも夏祭りもない。生華学会の世界が来る。ちらっと横を見ると春菜はワルサーをしまった。彼女にはもうちょっと使いやすい牛革のホルスターをプレゼントしよう。
そう、クリスマスはないからお年玉か何かの代わりに、いやそれでは遅いのか、ああ、早く終わらないかな、今何時だ?
 左手首を見て時計を忘れて来た事を思い出し、春菜に時間が分からないのジェスチャーをした。
 「7時ちょうどです」春菜は小声で言った。
 はっとしたように権田は二人の方を振り返った。聞こえたらしかった。
 「ああ、そう、長いようだと今この二人の優秀な作戦担当者からクレームがついた」
 権田はすかさず会場に振り返って言った。会場は爆笑の渦となった。緊張が一気に消えた。
 権田もいきなり大幹部になった訳ではない。それなりに幹部としてのし上がってくるまでのサクセスストーリーはある。聴衆への配慮もあった。
 「とにかく、今は各自ベストを尽くしてほしい」
 馬淵は動き出す作戦に、もうあの安楽な日々にはとどまれない事を残念に思った。
 ……チャイナマンは来るだろうか?

361 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/06/15(日) 18:27:55.78 ID:p0R7IyTe
作者より

結局、この「2ちゃんねる」で最終まで掲載を継続することにした。
理由は、話の途中でURLが変更になると言う事は望ましくない、と言うことで
作者としては別に2ちゃんねるのお家騒動に判断を下す立場ではない。

話は、ここから12月22日になる。
実際にはこの作戦会議の日から22日までは時間があり涙田も他の人物らも生活を送っている。
ただ、それは記述されていないだけである。

362 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/06/16(月) 07:02:58.26 ID:WBZH3+f1
 12月22日 東京壊滅作戦当日

 都立桜花高校二年の校外学習の一団は永田町駅に着いた。これから国立国会図書館に社会見学に行くのだった。
 桜花高校は臨海地区に新設された高校で、同名の特攻兵器があったため縁起が悪いという意見もあったが、
桜の花と言う美しい名前が新設校には良いとして採用されたのだった。
 アニメが好きな酒井田三郎は教室で隣の席に座っている森下睦美に言った。
 「ショウタイムだぜ。これから図書館戦争になるんだ」
 「縁起でもない」
 クラス一の美人である睦美の答えはにべもなかった。それも当然だった。別にアニメファンではない彼女たちは不機嫌だった。

363 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/06/16(月) 07:05:53.40 ID:WBZH3+f1
 この宗教戦乱は一般高校の桜花高校にも暗い影を落としていた。桜花高校は品川区ではなかったが品川区から通っている生徒、教職員が多かった。
そして東京都教育委員会が何回も高校を臨時休校にしたり、午前中で授業を打ち切ったりしたため授業時間や授業日数の不足と言う深刻な問題が発生していた。
 特に深刻だったのは授業日数の不足であった。休みなのはうれしいは生徒の感想に過ぎず、現実は厳しい。
 日本国中で一律が建前の高校教育で東京だけ授業日数は少なくても良いなどありえない話だし、
現実問題他道府県では普通に授業しているのだから「授業? していない」が通る訳はなかった。
 ……そう、これでいいんだ。
 犬田弘忠は思った。ここなら万が一にも襲撃などあり得ない。すぐそこは国会議事堂である。
近くには首相官邸もある。警察で一杯だ。ここで課外授業でまず一日授業日数を稼ぐのだ。

364 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/06/16(月) 07:07:08.01 ID:WBZH3+f1
 一行はぞろぞろと中央カウンターの前に行った。有名な「真理がわれらを自由にする」のスローガンが見えた。
 「生華が天下を取ったら、きっとあのスローガンは削り取られるぜ」と酒井田は懲りずにまた言った。
 「そんなことありえないわ、チャイナマンがきっと来る」と睦美が言う。
 「酒井田、あんた知らないの、森下の父さんは品川で殺されてるのよ!」と睦美と仲のいい女子、クラス副委員の堅田冴子が言った。
 「えっ!」
 犬田弘忠はその会話にさっと振り返った。彼はその事実はとっくの昔に(担任だから)知ってはいたものの、
こうやって現実に突きつけられると当の酒井田以上にショックを受けた事を隠そうとした。森下は高校を卒業できるかどうかすら今は分からない。母親は泣きながら生活保護の手続きをしている。
 彼の父親が生華学会の代表、犬田代作である事は生徒達には秘密だった。犬田と言う名字は珍しいが全くない名字ではなく、隠す事は出来ていた。
 「酒井田、あり得ない事を大声で言うな」とようやく犬田弘忠は言った。
 「は、はい……」

365 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/06/16(月) 22:20:35.19 ID:WBZH3+f1
 「今日は国会議事堂の見学に行くんだ」涙田が朝一に子供収容所で聞いたのは予想外の言葉だった。
 「国会議事堂の見学ですか?」
 涙田はびっくりして、まじまじと橋口と言う子供収容所の所長を見た。
 「遠足なんだ」橋口はきっぱりと言った。
 「はあ?」
 涙田が見ると子供たちは大はしゃぎだった。子供に国会議事堂が分かるはずはないと思われたがそれはどうでもよくて、ただどこかへ行けるのがうれしいのだ。
 「あそこが一番確実に安全だ。そして遠足の間にクリスマスの飾りつけを賄いのおばちゃんと遠藤さんとでやってもらう作戦だ。
 大村さんがその後で賄いのおばちゃんと遠藤さんに大村パンの社員食堂ただ飯一回ご招待だって言ってくれてる。遠藤さんは違うが賄いのおばちゃんは普段は飯を作ってる立場の人たちだからただ飯食べ放題はうれしいボーナスだと思う。
私は見た事がないけど美味しいらしいね、大村パンの社員食堂って」
 「そりゃ、これまで見て来た社員食堂の中では飛びきり美味しいし、事実上食べ放題だしもう最高ですよ!」涙田は力説した。
 しゃべってるだけで、朝から腹が減って来た。

366 :名無しさん@お腹いっぱい。:2014/06/17(火) 07:26:34.38 ID:h06xpN0n
 「作戦準備、完了」春菜が言う。
 例によって移動指揮車の中だ。作戦行動中、携帯電話のシステムがダウンする可能性は低いが、万が一の場合にはNTTの中枢を爆破する事になっているので無線が欠かせなかった。
 また、警察側が故意に携帯電話のシステムをダウンさせる戦術をとる可能性が指摘されていた。それは過去の実例では、まだ、ないがSATの教本には載っているらしいとのうわさがあった。対応策が欠かせない。
 また、巡航ミサイル発射部隊のプラットフォームは東京湾のタンカーだった。発射基地としてはこれ以上に安全な所はない。第一弾発射後は完全に無力な存在なのだから退避するように命じてある。
 これとの連絡は無線によるしかない。巡航ミサイルは強力なのだが動かない目標にしか使えない。対艦ミサイルに使えないかと調べてみたが無理だった。
 これは意外だったが、馬淵も春菜も二人とも無線関係の資格を有していた。春菜はアマチュア無線、馬淵は無線技士の資格だった。どうしてこのカップルが用意したかのように必要な資格を持っているのかは謎だった。親衛隊はやはり適材適所だと皆納得した。
 「時間まで待機」
 「了解」
 「早く用意できたからと早く始めると、せっかく積み上げて来たタイミングが狂ってしまう」
 「はい」

367 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/06/17(火) 07:31:58.05 ID:h06xpN0n
 「落ち着いてしっかりやるんだ、春菜ならできる」
 春菜は、馬淵にそう言われると出来る気がして来た。
 馬淵は、こう言う時、指揮官と参謀が「大丈夫か、本当に大丈夫か、本当に絶対に大丈夫か」と話しあうとまずいと言う事を経験的に知っていた。
 そう言うマイナス思考はどんなに隠そうとしても兵に伝わってしまう。兵は指揮を受けるだけではなくその向こう側を聞きとってしまう生きものであって、それによって生き残る事が出来るのだからだ。
 「この指揮車も今回が二回目だが、しばらくこもることになる。コーラは用意したか?」と馬淵。
 「いや、あの、その……炭酸はブシュッとなった場合、無線やPCに飛び散ると悲惨な事になるのでお水にしました」
 「え、そう? お茶は?」
 「それも用意してあります、500のペットボトルを10本ずつ」
 「兵糧攻めへの備えか! その分では食料も用意してるんじゃないだろうな?」
 「カロリーメートにしました」春菜は主婦の顔で言った。
 「何だこれは、新作のビフテキ味、試作品だって?」
 「で、でも、二人で一食分です」
 本物のビフテキではないのは冷蔵庫も電子レンジもないからだろう。お金はないことはない。
 「どう見ても丸一日分はあるぞ、丸一日俺たち二人はビフテキ味で暮らすのか」
 「で、でも、どんな事態があるか分かりませんし、おみそ汁も用意してます、あ、スープの方が良かったかも」
 「いやいやそう言う問題じゃなくて」

368 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/06/17(火) 22:48:24.95 ID:h06xpN0n
 よく聞いてみると、携帯トイレまで用意してあった。籠城の用意としては完全ではあったが大量の荷物に運転兼護衛担当の兵らは目を丸くしていたらしい。
 携帯トイレと言うのは同棲している男女だから出来る{裏ワザ」で、そこはもう作戦だの何だのを超越していた。彼ら二人にしか出来得ない事だった。
 春菜のそういう完全と言うか天然と言うか、訳が分からない部分はPCのユーザー名とパスワードにも表れていた。
 万が一の場合、任務続行のためにお互いのPCのユーザー名とパスワードを知っておく必要があった。
 それは二人とも生きてこのミッションを終えられるかどうか分からないからだが、実際には二人ともこの狭い指揮車で携帯トイレまで共有するのだから、
生きるのも死ぬのも同じ運命共同体だと考えられた。
 それはともかく、春菜のPCはパソコンはOSが日本語のユーザー名とパスワードに対応していて、
ユーザー名が「はるなたん」、パスワードが「みんなでめがんてをとなえろ」だった。
 「みんなでメガンテをとなえろってなんだ」
 「いや、そう言うコマンドで」
 「それに、いくらなんでも、はるなたんはないだろう?」
 「そんな、ひどいわ」
 「まあ仕方ないな」あっさり馬淵は折れた。
 ここで自分の彼女を相手に戦っても仕方ない。そう言う「夫婦喧嘩」は戦闘前には余計にまずい事は言うまでもない。話題を変えなければならない。

369 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/06/17(火) 22:51:07.33 ID:h06xpN0n
 「それと、指揮車の停車場所だが、作戦の進行に伴って順次移動する事になっている。これは防弾装甲も何もないから安全な後方に位置しなければならないが、後方すぎると、例えば品野町では現場の状況が把握できない恐れが大きい」
 「了解」
 「最初はここ、四谷駅近くのキッチン「歌風園」の駐車場に位置するが、これは一番最初だけだ。ここから、午前10時に出発……」馬淵は遠足の予定のように移動を確認する。
最終地点は国会議事堂の駐車場だ。中継などで映る事はまずないが国会議事堂にも当然駐車場はあるのであって、ここに議員や高級官僚らはトヨタセンチュリーを乗りつける。ちなみにここにくるトヨタセンチュリーは徹底的にチェックされる。
今はないがオウムが高級車をお布施で巻き上げたりしていた時期があり、高級車に乗っていようがどうであろうが警察のチェックは変わらない。
 また、国会議事堂と言えば、事前の確認事項としては国会議事堂の見学者は原則怪我をさせず順次徒歩で日比谷公園へ財務省前のルートから歩かせ脱出させる事になっていた。ただし子供・老人・妊婦その他身障者などの見学者は走らせると言う事が困難な為、
一旦議事堂内で足止め、保護し、積極的にではないが「人間の壁」として利用することとなっていた。これは当然予想される桜田門方面からの警察側の反撃・奪還を想定したものであった。
 警察の主力となるのはSATだ。SATの主な装備は拳銃以外は短機関銃と狙撃用のライフルだった。
 国会正門前に機関砲を装備した装甲車が配備されるのだからSATが束になってかかって来たとしてもびくともしないはずだが、彼らはチャイナマンに痛い目にあわされた経験を忘れようとしても忘れられなかった。
 「マブタンは国会議事堂周辺は詳しいんですか」
 「マブタンは駄目だって言ってるだろ、それはそうと、それも当然で、最初は国会議員……」
 「ええっ」
 「の秘書をしていたからだ」
 「え、それでもすごい」
 「そうかな? 安い給料でこき使われたぞ」

370 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/06/18(水) 06:45:56.91 ID:h91rYgUt
 光明党の議員の秘書が馬淵の仕事だった。馬淵は都市工学の知識が生かせるだろうと思っていたが実際は雑用係であった。
しかし彼は大卒でいきなりバリバリ都市をデザインするだの、地域の再生計画を仕切るだのは無理だぐらいの常識は持っていた。
 そんな彼が一番しんどいと感じたのは新幹線の新駅の誘致を断る事だった。それも、大都市の誘致のお願いは彼の先生の所には来なかった。大都市の役人は自民党に行くから来ないのだ。
 そして光明党は庶民の党だと言う事になってはいたが、それは建前であった。
 町や村の役人を追い払うのは馬淵の仕事だった。悪い事に彼の先生はJR族で鉄道に顔が聞くと言う触れ込みになっていたが、事実は違っていた。車に例えるとF1レーサーと暴走族ぐらい違っていた。
 新幹線は夢があると思うのは大都市に住んでいる人か鉄道マニアだけであった。鉄道マニアは鉄道が好きであっても、鉄道がもたらす弊害や公害の問題には全く目を向ける事はない事に馬淵は早くから気が付いていた。
 先のたとえで車を出したが、カーマニアは安全運転に全く無関心ではなく、むしろ大事な車が傷ついたり自分の運転で人が傷ついたりすることが嫌で運転に注意する人が多いようだ。
鉄道は個人が運転すると言う事は出来ないからなのか? 彼はよく友達と議論した。
 それはともかく、彼の所に来るのはおおむね小さな村の役人たちだった。それもかなり追いつめられていた。
 彼らは新幹線があれば自分たちの問題は全て解決できると考えていた。それを全て打ち砕くのが馬淵の仕事だった。

371 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/06/18(水) 06:47:34.28 ID:h91rYgUt
 は? 大都市が近くなる? いいえ、一ミリも近くなりません、最初は珍しがって都会に行ったりする人もわずかにいますがすぐに切符代が馬鹿高い事に気がついてやめます。
 そうです、新幹線で通勤するなんて事は出来はしません。過疎化対策でしょうけれどそんな交通費、大企業でも出さないですよ。
あなたの村には大企業に勤めている人が引っ越して来る筈がないでしょう?
 通学? もっと無理です。
 地域の特産品を売りたい? 新幹線は貨物を輸送しません。
 病人が出た時の輸送用? 大都会の大きな病院に行くですって? 新幹線は救急車じゃありませんよ、それに新幹線内で症状が悪くなるなど万一の場合の責任は村が取るんですか?

372 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/06/18(水) 17:35:24.07 ID:h91rYgUt
 毎日がそんな会話だった。
 新幹線の線路が通るだけでは地域には何のメリットもなく騒音や今まで通行出来ていた所が通れなくなるなどのデメリットしかなかった。駅が必要だった。しかし欲しい村全てに駅をつけたらそれはもう新幹線ではなくなってしまう。

 国会議事堂の近く(もっと正確に言うと自民党本部の近く)に全国町村会館と言うホテル(厳密に言うとホテルではないが実態はホテル)があって
そこに行って彼ら役人の話を逆に聴取する事もあったが彼らの言う事は大筋変わらなかった。
 町村会館は立地が良くて安く、いいホテルだったからそう言う役人が溜まっていた。彼らの不平不満も溜まっていた。馬淵はもしこのホテルが火事になったら不満に引火して爆発するかもしれないなと思ったりもした。
 彼の知っている役人にはノイローゼになったり自殺したりする者がいて、本物の統合失調症者も出て役人は大変な仕事なんだと感心した。
 ちなみに発狂者は「空を飛んで村に帰れ」と言う幻聴を聞いて光明党本部の二階の窓ガラスを椅子でたたき割ってそこから飛び降り、救急車で村にではなく病院に運ばれた。
 馬淵は秘書をやめ親衛隊が再結成されると第一期の隊員になった。

373 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/06/18(水) 17:36:49.65 ID:h91rYgUt
 「だから、子供は役人にだけはしたくないな」
 「ふむふむ」
 いつのまにか、春菜はメモを取っていた。そう言う所はまじめであり情報を集めるのが得意であるという彼女の性格が出ていた。
 「家は一戸建てで」
 「ふむふむ」
 「お風呂は当然、二人で入れるサイズがいい」
 「まあ、はあと」
 「言葉ではあとって言われてもなあ、材質はひのきがいいか、大理石がいいか」
 「ま、まあ、お風呂の、掃除を考えたら大理石の方が」
 「それで、ポシェットに入ったワルサーはベットの所に置いておいて、床の間にはウージーがあってリビングにはいつでも取れる所にルガーP08砲兵モデルを置いておく。これが理想の家だが……」
 「あっ」
 「どうした?」
 「会話ボタンを押してました」
 「何!」

374 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/06/18(水) 18:35:20.64 ID:h91rYgUt
 安藤は「今頃遅いわ」と相手に聞こえないながらも突っ込んだ。
 はるかが白衣に赤十字の腕章に決めてその背後にいた。
 今回は医療隊も来る事になっている。色々前回の失敗から改善はしている。
 「あの二人、鋭いのか抜けてるのか分からないわ」
 「それを言うな、チャイナマンに対抗できる力を持ってるのはあの二人だけだ」
 「チャイナマンは来るかしら」
 「出来る限り来てもらいたくはないが、悪い予感がする」
 「ねえ、そんな弱気でいいの」
 「それは……チャイナマンは最後の希望だ。
 だがそれはわれわれが最後の希望をつぶした時に完全な勝利が来ると言う事を意味している。だからわざわざ頭に「最後の」がつくんだ。
まだチャンスはある。こちらにあの二人が付いている限り、チャンスはある」
 権田は近くにいて安藤の意見にかすかにうなずいた。
 安藤は部下に、「展開!」と命じた。
命令はもう来る瞬間になっていたが肝心の指揮官と参謀はまだあまりの恥ずかしさから立ち直っていないらしい。
 向こうで偽装した戦車輸送車から装甲車が降車し始めていた。
 「戦争だ!」と安藤はほえた。

375 :政教一致@大阪:2014/06/18(水) 23:06:02.56 ID:j13WtOcC
訂正
>>362
誤 高校2年

正 高校3年

376 :政教一致@大阪:2014/06/19(木) 06:41:31.26 ID:S4lnP+kW
訂正
>>362
誤 桜花高校二年

正 桜花高校三年

後で明らかに三年C組という記述があります。

377 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/06/19(木) 06:54:01.74 ID:fq+5CxYH
 戦争が始まった時。
 太田首相は官邸の廊下にいて、文部科学大臣の鏡涼子と話をしていた。
 太田は、韓国の事を涼子に切り出したかった。
 涼子は韓国に留学していたと言う経歴がありハングルがしゃべれた。韓国大統領とも一度会った事があった。
 太田にしてみれば自分の代わりにソウルに行ってくれる人物は涼子しか見当たらなかった。しかし、彼女も暇人ではなかった。
 涼子の考えでは、高野山まで武装している今、平和への道を子供に示すのは大人に求められる責務であり、教育者の務めだった。
 事態は戦争の様相を示し始めている。警察の武装も強化する予定だ。官邸にも銃が運ばれている。
 「あの広告を見たかね」と太田。
 「見ましたわ、十億なんてどこにあるのかしら? ところでなにやらたくらみがおありなの」
 涼子は話も何もしていないのに太田の考えを先読みした答えを返した。
 太田はややたじろいだ。不謹慎だが、近くに立っているので涼子の高そうな香水の匂いがして、太田は少し妻の貞子の事を考えた。
彼女は香水は嫌いだった。焼き肉が好きだった。
 十分の一貞子パンチは次の訪韓では封印してもらわないと困る。もっとも、もう一回見たいと言う命知らずは韓国広しと言えどそうはいないだろう。

378 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/06/19(木) 06:55:39.18 ID:fq+5CxYH
 「ある所にはあるんだろうねえ、で、その、外交だが……」
 「お断りです」
 「まだ何も話していないぞ」
 「韓国でしょう、行けって言う話に決まっています。名代だか特使だかで」
 「特使で、お詫びの文を持って行ってもらいたいのだが」
 「それは外務大臣の喜納さんのお仕事だと思いますわ」
 「喜納はアメリカで手いっぱいだ。赤旗は今、硫黄島だし、閣僚は全員が手いっぱいだ。」
 「私が手いっぱいでないとでも?」
 返事のように爆発音が轟いた。かなり近い。

379 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/06/19(木) 06:57:32.88 ID:fq+5CxYH
 「なんだ?」
 20秒もしないうちにSPの一人が、総理、こちらに来てくださいと言った。
 「今、自民党本部の方角で爆発音があったと報告がありました」
 「何だと?」
 「銃声もしていると言う報告がありますが、良く分かりません。会議室へ」
 官邸の地下には危機管理センターもあるが、音がしたと言う今の段階ではとりあえず廊下に立っているのはやめていつもの会議室へ入ると言うのが最初の対応だった。
 会議室には農林水産大臣竹下康之がいた。他の閣僚はいない。竹下は部下に何か指示を出していた。部下は素早く走り去る。それから竹下は太田に向かって言った。
 「総理、攻撃です。生華学会のようです」
 「確かか」
 「自民党本部と連絡がつきません、今さっき参議院議員会館から偵察に出した別の部下は銃撃戦を見たと言っています。敵はライフルだとも言っています。数は不明」太田の部下の警官のように竹下は言う。
 その報告もさっきのSPの漠然としたものより形になっている。
 「創価学会か公明党とは連絡がつくのか」太田は言った。
 「今、部下にやらせています、総理は危機管理センターへ」竹下は今度は携帯に耳を当てた。
 首相官邸の地下一階にある危機管理センターならこの会議室よりはるかに安全だし情報も集まる。
 「君も来い、官邸の周りにも敵はやってくるだろう」
 「あっ、待って下さい、うん、よし、逃げるんだ、早く……総理、敵は装甲車だそうです」竹下は言った。
 「何だと?」

380 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/06/19(木) 19:41:50.66 ID:fq+5CxYH
 SPらがまた数名入って来た。防衛省から来ている後田と言う官僚の姿も見えた。
 「危機管理センターに行く」太田は言った。
 「いえ。総理、ここにいて下さい」とSPの一名が言った。最近来た向井と言う男だ。
 「向井、なぜだ」とSPの一人が言う。前からいた男だ。
 「実は、未確認だったので黙っていたんだが、生華学会が危機管理センターに爆薬を仕掛けていると言う情報があった。
 しかも仕掛けたのは前から官邸に詰めているSPであると言う情報がだ。
 そんな情報はデマが半分だと思われたが、念のために俺たちは派遣された。ガードを固めると言う意味も兼ねてな」
 「そんな馬鹿な」
 「いや、最後まで我慢して聞いてくれ」
 「なんだ」
 「我が国の危機管理上の最大の弱点は首相官邸の危機管理センターなんだ。ここには首相がいて危機管理のスペシャリストがいて全ての情報が一元的に集まっている。
 だがここが爆破されたらどうなる? 全てが失われてしまう。だから敵は逆にここに全ての力を集中して一挙に攻撃すればいい事になってしまう。
 真横には首都高速もあり下には地下鉄も走っている。守りきれと言うのは不可能なポジションなのに」
 かすかにだがまた爆発音がした。

381 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/06/19(木) 19:45:17.05 ID:fq+5CxYH
 「向井、その情報は誰から聞いた?」と太田。
 「それは秘密ですが、実はCIAから回って来た情報なのだそうです。生華学会の電話か電子メールか何かを傍受したのだろうと言う話でした。
とにかく詳細は我々ここに来るSPのメンバーは知りません。CIAにしてもSPの誰が生華学会の裏切り者なのかは掴んでいないのだろうと言う話を聞かされています。上層部からです」
 「そうか……」
 太田は素早く考えた。これは戦争なのだ。太田が危機管理センターに行く事は敵の計算に入っているだろう。いかにもありそうな話だと言える。
 後田の携帯が鳴った。
 「はい、なんだと、そんな……」
 後田は携帯を切った。
 「総理、共産党の本部も民主党の本部も、政党はみなミサイル攻撃を受けているようだと言う報告がありました。東京都庁も歩兵・装甲車の攻撃を受けているとの事です。
防衛省はまだ攻撃されていませんが、それもいつまでもつか分かりません」
 「なんだと……ミサイルだと?」
 「公明党本部も連絡がつきません」と竹下。
 「総理、官邸は捨てて一時警視庁へ避難してはどうでしょうか」向井は言った。

382 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/06/20(金) 07:33:07.78 ID:dSVU+ODO
 全く公表されていないが実は首相官邸で火事などがあった場合、避難場所は公邸ではなかった。それでは近すぎる。消防作業などもある。執務は出来ないだろう。
 また、はるかに時代は過去になるが226事件と言うクーデターがあった。その時は首相官邸が反乱側に占拠された。そして、オウムのサリン事件があり、
毒ガスがまかれると言うテロの実例があった。官邸にガスが撒かれて公邸に避難したのでは意味がなかった。
 そこで、万が一の場合、官邸からの首相の避難先は警視庁が想定されていた。これは国家機密であり、訓練も首相役を秘書が勤めて任期中に一回から二回はやっていた。
 基本は徒歩移動だった。これは道路が地震などで車が移動できないほど破壊されても、徒歩なら移動が可能であるからだった。ただし、車移動も訓練された。
 避難ルートも複数が設定されていた。
 最も安全かつ早く移動できると考えられていたのは官邸から出て国会記者会館の前から国会議事堂南門を通って一回国会議事堂の真ん前に出、国会議事堂正門からずっと桜田門の警視庁まで行くと言うコースだった。
 国会議事堂までは国会が開いている時は毎日通るコースだった。正門以降は桜田門までの広い道をただ歩けば良いだけのルートだった。この部分は左右に建物もない緑地だ。だから警備上も最も安全で最も早く行ける。
 それか、公邸から六本木通りを国会前の交差点まで歩いてもいい。どちらでもよかった。
 ただ、火事で逃げると言う想定で、夜間かもしれないのなら国会議事堂を経由するコースがいいのはいい。六本木通りは普通、首相が移動すると言う事はない
(内閣府まで行く事はあり得なくはないが、そんなにひんぱんに行くとは考えられない)コースだった。
 ちなみに、大規模災害時の首相・閣僚の移動先はまた別途あったがそれは「官邸が火災などの場合の避難先」とは次元が異なり別物なので説明は割愛する。

383 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/06/20(金) 07:38:16.40 ID:dSVU+ODO
 「警視庁の方が安全と言えるか?」と太田は言った。
 「しかし、ここよりは安全でしょう。状況を見て、そこから先の移動先を決めましょう」と向井が言った。
 「警視庁のヘリが使えると思います」とこれも新しく来た葛西と言うSPが言った。
 官邸の屋上にもヘリポートはあるが常時はヘリはない。警視庁の航空隊は複数のヘリを常時待機させている。
 「自衛隊の基地が、どこか使えるでしょう」後田が言う。彼はまた携帯で防衛省と連絡を始めた。

384 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/06/20(金) 07:40:35.53 ID:dSVU+ODO
 彼らは、太田の妻の貞子も入れて避難グループと官邸に残るグループに分かれた。太田、貞子、竹下、涼子は移動組で、後田もそうだった。
SPのうち前からいる者は残り、新しく加わったグループは太田を守って移動すると言う事になった。官邸を完全に放棄する事は危険だった。また、途中のルートの安全は確保されていない。
 それで、移動するSPはHKMP5A2を装備する事になった。
 彼らは官邸を出ると用心深く前進を始めた。竹下の携帯に次々と部下から情報が入ってくる。国会議事堂の南門に着くころにはかなりの情報が集まっていた。
 「敵は東京じゅうに攻撃を仕掛けています。兵力は数千との事で、銃を持っています。装甲車も数が多いらしい。
それと爆発は未確認ですがやはりミサイルです。奴ら本気で戦争を仕掛けて来たらしいですよ」
 「うむ……おや? 南門の警備がいないな」太田の眼が光った。
 「これは?」向井は様子を伺った。銃は油断なく構えている。
 「敵がいると言う様子はありませんが、警備がいないと言うのは変です。ここの責任者は何もないのに逃げるとか言う性格の男ではありません」
 「向井、戻るか行くかだ」太田は言った。
 「そう、一回国会議事堂に入って様子を伺いましょう、偵察を出します。中村、伊藤、銃を置いて普通の官僚のふりで桜田門警視庁方面を偵察、
ほら、あそこの、国土交通省前の交差点が見える所まで行け」
 二人のSPは急ぎ足で正門から消えて行った。
 太田は、衆議院入口から国会議事堂に入った。その時に時計を見ると事態が始まってからまだ十五分もたっていない。

385 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/06/20(金) 07:44:04.47 ID:dSVU+ODO
 馬淵は春菜と情勢を確認した。ほぼ生華学会は作戦を有利に進めていた。
 チャイナマン……どこかに必ずいる、こちらをうかがっている。
 もう、彼らが新たな軍事行動を起こした事は分かっている筈だった。だが、それは多数の地点で発生している。奴は一人しかいない。
 奴はどこに現れるのが最も効果的かを見定めている。警察も自衛隊も米軍も敵なのだが、俺は個人的に奴がどこに出てくるのかに脅威を感じている。今や数千の兵力でミサイルを撃ち込んでいるこちらが脅威を感じていると言うのも非常に矛盾しているが事実だ。
奴の出現によって作戦がひっくり返ったという経験は味わったものにしか分かりようがない味だ。このビフテキ味のカロリーメートのように。
 「これ、なかなかいけるな、カロリーメートのビフテキ味」
 「でしょ」
 「しかし、兵には食事の用意がない、ここで二人ばくばく食っていると言う事は秘密にしなければならん。士気が落ちてしまう」

386 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/06/20(金) 07:45:26.46 ID:dSVU+ODO
 「あいつら学習能力ゼロか」鰻原が一号装甲車の無線で二号車の鈴木に言った。
 春菜は無線を切り忘れていた。二人の会話はまたも聞こえていたのだった。鰻原は国会議事堂の前へ移動する途中だった。鈴木は警視庁をけん制するべく桜田門方面へ展開している。
 「やはり、あいつら只者じゃないわ、絶対に只者じゃない」とはるかが安藤の無線マイクを横取りして言った。
 安藤は無線を取り返すと言った。
 「全員、チャイナマンを発見したら戦闘に入る前に報告せよ、自分だけで対処しようとするな、奴は一人だ、そこにつけこむんだ」

387 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/06/21(土) 16:17:17.38 ID:pUrxtLyb
 太田が腕時計を見ていたのと同じ瞬間、犬田弘忠もまったく同じ動作をしていた。腕時計を見ていた。
 その時計はseikoの安い時計だが父の代作が買ってくれたものだった。先生が遅刻してはいけないからと言ってだ。
 父は教員生活に必要なものをずいぶん買ってくれた。先生は勉強するために本が必要だろうと図書券もくれたし、親子ではないと言いながらも住居の保証人になったりした。
 それはとにかく、まだ15分ほどしかたっていなかった。
 今、彼ら三年C組がいるのは国立国会図書館の地下五階にある特別書庫だった。
 考えられない話だった。最初は地震かと誤認して地下にとどまっていたが、彼らもすぐに事態に気がついた。
地上にいる教頭と犬田弘忠は最初携帯で連絡を取ろうとし、次いで館内内線電話で連絡を取った。教頭の指示はそこにとどまれであった。
 「そこが一番安全なように思う」
 そう言われると反論は出来なかった。図書館のスタッフが地上に上がる事になり彼らだけがここに残った。

388 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/06/21(土) 18:36:44.77 ID:pUrxtLyb
 太田は後頭部を銃口で突かれて反射的に振り返りながら銃口を掴もうとした。
 向井はとっさに銃口を下げ、一歩下がった。太田が見ると後田がHKMP5A2をかまえて貞子を狙っていた。貞子は素手でも十分な脅威だ。
 「貴様ら!」
 「首相、生華学会の世界へようこそ」向井が言う。SPらは裏切り者だったようだ。
 「さっきの危機管理センターの話は?」
 「嘘ではない」と葛西と言う裏切りSP。
 「ただ、爆薬を仕掛けたのは我々だと言うだけでね。今頃吹っ飛んでるだろう」
 「中村と伊藤を出した。あいつらは本当のSPで、今はもう正門の前に我々の装甲車が来ているころだからもう帰ってこれない。
奴ら泣くだろうが、仕方なく本庁(警視庁)に行くだろう。
 つまり太田首相は生存していてここ、国会議事堂にいると警察側は知ることになる。正面からはこないだろう」
 「来るかもしれないぞ」太田は言った。
 「SATを甘く見ていると、向井、貴様はムショで後悔する羽目になるんだ。それとも拘置所でか(死刑囚は刑の執行まで拘置所にいる)」
 「さてね、ここではなんだから中央広間に行こう」
 彼らは国会議事堂の中央広間に行った。
 そこには子供たちが集められていた。見学に来て捕まった子供だった。皆小さい子供で、泣いている子もいた。
 「これは何だ、向井」竹下が言った。太田は唖然とした表情だったが何か分かった様子で質問は口にしなかった。
 「人間の壁だ。平たく言うと人質だ」向井は言った。

389 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/06/21(土) 18:43:09.30 ID:pUrxtLyb
 国立国会図書館の本館の地下五階にある特別書庫には選ばれた見学者が見る事が出来るある宗教団体についての本があった。
 某宗教団体はある時(数年前だと言う事だった)自分たちのことを悪く書いている本はすべて焼き払うのだと決定した。
 実際にはそれは不可能だった。図書館や本屋にそういった本はたくさんあり、それを買った人の家に本はあるのだから。ブックオフにさえ山積みになっている。
 しかし、某宗教団体はまず国立国会図書館の本からまず焼き払うと決定した。
 そこから初めて順次すべてのじぶんらに都合の悪い本という本を焼き尽くすのだと言った。
 彼らは集団で国立国会図書館に行き、「自分たちのことを悪く書いている本」をすべて借り出そうとした。それに不審を抱いた図書館側は第一閲覧室に警備員と係員を緊急配備した。
 しかし、もう宗教団体の方では引っ込みがつかなくなっていた。やめると言う事は出来なくなっていた。彼らは号令一下、一斉に本を持ち、隠し持っていた百円ライターをかざした。
 中の一人は持込で所持していた私物の「ぬるぴたスク水LOVE」を間違えて持ってしまった。
 たちまち彼らは職員と近くにいたほかの利用者に取り押さえられ警察に逮捕された。
 彼らにとって誤算だったのは放火はきわめて重罪になるということだった。この宗教団体はこれがもとで事実上解散に追いやられた。
 ただし、「ぬるぴたスク水LOVE」の男だけは説教だけで釈放され現在もシャバにいる。なにが幸いするか分からないものだ。
しかも、問題の私物の「ぬるぴたスク水LOVE」は返却されたと言う。図書館の資料ではないのだから当然と言えば当然だが。

390 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/06/21(土) 18:46:52.97 ID:pUrxtLyb
 三年C組は「自分たちのことを悪く書いている本」を見学していたのだがそれどころではなくなった。
 これらの書籍も図書館の本であり、必要であればガラスケースから出して(多分選ばれた研究者だろうが)閲覧者の前に置かれる事になる。
 全ての図書館資料は利用者の物であり司書や図書館設置者(この場合は国)のものではない。
 「まずいことになっている」国立国会図書館の職員らが戻ってきて告げた。
 「地上は戦争になっている、隣の社民党本部は爆発して跡形もない」
 「そうですか」犬田弘忠は生華学会が攻めて来たと思ったが口には出さなかった。
 「図書館戦争じゃなくて図書館が戦争だ」と酒井田。
 「くだらない」と睦美は言った。携帯を出したがやはり電波はない。地下五階では仕方がない。
 「他のクラスは?」と犬田弘忠。
 「避難した、君たちも避難しないと」とスタッフが言った。
 「どこへ避難したか分かりますか」と犬田弘忠は言った。
 最初は地震かと誤認したのでこのクラスだけが取り残される形になってしまった。今からこの生徒達の命は彼の決断にかかっている。

391 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/06/21(土) 18:50:09.51 ID:pUrxtLyb
 「一クラス足りない事は十分わかっていたはずだがバスで脱出した」
 「なんて薄情な奴らだ」と委員長の鷺野忠志が言った。
 「薄情とは言えないだろう」と犬田弘忠は言う。しかし内心ではなぜそんな事をしたのかと考えていた。
明らかに教頭とは内線電話で会話しているからだ。
 後で分かったのだが事実は単純だった。
 教頭は品川区に住んでいた。彼は犬田弘忠には秘密にしていたが妻子を生華学会に殺されていた。
 子供は三歳と一歳で妻は子供をかばうように死んでいた。
 完全に恨む相手が違うが教頭は復讐の機会をうかがっていた。
今日は軽くクラスの生徒ごと犬田を戦場に置き去りにすることで満足する事にしたのだった。
 三年C組の生徒を巻き添えにするのは仕方のない犠牲だった。復讐には生贄はつきものだ。

392 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/06/22(日) 08:04:57.82 ID:H9ON8p3Z
 「敵らしい奴らが来て民間人は避難するように呼び掛けている。抵抗しない民間人は危害を加えないとも言っている。信じられるかどうかは知らんが、日比谷公園まで行けと言う事だ。
 ただし、子供は危ないから一時国会議事堂に保護すると言っている。身障者や老人など走れない人もだ」ともう一人のスタッフが言った。
 このエリアで民間人が中に入れるのは国会議事堂とこの図書館だけだ。だから敵も避難を呼び掛けに来たのだ。
 また、犬田弘忠は素早く考えた。
 高校生は大人に入るのか子供に入るのか? しかし今の文脈からすると走れるか走れないかが分岐点だし、彼らは高三だ。だが、ここから日比谷公園まで行くのは安全かどうか、戦闘中だ。
 図書館は出て行った方が安全というスタンスのようだ。難しい判断だ。ここからまっすぐに日比谷公園に行くのか? 国立国会図書館から日比谷公園まで最短距離を行け、はないだろうぐらいは想像ができる。
 本当は堀を渡って皇居に行くのが一番安全だろうが適当な橋がなかった。江戸城だったころの名残だ。めったやたらに堀を越えられないようにしてあるのだ。
 「一旦、地上に出よう。みんな、はぐれるんじゃないぞ」

393 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/06/22(日) 08:10:56.08 ID:H9ON8p3Z
 国立国会図書館はそれほど大きな被害は受けていなかった。新館が少し被害を受けている。ただ、警察と襲撃側の銃撃戦の流れ弾の痕跡が至る所に残っていた。
 臨時の救難センターが本館の入館前ロッカー室に設けられていて生華学会の医療隊がいた。国会図書館はそのせいで中立地帯のような扱いであった。お向かいの消防署の隊員が器用に水道の設備を急造していて、怪我の手当てに不可欠な水があった。
警察の負傷者もいて輸血や手当を受けていた。
 このエリアには大きな病院はなかった。各官庁は医務室や保健室を持っていたが、それらはこう言う事態には対応できるような物ではなかった。
 三年C組はそこに図書館のスタッフと一緒に行った。医師が「国会へ行け、ここは怪我人で一杯で、高校生がいても邪魔なだけだ」と言った。
 それもそうで、ここからは順次警察の負傷者が警視庁に搬送されていて、それは非武装の怪我をしていない警察、同じく非武装の生華学会、消防(真向かいが消防署)、みな混じりあってやっていた。
明らかにここに高校生が三十人以上(プラス先生一人)いても邪魔なだけだった。
 「国会議事堂まで先導してあげるわ」と若い女性看護師の一人が言った。美少女と言っても良いぐらいの人だったが手術手袋は血まみれだ。

394 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/06/22(日) 08:13:24.20 ID:H9ON8p3Z
 「あそこまで行けば、後は戦闘部隊が、親衛隊が案内してくれるわ」
 「国会議事堂から先は具体的にはどう動くんですか」と犬田弘忠が言った。
 「南門から出て、細い道から行って六本木通りを渡って文部科学省と財務省の間を通って行くの」
 「地下鉄の角にでる道ですか?」
 「いえ、千代田線の霞が関は道一本向こう、北側よ、私が言っているのは文部科学省と財務省の間を抜けてそのまま曲がらないで総務省の前を通って公園の南の方で左折して北に上がるルートよ、普通はこんな道通らないわ、遠回りになる訳だから」
 それはそうで、普通はここから日比谷公園なら桜田門の方に向かうのが早い、警視庁の方だ。今も担架が行っているから安全と言えば言えるが、一触即発だろう。銃撃されない保証は誰にも出来ないだろう。
 一方で看護師は、今説明したルートは親衛隊は全く兵を入れておらず、出会うとしても警察だけだから民間人の安全は保障されると言った。
 看護婦はそれからはにかんだように前田敦子と名乗った。本名だとも言った。
 「芸能人は特殊な芸名を名乗ってもらわないと困るわ」と敦子は言った。
 「は、はあ……」
 「すぐ行ってすぐ帰ってきてくれ」と医師は言った。
 「隣の建物ですから、すぐです」敦子は言った。

395 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/06/22(日) 19:55:00.10 ID:H9ON8p3Z
 三年C組と敦子はまず図書館の前に出た。
 「三十秒だけ待って」敦子は言った。白衣のポケットから魔法のように煙草を取り出す。
 火をつけると深く吸い込んだ。多分これが目当てだったのかと思ったが犬田弘忠は責めようと思わなかった。
 あの入館前ロッカー室の床は血だらけだった。戦争開始十五分後でこうなのだ。
吹っ飛んだビルの分は全く目に入って来ない事を考えると、すでにどれだけ学会が殺したかは想像もできない。
 「あんたがた、いつもこんな事を?」酒井田が言った。
 「まさか、いつもは小児科なの」
 「じゃあ、なんでまたこんな事を」
 「話せば長いわ、さ、行きましょう」
 彼らは一団となって国会議事堂の方へ歩いて行った。親衛隊の歩兵が数名、中間の道路に立っていたが何も言わなかった。
 国会議事堂北門には土嚢が積まれていて塞がれていた。機関銃が据えられている。機関銃兵は正門に回るように指示した。
 「憲政記念館はわが方が制圧した。だからここも本当は開ける予定なんだが……いざという時救難センターに行けないと困るからな」機銃兵が言った。
 「正門は開いてるの?」
 「ああ、装甲車がいる、走ったり攻撃するような身振りはしないように。間違いはごめんだ」
 北門から正門まではけっこうな距離があった。みんな敦子の後をぞろぞろと歩いた。

396 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/06/22(日) 19:56:14.64 ID:H9ON8p3Z
 馬淵は半蔵門の交差点の所で指揮車を止めさせた。交番にはまだ警官がいた。ここからは見えないがすぐそこに麹町警察署がありそこも健在であった。
 今も交戦は続いている。春菜は指揮を続けていて馬淵はそれをサポートしている。
 戦闘に早く片をつけたいなら本当は警視庁にミサイルを撃ち込めばいいのだ。
 しかし、それは出来なかった。なぜなら明日からも警察はいるからだった。そこは戦争とはいえ極めて矛盾を抱えていた。
無制限戦争は出来なかった。東京都庁を吹き飛ばさないと言うのもそうだった。明日から都の各種サービスはいる。極端な例を示せば今日死亡した者の死亡届の提出だ。
 ちらっと春菜をみて馬淵はこうも思った。
 婚姻届を出す人もいるだろうし、そう言うサービスが出来なくなってしまうのは困る。
 それはそうとして、ここからなら、一気に国会議事堂まで突っ走る事も可能だがそれは現実には不可だ。まだ国会周辺の征圧は完了したとは言えないからだった。
 この指揮車はまったく無装甲な上にこれを失うと言う事は、言いかえれば馬淵と春菜を失うと言う事は指揮と作戦を失ってしまうと言う事であり敗北を意味した。

397 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/06/23(月) 07:08:38.55 ID:QUcVlD5J
 国会前庭(北)に潜むSATのスナイパーは、憲政記念館と装甲車を代わる代わる見た。
 どちらもライフルでどうこうなりそうにはないが、そこから出てくる人間は殺す事は出来る。
 スナイパーにとって季節が冬なのはありがたかった。使い捨てカイロが使える。蚊はいない。スナイパーにとっての敵は蚊だった。
 射殺する人間は敵ではなくターゲットだった。なぜなら彼らが狙撃する相手がいきなり狙撃用ライフルで反撃してくるなど考えられなかったからだ。蚊は刺してくる。
 また何十人か来た。民間人のようだ。おやおや高校生だ。先頭は白衣の女性看護師だ。これは狙ってはいけない。
 と、装甲車の砲塔から、乗組員が身を乗り出した。これは先ほどから観察し始めてから初めてだった。スナイパーは狙いをつけた。

398 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/06/23(月) 07:09:29.73 ID:QUcVlD5J
 「それで最後か、まだ来るのか」装甲車の車長、鰻原は言った。
 「最後よ」
 「煙草ないか、一本百円出す」
 「装甲車で煙草吸っていいの?」
 「走らず、座ってるのがつらい」鰻原が訴えた。
 犬田弘忠はこの二人が前からの知り合いである事は見抜いたが、やはり黙っている事にした。
装甲車は走る火薬庫燃料庫だが、砲塔から身を乗り出して煙草をねだる男の顔はやはり子供みたいであり憎めない所があった。
 装甲車の乗降用ステップに足をかけ半分装甲車に身を預けて手を伸ばした敦子から、鰻原は煙草を受け取ろうとした。
 銃声が轟いた。敦子は装甲車から転がり落ちた。
 「議事堂内へ、早く!」
 鰻原は叫んだ。素早くハッチ内に姿を隠した。
 敦子はかすり傷のようだが、頭を打ったのか気を失っていた。犬田弘忠が担いで、正門内に入った。
 装甲車は応射せず、そのまま前進した。その空間に数名の歩兵が入る。全ては遠隔の、春菜の指揮によるものだった。
 歩兵もむやみな射撃はせず、門の中から土嚢を次々に出して積む作業を装甲車の援護下にした。次々と狙撃が繰り返され負傷者が出た。

399 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/06/23(月) 17:38:59.50 ID:QUcVlD5J
 三年C組と意識不明の敦子は衆議院入口から国会議事堂内に入った。親衛隊の兵が出迎える形になったが彼らに敵意はなかった。
 むしろ逆で、早く出て行ってもらいたいのオーラが出ていた。それもそのはずで、彼らは人質は歓迎していなかった。民間人がうろうろしている事は陣地が弱体化するだけでしかないのだった。
 それにもともと、この国会議事堂は城でも何でもなかった。
 現状、がっちり確保できたとは言い難かった。内部から衛視を始めとするスタッフを追い出し、憲政記念館を確保できたこと、国会図書館を中立地帯化出来たこと、正門前に装甲車を展開できたことで飛躍的に安全性が高まったがいまだ警察はあきらめてはいない。
 だから、権田も指揮車もまだここに来ていない。
 「医務室まで来てください」
 「医務室なんかあるんですか?」犬田弘忠は驚いて言った。
 「それはありますよ、国会議員にはお年寄りが多い。ただ、みんな退避してしまって無人なんです。看護師さんが意識を戻されて救難センターがOKを出してくれたらこっちにとどまってくれると有難いな」と歩兵隊の防衛部隊の志村と言う将校が言った。
安藤直属の部下だが、ここ国会議事堂の責任者だ。
 彼の言う事は人間みな戦場では自分が優先だと言う話を語るものだった。
 ただでも人不足の救難センターがそんな話にOKを出すはずがない。
 一応、女子から一人志願者を募って連れて行くことにした。睦美が志願した。酒井田がどこかから担架を持って来た。犬田弘忠はそこに敦子を移すと、酒井田と二人で担ぐ事にした。
 「行こう」

400 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/06/23(月) 17:41:14.41 ID:QUcVlD5J
 志村が案内したのは結構本格的な医務室であった。こちらの方が手当には向いていそうだが、広さが足りない上に出入りという点ではあの国立国会図書館本館の入館前ロッカー室に劣る。
 今も生華学会は救難センターに医薬品を送りつけていた。やむを得ない処置だった。医療隊は赤十字をつけているため敵も手当てしない訳にはいかなかった。
 もちろん、その事の功もあった。警察も医療隊には発砲しなかった。
同国人同士で殺しあう内戦では血で血を洗う事態が発生するが、医療隊がそう言う「緩衝材」の役をするとは想定外だった。

401 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/06/24(火) 07:32:56.72 ID:eLz+90FI
 警視庁では、対策本部長、倉田警視が窓から国会方面を眺めていた。
 装甲車が動いていた。機関砲が火を噴けばここも危ないが、今はこの臨時指揮所を放棄するつもりはない。
 「本部長、向こうの責任者を名乗る男から電話が入っています。対策本部長を名指しですがどうしますか」と部下の一人が言う。
 マニュアルでは、このような場合、説得の係、ネゴシエーターが出る事が原則だった。
 だが、今は違った。ネゴシエーターの第一責任者、本田と言う男は警視庁の通信指令室の機材に小細工した張本人と見なされていた。
 無線が一時不通になった。彼は逃走したが、まだ学会の隠れ工作員はいるものと考えられていた。倉田のような下位の者が本部長なのもそう言う意味もあった。
彼の上位にあるものは生華学会で行方不明だった。
 彼の上には他にも警視正や副総監など多数の上席者がいたがいざとなると、倉田に本部長の座が回ってきたのだった。
 「後でかけなおす、電話番号を言え、どうせ逆探知しているから今さら隠そうとしても無駄だ、お互いに手間を省こう、そう言ってやれ」
 「はっ」
 「本部長、機動隊からです」

402 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/06/24(火) 07:36:05.03 ID:eLz+90FI
 「本部長、機動隊からです」
 機動隊は勇敢に戦っていた。死者負傷者続出。弾薬が不足。そう短い報告があった。
 「すぐ手配する」
 倉田はまた国会議事堂の方向に目を戻した。
 もちろん、彼の立ち位置から、すなわち警視庁の庁舎から全てを俯瞰する事など出来はしない。
だが……考えることは出来た。それが彼の任務だった。
 ……交渉の潮時だろう。すでに負傷者の手当てでは国会図書館に
臨時の救難センターを設置、敵味方なく手当てしている。交渉の余地はある。
 「向こうの責任者の電話番号は? かけてみよう」
 「はっ、しかしふざけた名前を名乗っていまして」
 「田中、お前の感想はいいから、何と言って来たかを言え」
 「死神博士だと名乗っています」

 「断わっておくが、死神博士は本名じゃないからな」
 「そんな事ぐらいは分かってる。要件に入ろう、警視庁の倉田だ。階級は警視だ」

403 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/06/24(火) 17:13:24.25 ID:eLz+90FI
 「本日、チャイナマンを名乗るテロリストをリーダーとするテロリスト・グループが東京各所を襲撃、ミサイル攻撃を行い壊滅的打撃を与えた。閣僚は全員死亡、最高裁判官も全員死亡したとの情報が入っている。
わが栄光ある生華学会は親衛隊を始めとする傘下部隊を動員し現在治安を回復するための超法規的行動に従事中である」
 盗人猛々しいとはこの事だ。倉田は思った。
 テロリストもここまで開き直ると死神博士を名乗る資格がある物なのか? いっそ生華学会をやめてショッカーと改名してはどうか。
 「現在我々は国会議事堂を始めとする国家の中枢を支配下に置いている。警察は妨害をやめ治安維持の活動に協力するようにせよ、
報告によると先ほど避難しようとしていた高校生の集団に向けて警察が発砲、先導していた白衣の女性看護師が負傷したとの事だが事実か?」
 「確認させる」
 小さいが仕掛けて来た。大筋では事実だ。装甲車を狙った弾がそれたらしい。国会議事堂からの民間人の避難は終わっていないが、これでまた時間がかかってしまう。それは意図していないと言う大義名分をかかげながら人質を取り続けられると言う事を意味する。
 西側の赤坂見附の方は、ずいぶん民兵と思われる生華学会の要員が入っている。彼らはあからさまに武器を見せないと言う戦術に出ていた。ここでは警察も強くは出ていなかった。
 東は、ここ警視庁の正面だ。スナイパーの活動は封じられた格好になる。テロリストに正面攻撃をかける事は出来ない。北側、最高裁判所の方角は警察が確保していたが国会図書館は中立地帯になっていた。
どちらもそこからは攻撃せずというのが暗黙の了解になっていて、事実先ほどまで数名国会図書館に残っていた武装兵は退去した。
 だから残されたのは南側と言う事になる。困った事に生華学会側もこの南側から民間人・非武装の国会スタッフを避難させていた。
ここから押し込むのは避難終了後と言う話になってくる。また避難が終了しなければ民間人の被害が防げない。

404 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/06/24(火) 17:17:01.81 ID:eLz+90FI
 「では、こちらのこれからの段取りを伝える。現在、国会議事堂内には、あー何だ? 某県の……「子供収容所」?……」
 「はあ? もう一度繰り返せ、子供を収容していると言ったのか」
 「失礼、固有名詞だった。「子供収容所」と言う施設の幼い子供と、そのスタッフ、
それから都立桜花高校の三年生と引率の先生を保護している。これらの民間人は」
 げっぷが聞こえた。倉田は顔をしかめたが、マイクの向こうで女の声が「お水」と言っているのが聞こえたので怒りをこらえて待つ事にした。
 「失礼」
 「お前げっぷが出るほど何かをたらふく食ってるのか?」倉田はまた思わず怒りがこみ上げて来た。
 「い、いや、その……はい」正直なテロリストだ。
 「何を食ってたんだ」
 「……カロリーメート、ビフテキ味」全く正直なテロリストだ。
 「何い貴様!」
 激高する倉田を部下があわてて止めた。
 「本部長!」
 「怒りはこらえて下さい」
 倉田は電話に戻った。
 「今の背後の女はなんだ、彼女か」
 「うっ」
 「図星か! お前、たらふくビフテキ味のカロリーメートを食って彼女を連れてテロか、それで死神博士を名乗るとは!
 天国の天本英世さんに土下座して謝れ」
 それから死神博士はこてんぱんに倉田に怒鳴り上げられながら、要点、以下の項目を伝えた。

405 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/06/24(火) 17:19:57.03 ID:eLz+90FI
 * 狙撃は一時中止する。国会議事堂からも射撃しない。また国会議事堂前の装甲車からも射撃しない。射撃しないことを示すため装甲車は車体、砲塔(機関砲)を議事堂側に向ける。
 * 時間は未定であるが、光明党の呼びかけで臨時の特別対策国会が開かれる予定である。そのために続々と光明党を始めとする国会議員が来るはずである。彼らを通すようにせよ。
また、国会議事堂の職員にも職場復帰を呼び掛ける。それら職員の安全は保障する。
 * 当該国会が開会される前に、国会の議論の中立を保証するため生華学会は国会議事堂の建物から退去する。ただし、つぎの例外は除く
  1 光明党の国会議員
  2 NHKの国会中継のカメラクルー、なお、このカメラクルーの中には幸福の錬金術を始め他の宗教の信者も参加する予定であり、これらの要員は全員非武装とする。。
 * 保護している民間人全員を、後で国会議事堂前に出す。もうじき、正午前がめどだが権田大幹部が来てそこでNHKで生中継で今回の事件について演説する予定である。その放送が終了したら全民間人を解放する予定である。
そのようにするのは人員の差し繰りのためでもあり、権田大幹部が狙撃されないためと言う意味合いもある。

406 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/06/25(水) 06:39:32.18 ID:PE8YzItt
 しばらくして、敦子は意識を取り戻した。
 志村が医務室にやってきて国会議事堂前庭への移動の話をした。今ではない。正午前だとのことだった。
 どうしてそうなのかの話は単純だった。全員の手がいるので先導出来ないからだ。今はここから出ると危ない。さっきので立証済みだ。それに小さな子は余計に危ない、手を貸さないといけない。
 志村はそれだけ言うと、救難センターと話をすると言って出て行った。敦子の配置の件で交渉するつもりだろう。この話をすると同時に敦子の意識が戻ったかどうかも確認しに来たらしい。
 「今の話、おかしいぞ」と犬田弘忠は言った。
 もう、高校生の二人にもおかしい事は分かっていた。

407 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/06/25(水) 07:24:28.74 ID:PE8YzItt
 「全員の手がいる何かがあるのか」と犬田が敦子に言った。
 「多分、大幹部が来てNHKで演説するんじゃないかしら、そんなスケジュールがあったわ。国会議事堂はこちらが確保したと言うアピールをするのよ。
 しかし、今は銃で撃たれた事でも分かるように危険がいっぱいなんだし、そうしないかもしれない。親衛隊はどちらにしても正午過ぎにはあなたたちを解放するんだから待つ方が無難だし安全性も高くなる。
それにNHKの放送があればそれが一つの保障になるわ。
ここは生華学会の支配下にあるんだと言う保障にもなるし、そうなれば警察も撃って来ないからあなたたちも安全になる。それに、言うなって言われてるけど、ここは明け渡すことになってるの」
 「え?」
 「いつまでもここを生華学会が持っていても仕方がないから、生き残っている国会議員の先生が集まってきたらここは明け渡す。それが最初からの予定なのよ。
 だから普通の悪の組織なんかだったらあなたたちを人質にする所だけど、それは意味がないの。逆に、殺してはだめなのよ。国会議員の先生方が来て、子供の死体が転がっていたらなんて思うかしら? 
それは怖いからこいつらの言う通りにしようと言う議員さんもいるでしょう。でもそれは一部で結局はそんな奴らは駄目だと思う人の方が多いわ。
 テレビもそうよ。何も悪い事はしてないって放送なの、私たち医療隊だってそう言う事もあってやってるの」
 「ほう」

408 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/06/25(水) 21:51:45.96 ID:PE8YzItt
 犬田弘忠は酒井田と睦美を医務室の隅に呼んだ。
 「今までの話、おかしいぞ」
 「どうやら幹部が来て、テレビでプロパガンダをかますつもりらしいですね」
 「お前良くプロパガンダなんて用語知ってるな。だが、それに高校生が必要か?」犬田弘忠はまた高速で頭を回転させた。
自分は名前も名乗っていないから正体……犬田代作の長男……がばれたとは考えられない。ばれたとしても、それでこう言う風になっているとは考えられない。
それなら「犬田先生の息子さんでしたか」と言うだろう。気が付いていないふりをするというのはおかしい。高校生は、利用価値があるとは思えない。おかしい。
 そして、先ほどの志村の話の中にあった「小さな子」と言う言葉が気になる。高校三年生は小さな子供ではない。
 「酒井田、ついにおまえの出番が来たようだ」
 「ラジャー」
 酒井田はトイレに行くようなふりをしてすっと出て行った。

409 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/06/25(水) 21:53:44.02 ID:PE8YzItt
 しばらくして、酒井田は帰って来た。
 「どうだった」と睦美が言った。
 「中央広間に、小さな子供が約五十人捕らえられています。泣いています。それと太田首相と、後名前は知らないけど大臣が二人。
銃を持った見張りが十人いて、どうやら子供について来たらしい大人もいましたがこの人たちは抵抗したらしく縛られていました」
 「抵抗はしない方がいいな。無用な抵抗で小さな子供まで巻き添えにする事は良くない」
 「しかし、このままでは……」睦美が言う。
 「日本は奴らに乗っ取られてしまう。だが、今は耐えるしかない。外部と連絡する事は出来るが、人質がいる。早く出て行ってほしいのオーラの意味が分かって来た」と犬田弘忠。
 それはこれ以上人質が増えてもらっても監視もいるし結局は解放するだけだから早く出て行ってもらいたかったのだ。
危害を加えないもそうで、殺したり傷つけても意味がなかった。逆に困る事になる。どこかの誰も見ていない山の中ならともかく国会議事堂の中では困る事になる。
 「私、奴ら生華学会を許せないわ」と睦美が言った。自然な言葉だった。
 犬田弘忠がもし彼女の立場ならそんな穏やかな言葉では済まないだろう。

410 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/06/25(水) 21:56:38.93 ID:PE8YzItt
 この行為は宗教とかを超えてしまっている。自分一人ならここから飛び出していき素手でも殴りつけて行く所だが、それは駄目だ。彼には生徒に対する義務がある。
素手の格闘技には自己流だが自信があると言ってもだめだ。方法を考えなくてはならない。生徒を守りつつ、日本を危機から救い出す何か方法を。
 「放送をするって言ってたな。それに乱入出来ないかな?」と犬田弘忠は言ってみた。それなら行けそうだ。
 「あ、いや、待って下さい。多分、子供を並べてその前で演説するんですよ、ナチがよくやった手法ですよ。俺、そう言うの研究してるんです。プロパガンダをです」と酒井田。
 「ナチのプロパガンダをか?」と弘忠は言った。
 「そうです、代々木アニメーションではそんなの教えてくれそうにありません」
 「それは教えんだろう。それはアドルフ・ヒトラーが映画のカメラを回してやった技法で、純粋な少年を利用して宣伝をするという奴だが、今回は違う。
 お前の話では小さい子供は泣いていた、大きい子供はたくらみを知ってしまった。もう笑顔も見せんだろう」
 「それは立ってるだけでもいいです。顔は撮りません。背中だけです」酒井田は言う。こ奴はアニメファンだけにカメラ割りとかにも詳しい。
 「なるほど」犬田は感心した。カメラは子供の背後から幹部を撮影するのだ。
 しかし、その幹部とは誰なのか? 大幹部の誰かなのは確かだが、犬田弘忠が知っている誰かか?
 彼らは三年C組に再び合流した。

411 :名無しさん@お腹いっぱい。:2014/06/25(水) 22:02:50.56 ID:C8qiKlnj
早くしろよ

412 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/06/26(木) 07:41:10.99 ID:KjxZSyZY
 結局、彼らは放送の時、隙を窺ってマイクに駆け寄ってメッセージを言う事を選択した。非暴力で、効果があるのかどうか分からないがそれしかなかった。メッセージを述べる係は睦美であった。
 全員がそれに賛成した。もはやこうなっては自分たちがやらなくては誰にも日本を救えないことは明白だと彼らは考えたのだった。奪ったマイクがいつまで音声を伝えるかは分からない。
メッセージは短い必要があった。そしてマイクを奪回されないように全員で人間の壁を作って妨害すると言う事も決まった。
 「お前たち……」犬田弘忠は言った。
 「相手は銃を持っているぞ」
 「それは織り込み済みです。多分、カメラが回っていなければ躊躇なく撃つでしょう。しかし、マイクを奪い取った瞬間はまだ生の全国放送は続いている。殺す所が全国放送されたらそれが奴らの最後になるだけだ」と鷺野。
 犬田は、彼ら生徒がいかに生華学会を憎んでいるかを知って今さらながら驚いた。
 彼は担任でありながらよく把握していなかったが桜花高校では突出して三年C組が反学会だった。それは偶然ではあったが貪理で身内を亡くした生徒と品川で身内を亡くした生徒が多くいた事によるものであった。
身内を理不尽な殺されかたで殺されると高校生でも、どこへも持って行きようのない怒りを抱く物なのだった。
 扇動される恰好で、クラスの空気は反学会だった。これも偶然だがクラス内に学会員はいなかった。唯一の学会関係者は担任だった。犬田弘忠は犬田代作の長男なのだった。

413 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/06/26(木) 07:43:27.79 ID:KjxZSyZY
 待機の時間が過ぎて行った。結局救難センターは志村の懇願に根負けして敦子を国会議事堂付きにした。
 志村は、部下思いであり、交渉力もあった。また、子供を人質にする作戦には反対の立場を持ち早く解放したかったのだった。
 ただ、彼も言葉通りの事で小さな子供を外に出すことが危険であると思っていた。
 だから、志村自身は悪ではなかった。

414 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/06/26(木) 18:43:46.03 ID:KjxZSyZY
 志村が三年C組の所に来て、前庭に出てくれと言った。
 「ショータイムだ」酒井田は言った。
 睦美は黙っている。彼女の命はあとわずかかも知れなかった。
 前庭には小さな子供たちも集められていた。寒かった。
 「雪が降りそうだわ」睦美がぽつりと言った。
 犬田弘忠が生徒達を整列させていると、この寒いのに国会議事堂に向かって来るオープンカーが見えた。装甲車が移動してオープンカーに道を開ける。
 オープンカーから降り立ったのは権だった。何のつもりなのかナチス・ドイツのSS将官の制服をつけマントを着ている。
 そんな服がナチスマニアにならとにかく一般大衆に受ける筈がなかった。腰にはきちんとルガーを吊っている。これではナチスの忌まわしい記憶を呼び覚ましてしまう。
 しかし、それも彼の計算のうちだった。インパクトのある服が必要だった。
 悪の秘密結社みたいだろうがなんだろうがそれは良かった。スーツ姿では駄目なのだった。オープンカーと言うのもそうで彼はこれで政権樹立後、
東京中を回るつもりだった。目立つ事が全てだった。

415 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/06/26(木) 18:45:05.72 ID:KjxZSyZY
 「権、貴様か!」犬田は生徒の前だと言う事も忘れて叫んだ。
 「犬田、なんでここにいるんだ?」権は怪訝そうな顔をしている生徒らに説明した。
 「ああ、お前らの先生はな、元は学会員だった、今はもちろん違うがな」
 犬田弘忠も権に生徒を引率して国会図書館を見学中に取り残されたいきさつを説明した。
 「お前らしいな、犬田。今からでも遅くはない。生華学会の信心に戻ってこい」
 「お断りだ。そんな事をしたら生徒達はどうなる?」
 「全員仏教徒になって万々歳さ。男子は全員坊主頭か?」
 これは冗談であり、生華学園高校では制服はあったが頭髪は自由で金髪の者もいたし、
突飛な髪形で女にもてようとして失敗している者もいた。そこは普通の高校と全く変わらなかった。
 違うのは今は全員拳銃を手に街頭に立っていると言う事だ。
 「仏教とかを超えているぞ、この付近でも相当な被害が出ている」
 「上等、皆死ねばいいのだ。もうじき生華学会の世界が来る」
 「来ないさ、権。みんな嫌がっている世界は来ない。そう言う話を俺たち若いころずいぶんしただろ、忘れたのか。
 なあ、結論は生華学会もみんなに受け入れられるように変わっていかなければならない、だった。
それは覚えているだろう。議長は理美だったんだから」
 「あいつのことは忘れろと言われても忘れられるもんか」
 しばらく沈黙があった。

416 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/06/26(木) 18:47:23.74 ID:KjxZSyZY
 「生徒達に説明してやったらどうだ?」と権。
 「あの事件をか」
 「そうさ、どちらにとっても痛い話だ、イーブンだろう。ジャッジは生徒にさせたらいいだろう。解放すると言ってあるはずだ。そうだな」
 「そう聞いてる。学校に戻る事になる」
 「学校と言えば、もう今日あたり終業式じゃないのか?」
 「お前たちが暴れまわるんで休みだらけで授業日数が足らないんだ。台風なんかでこう言う事になるケースはあるが、宗教戦争と言うのは初のケースだ」
 「戦争は事実上もう終わりさ。話してやれ」
 「俺たち、俺、権田と言うこの生華学会の大幹部、三枝理美と言う女性の三人は若いころ仲が良かった。理想にも燃えていた。
さっきもちらっと言ったが学会は変わらなければならないと言うのが俺たちの結論だった」
 「そう、君たちのように俺たちも若かった」と権。
 「そして、仏教を世界に伝えると言う事が一つの突破口だと言う事に俺たちは気がついた。日本国内では伸びようにももう伸びる先がない事は明白だった。俺は英語の教員を目指していた。
当時は国外にはなかなか出る事は出来なかったが、米軍基地に権田がコネを持っていた。
 その頃、米軍の基地内にクラブがあって、あれは正確にはクラブではなくて基地の施設を勝手に兵士が占拠してクラブに使ってたんだと思うが、そこで三人で働きながら布教するつもりだった」
 「そうだ、三枝理美と言う女性は抜群に美人で歌がうまかった。この犬田先生は彼女に惚れててプロポーズしてた。そんなある日……」
 「俺たちが、いや主に俺がうっかりしている間に理美は……複数の米兵にレイプされてぼろぼろになったんだ」
 沈黙……小さな子どもたちはべいへいとかれいぷとか言われてもちんぷんかんぷんであった。高三はあまりにも衝撃的な担任の過去に石になっていた。

417 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/06/27(金) 06:55:30.45 ID:4XFaA16s
 「その事は、いくら仏法だの世界だの、理想を振りかざして見ても現実は厳しいと言う事を俺たちに突きつけてくれた。
 俺は仏法の世界をあきらめて先生になろうと決めた。
 そうなると今度は生華学会の信心は、あまり良くないと言うのが現実だった。イスラム教から、キリスト教から、仏教、貪理のような神道系、さまざまな宗教の生徒がいる。
 公平に指導するためには強い宗教心はかえって邪魔になってくる。もちろん、
宗教は人を強くしたり心の支えになったりする部分もある。否定はしないが自分が、がちがちの生華学会ではだめなんだ」
 「そう言って、こいつは生華学会から逃げて行ったのさ。
 理美は、かわいそうにこいつに捨てられて、レイプされたと言う過去を隠して一般の人と結婚したが、
米兵の一人がどう言う訳か、彼女の所へやってきてばらすぞと脅した。
 おい、あいつなんて名前だったかな?」
 「たしか、ハロルドだ。本名かどうかは分からんが」犬田弘忠は言った。
 「そう、で、その時は先生も男である事を見せた」
 酒井田は、男である事を見せたの意味が分からず、どうやったんですかと馬鹿丸出しの質問をした。
 「殺したんだ。もちろん、死体は俺たち二人で山の中に埋めたから今もそこにあるだろう……」犬田は言った。

418 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/06/27(金) 06:58:12.73 ID:4XFaA16s
 「犬田、もう一回言う。今すぐとは言わん、今晩考えてみるだけでもいい、学会の信心に戻ってこい。
 隠しても、すぐここでしゃべる事だから、今、言っておくが、もう日本は生華学会の物なんだ」
 「何だと?」
 「ここ、国会議事堂で今日中に臨時緊急国会が開かれる。もちろんこれに出席するのは本物の国会議員の先生で、われわれは国会の時には議事堂の建物から外に出る。
内部でどんな話し合いがあるかはこちらは知らないし干渉もしない事になっている。
 しかし、その結果俺は臨時の総理大臣に任命される手はずになっている」
 「え? しかし、お前は国会議員でさえないんじゃないのか」見当外れの指摘をする犬田弘忠。
 「そして、犬田代作先生が臨時大統領に、小川降法総裁が臨時副大統領に任命される。そうすれば万事がうまくいく」
 「そんな! 大統領って何だ? どこかの外国か」
 「そう、生華学会の世界には戸惑う者も多いだろう。それを導いていくためには可能な限りの人材が必要だ。俺は兵隊は数多く持っているが、これからは戦争ではない。
 どれだけ生華の信心を理解し、かつ社会経験が豊富な人材を確保できるかがカギになってくる」
 「人材だと?」と犬田弘忠は言った。
 「たとえばもうじきクリスマスだが、生華学会の世界では永遠にクリスマスは来なくなる。
 それを分からせる人間が必要になるんだ。テレビで「今年からクリスマスはありません」と言うのでは駄目なんだ。どうしてそうなのかを分かりやすく目の前で説明できる先生が必要になる」

419 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/06/27(金) 06:59:35.03 ID:4XFaA16s
 何気なく権が口にした「クリスマスは永遠に来ない」発言はすべての子供たちにとっては絶対のNGワードであった。
 小さな子供でもこれは駄目だと言う事は分かった。大きい高三の子供にとっては万が一自分たちがミッションに失敗した場合の未来をこれほどはっきり告げる言葉はなかった。彼らは戦う決意をより強めた。決死の覚悟を固めた。

420 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/06/27(金) 19:15:55.27 ID:4XFaA16s
 涙田はその時、大村パンの社員食堂にいた。まだ昼食の時間には若干早いがそれどころではない。
 トナカイを含めた八千代文具のメンバーが数名来ていた。昼飯を食いに来ていると言うのもあるが(八千代文具社員には時々大村パンの社員食堂で昼飯を食う事が黙認されていた。
綾子によると八千代ではこれは飯をたかりに行くと言っていた)情報収集のためだった。子供収容所の賄いのおばちゃんたちもいた。彼女たちは不安そうに固まって座っていて飯どころではなかった。
 美雪が来た。流石に飲んではいなかった。涙田の隣に座る。トナカイの方にがんを飛ばす。
 「大変な事になったね」
 涙田はお前が大変なのはガンマGTPの値だろと言いたかったがそれはこらえた。

421 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/06/28(土) 07:34:10.01 ID:1WGlgtik
 綾子は事務室で情報収集中だ。速報が数枚、大村の所に届けられている。国会議事堂内の様子は不明のままだ。
 戦況は、明らかに生華学会有利だった。自衛隊は動いていない。警察は勇敢に戦っていて今もいくつかの重要拠点、例えば警視庁を確保はしているが肝心の首脳部が死ぬか、
行方不明であった。今は下の方の警官が対策本部長をしているという未確認情報が入ってきている。
 東京都庁が陥落し都知事が生死不明、首相以下閣僚も全員生死不明。ただ、首相ら数名が国会議事堂にいると言う未確認情報がある。赤旗官房長官は硫黄島だった。
 問題は、NHKが完全に敵の手に握られてしまっていて、生華学会側の情報しか流さなくなっている事だった。
 民放各社は脅迫されたり、あるいは施設を爆破されて電波その物を発信できなくなっていてこの重大事態に頼れるのはネットだけと言う異常事態になってしまっていた。
 しかも、そのネットも犬田代作のお声がかりで馬淵が組織したインターネット親衛隊により撹乱、妨害工作が盛んにされていた。
2ちゃんをはじめとする掲示板なども、生華学会を賛美する書き込みで埋め尽くされていた。あるいはサーバーがダウンしてしまっていた。
 しばらくすると、緊急臨時ニュースがあるとNHKが告げた。
 「ボリュームは最大か」と大村。
 「はい」
 画面には国会議事堂が写った。正面玄関の前にこちら向きに男がいる。それを囲むように子供がいた。

422 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/06/28(土) 07:35:49.58 ID:1WGlgtik
 涙田は茫然と画面を見た。彼の知識ではこの男の軍服はナチス・ドイツのSSの将官の軍服だ。マントをしている。
 冬服だが、SSの制服ではマントは彼の知識ではなかったような気がする。戦闘では邪魔になるからだ。
 しかし、今なぜこんな服を着ているのか? 
 コスプレマニアか何かなのか?
 ナチなんてイメージが悪いに決まっている。ユダヤ人虐殺とかのイメージが強すぎる。かっこいいのはあるが……
 その時、涙田は一般人はナチは知っているがナチの制服はそんなに知ってはいない事に気がついた。よく見るとカギ十字などは注意深く外してる。これはかっこいい服と言うことで着ているのだろう。

 権は国会の正面玄関の階段の半ばに立ち、子供たちを眺めた。
 画面のモニターは出来ないが良い絵のはずだ。誰もいない場所での演説よりこの方がずっといい。高校生が野次を飛ばさないか? さっきとっさに犬田弘忠の過去をばらしてやったのは偶然だがやつらの気力をそいだろう。
担任が過去の話とはいえ生華学会で殺人者だったと言う話だ。
 さあ、本番だ。犬田代作から三分で演説するように言われていた。それが人間が注意して聞く事が出来るギリギリの時間で、後で繰り返し聞く事になる事を考えると三分も長いくらいだが、とにかく三分だった。
息継ぎも「えー」とか「あー」とかもいれてだ。
 権は話し出した。生華学会の野望に満ちた世界の事を。

423 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/06/28(土) 07:36:44.51 ID:1WGlgtik
 「何だと?」
 倉田警視は驚愕の表情で画面を見た。
 かれはテロリストが何らかの要求を発表するものと思っていた。こんな宣言が炸裂するなんて思っていなかった。

 権はしゃべり終わった。一瞬、沈黙が走った。
 「お前らなんかチャイナマンがやっつけてくれるぞ」
 小さな子供の一人が叫んだ。精いっぱいの勇気を振り絞ったに違いなかった。はっきりと、冬の風に乗ってその声はマイクに飛び込んだ。
 睦美は一瞬でみんなで考えたメッセージを頭の中のごみ箱に捨てた。だめだ。こんなメッセージみたいなんじゃ駄目だ。チャイナマンを呼ぼう。
 この事態を何とかしてくれるのはチャイナマンだけだ。
 チャイナマンが最後の希望だ。
 すっと権に歩み寄る。マイクをそっと握った。あの歌を歌う。

424 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/06/28(土) 07:37:41.08 ID:1WGlgtik
 人海戦隊チャイナマン
 「見よ、東亜の朝焼けに、一人立つその雄姿
 中華の思想を胸に秘め、いまや出撃の時が来た
 人海戦隊チャイナマン チャイナのどらが鳴り響く」
 最初は一人だけだった。それが高校生たちが歌いだし、小さな子どもたちが続いて全員が歌った。
 「人民の敵倒すため、雌伏の時ははやすぎて
 中華の理想天高く、勝利の雄たけびたからかに
 人海戦隊チャイナマン チャイナのチャルメラ美しく」
 そして続く三番を歌い終わると、酒井田がダッシュで来た。
 「チャイナマンこの放送を聞いていたらここには来るんじゃない、だめだ。ここは学会で一杯だ」
 「ふふふ、良いアイディアを思いついたぞ」そう言いながら権はそっとマイクを睦美から奪い返した。
 「チャイナマン、この放送を見ていたら今日の日没までに国会議事堂まで来い。来なかったらこの子供たちを殺す!」
 そう言うと権は睦美を軽くついた。酒井田が受け止める。
 小さな子がすすり泣く声がした。

425 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/06/29(日) 12:08:11.66 ID:sp7WB5Vt
 涙田は食堂の机を殴りつけた。音が響き渡ったが、彼の耳の中には今の子供たちのすすり泣きがこびりついていた。
 美雪はびっくりした目で涙田を見たが何も言わなかった。何が起こったのか理解していないのだ。
 彼は素早く社長の大村の所に行った。
 彼は好物のサンマ定食を食べていた。もっとも、ほとんど箸はつけていない事はちらっと見ただけで分かった。
 「社長、早退いたします、いや、今をもって退職いたします」
 「いかん!」大村は怒鳴った。彼が社員食堂で怒鳴ったのはこれが初めてだったので全社員が驚愕の表情を浮かべた。
 「お前は冷静さを失っている。今行ったら確実に殺されてしまう」と大村は言った。
 「し、しかし……」
 「駄目なものは駄目だ。おい、ベンツのキーを出せ」
 「はっ」
 キーを出すと、ひったくられた。
 「武器は自衛のために持っていてもいいが、車はいかん。
 涙田、飯を食ったら自宅で謹慎していろ。おいみんな、今日は帰りは歩きだ」

426 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/06/29(日) 12:10:34.58 ID:sp7WB5Vt
 涙田は自分のマンションに帰った。
 テレビでNHKをつけてみたが、しばらくお待ちくださいの代わりなのか、「彼女と僕」と言う私小説ドラマを流していた。何を流そうと勝手だが、担当者のセンスが疑われた。
これは政教一致@大阪と言う作者の私生活のドラマで、あまりの赤裸々さに封印されたと言う代物だったからだ。

 倉田警視は電話で馬淵を怒鳴った。
 「貴様、なんだこれは!」
 「いや、あの、その……」馬淵はしどろもどろだった。まさかあんなことを権田が生放送の全国中継で言うなんて計算外もいいところだった。
 こんなに警察に叱られるテロリストと言うのも珍しいだろう。
 ちらっと春菜を見ると、メモに何かを書いているので何か助かる情報が入ったかと思ったら「がんばれ」と書いてあった。それはうれしいと言えばうれしいが、倉田は容赦ない。

427 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/06/29(日) 22:04:41.61 ID:sp7WB5Vt
 「お前らはショッカーか? 解放すると言う話はどこへ行った?」
 それも痛いところだった。なんであっても約束は約束だ。しかもこれは一回テロやって
後は消えると言うタイプのテロリストの話ではなく、今後も継続して政権を担おうかと言う人物の初めての公式発言である。
 こんな、倉田の指摘通りのショッカーのごとき子供を人質にした作戦など論外だ。
 「そ、それは、その、これも憎きチャイナマンを殺害するために仕組んだ罠である」
 苦しい言い訳だ。
 馬淵も、純粋に戦術として考えれば人質は有効だと言う事は分かっていた。
 しかし、そのためなら閣僚を三名も抑えている。子供をわざわざ人質にする、しかも時間がきたら殺すと言う予告つきで人質にするメリットなど全くない。
 人間には良心があってそれは奪う事は出来ない。いったいどうやれば権田があんな発言を出来るのか分かりかねる。時間までにチャイナマンが来なかったら? 
 来ないに決まっている。奴は馬鹿ではない。

428 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/06/29(日) 22:06:54.80 ID:sp7WB5Vt
 あの高校生の言うとおりだ。ここには学会の武装兵と装甲車がひしめいているのだから、来れば飛んで火に入る夏の虫だ。いや、国会議事堂を見ることすらできないだろう。当たり前だ。
 それでも、警視庁の前ぐらいまでは来れるかもしれない。警察が先導するかどうかは疑問だが、とにかくあそこまでは車は通れる。
 実態としては国立国会図書館および消防署のあたりは中立地帯で、そこらは警察も非武装なら行ってもいい事になっていた。
 現に図書館は一部業務をかたくなに今現在も続けていた。図書館の食堂も開いており、そこは武器を持ち込まないと言う暗黙の了解のもとで親衛隊や警官が飯を食いに来ていた。
名物の国会丼をだ(そういう丼がある)。いや、地下にある床屋までかたくなに営業を続けていた(本当に床屋がある)。日本人がやる気になったら何が出来るかの縮図のようだ。図書館は聖域だった。

 しかし、図書館はそうとして、チャイナマンがどうこうと言うなら、それ以前に警察が突入しそうな勢いだ。
 倉田は容赦ない。
 「おいこら、罠だと? ずいぶん唐突な罠だな、さっきまで何も言ってなかったが、突然罠だとこきやがる。お前本当はちんぴらで何も知らされてないんじゃないのか」
 ぐさっ、またも痛い所を突かれた。
 馬淵はチンピラではないが、こんな話はない。
 「とにかく、また後で連絡する」馬淵は電話を切った。

429 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/06/29(日) 22:08:19.07 ID:sp7WB5Vt
 「ふう、なんだか知らんが、奴と話をしてるとスカッとしてくるな」と倉田は言った。
 「テロリストと話をしてストレスが減る対策本部長なんて聞いた事がありませんよ」と部下の一人が言った。
 「かつ丼一杯で譲ってくれませんか?」
 対策本部の昼飯はかつ丼だった。警視庁までは補給ルートが確立していて弁当が来ており、応援も近隣の県から来たいた。
 「いかん、今後も奴が電話をかけて来たら俺が出る。奴をいじめる楽しみは取っておかないとな」
 こうなるとは誰も予測していなかった。
 大体、倉田の警視と言うのは階級としては低くはないが、警視庁には副総監が何人もいるはずであった。
 その全員が死ぬか行方不明か敵に寝返るなどと言う事態は全く想定外の事であった。警視の上は警視正と言う階級なのだが、何名かいるこの人々もやはりいざとなると
何人かは明らかに敵に走った。結果、倉田がやるしかなかったのであった。

430 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/06/30(月) 06:40:23.17 ID:N0rLhbnU
 移動指揮車はやっと国立劇場の角に来た。そこには歩兵隊の安藤と女医のはるかがいた。歩兵隊が周りを固めている。手に手にM16A1を持っている。
 所が、その先の最高裁判所は警察に奪還されていた。しかも強力なスナイパー部隊が配備されていた。
 したがって内堀通りをそのまま進むのは無理だった。装甲車なら可能だが非装甲のこの車では無理だ。
 まずい事にこの車はこれが指揮車ですと言う感じにアンテナが立っている。これは隠せなかった。無線はアンテナの長さが勝負と言う部分があるからだ。
 安藤たちが家に入ってくるみたいに「おじゃまします」と言って乗り込んできた。春菜と二人だけと言う訳にはいかなくなるのは残念だが仕方がない。
 「まずはどうする、ここにいたのでは仕方がないが?」と安藤。
 「隼町の方から大回りしよう。都市センターホテルとかのあたりに回り込むんだ」
 「とんでもない大回りだが」
 「仕方がない、自民党本部の跡地に民兵60、装甲車2両を置いている。そこから入って行って国会議事堂裏門(北)に行こう」

431 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/06/30(月) 06:43:08.87 ID:N0rLhbnU
 自民党本部は国会議事堂の裏口に当たる恰好で、今は廃墟であったとしてもそこに兵を置くのは当然だった。
廃墟は突然復活する事はあり得ないがそこに敵が来る事はあり得る。
 それはかなり遠かった。その間、4人はそれぞれの作業に没頭した。
 安藤は歩兵隊、春菜は装甲車部隊の指揮だ。民兵隊は実質各隊最初の目標ごとにばらばらに動いていた。
建前上は権が動かす事になっていたが補佐する部下もおらず動かしようがなかった。
 はるかははるかで、医療隊の指揮とマスコミ対策と言う全く質の異なる二つの事をやっていた。人がいない親衛隊を象徴していた。

 地下鉄永田町のあたり(衆・参議員議長公邸前)で左折すると自民党本部が見えた。半壊程度だが燃え上がった様子だ。
 ちょっと寄り道してもらって全国町村会館の前に行くと装甲車二両がいた。道路を塞がない形で停車している。縦列駐車だ。
 民兵隊はひどかった。半数は生華学会の未来部の高校生で、半数は婦人部のおばちゃんなのだ。
 全員が拳銃を装備しているが、生まれて初めて、今朝拳銃を持ったという人たちだ。
 チャイナマンは来ないと言う話だが、逆に言えば来たらひとたまりもないだろう。奴は戦闘のプロだ。

432 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/06/30(月) 18:14:57.88 ID:N0rLhbnU
 「俺なら、装甲車を対戦車兵器でまずかたずけて、マシンガンで遠くから撃つ。拳銃程度では応戦すらできんだろう」と安藤。
 「しかし、60対1だぞ」と馬淵。一応は反論しないと彼ら民兵隊がかわいそうだ。
 「百対一であっても奴は楽勝でやるだろう。ま、来ないだろうがな」
 「それはなぜですか」と春菜は言った。
 「奴は戦闘のプロだ。だがその前に、損得は勘定できると考えた方がいい。チャイナマンが来ず、俺たちが子供を処刑する。
 それでテレビの前の国民はどう思う? 奴は全く戦わずして俺たちを最高の悪人にしてしまえる。と言うか悪人なんだが、俺たちがな」
 「……」
 そんな話を知らずに、路上で拳銃を制服のスカートのウエストに突っ込んで、女子高校生が携帯をいじっている。
 全国町村会館は無事で営業していた。
 馬淵と春菜はフロントに断わってトイレを借りた。もう同乗者がいるので携帯トイレと言う裏技が使えない。

433 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/06/30(月) 22:24:09.49 ID:N0rLhbnU
 その頃、涙田はマンションで武器を点検していた。
 LAW三発、G3A1一丁、ウージー2丁、ワルサーP38、コルトパイソン、各弾薬は十分だ。LAWだけがそれ自体が弾薬だから三発だが。
 しかしこれも宝の持ち腐れと言う奴だ。警察に出頭する、あるいは近所の生華学会に行くと言うのも検討したが、警察だとややこしいのが来たと逮捕されて終わりだし、
学会だと十億の懸賞金の件がある。金に目がくらんだ末端の学会員が何をやらかすか想像もできなかった。
 もしも空が飛べたら……
 携帯が鳴った。もしかして大村からか、と見ると美雪だった。
 「はい……」
 「ねえ、なにか怒ってるの?」
 「いや、全然」
 全然怒っていないと言うのは嘘になるが、美雪の事は怒っていない、と言うか眼中になかった。
 「私が酔っ払いだから?」
 わずかな会話だけで、もう彼女が飲んでいる事が分かった。感情が抑えられなくなっている、もしかしたら自分の席からで、もう涙ぐんでるのかもしれなかった。
事務所全員彼女と涙田の会話を注視している事だろう。
 「いや、違うよ」
 「角来と言う名字だから?」
 「はあ?」

434 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/06/30(月) 22:25:00.09 ID:N0rLhbnU
 角来と言う名字は珍しいが、奈良では稀にある渡来人由来の名字の一つで、それこそ奈良時代から連綿と続いてきた名前で、涙田なんて名前よりずっといいとさえ思った。
 ただ、涙田家の男たちは代々武功を轟かせてきた。
 涙田と言う名前を輝かせてきた。それこそ日露戦争のころからだ。
 一方で、涙田家では代々、「勲章をもらったならば突き返せ、(戦争の褒美で)金をもらったならば戦争孤児に寄付せよ」と言い伝えられていた。
勲章や金のために戦うのではなかった。ストイックな戦いの歴史がそこにはあった。
 そして自分は戦わなければならない時にここでいるしかない。
 「違うよ、美雪。そんなんじゃない」
 「私を捨てないで」
 ストレートな言葉だった。
 涙田は、ふと今日はトナカイ=さおりがいた事を思い出した。彼女も涙田を見ていた。
 「捨てないよ、明日、どこかへ行こうか、そう、酒のないデートに行こう。そう、映画に行こう。約束」
 「うん」
 唐突に電話が切れた。もう泣いているものと考えられた。
 ベンツがあれば……だが、ベンツがあっても状況は厳しい。
 あのベンツは防弾で、拳銃程度ではびくともしない。
 ところがテレビで見る限り敵の主装備はM16だった。ウージーを併用している。
 民兵と思われる兵は拳銃を振りまわしていたが、見ている涙田の方がはらはらするぐらいだった。一回だけだがM60機関銃が写った。
 全軍に機関銃が一丁だけとは考えられない。
 装甲車の機関砲は20ミリだ。こいつはそんなに速射できず、本当は単発射撃で目標を破壊するような使い方をするものだが、ベンツは完全に破壊できるだろう。
 だからベンツが使えてもそれに乗って突撃すると言うのは駄目だ。武器があっても運転していたのでは使えないからだ。
 あきらめてネットに向かう。

435 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/07/01(火) 08:20:52.90 ID:PgZOioAH
 関西の病院検索だった。美雪を放り込む病院は新いずみでほぼ決まりだが、ベットに空きがあるかどうかは分からない。約30床ぐらいだ。もう一つぐらいあてがあったほうがいい。
 ただ、ここの約30床が南大阪における女性のアルコール治療(入院)の全てであり、この人たちは「エリート」である。
 またこの人々は退院後AAや断酒会に参加する確率が高いと言われていて、アルコールからのカムバック率が高いのではないかと言う評価がある。
 この病院はまた伝説の病院であった。
 女子病棟でウノをやってることはもう風のうわさで聞き知っていたが、その他の伝説の一つには「人生ゲーム」を隠して持ち込んだ事があったらしい。これはかなり前の話だ。
 当然一人では出来ないから、みんなで「火星から使者が来た・ごちそうして500ドルはらう」とかやってたら「神が婦長の姿で降臨」、
ここは治療するところなのよ、遊ぶところじゃないのよ、と没収されたと言う逸話がある。

436 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/07/01(火) 08:23:07.25 ID:PgZOioAH
 和泉市内にもう一つ、新生会病院と言うアルコール専門の病院があった。もちろん精神病院だ。
 アルコール専門! これはいけそうだったが調べて行くと男性専門だとあった。
今の世の中、男性専門とか女性専門とかが(産婦人科などを除いて)あるのは驚きだった。
アル中のおっさんが病棟に群れているのだろう。(作者後日注、この記述後、関係者から「こらっ」と怒られた)
 この病院もまた驚異に包まれており、日本中の精神病院でもグラウンドで運動会をするのはここぐらいだろう。
(後日注、運動会に取材をかねて行ったところ、まさにその日に救急車でアル中が搬送されてきていた。ここは他の病院とは違うと思う)
 新生会病院もまたアルコールからのカムバック率が高いのではないかと言う評価がある。
なにせ入院中から断酒会に行くようにと言う指導があるから、退院後AAや断酒会に参加する確率が高いのではないかと考えられるからだ。
 もちろん、何回も病院自体にカムバックすると言う患者もいるから、それはそれで温かく迎えているらしい。
そっちもすごい話だ。ただ、これは環境としては悪くは無いからカムバックだ、とも考えられる。
 つまり、この病院がひどいところなら、わざわざここを指して入院はしないだろう。他へ行くだろう。
 そうじゃないから、ここが良かったから、カムバックなのだ。
 そう考えると、新生会病院が男性だけなのは惜しいところだと言わざるを得ない。
 ゆくゆくは女性病棟を検討してもらいたい。

437 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/07/01(火) 08:25:40.57 ID:PgZOioAH
 南大阪全体で約30床が適切な量とは考えにくい。しかも新いずみには遠く和歌山や奈良からも(紹介という形で)患者が来るから
実質入院エリアはそれら地域までカバーしているかのような状態だ。足りてる訳が無い。
 それに、和泉市とはつくづく凄い所である。至近距離に名前はかけないが大きなHと言うこれもアルコールで有名な病院があって(和泉市ではなく、
色々あって名前を出してのネット上での紹介はしないほうがいいと判断される)とにかくここいらはアル中にとっての「聖地」だ。
 別に定時に拝む必要はないが、他の地の保健所などが新いずみ病院や新生会病院に「ベットあいてますか」と電話をするであろうから正しく礼拝するに匹敵する。
 これらの病院に連絡するにはネットで病院名を検索して、そこで判る電話番号にかけると24時間病棟には誰かスタッフがいるからつながる。まさに現代版アル中駆け込み寺である。
 また、和泉市保健所も「最強伝説」を持っていると聞く。
 「何、アル中、かかってこいや!」と言った、と伝説にはあるが、大阪広しといえど配下にこれだけ強力なアル中用精神病院をもっている市もない。特別にすごいと考えられる。
 一応調べると新生会は住所的にはかなり和泉市でも山奥の方だが、多分近くに酒屋やコンビニがないのではないか? 
極端な話、病院の隣が大きな酒屋ではアル中の治療は難しいだろう。(実際には近所に二か所コンビニがある)

438 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/07/01(火) 18:10:19.62 ID:PgZOioAH
 男性専用で思い出したが、和歌山にはその名も「断酒道場」と言う施設がある。さすが和歌山だ。由良と言う所の海沿いの山の中にある。
秘密基地か何かなのかと言う感じだが、この「基地」を作るにあたっては適当な場所はないかと船で海の上から土地を探したと言う逸話が残っている。
(作品中の医療機関名は実在の病院とは関係がなく、本記述は全く架空のものであります。万一この記述で医療機関を訪問される(あるいはされない)場合の結果について免責とさせていただきます)

 涙田はそんな事を調べている時にふっとある事を思い出した。
 あのベンツのカギは三つあったはずだ。一つは自分、一つは大村が管理している。もう一つあったはずだ。

439 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/07/02(水) 00:40:20.97 ID:E8JSBo6O
 移動指揮車が国会議事堂に到着した。
 そして、ついに光明党本部から、二台のバスに分乗して犬田代作と小川降法、光明党所属の国会議員たちがやって来た。
 その直後に、これは非武装の警官に先導されて国会図書館から国会議事堂の職員の中から志願した者が職場に戻って来た。
 もう人質を国会議事堂内にキープし続ける事は無理だった。
 やむなく生華学会は閣僚と子供収容所の所長橋口を衆議院分館の使われていない小部屋に、犬田弘忠と三年C組と子供収容所の小さな子供、
保母さんらスタッフは憲政記念館にを移動させた。この二か所は完全に生華学会が占拠していた。二か所に分けると言うのは万が一警察が奪回作戦に来た場合、同時に奪回する事は物理的に困難にしようと言う馬淵の作戦からだった。
 犬田代作は長男の弘忠と顔を合わせないようにしていた。馬渕らは、それを「共犯」と言われないようにとの配慮と見ていた。
 実際には権田が弘忠に対し宗旨替えを言っていたから、ある程度は事後従犯の誘いを受けたとみなされる恐れはあった。
 ただ、あからさまに共犯になれではなく、今後はこうなるから、宗教に戻って来い、がどうなのかは判断が難しいケースだろう。

440 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/07/02(水) 07:02:18.87 ID:E8JSBo6O
 一方、国会議事堂の参議院側の一室に犬田代作、小川、権、馬淵、春菜、安藤、はるかが集まった。昨日以来の作戦会議だった。
 「権田、失言だったな」と犬田代作。
 「は……」
 「だが、言ってしまったものは仕方がない。あの流れではかっとなったのもしょうがないだろう。また人質は役に立つ」犬田代作はとりつくろう、と言った体で言った。
 「は、申し訳ありません」
 「参謀、今日の日没は?」と犬田。
 「16時半位のはずです。後でネットで調べておきます」と馬淵。
 「そうか、それでは後何時間もしないうちに子供を殺さなければならず、わしは長男も殺さなければならんのか? 何か手はないか? 参謀」犬田代作は何か考えがあるようだった。
 それは当然で、彼、犬田代作が長男、犬田弘忠を殺す事は考えられなかった。子供も同様で、弘忠は「自分には子供がいないが預かっている教え子が自分の子供である」と言っていた。高校生を殺すのは論外だった。
 また、子供収容所の小さな子供たちは本当に小さな子供たちだ。
 犬田代作は殺すつもりは全くなかった。

441 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/07/02(水) 20:22:49.98 ID:E8JSBo6O
 「は……こうすればどうでしょう。所詮、チャイナマンが来ると言う事はあり得ませんから日没が来ます。警察は無理に押し込んでこないでしょう。
その意味では権田大幹部の行動は正解ですが、子供を殺すぞという脅しを実行すればこっちが悪人、それはいけません。犬田弘忠さんの命も救いたい。そこで……」
 「うむ」
 「時間がきたら、もう一回テレビでチャイナマンを臆病者と言った上で、こんな臆病者だったとは知らなかった。
そして、子供の命を取る値打もないといった風に言って子供を解放するんです。文言はもっと洗練した方がいいでしょうが、大筋はこれでいいでしょう」
 「ほう、参謀、そいつはわしの考えた筋と大体同じだ。それで行こう。いいな権田、それかお前にもっといい知恵はあるか?」
 「い、いえ……それで行くしかないと思います」と権。
 「他の者は、小川さんは?」
 「わたしも、それがいいと思います」小川ははきはきとしゃべった。

442 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/07/02(水) 20:24:06.54 ID:E8JSBo6O
 誘拐されてから昨日まで小川は普通食を食べ風呂にも入りベットで普通に寝る生活を病院で送ってきた。
 そして、はるかの治療の結果、彼は見違えるほど回復してきていた。犬田にも感謝しているとさえ言ったぐらいだった。
今まで(誘拐されるまで)自分は閉じ込められていたのだと言ったりもした。奇妙な事だがそれは事実であった。
 また、はるかの事を主治医として信用して治療に専念した。その結果がこれで、副大統領はできそうな感触だった。
 お飾りだから誰でもできると言えば言えたが、病んでいた状態から回復した患者と言う観点で言えばすごいケースだ。
 これは主ストーリには関係ないが、小川はチャネリングはどこから来るのかは分からず、今の心が落ち着いている状態で考えると
病的だったかも知れないと思える、とはるかに言った。大進歩だった。
 しかし、と小川は続けた。基地外専門の先生だからこいつおかしいと思うかもしれませんけど、半分は異世界から来るのかもしれませんよ。

443 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/07/02(水) 20:26:07.17 ID:E8JSBo6O
 鰻原は装甲車から降りて国会議事堂の医務室に行った。本当は持ち場を離れる事は厳禁だったし彼は国会議事堂前の責任者だった。
こんな重要な場所であるにもかかわらず割り当てられた兵力は装甲車一台、兵百名だった。一応、憲政記念館と国会図書館(陣地左翼側)を考えなくていい事を考慮しても少なすぎる兵力だった。
 これらの兵は国会議事堂の敷地前の道路に立っていた。戦争という視点に立てば国会前緑地にタコつぼでも掘ってそこにこもるべきだったが、事は純粋な戦争ではなく警備であった。
タコつぼに隠れて警備は出来ない。現に、今も次々と国会に集まってくる国会議員たちがやってくるのだ。
 タコつぼにこもって銃を構えていたのでは話にならなかった。路上で警備にあたっている必要があった。
大体、警察でもこれまでずっと警備をしてきていたが、塹壕を国会議事堂の前に掘ったりはしていない。警備と戦争は根底から違う。
 ただし、この歩兵隊は正規の親衛隊で銃もM16A1であった。機関銃も2丁持っていた。
 だが、先ほどの土嚢はどかさなければならなかった。装甲車が走れなくなるからだ。これはどちらを取るかの問題だった。
 代わりに機動隊から奪った盾が防御用に大量に使用されていた。ライフルの狙撃に耐える強さはないが、その事は兵には教えていない。機動隊でも隊員に教えていないらしいから互角か。
(機動隊の盾は現実には拳銃の弾丸に耐える仕様になってはいるがライフル弾に対しての性能は公表されていない。
貫通されるだろうと言う意見と、いやいや貫通はされてもコロンところがって致死性がなくなる程度の防弾力はあると言う意見がある。現実には防弾ベストなどと組み合わせて使用される)

444 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/07/03(木) 07:53:01.02 ID:7NVWIOdV
 「鰻原」敦子は言った。
 「よう、気がついたのか」
 「ん、まあ。こっちつきになったから……煙草、いる?」
 「うん、でもここ病室だから吸えないよな」
 「チャイナマンの歌、聞いた?」
 「装甲車に乗ってるんだから聞こえる筈がない」

445 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/07/03(木) 07:53:42.73 ID:7NVWIOdV
 二人は学会の合コンで出会った。同時期に安藤とはるかも出会っていた。
 鰻原は彼女には、慎重に自分の性格を隠していた。人殺しが好きですはまずいだろうぐらいは理解できたからだ。
 安藤はもっと気楽で、気まぐれな所のある女医のはるかとの恋を楽しんでいた。安藤らはビジョンもあり二人で病院を開業すると言う夢もあった。
 安藤は事務長をやると言った。医療事務の資格をひそかに狙っているらしい。今はやりの通信教育でだ。
 安藤はそう言うあたりは飛躍がなかった。歩兵隊の指揮官らしくやはり着実な男だった。
 鰻原は今となっては安藤たちや馬淵たちがうらやましいと思ったりもした。彼が前に乗っていた装甲車は彼以外は帰ってこれなかった事を考えると、
今も最前線と言う事は意識しない訳にはいかなかった。馬淵らは多少は安全な後方にいる。多少だが。
 安藤は今回の作戦では後方で指揮する側だが、前回の負傷者処分はこたえたと漏らしていた。それはそうだろう。

446 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/07/03(木) 18:23:49.96 ID:7NVWIOdV
 そんな事を考えているとがチャッとドアが開き、どやどやと犬田代作を先頭にお歴々が入って来た。鰻原と敦子は硬直した。
 「お前、ここで何してる?」と安藤。
 「い、いえ、あの」
 「まあいい、手が空いてるか?」と権。
 「は? いいえ」
 「嘘つけ」と安藤。
 「こうして、彼女と会う余裕かましてるくせに」
 「一名、車長経験者を正門前に回して志村を正門前の責任者にしましょう」と春菜。部署の事は暗記しているようだった。これは馬淵には真似できない。やはり二人でワンペアだ。
 鰻原は少し考えた。戦争は終わりだと権田は言っている。そうなれば生き残った者が勝ちだ。
 ちらっと敦子を見た。こいつのためなら人殺しとか爆発とか卒業してもいいのではないか? 
 権田が何を言って来るにせよ、国会議事堂の前でほとんど動けない装甲車に乗っていると言う状況は彼の判断では危険だった。警察は対装甲兵器を持っていないが平気で狙撃を加えてくる。
 チャイナマンは来ないと思うものの奴が来るとすれば対装甲兵器なしで来るとは考えられない。
 奴が怖いのはどんなに不利でもとりあえず攻撃してくる事だ。あの恐怖は忘れられない。安いお面をかぶっているからと侮っている馬鹿な奴も親衛隊の中にいるにはいたが、それは少数の例外だった。
 「ひまです、はい」鰻原は言った。

447 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/07/04(金) 07:31:33.89 ID:njC4icg2
 鰻原は志村と国会議事堂正門前の引き継ぎをした。
 機銃の配置が問題だった。左右は、右が内閣法制局や内閣府の建物でこれは味方が占拠中、左は憲政記念館でこれも味方が占拠中だが、正面は広い道路がすっと伸びている。遮蔽物はない。ゆるい下りである。
 ところが、ここを火力で制圧するのは装甲車で、それを補助するのは機銃とすると、配置をどう取るかで装甲車が動ける範囲は変わってくる。機銃座を踏みつける訳にはいかないからだ。
 ああだこうだと言っていると向こうから一台の黒いベンツが来た。
 それは歩兵の設けた簡単な制止ラインで止まった。ここには先ほどから次々と国会議員がやってきていた。
 光明党だったり、家族を人質にとられた他党の議員だったりした。
 どちらなのかは、顔色を見れば分かった。どや顔なのは光明党、犯罪でも犯したようにびくびく顔なのは他党の議員だ。
 ところがそのベンツからおりたのはそのどちらでもなかった。チャイナマンだった。
 「止まれ!」
 「俺は歩いても走ってもいないぜ」が答えだった。彼は一人ただ立っていた。
 「寒いんだから早くしてくれないか、子供を解放しろ」チャイナマンはさらに言った。
 「ま、待て」鰻原は言った。

448 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/07/04(金) 07:32:20.85 ID:njC4icg2
 「チャイナマンが現れただと?」馬淵は指揮車で驚いた顔をした。
 そんな事は想定もしていなかった。
 「一体どうやって生華学会の警戒線を突破したんだ?」
 「奴が言うには後部座席には光明党の国会議員と秘書がいるらしい、確認する」と鰻原。
 「とにかく、連れてこい、国会議事堂の中はまずいから、前庭がいい」
 「殺すのか」と鰻原、暗にそれは俺にやらせろの要求だ。
 「だめだ、ここまで我々をコケにしたチャイナマンをやるのは犬田先生をおいて他にいない」
 「お呼びします」とはるか。

449 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/07/04(金) 18:07:18.18 ID:njC4icg2
 「ここが国会議事堂か」とチャイナマンは言った。前庭、正面玄関の前だ。幹部連中が揃っていた。
 「田舎からきたおのぼりさんか」と馬淵が言った。
 「修学旅行の時は東京タワーと浅草花屋敷だった」とチャイナマン。
 「どんだけ田舎なんだ、離島か何かか?」
 「まあ、死ぬ前に見れて良かった訳だな、チャイナマン」犬田代作は冷ややかに言った。
 「まずは武器を捨てろ。隠し持ってチャンスをうかがっている事は分かっている」と権。
 「ちっ」
 彼はHKMP5Kを捨てた。
 「隠し持つにも程があるぞ、こんなサブマシンガンどこに隠してた」と馬淵。
 「それは企業秘密だ」
 「まあいい、こう言う奴はな、小学校ぐらいの時にひそかに手品の練習をしてたりするもんなんだ、暗い過去だよ」と犬田代作が言った。
 「人の過去はどうでもいいだろうが」
 「図星か、まあいい。素顔をさらせ。お面の下に短剣でも隠していたら困るんでな」と権。
 チャイナマンはお面を取った。

450 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/07/04(金) 18:08:34.62 ID:njC4icg2
 「流石に短剣はないか」と犬田代作、ひそかに期待していたふしがあった。
 「子供を解放しろ、こうやってお望み通りやってきてやったんだ。そこのお偉いさん、未来の総理大臣が全国生放送で約束したぞ」とチャイナマンは言った。
 「それは解放するさ、無論な。だがそれはお前が死んでからだ」と犬田代作。
 「名前はなんて言うんだ?」と馬淵が言った。
 「これから死ぬのに名乗ったって仕方がない。それとも住所氏名年齢血液型などを語ったら助けてくれるとでも? ばかげている。俺にも協力者がいる。お断りだ」チャイナマンは言った。
 「そうなのか、もうあえては名前も何も聞かないが、俺はてっきり一人でちまちまやってるんだと思ってた」と馬淵。
 「私も」と春菜。他の幹部連中もみな口々にそう言った。
 「一体、仕事は何をしてるんだ」と犬田代作。
 「殺し屋」
 「俺はそう言う事を聞いてるんじゃない、勤め先の社名がまずいと言うなら、まあいい。職種的には何をやってるんだ?」と犬田。
 「ピアノの調律師だ」
 「え?」
 これには全員の目が点になった。

451 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/07/04(金) 18:09:23.17 ID:njC4icg2
 チャイナマンがさらに続けて言った。
 「誰でもチャイナマンになる事が出来る。簡単な事だ。お面をかぶればいいんだ」
 「そうか……参考になった。権田、銃を貸せ」犬田代作はクールに言った。
 権が普通のルガーP08を犬田に渡した。犬田はそれをチャイナマンに突きつける。
 「いろいろ面白い話をありがとうチャイナマン、わしは映画が好きでな、いろいろ研究しておる。
 今度の一連の事件を後日、映画化したら面白いと思うんだが本人として許可してもらえんかね? タイトルはこうだ。China man The last hope(チャイナマン、最後の希望)」
 「いいよ」
 「さよなら、チャイナマン……グフッ」
 チャイナマンは、機動戦士ガンダムに出てきたジオンのモビルスーツがどうしたのかと聞きかけて、崩れて来た犬田の体を抱きとめる羽目になった。
 「先生!」
 「先生!」

452 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/07/05(土) 07:37:35.00 ID:CKz/J4If
 「どうなんだ、先生の具合は」権は医務室で言った。
 「この医務室では何とも……ただちに大きな病院に搬送しなければ、CTとかMRIがあるような大病院で検査しないと分からないでしょう。
あの後、呼吸に大きな異常はないようですからグフと言うのは本当にグフ何とかという語を言いかけた可能性もあります」とはるか。
 「わざとらしいグフフとかを作ってみようとしたとか? それぐらいしか思いつかんが……しかしまずいな」と権。
 「グフと言うモビルスーツを知っているか、とか……しかし、事は一刻を争います。今は眠っていますが、それは意識不明と言う事で早くしなければ、
まず段取りとしてはここから国会図書館の救難センターまで担架で、そこからあそこの救急車でどこか大きな病院まで搬送してもらいましょう。虎の門病院かしら? 
 さいわい、国会図書館は中立が認められています。あそこまで運べば、東京消防庁も負傷者は差別しないで病院へ運ぶと確約してくれていますし大丈夫です。
この場合負傷者ではありませんけれど拒否はないでしょう」とはるか。
 また権は考えを巡らせた。
 犬田代作の顔はかなり知られている。国会図書館まで運ばれたら、あそこでは通常業務で6階の通称国会食堂街から地下の床屋にいたるまで今も営業しているのだ。隠すと言うのは無理だ。
 地下の床屋が上がってきて見物する事はないだろうが隠すのは無理だ……それに所詮搬送先の病院で身元は割れてしまう。
 犬田代作が突然倒れるなんて想定外だった。

453 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/07/05(土) 07:38:53.10 ID:CKz/J4If
 馬淵と春菜が医務室に来た。安藤も一緒だ。
 「奴は衆議院の別館の方にぶち込んでおきました。使われていない倉庫みたいな部屋があったんでそこに放り込んでカギを閉めておきました。見張りはいらんでしょう」と馬淵。
 「寒いが大丈夫か、凍死は困る」と権。
 「使い捨てカイロと水のペットボトルと携帯トイレを与えてやりましたから大丈夫だと思います」と春菜。携帯トイレの無駄がない所は主婦の知恵か。
 「まあいい、別館と言うと分館じゃなくて裏の方だな」
 「は、閣僚と一緒にすると何かあった時に困ります」と馬淵
 「そうだな、しかし……」権はまた考えをまとめようとした。
 「あの、私はここを空けると作戦に支障が出てしまいます。幸か不幸かここにご家族の方がいらっしゃるのですから一緒に病院に行っていただいてはどうでしょう? こうしてはいられません」とはるかが言った。家族とは犬田弘忠の事だ。
 「そうだ、人質の解放……子供たちは家族が待っているに違いありません」と馬淵。
 「ちょっと考えさせてくれ」と権は言った。

454 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/07/05(土) 18:08:40.70 ID:CKz/J4If
 俺はなぜあの放送の時あんな事を言ってしまったのだろうか?
 あんな事……正確な文言はこうだ。「チャイナマン、この放送を見ていたら今日の日没までに国会議事堂まで来い。来なかったらこの子供たちを殺す!」
 そう、ではあんな事を言わなかったらどうだろうか、おそらくノーリアクションはびびった印象しか与えない。
小さな子供の「チャイナマンがやっつけてくれる」発言と単なる子供の合唱に凍りつく自称未来の首相の構図だ。
 では他の発言では?
 どう考えても、他の発言ではあれほどの強いインパクトは与えられなかった事は事実だ。
 それに色々な発言が考えられるもののどれもあの瞬間の心、権の心理状況を考えると、例えば「上手な合唱だった」とほめてから落とす等は全てうそで塗り固めた物になってしまっただろう。
 やはりあの時にはああ言うしかなかった。
 権はまた次の事を考えた。
 今、犬田代作は表舞台から消えようとしている。
 あっけない消え方だ。再起できるかもしれないが今日明日は無理だ。
 しかし今進行中の作戦は延期するとか日を改めてまたやるとか言う訳にはいかない。これがもう十二時間早く起こったら作戦の根底が変わっただろうが、運命は変えられない。
 大統領は、繰り上げで小川にやって貰うと言う訳にはいかないから、自分がやるしかない。副大統領はそのまま小川で、首相は誰かを見つくろうしかないだろう。馬淵をその男につけてブレーンとするといい。
 彼は元々議員秘書が皮切りだった。こういう仕事が好きではないかもしれないがやらせればやるだろう。近藤(春菜)はもう部隊を指揮するなんて事はない。家庭に入ればいい。
お風呂に好きなだけ二人で入ったらいい。彼らにはその権利がある。
 梅原(はるか)には小川の面倒を見てもらう必要がある。安藤と医院を開くのはしばらくお預けだが開業資金をためる必要があるだろう。そうやって皆幸せになるといい。

455 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/07/05(土) 18:10:03.37 ID:CKz/J4If
 だが、犬田代作は死にそうだ。そしてチャイナマンが本当に現れた。
 これは二つとも本来、権にとってはいい事だった。
 しかし、犬田代作の後を襲うとなると、特に大統領となると問題はどう転ぶか分からない。
 特に、チャイナマンが本当に来たのは、これは困った。と言うのは今回の事件は全てチャイナマンが悪いと言う事になっているからだ。
それはうわべだけで警察も自衛隊も大阪など地方自治体も誰も本気でそうですかと思ってはいないが、大義名分はそうなのだ。
 それが出てきて今国会議事堂の敷地内にいますとなると、これは逆にまずい事になってくる。
その意味でも「チャイナマン、国会議事堂に来い発言」はある意味筋は通っている。完全に子供の命はないが余計なだけで。
 「そう、まずいな」
 「は?」馬淵は言った。何がまずいのかという顔だ。春菜も怪訝そうな顔をしている。
 「子供を解放するのはまずい」と権は言った。

456 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/07/06(日) 07:14:14.31 ID:TwmAZsVc
 行きがかり上、高校生の前で昔の事件の事をしゃべってしまった。
 もう時効だ。それにあの事件では権は死体の遺棄にかかわっただけで主犯は犬田弘忠だった。もちろん生徒達が権を告発しようとでもしようものなら自分らの担任を殺人で告発することとペアセットだ。
 それはないだろう。罪の重さから言っても殺人の方が大きい。
 しかし、権が大統領になるとなると、話は違って来た。ゴシップだ。(首相でも同じだが)
 それと、犬田代作が死ぬという事だと弘忠の立ち位置は変わってくる。
 彼も相変わらずな事は再会してすぐに分かった。友人と言うのとは少し違うが、同じ理想を追求しようとした同志だと言う事実は変わらない。
が、実は弘忠を担いで生華学会の次代会長にと言う一派がいる事も事実だった。相当強力な一派だ。
 しかも、かれら……権と弘忠はお互いの過去を知っている訳だから、権にとってはばらされるとまずい事はいくらでもあってそれを弘忠は握っている形になる。
 これまで、ばらさないで来たのだから今後もそれはないだろうと権は個人的には思うが、反学会の輩はどこにでもいた。

457 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/07/06(日) 07:16:22.88 ID:TwmAZsVc
現にあの学級はそう言うクラスだった。すぐに歌を歌うと言う意表を突いた方法で攻撃してきた。
 テレビのスタッフも反生華の言葉を叫んだりしたら即放送を中止するつもりだったらしい。
 しかし、歌は、それが企画なのか何なのか分からかったために最後まで放送してしまったのだ。
 そんな高校生に囲まれているとなると、奴は危険極まりないカードだ。
 小さな子どもたちは気の毒だし殺したくないが本音だが、しかし殺すと宣言した以上殺さなければならない。
犬田弘忠も殺したくないが非情の決断を下す時だ。いみじくも犬田代作が病室で言っていたようにだ。
 権はもう一度考え直してみて、自分こそが梅原(はるか)に診察を受けた方がいいのではないかと思った。
 自分は殺したくはないのだが、そして本当にチャイナマンが来ていると言う事実があるにもかかわらず、
犬田代作の長男犬田弘忠を含めた何の罪もない子供主体の民間人数十人を日没と共にチャイナマンが来ていないからと言って殺すのだ。
 そして、チャイナマンはと言うと後で協力者について吐かせた方がいいから、生かしておくのだ。

458 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/07/06(日) 07:18:46.41 ID:TwmAZsVc
 「本気ですか」馬淵は言った。
 「本気だ」
 「反対です、そんな……」
 「わしに逆らうのか」
 「は、いえ……そう言うレベルの問題では」
 「いや、そういう逆らうとか言うレベルの問題ではない事は分かる、馬淵よ、お前は一体何人殺してきた?」
 「貪理の作戦で一万は下りません、品川ではまだ数は分かりませんが二三千、今回の作戦ではそれこそ数は分からないでしょう」
 「参謀はそう言う物だ。なぜ今回の、たかが数十人の死にこだわるのか、お前自身、歩けない負傷者を殺すように命令した事があった、あれと今回はどう違う? 相手が子供だからか?」
 「それは……権田大幹部もついさっき子供は日没で解放すると言う策に同意したじゃありませんか」
 「その時とは状況が変わって来た」
 「そんな、とにかく駄目です」
 「いや、やる。わしが大統領になるのだ。大統領命令だ」
 馬淵は苦悩の目で権を見た。
 これまでの苦労はなんだったのか。この男を大統領にして何の罪もない子供を殺すためだったのか。それがゴールだったのか?

459 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/07/06(日) 12:28:40.50 ID:TwmAZsVc
 「私には出来ません。降りさせていただきます」馬渕はきっぱりと言った。
 「何だと?」権は驚いて言った。
 「親衛隊を辞めると言うのか」
 「はい」
 「待って下さい」春菜が言った。皆が彼女を見た。
 春菜はチャン・リーが言っていたまさにその瞬間が来たと思った。
 「私も連れて行って下さい」
 「待たんかい、今の「待って下さい」は「行かないでください」の前ふりの「待って下さい」だろうが」と安藤が突っ込んだ。
 はるかは「なんでやねん」と「どないやねん」のWつっこみを披露した。

460 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/07/06(日) 12:29:55.78 ID:TwmAZsVc
 鰻原と敦子は仕方がないので、これからのご予定は、と緊急インタビューの物まねをした。
 「そう、知ってるホテルに泊まります、ダブルで(平日16170円 2014年1月現在)」と馬淵。
 「この付近にホテルなんてありましたっけ」と敦子。
 「あります、全国町村会館です。国会議事堂から歩いていけます」と春菜。
 お買い物袋風の布袋にもうビフテキ味のカロリーメートとお茶のペットボトルが数本突っ込んである。流石用意がいい。
 「明日は?」
 「ホテルで美味しい洋食バイキング1200円(地下のレストラン、ペルラン)をたらふく食べて朝一に千代田区役所が開いたら婚姻届を提出して
家に帰ってテレビを見ますよ」(作者注:実際には婚姻届を提出する事は事前に住民票などを準備してあるなどでない限り不可能、翌日12月23日は祝日になる。一応休日窓口は開いているので
えいや、と実効性のない婚姻届を投げ込むだけならできる。一種の嫌がらせだが)
 「テレビはあれだぞ」と安藤。
 「あ、「超憲法の国民総集合」か……映画でも見に行きますよ、何かやってるでしょう。この非常時でも」
 二人は手をつないで去って行った。
 死神博士と近藤春菜は楽しそうに笑っていた。それを皆、見送った

461 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/07/07(月) 06:53:54.60 ID:PTa36bgL
 時間は少しさかのぼる。
 マンションの自室で涙田はチャイナマンのお面をながめやった。
 ベンツのキーは、もう一つのキーは社長室の金庫にあった。お手上げだ。
 もう、時間はあまりない。今日の日没は16時32分だった。
 タイムリミットは刻々と近付いている。
 自分は何もできず、ここでお面を眺めている。
 彼はこれまで様々なヒーローを見たり聞いたりして来たが、こんなヒーローは知らなかった。
 こんな無力なヒーローなんて聞いた事ない。

462 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/07/07(月) 06:54:52.93 ID:PTa36bgL
 ピンポンが鳴った。
 パイソンを持って出てみるとトナカイ=さおりだった。
 いや、もうトナカイはないだろう。なぜなら子供収容所の子供たちは日没と共に皆殺しにされてしまうからだ。
 子供たちがいなければトナカイもその存在意義を失ってしまう。ただのさおりに戻る。
 ドアを開けた。
 「どうしてここが?」
 「別府(べつふ)さんから教えてもらったの」
 綾子はスパイの親玉だ。ここの住所は知っているだろう。
 「あなたがチャイナマンなのね」さおりは武器を見て言った。
 「テレビを見てのあの反応と社長との会話で分かってしまうだろうとは思ってたけど、そうだよ」
 「詳しく聞かせて」

463 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/07/07(月) 06:56:12.26 ID:PTa36bgL
 そこで彼はこれまでのいきさつを話して聞かせた。また涙が流れそうだった。
 ヒーローが過去の栄光を自分の彼女に語りながら、現在の危機には手も足も出せず自分の部屋でいるだけ、そんな英雄談はない。
 そんなヒーローなんか、いらないだろう。
 「そう、この事は角来さんは?」
 「彼女は何も知らないよ、またその方が幸せだ。幸せの定義にはいくつもあるけど……これは俺だけの問題だ。社長の言うとおりだ。
 行けば殺されるだろう。ないし、死刑になるだろう。
 日本の警察は甘くはない。今も、東京中の全警察が束になってもどうにもならないと言う状況であるにもかかわらず、
チャイナマンが現れ鮮やかに事件を解決したら、その翌朝にはこのマンションに来て逮捕令状を読み上げるだろう」
 「チャイナマンが現れ鮮やかに事件を解決したら? あなたはそうしたいのね」
 「もちろん、あの歌と子供のすすり泣きが耳にこびりついているからね。それはしかしどうしようもない事なんだよ」
 「策はあるわ」と、さおり。
 「なんだって?」
 「今までかかってしまったけど、子供収容所の軽トラック、盗んできたの。別府さんから敵の陣地情報もあずかってる」
 「はあ?」
 「私が国会議事堂まで連れってってあげるわ。その代わり約束して、必ず子供たちを救出するって」
 「必ず子供たちを救出するよ、必ず」
 涙田は、最後の希望とはこういう事だったのか、と思った。

464 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/07/08(火) 06:33:26.00 ID:0fL3bDrH
 武器弾薬を軽トラックの荷台に搭載、運転席のさおりはクリスマスイベント用のトナカイの衣装、荷台の涙田はサンタの衣装とチャイナマンのお面をつけ、背中に弾薬を入れる冬季戦闘用の純白のバックパックを背負った。
 なぜわざわざそんな衣装になったのかと言うと理由は二つでこの衣装にはイベント用に無線インカムがついていた。
 荷台と運転席との意思疎通はいざ戦闘となったら必須だった。無線だけ外せればよかったが縫い付けてあり無理に外そうとして壊れたらこの急場にもう換えはない。そのまま着る方が無難な選択だった。
 第二に、荷台は寒かった。十二月であり雪が降りそうな気温だった。空も曇っていた。
 「無線でのコードは、俺はチャイナマンを使う」
 「私はトナカイを使うわ」

 倉田警視は死神博士の番号にかけた。知らない男が出た。
 「犬田代作が救急搬送されたらしいが? 死神博士を出せ」
 「彼は行ってしまった」
 「は?」
 倉田は男の声に暗い影を感じて戸惑った。「彼」が犬田を指すのかと考えて再び死神博士を出すように言った。
 「ああ……死神博士は彼女を連れて出て行ってしまった。こちらからはこれ以上連絡する事はない、以上、あ、待て」
 「ん?」
 「彼は一戸建てに住んで大理石の風呂に彼女と一緒に入りベットルームにはワルサー、床の間にはウージー、リビングのすぐ手の届く所にはルガー砲兵モデルがあるのが理想の家で、子供は役人にしたくないと言っていた。彼の事は捜さないでくれ、以上」
 倉田はまじまじと受話器を見たが、それをそっと置いた。

465 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/07/08(火) 06:35:50.80 ID:0fL3bDrH
 「この事件を全部撮影してドキュメンタリー映画にしたとすると……」と涙田は言った。もうじき県境だった。
 「はい」
 「ほぼ全てが高速を走る軽トラックを撮影する事になるだろう。戦闘シーンなんて一瞬でしかない」
 「そうかもね」
 「本物のサンタクロースもそうさ」
 「え?」
 「北極にある秘密のおもちゃ工場からプレゼントを運ぶ行程のほとんどはトナカイさんがやってて、サンタさんは最後の、泥棒と逆の煙突から入ってプレゼントを靴下に押し込む作業をするだけの乗客なんだ」
 軽トラックは風のように走って行く。今や悪の巣窟と化した国会議事堂へ。
 トナカイは必死だった。

466 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/07/08(火) 21:52:08.39 ID:0fL3bDrH
 自民党跡地の民兵隊に親衛隊から一名が派遣されたのは三時前だった。
 しかし、この男はアフリカ人(日本籍)で、名前はジャミラと言った。
 彼は日本語も達者で、軍歴も戦闘経験もあった。しかし、内戦が続く自国の前途に絶望して日本に亡命してきた。
 そして生華学会に入信して親衛隊に入って来た。入隊は安藤のつてで、隊内でも席次は高かった。
 彼は家族を連れてきており祖国に戻ると言う選択肢はなく、今回の作戦で敗戦するとなれば、もうどこにも行くあてはなかった。
 親衛隊内では差別はなく部下らは彼に敬意を表したが、高校生の民兵はまず、
彼が黒人だから、次いで彼の名前が怪獣の名前だから(初代ウルトラマンの怪獣の名前)馬鹿にした。
 それにはかまわずジャミラがまずしたのは縦列駐車の装甲車を道の向こう側とこちら側と言うように離れて止めさせ、砲もそれぞれ違う方向に向けさせた。
 一言で言って襲撃に備えさせた。エンジンも回させた。装甲車隊は親衛隊なので彼の指示通りに動いた。
 その指示も当然だった。チャイナマンが来るとすれば日没までに来るはずだったからだ。

467 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/07/09(水) 06:46:14.81 ID:l7t0R55H
 ところが、高校生らはこれを逃げる用意であるかのようにとってさらに馬鹿にした。それは仏教とか信心とかとはまた別のものだった。
 彼らは廃墟の番をしていると誤解していた。自民党本部はもうなかったが馬淵はそんな所を守ろうとは全く思っていなかった。
この辺りが国会議事堂の裏手の要衝に当たるから民兵を、なんらビルもない路上に配置していたのだった。
 実際、黒人とか怪獣の名前とかは戦場では関係なかった。生きるか死ぬかがあるだけだったが高校生にはそんな事は理解できなかった。
 位置関係の話だが、馬淵は春菜を連れて全国町村会館にチェックインするのに国会議事堂から徒歩でここに来た。それほど至近距離だ。兵を置かない方がどうかしている。
 さらに言えば現状、最高裁判所は警察側の支配下にあって重装備の部隊がいる。国会図書館は中立地帯だ。そうなるとこの方角で押せるのはここか道(青山通り)の向こう、都市計画会館の方を重点にするという事になってくる。
しかし、青山通りの向こうは軍事的に兵力をつぎこんでしまうと青山通りで分断されると言う危険性をはらんでいた。警察が青山通りでぐいぐい押してきたら容易に分断されてしまうからだ。
 配置が路上と言うのも、本当はビルの一階、たとえば全国町村会館か都市計画会館に歩兵を入れたい所だが、そうすると品川の二の舞で歩兵と戦車(装甲車)が分断され、いいようにチャイナマンに料理される事は立証されていた。

468 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/07/09(水) 06:48:13.38 ID:l7t0R55H
 婦人部の年長者と装甲車の車長の一人が仲裁に入り、怒鳴りあいがなんとかおさまった時、チャイナマンの軽トラックが参議院議員公邸の前(厳密には向かい側)に止まっていた。
「何か知らないがもめているみたいだ。チャンスだ」と涙田はオペラグラスに目を当てながら言った。
 彼にとってはこれは戦争であり警告とか相手はおばちゃんと高校生とか言う事は欠落していた。オペラグラスは偵察用であり映っているのは敵だった。
 「了解」
 「交差点まで行ってほしい。そこでLAW、対戦車ロケットを一発使う、ロケットを撃ったなと思ったらバックで現在位置、いや百メートルほど後退、後退したらそこからもう一発ロケット攻撃、その後トラックから降りてライフルで戦う。
ライフルで戦い始めたら赤坂見附の交差点の衆議院議長公邸、屋敷の角というか交差点内で待機」
 「了解」
 「GO!」

469 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/07/09(水) 06:50:37.80 ID:l7t0R55H
 ジャミラはトラックの方を見た。それが彼の最後の動作だった。
 装甲車が爆発、もめていた民兵、装甲車の車長、ジャミラといった幹部連中が吹き飛ぶ。
 何が起こったのか分からず右往左往する民兵隊、もう一台の装甲車が爆発しても彼らはまだどこから撃ってきているのかさえ分からずじまいだった。
 ようやくおばちゃんの一人が「チャイナマンよ!」と叫んだのは五人ほど射殺されてからだった。

 涙田はG3シリーズの特徴のある丸い切り換えられるリアサイトを「一番近い距離」に合わせていた。
そこはそれ、ヨーロッパと言うか単位はメートルなのだが今は一番近いが適当な表現ぐらいで、そこに彼は合わせた。狙う。
 セミ・オートだった。50連発ドラムマガジンを使っている。距離は百メートルを切っていた。
 車や自動販売機などの影を使って、彼は射撃を続けた。

470 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/07/09(水) 17:47:33.07 ID:l7t0R55H
 民兵隊は、最初は「十億円」と言う欲にかられ、次いで仲間をやられた怒りに染まり、
最後は恐怖で必死になって、道で棒立ちになって引き金を引き続け、三秒から五秒に一人の割合で射殺された。
 殺すと言うなら全員でチャイナマンの方に撃ちながら走って行けば最後の一人がチャイナマンを殺せただろうがそれは素人の彼らの出来ない戦闘法だった。
 もう支離滅裂になって彼らは敗走したが、その背中にも射撃は浴びせられた。容赦はなかった。
 当然だった。彼らはまだ武器を持っており、降参した訳でもなかった。
 結局かれらは極めて少数が半数は国会図書館経由、半数が直接、衆議院第二別館の味方陣地までたどり着いたものの、
彼らが報告したのはチャイナマンが来たことと、彼が今度はサンタの服を着ている事だけであった。
 
 装甲車2台兵60名がほぼ全滅して彼は無傷だと言う報告に安藤は、はるかに言った。
 「あのチャイナマンは偽者か」
 「それは……」
 「それはそうと、これはまずい。警察の立場になると警視庁から赤坂警察署まで道が一気に貫通してしまった。これはどうでもいい所だが中立の拠点としてはメキシコ大使館とか
レバノン大使館までが警察側が入れる場所のリストに入った。こうやってどんどん入れる場所リストが長くなっていけば自然にこっちは包囲された形になる。応援は?」
 「来ないわ」

471 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/07/10(木) 07:13:39.38 ID:UgPIW4Za
 涙田はトラックに来てもらった。無線はかなり遠くまで通った。
 その時、背後から声をかけられた。
 「涙田!」
 振り返ると、道路の真ん中に幸福の錬金術の倉庫係、棚橋とその若い衆、中崎がいた。作業服の上から都市迷彩のポンチョと言う逆に目立つ格好だ。
 「何ですかその格好は?」
 「それはこっちのセリフだ」
 「なんかのイベントなんですか」と中崎。
 「いや、それがかくかくしかじかで」と涙田。
 「ほう……実は俺たちも国会議事堂の様子を探りに来たんだ」と棚橋。
 「では、幸福の錬金術も立つんですか?」
 「それが、本部と連絡が取れない。
 一応下の者が電話には出るんだが待機してろの一点張りで駄目だ。それにこっちは倉庫の係で武器はあるが残念ながら兵がない。
中崎以外は若いのが二三人いるが倉庫に残してきた」
 「G3の弾薬が……もうマガジン1つしかない。つまり残り50発以下」と涙田。
 「対戦車武器も使っちまった、だろ?」
 LAWは厳密には残りが一発あった。

472 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/07/10(木) 07:14:19.23 ID:UgPIW4Za
 トラックからさおりが降りて来た。もちろんトナカイの衣装だ。
 「え?」と中崎。
 「遠藤さおりさん、トナカイだ」と涙田。
 「見れば分かるよ。で、武器が必要だな」棚橋は言った。
 「そうなんです、急がないと子供たちが処刑されてしまうでしょう」とトナカイは言った。
 「G3の弾薬すなわち7.62ミリNATO弾はない。代わりになりそうな奴はある。対戦車兵器もちょうどぴったりの奴がある」
 「すごい奴が?」とトナカイが言った。
 「メデューサミサイルシステムだ。これは簡易なミサイルシステムで発射係と照準手の二名で運用する。軽トラックにも積むことが出来る」

473 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/07/10(木) 07:45:20.07 ID:UgPIW4Za
 ミサイルはアルミの三脚の上に乗った樋のような物で、そいつに鉄パイプのようなミサイル本体をセットすれば発射準備完了だった。
トナカイでも使える簡単さだ。訓練不要だ。お手軽だった。
 「ミサイルは黄色と黒の対戦車弾、赤の対物弾の二種類だ」
 「対物?」
 「対人用だ。しかし、ハーグ陸戦条約で大口径の銃で人間を撃つのは禁止だ。
だから対物と言うのは人間用ではないと言うメーカーの言い訳用の呼称で、実際……」
 棚橋は少し間をおいて続けた。
 「大きな銃で人間を撃つのはNGだが、原爆で人間を殺すのはOKなんだ。信じられるか、涙田?
 原爆投下を指揮したアメリカの将軍は日本政府から戦後勲章をもらってる」
 「案外、犬田とか言う奴は裁判で無罪になるかも」と涙田。
 「それはどうかな、浅原(オウム真理教)は死刑だったようだしな」

474 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/07/10(木) 22:01:37.42 ID:UgPIW4Za
 「それで、照準は?」と涙田。
 棚橋は出来そこないのドラゴンボールのスカウター(注:ドラゴンボールに出てくる片メガネのような敵の情報が見える奴)みたいなバイザーを出した。
 「お面を取ってこれをして、何かを見る。見るだけで照準できる。コマンドはこのグリップ・コマンダーから出す。ロックしたら無線で発射指示を出す。
バイザー風の奴の両サイドにレーザー照準器が付いていてロックする仕掛けだ。発射係はミサイルを発射。ミサイルはバイザーから出るレーザーを頼りに目標に突入する。
 メデューサはここからきている。見られたら終わりなんだ」
 「ほう……」
 照準をやってみると実に簡単だった。
 「これは実に便利ですね」
 「訓練はいらない。ただ、普及はしなかった。
 ミサイル本体を含めて高価である事、同じ事は肩撃ち式ミサイルで一人でも出来るのに二人兵隊がどうしてもいる事。
 それと、比較的安全な後方からミサイルが発射できる事が売りだが、照準兵は発射から少なくともミサイルが命中するまで目標を見ると言う危険な任務が要求される。
 今の軍隊ではそいつは、汚い任務と安全な任務に就く兵がいる事を露骨に表現するってことで駄目なんだ。みんな発射係になりたいに決まってる」
 「なるほど」
 「そりゃ、軍隊だから、いろいろ任務はあって当たり前だが、兵器システムそのものがそう言う事では困るんだ。戦死者の遺族から確実にクレームがつくからな」
 涙田は自衛隊出身だったがそれは考えた事はなかった。

475 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/07/10(木) 22:02:47.71 ID:UgPIW4Za
 メデューサでは肩撃ち式のようにミサイル本体を照準兵が担がなくても良いという利点もあり、生存率はどちらがよいかは運用してみないと分からない。
 市民戦争となった場合、確実にメデューサに軍配が上がるが(訓練がいらないから)一方では訓練された兵がいる場合では肩撃ち式が良いというケースも考えられた。
 メデューサは車両ないしは陣地が運用のベースだった。
 安全な場所だ。
 しかし、戦場でそれは矛盾する要求である。
 今は軽トラに乗せようとしている。撃たれたらひとたまりもないことを承知の上でだ。
 「メデューサは兵の息が合っているかどうかがカギになってくる。二人はこれなのか」棚橋は言った。
 「今は二号なんです」さおりは言った。
 「は?」
 「本妻がいて、奪う予定なんです」とさおり。女は怖い。
 沈黙。

476 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/07/11(金) 07:20:58.65 ID:DeOrIYz4
 「ライフルの件だが……」
 棚橋が魔法のように出して来たのはM16A2の狙撃用カスタムだった。狙撃用スコープとヘビーバレルがついていてお約束で銃身下にM203グレネードランチャーが着いていた。
 一瞬涙田は、SPR Mk12と言う米軍の新しい狙撃用カスタムかと思ったが違うようだ。
 「弾倉帯はこれ、銃剣はつけられない、グレネードはこの弾薬バック、十二発。二パックだ。肩から下げるひもも着いてる便利な物だ」
 「これは、ライフルには二脚までついてますが」と涙田。驚いた顔だ。それも当然で本来銃身の下に標準の付属品を取り付けるのなら二脚は付けられないはずだからだ。
 M16システムでは銃身の下側に様々なオプションをつけることになっている。だがこれにはそれプラス二脚だった。
 「狙撃用と言う触れ込みだが、実際にはもっといい狙撃銃はいくらでもある。
 これはチークピースやらスコープやら二脚やら、いかにもスナイパー風味だが、実際本体はM16なんだからいいところ700(メートル)が行ける所だと思う。
 所詮5.56ミリNATO弾ではどんなに頑張っても限界がある。銃本体をスナイパー用に改造しました風にしたってな」
 「これはなにやら機関部もカスタムっぽいですが」涙田は触りながら言った。
 「削りだし加工らしい。全く無駄だが。所詮はM16なんだから。
 俺の想像だがアフガンでワンマイルシューターに苦しめられた米軍が英語に訳されたゴルゴ13を読んだらこれが出来たんだろう。特注でな。
 ただ、これなら狙撃のまねごともしながらぎりぎりM16本来の使い方も出来る。遠近両用めがねみたいにな」

477 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/07/11(金) 07:22:57.24 ID:DeOrIYz4
 「これらの兵器はどこから?」と涙田。
 「俺はやめとけってさんざん止めたが、上層部が怪しい中国人から仕入れた」
 「はあ?」
 「チャン・リーって言う奴だ。ふざけてるよ。
  そいつ、アクセ売りが本業で、兵器の密売は副業らしいよ」
 「副業って……対戦車ミサイル一式を売りながらそんな事抜かすんですか?」

 彼らは最高裁判所に向かう途中で別れた。棚橋らはネットでチャイナマン出現をアップすると約束した。
 涙田は最高裁判所に着くとそこの警官に警視庁までの先導を頼んだ。
 彼らは戦闘と武器の受け渡しを見ていたからパトカーで先導してくれた。そこから先は警察の支配地域だった。涙田は軽トラの助手席に乗った。

478 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/07/11(金) 07:23:57.59 ID:DeOrIYz4
 「チャイナマンが来るだと?」
 倉田警視はいきなりな報告に驚いたが、取りあえず一階に下りる事にした。
 もうそこはチャイナマンを一目見ようとする人々でごった返していた。
 それに、早くも敵の一部隊が壊滅したと言う事も噂として入ってきていた。
 「チャイナマンだ!」誰かが叫んだ。
 「サンタさんとトナカイさんよ」と誰かが言った。
 警視庁はどよめいたが、それは愉快と言う感じだった。
 「どちらが対策本部長の方でしょうか」チャイナマンが言う。
 「私だ。倉田だ。階級は警視だ」
 「情報が欲しいのと、その、おトイレを貸してほしいんですが、二人とも」

479 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/07/12(土) 07:49:28.75 ID:eQU4+YgT
 女子トイレの個室からトナカイが出てくると、七人の婦人警官が待っていた。
 彼女たちは所属も階級も年齢もばらばらで、ただチャイナマンと一緒に「奴ら」をやっつけたいとの思いから集まって来た人たちだった。警察は血の犠牲を出して戦っているのだからそれは当然の動機だった。
 そしてここは通常は彼女らが入ってくるトイレではなく一般の、警視庁に用がある民間人が利用するトイレであった。
 しかし、彼女らがまず訊ねたのはこうだった。
 「あなたはチャイナマンの彼女なの?」
 「今は二号なんです」トナカイはさっきと全く同じ事を言った。
 「は?」
 「彼には本妻がいて、奪う予定なんです」

480 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/07/12(土) 07:50:50.86 ID:eQU4+YgT
 「そう……大変ね、ガム、いる?」一人が言った。
 「少し……もしかしたら帰る時、いるかもしれないから」
 その時は婦人警官らも聞き流したが、トナカイはこの時すでに帰還は困難であると考えていた。
 しかし、子供たちを奪還して帰還してこそ使命は達成される。
 帰還こそが彼女の目指すものだった。それは出動時から変わらない事だった。
 婦人警官らはトナカイの衣装にもともとついているお菓子袋にお菓子を一杯入れる事にした。燃料満タンでないと戦争は出来ない。
 「彼は誰なの」
 「大阪出身で……」とさおり。
 「まあ、あの暴と在とBの国?」
 「日本最後の暴動(2008年)が起こり、警察署が怒った民衆に包囲されるのがデファクトスタンダードのところ?」
(ちなみに大阪では一般に「ポリ、どついたった」はいいこととされ、近所で軽い尊敬を受ける行為である)(さらに作者注、これが日本最後になるとは到底考えられないが、
今のところ最後であるのでこう書いておく、他(大阪以外)で起こらないと言う確証も作者にはない)
 「早く人間になりたーい、が合言葉のあの国?」
 「主要産業が生活保護で、ひったくり世界ワースト1が歪んだ誇りのところ?」
 彼女たちが言うのはすべてが事実だった。

481 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/07/12(土) 07:53:03.90 ID:eQU4+YgT
 ちなみに、大阪での禁句は「もうかりまっか」であり、作者は過去一回これを儲かっていないであろう古本屋で発してしまいえらい目にあった。

 「彼は行動隊なんですけど、これは行動隊とは全然関係がない、あくまで個人でやってるっていってます」とトナカイ。
 「どこから来たの?」
 彼女は、どうせいつかは分かってしまうけれど警察の上の方には言わないでほしい、と前置きして正直に某県の地名を言った。
 「どうしてそんなところから? いつもは何をしてるの?」
 「それは長い話で……」
 「そうなの?」
 トナカイいは少し考えてやや違う角度から前置きを言った。
 「この女子トイレを一歩出たら、もう作戦が終わるまで安全地帯はないわ。ここが最後の安全地帯で私は死ぬかもしれないし、だからいきさつをお話しします。
じゃないといきなりトナカイとサンタが来たという警視庁の伝説にはなっちゃうでしょうけど、何の事だか後世の人には訳がわかんないでしょ」

482 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/07/12(土) 18:49:27.17 ID:eQU4+YgT
 彼女が語る話はこうだった。行動隊の話、貪理の事、品川の事件、そして報われない恋と冒険の話。
 英雄にはアル中の彼女がいて、この冒険は結果、殺されるか死刑になるかの二者択一の行動、つまりどちらに転んでも死が待っているし、
自分ももうすぐミサイルを発射してたくさんの人を殺す。だから死刑だ。
 だけど、それは子供たちを救うためだった。他の動機はなかった。お金も勲章もいらなかった。
 結果的に、首相が人質になり国会議事堂が占拠されると言う国難になった。
 そして日没までに来ないと子供を殺すぞ、と言われた時、一人立ち上がったのはチャイナマンだった。
当然の話でチャイナマンは一人しかいなかった。
 都合のいいどこかの誰かはいない。チャイナマンがやるしかない。

483 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/07/13(日) 07:57:01.61 ID:NqTqqSSZ
 「彼は、明日、本妻彼女と映画に行くって言ってるわ。そしてわたしはあさってこの衣装で問題の子供収容所の子供たちのためにプレゼントを積んだリヤカーを引っ張るの、
それがわたしの使命なの」
 やや間があった。
 「あさってはクリスマスで、本妻と彼とのデートをかけた本気のバトルがあるでしょう。ただそれだけの事なの……」
 トナカイはすすり泣いた。
 「ただそれだけの事なの……」彼女は繰り返した。
 「それが私の最後の希望(The last request)なの」
 沈黙。

484 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/07/13(日) 07:59:03.30 ID:NqTqqSSZ
 「わたしたちは奴らを許せない、子供たちには何の罪もない。そう、泣いていられないわ」
 トナカイはハンカチで涙をぬぐった。
 「ああ、手が冷えてる……ほほも……」
 「まあ、それなら、帰りには警視庁にある秘密の女湯に入って行くと良いわ」親切な婦人警官が言った。
彼女の夫も警官で、今日、壮絶な殉職を遂げていたが彼女はそんな事をおくびにも出さなかった。
 秘密の女湯は、昔々婦人警官が交通課にしかいなかった時代の遺物で、
当時は道路も舗装されていなかったりして婦警の仕事は埃を浴びる仕事だと考えられていた。今ほどシャワーは普及していなかった。
 そして、覗きや下着泥棒を企む卑しい輩の前には「鉄ばんば」と言う、
警視庁に住まう謎の正義の妖怪があらわれ「鬼ころし」と言うこれまた謎の制裁を下すと言い伝えられていた。
 「鉄ばんば」が何者なのか、「鬼ころし」がどう言う制裁なのかは謎だった。
ある者は婦人警官の一人が「鉄ばんば」に変身し悪を懲らしめるのだといい、それは婦人警官に代々伝えられる秘伝なのだと言った。
 警察なのだから覗きや下着泥棒がばれたらタダでは済まない。だからここに集う覗きや下着泥棒を企む卑しい輩は逆に選りすぐりのエリートなのだった。
 そしてそれに制裁を下すのが「鉄ばんば」なのだった。

485 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/07/13(日) 17:12:03.21 ID:NqTqqSSZ
 婦人警官たちは、悪党たちの配置を教えてくれた。
 実は、一時半ごろから国会図書館の前に臨時の給水所と喫煙所が設けられた。
 この寒空に喫煙所と言うのもきついが、あちこちで煙草を吸われては困る図書館側が設置したのだった。
実際的には消防署が提供した古い消防の実演に使う缶が三つで水をはった奴。給水所は文字通りで水と熱いお茶の魔法瓶が置いてあった。紙コップが置いてある。これは警視庁が提供した。
 また、このころ、国会図書館の六階の売店に商品の補充が到着した。

486 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/07/13(日) 17:13:09.46 ID:NqTqqSSZ
 この国会図書館の売店と言うのはコンビニがこの世にない時から国会近辺で困った時はここへ行ったら何とかなると言う砂漠のオアシスかと言う伝説の売店であった。
 普通の図書館の売店には絶対に置いていない様な物が置いてあった。余談だが同じフロアにはクリーニング屋もあった。
 とにかく国会図書館は国内すべての図書館を超越しており、国会議員の生活になくてはならない場所で、ないのは風呂と風俗ぐらいなものだ。
 この売店だと売ってる商品はもちろん普通の使い捨てカイロだの牛乳だのいろいろあったが、特殊な物になるとピコピコハンマーとか演歌のCDとかまたさまざまな物があった。
商品とは違うが結婚指輪のカタログまで置いてあった。
 一体誰がピコピコハンマーを買っていくのかは謎だが商品であり売れているようだった。

487 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/07/14(月) 07:36:00.01 ID:qpGanSmY
 唯一、ピコピコハンマーの使い道として考えられるのは国会名物「乱闘」の訓練用だった。
本番は素手か固く丸めた書類でやるのだが、それを練習でやれとなると、本番前に怪我人続出で「戦力」が足りなくなって困るからだった。
 兵は数だとは言われるが、国会議員こそ数なのだ。
 なお、本当の乱闘もピコピコハンマーでやれば怪我人が出なくて済む物と考えられるが、この簡単な発明はどこの政党も採用していない。
 演歌のCDはそんな殺伐とした雰囲気の議員の先生が心をいやすために使うのではないかと考えられる。
 心の絆創膏だ。ちなみに国会図書館内はCDプレーヤーなど持ちこむ事自体禁止されている。
 結婚指輪は謎としか言いようがなかった。国会議員は急に結婚することが多いのか? 出来ちゃった婚対策か何かなのか? 
普通の国会図書館の利用者が唐突にここで結婚を決意するなんて事は考えられなかった。
 どこかの大学の生協が本になったが、ここの売店が本になったら十倍は売れる事は確実だ。

488 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/07/14(月) 07:37:38.47 ID:qpGanSmY
(ついでに書くと売店のおばちゃんらは普通の人で、指輪マニアとは見えなかった。ピコピコハンマーを溺愛しているとも思えなかった。
演歌は好きかも知れなかったが、初対面のおばちゃんにあなたは演歌が好きなのかと質問する事は出来なかった。そんな事をして、
この関西弁の中高年の男は頭がおかしく(それは当たっているのかも知れないが)初対面で熟女ナンパをしてきた不審人物と思われて警察に通報されマークされる事は出来なかった。逮捕されたら書けなくなるからだ。)
 (今、全ての原稿を書き上げてこの項を読み返している。
 ピコピコハンマーや演歌のCDを見て、初対面の売店のおばちゃんに「ピコピコハンマーをナニに使うんですか」または「あなたは演歌が好きなのか」と思わず熟女ナンパをしてしまい、
そのまま大いに盛り上がって近くにあるこの作品で何回も出た全国町村会館に行ってしまいダブルの部屋に泊ってしまって、そして指輪のカタログというつながりは考えられないだろうか、
それだと全ての事がつじつまが合って来るような気がしてくる。おそるべし、国会図書館の売店)

489 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/07/14(月) 07:39:35.54 ID:qpGanSmY
 商品搬入により一気に国会議事堂周辺の生華学会は砂糖に群がる蟻のように国会図書館に集まって来た。武器は置いてきた。
 そうした人々はほとんどが人質特に子供の処刑には賛成ではなかった。
 警察はそんなにスパイした訳ではないのだったが、非武装の警官数名はそこらで煙草を吸っていて、それに彼らは自主的にちくって来た。
 それによると、子供らは憲政記念館、首相らは衆議院分館だと言う事だった。
 見張りは少数で、子供の見張りはやる気はなく銃で脅されればすぐに釈放するだろうと言う事だった。
 ただ、憲政記念館は今は上の階に戦闘部隊がいて要塞化していてうかつには近づけない。唯一の弱点と言うかアクセスできる道は国会議事堂正門側からだった。国会図書館側からは中立地帯なのでチャイナマンが行く事は出来ない。
 また、これは武器ではないが国会記者会館にはNHKのテレビ中継車が停まっている。奴らの、学会の放送マシンと化してしまったNHKは、考えればテレビも武器だ。
奴らは放送で次々生華学会に都合のいいでたらめを流そうと思えば流せたはずだ。注意しなければならないと婦警たちは言った。
 国会議事堂正門前の兵は百名、装甲車一台。これは多いのか少ないのかトナカイには分からないがついさっき装甲車2台兵60名を蹴散らしたばかりだし、
こちらには今度はミサイルがある。
 「行けると思うわ」トナカイは言った。
 「女子トイレでパーティなんて何年ぶりかしら」と一番年長の婦警がほほ笑んだ。

490 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/07/14(月) 17:41:14.75 ID:qpGanSmY
 警視庁前に戻ると、チャイナマンは倉田警視と何かをしゃべっていた。
 「おまたせ」
 「ああ、今話してたんだけど、人質は……」
 「憲政記念館でしょ、婦人警官の人に教えてもらったわ、それで時間かかったの、ごめんなさい」
 「ああ、そうだったのか」
 「それで、チャイナマン……」倉田が言う。
 「正面から行くのが一番早いと思われます……」
 「危険もあるが?」
 「ミサイルを用意してる」
 「あの、見せてもらってもいいですか……」先ほどの女子トイレにいた中で一番若かった婦人警官がトナカイに言った。
 眼鏡をかけていて髪の毛はセミロングだ。今は乱れているがきちんとしている暇はなかっただろう。丸顔でちょっと美人だ。
 「ミサイルを見たいの?」とトナカイ。
 「はい……」
 婦人警官は桜庭萌未と言い、武器には詳しいと自己紹介した。

491 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/07/15(火) 07:57:17.13 ID:E1AXjpL4
 「チャイナマン、ミサイルを見てみたいってこの子が」
 「ああいいよ」
 婦人警官は目を輝かせて軽トラの荷台に乗った。
 「わあ、メデューサミサイルシステムじゃないですか。こんなものをどこで?」
 「誰からもらったかは秘密だが、そこは謎の中国人から買ったって言ってたよ」
 「え? もしかしてチャン・リーじゃ?」
 「そいつを知ってるのか?」これには涙田もびっくりした。
 「知ってるも何も、国際手配中の有名人です。兵器密売界の立志伝中の人でファンクラブもあるんです」と婦人警官。
 「もしかしてそのファンクラブの会員なんじゃないだろうな?」と倉田。
 「ぎくっ」っと婦人警官。
 「図星か!」
 「兵器密売界ってなんだよ」
 「現職警官がそんなファンクラブに入っていいのか」
 みな、突っ込んだ。

492 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/07/15(火) 07:58:47.08 ID:E1AXjpL4
 「あの、発射係やらせてもらえないでしょうか?」と、めげずに萌未は言った。
 「うーん」
 涙田は素早く考えた。
 問題なのは最初の一発だった。こいつは装甲車がターゲットだがこれだけは軽トラック対装甲車の直接対決になってしまう。
それをどうにかしようとしたら機動力を生かすしかない。
 まずいことに、ミサイルの発射制御はケーブルでつながれたリモコンだった。
 戦場ではいろんな電波が飛んでいるだろうし、同じ型のミサイル発射機が複数、同じ陣地にあると言う構成も考えられる。ぽちっと発射ボタンを押したら隣のミサイル発射機からミサイルが飛んだのでは危険すぎる。ケーブル式が一番確実だ。
 しかし、ケーブルはかなり長いものの軽トラの運転席までは届かなかった。
 「これは改善するべきですね」とのんきに萌未は言った。確かに改善はするべきだが今は仕方がない。
 「最初の発射ポチだけやるか?」と涙田。
 「えっ! いいんですか」
 「作戦だが、対戦車ミサイルをここでセットして待機、俺が照準手として前で照準する。
で、OKってなったら無線で言うからトナカイが軽トラを、国会前の交差点まで出す。
 そこからだと遠くて、奴らからすればまるでミサイルを積んでるなんて分からないだろうが見きれている事は間違いない。
そして絶対に装甲車の機関砲の射程内だ。
 でも、君は勇気を持って、今まで殉職した警官の仇を取ると思ってぽちっと発射ボタンを押す。
ミサイルは高温の炎を噴射しながら飛んでいく。火炎に注意しろ」
 「おい、ちょっと待ってくれ」倉田は言って来た。チャイナマン=涙田は彼を横に呼んだ。
 「ここはマスコミ対策も必要なんですよ、警視」
 「なんだと?」
 「警視庁では婦人警官も勇敢に戦っている、みたいな」
 「うーん……」と倉田。
 「これが柔道の得意ないかつい刑事十名では、理解は得られても共感は得られませんよ。
 ここであの装甲車をつぶせるかどうかに後の展開がかかってくる。
 トナカイがトラックをとめてから荷台に上がるまでの時間が無防備すぎます。
 一瞬で決めなければ。
 その一発さえ決めれば後はトナカイでやれます。もちろん、兵器に詳しい彼女がいてくれた方がトラぶった時に心強いけれど」

493 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/07/15(火) 08:01:12.43 ID:E1AXjpL4
 「それはそうだ」倉田は言葉的にはそう言ったがやや渋い顔をしたままであった。
 「警視、見方を変えれば、これはあなたの出世にも影響してきますよ、あの子がぽちっと発射ボタンを押しただけで、
ただそれだけであたかも全手柄が倉田警視のものだったかのようにできますよ。
 あなたが命令してやらせたかのようにふるまえばいいんです。
 燃え上がる装甲車、当然私は前の方にはいますが身を隠していますから誰も見ていないでしょう。
 装甲車をやったら、何人か部下を連れて軽トラックの所まで来てください」
 「危険はないか?」
 「機関砲はもうありませんから大丈夫です。M16は届きますよ、もちろん届きます。しかし敵はそれどころじゃないでしょう。
 トナカイはその頃には運転席から降りて対人ミサイルの用意に取り掛かっているでしょう。
そうだ、予備のウージーがあるからそれをあの子に預けて周囲を警戒するようなそぶりをしてもらいましょう」
 「そぶりか、それはいいな、まあ、実際に来たら我々が始末するがな、SATの狙撃要員を連れて行く、私も連れて行く皆も拳銃は持っている」
 「それは写真にとらないで、あの子がウージーを軽トラの上で構えているカットを、そう背後にさりげなくミサイルが入っている奴を撮るんです。さも戦ってます風の奴をね。
 あなたが銃を構えているみたいな奴は、失礼かもしれんが臭いと言われるでしょう。
 しかし制服の婦人警官がウージーを構えている奴は、一発も撃ってなくても戦ってる的なイメージを出せますよ」涙田のアドバイスはかなり倉田の急所を突いていた。

494 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/07/15(火) 21:58:13.87 ID:E1AXjpL4
 「うーん」と倉田、かなり心は動いている。
 「それで、それを指揮したのが自分だったと後で言えばいいんです。
 大筋嘘じゃない。戦ってるも嘘じゃないでしょう。
 発射ボタンを押すだけでも危険な場所まで進出してるんだし戦ってるのは真実だ。
 指揮しているもあながち嘘じゃない。こうやって話をしているのを傍が見たら
やはり年恰好からも何からみても警察の対策本部長の指揮を受けるチャイナマンの構図ですよ。現に情報も貰ってる」
 「うーん」
 「ここで男になって下さいよ。死んだ部下が浮かばれませんよ、それで、軽トラの所でひと固まりで倉田警視らはいて下さい。
我々は対人ミサイルとグレネードで正門付近の歩兵をたたきます」
 「グレネード?」
 涙田は例のM16スナイパーカスタムを見せた。萌未はさっそく触りたがった。
 「うわ、なにこれ、重い? M16なのに……でもM203がついてるからこんなものかしら、照準は合わせてあるんですか」
 「いや、さっき受け取ったばっかりなんだ」
 「じゃ、きっとあさっての方向に弾が飛んでいきますよ。実射レポートにそう言う記事がありました。M203だけ持って行ったらどうですか」
 「いや、そう言う訳には……実は、メインの銃はG3A1なんだが、弾が残り少ないんだ」
 「うわー、50連発ドラムマガジンだ。珍しい!」
 「まあなあ、桜庭さんは発射ぽちしたらこれを持って周囲を警戒して」
 「あっ、ウージーだ」
 「敵から奪ったんだ」
 「すごい! 家宝にします」彼女は交換に手錠をくれた。

495 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/07/16(水) 07:04:31.98 ID:maJhMVeY
 彼女がウージーを持つと何もしていないのにかっこよかった。警察はみなそれを撮影した。
 また、警察は皆、敵から奪ったと言うウージーを見たり触ったりしたがった。
 特に機動隊から来た前線の警官はこれは何回も見たし、これは奪える可能性が高いから使用法を教えてくれないかと言いだした。
 これには実は裏の事情があった。
 警察もこの時点で、実際に奪ったり投降した敵側から押収したウージーやM16A1を相当数持っていた。
機動隊から来た警官らはこうした武器、特にウージー用の9ミリ拳銃弾を警視庁に受領しに来ていた人たちだった。
 警視庁庁舎には大量の9ミリ拳銃弾があった。これらはHKMP5シリーズ用だったがウージーにも使えた。(M16の弾薬はなく、使用はしないと決められた)
 また、倉田は以前の品川の事件で押収したウージーも証拠品だが使うと決定したのだった。
所詮これらは証拠品と言っても出所を突きとめる役にも犯人を割り出すという役にも立たない物だった。
 そこでチャイナマンはもう一丁(山の中で一丁、貪理で一丁奪ったので二丁持っている)ウージーを出し、即席のウージーの使い方講座をする。
 銃本体が少ない事と、出来るだけ多くの警官が知っておいた方がいいから、
三回連続同じ事を説明する。輪になって、聞くだけでもいいから聞いてほしいとチャイナマンは言った。
 後に、この説明会(?)は伝説になって行く。

496 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/07/16(水) 07:05:21.39 ID:maJhMVeY
 警察が使っているHKMP5シリーズとは使い方は違う。安全装置兼セレクターは銃を構えた状態で切り換えることが出来ます。これは実戦的です。
 また、チャイナマンは、ウージーは連射するとあっという間に弾が尽きてしまうし、銃弾はあさっての方向に行くと強調した。
 単発で、狙い撃ちする方が警察行動には向いていますよ。あえて連射を封印して戦った方が警察の慣れている戦い方が出来ますよ。
皆さんはマシンガン式の連射に慣れている軍隊じゃないんですから。
 貪理の時もそうでした、十対一でも勝てたのは、相手が素人でアルコールとドラッグでふらふらだったからでもあるが、単発射撃を選択して狙ったからなんです。
 しっかり狙うんです。構えるだけでも威嚇になります。
 いつでも予備の弾倉に手が届くようにしておいた方がいい。残りの弾が何発かなんて、これから初めてウージーで戦うのにそんなのわかるわけない。
 切れたっと思った次の瞬間にマガジンを交換する。それぐらいの気持ちを持つ方が逆に実戦的です。

497 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/07/16(水) 19:38:39.77 ID:maJhMVeY
 みんなでウージーを回して、危険のない方向に狙いをつけたり、セレクターを操作したり、特徴のあるストックを伸ばしたり縮めたりした。
 ただ、チャイナマンは行動中は隠し持つ必要は(警察だから)ないのでストックは展張したままにしといた方がいいと助言した。全てが実戦志向だった。
 それから婦人警官が、何人かでウージーでポーズを取り写真を撮った。
 今時の流行で、ツイッタ―にアップするとか言うのだった。それで何人か男性警官が続いてウージーを手に写真を撮った。子供に見せたいとか言う定年間際の人とか、色々だった。
 これらの写真がネットに一挙にアップされるのはタイミングとしては戦闘が激しくなる前なのだがそれだけを見ている一般の市民や、
敵側になる学会にしてみると警察側に大量にウージーが入ったかのような印象しか受けないし(写真の銃は実際はたったの二丁で、しかも本当に警察の手に渡ったのはその内の萌未が持った一丁なのだが)、
記事が全てチャイナマンからレクチャーを受けたとかそういう記事であったのであった。戦闘指導を受けていると言う記事だ。
 意図してはいなかったが、情報戦でチャイナマンは学会に二回目の攻撃を入れる結果になった。それも早い段階でだった。自民党跡地前交戦からまだ一時間ちょっとだった。

498 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/07/16(水) 19:40:54.70 ID:maJhMVeY
 それで、全くプレゼントがもらえる訳でも何でもないのだが
チャイナマンがサンタの格好をしている事もあって早いクリスマスが来たように警視庁は明るい空気になった。
 今朝から押されまくりで死傷者続出だった警察に超強力な助っ人が始めて来たのは事実だった。
ミサイルなんてそこらから来る事はない。
 明るい空気の中、チャイナマンは警視庁から滑り出るように出て行った。
 「よし、みんな、奴らにチャイナマンが来て、攻撃に出ると言うネタをつかませるんだ。
さっき自民党本部跡で交戦があったことから、もう一回そこに行くかのように匂わせながらな」倉田が言う。
 「はい」
 「それから、各方面にこれからチャイナマンが攻撃をかけると連絡を入れるんだ。それこそみんなが元気を出せるようにな」
 「おう!」

499 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/07/17(木) 06:54:28.77 ID:FEef78Jx
 チャイナマンは慎重に警視庁前から国土交通省ビル前に進み、一度ビル中に入った。
 交差点に突っ立っていたのでは危険であり、まずはここから国会前の庭園に向かってダッシュ、が正解だが様子をよく見たほうがいい。
 市街戦では、交差点が勝負になることが多い。
 この場合だと庭園は緑が茂っていて安全そうに見えるが、そしてSATの先行偵察要員がいると教えられているが観察は欠かせないだろう。
 国土交通省ビルの中は空家のように空で、静かだった。国土交通省の職員は全員避難している。
 涙田はお面を慎重に取ってスカウターを装着した。ふと見ると自動販売機があったのでそこにあった「北方領土茶」を買う。
 こんなジュース(茶)を中央官庁が売ってていいのかと思うが、ムネオハウスが実在するぐらいだからいいのだろう。
 と、携帯が鳴った。戦闘行動中は携帯の電源を切るのは常識であり、彼はうかつにもそれを怠っていたのだった。
 出ると行動隊の大幹部、下田だった。

500 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/07/17(木) 19:36:15.99 ID:FEef78Jx
 「涙田、おまえやらかしたらしいな。ネットで見たぞ」
 「はっ」
 「大村からも聞いた。どうするつもりだ」
 「国会議事堂に行き、人質を救出するつもりです。
 まずは子供からです。今、国会の正門に向かう所です」
 「正面からか? わが行動隊の先頭になるな」
 「は? と言うと?」
 「実は、行動隊はもうじき生華学会に総攻撃をかける。
 これ以上黙って見ている訳にはいかないと決まった。そうなれば奴らは総崩れになるだろう」
 「もっと早ければ良かったのに」
 「それは出来なかった。これは大きな事だ。
 例えば大村の事を考えてみろ。奴に命を捨てて戦えと命令するのは簡単だが、奴には会社も家族もいる。その責任は誰が取る? 
 たとえは悪いかもしれんが戦争中の特攻隊だってそうだっただろう。行け行けと言ってた連中で本当に責任を取ったのは一部だけだ。多くはお茶を濁していた。
 我々行動隊はそうではない。動くとなったら全員が動く。だから本当はお前のしている事は重大な規律違反だ」
 「そんな……」
 「仕方ない、俺もあの放送を見ていた。チャイナマン、健闘を祈る」

501 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/07/17(木) 19:37:12.76 ID:FEef78Jx
 急がなければならなかった。
 総攻撃を行動隊が加えるとなれば、学会がやけになって日没前でも人質を処分するかもしれなかった。
 反面、総攻撃にまぎれて人質奪還作戦を行えるというメリットもある。
 何もなければ全兵力をチャイナマンに向けると言う事も可能だ。
 涙田は慎重に国会議事堂を見た。
 そこはもはや悪党どもの巣窟と化してしまっていた。憲政記念館はここからでは見えない。
 メデューサのシステムを起動すると、そのままダッシュで交差点を突っ切り国会前庭園(南)の緑の中に飛び込む。
赤いサンタ服は思いっきり目立ったはずだが射撃はなかった。

502 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/07/17(木) 19:40:02.07 ID:FEef78Jx
 国会正門前。
 装甲車の中で鈴木は交代に来た事を後悔していた。
 ここは危険だと言う鰻原の話は本当だった。
 彼は交代のまた交代で来ているのだが、もう更なる交代の北田と言う男がトイレに行くと言ったまま帰って来ない。
 装甲車の中はいいが、外は12月22日の曇りの天候。歩兵はつらいだろうと自分を慰める。
 鰻原に彼女がいたのは驚きだった。
あんなSPTレイズナーのゴステロ(殺人が大好きなアニメのキャラクター)みたいな奴にあんな美人の看護婦がくっつくなんて。
 仏教では因果という考え方があるが、殺人や破壊工作が大好きだと美人の恋人が出来ると言うのは矛盾している。
 ちらっと赤い人影が見えたような気がして彼は目をこらした。
 気のせいだったようだ。警察の部隊が目の前の緑地に潜んでいるのは分かっていて、時々交代や増援が走っていたが射撃できないでいた。
 チャイナマンが来て彼を殺せば十億らしいが、それよりも命が欲しい。
情報によれば彼は警視庁に入ったらしい。警察が彼を先頭に立て押し込んでくればこっちはひとたまりもない。
 奴一人でも駄目なのにその後にSATと機動隊が続いたらもう終わりだろう。

503 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/07/18(金) 07:36:41.84 ID:sgWtLZTp
 涙田は目標の池に着いた。そこに先行していたSATの偵察員が二人いた。
 彼らの案内で偵察ポイント4号に移動する。そこからは止まっている装甲車が見え、向こうからはまずこちらは見えないだろう。
 「こちらチャイナマン、位置についた。攻撃開始せよ」
 「トナカイ了解」
 涙田は偵察員にこんな事もあろうかと買っておいた暖かい北方領土茶を差し入れした。装甲車を「見る」。

504 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/07/18(金) 07:37:12.29 ID:sgWtLZTp
 さおりは警視庁前から軽トラックを出した。
 警察庁舎、国土交通省、そして国会前の交差点の真ん中に来た。
 急ブレーキ。
 萌未は発射ボタンをぽちっとした。
 シュパッ
 気持ちのいい音と共にミサイルは一直線に装甲車に飛んでいく。ふらついたりしない。矢のようだった。
 ……気持ちいい、これでみんなの仇をうったわ
 萌未は爆発をしっかり見ようとした。

505 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/07/18(金) 07:38:02.63 ID:sgWtLZTp
 鈴木は軽トラが停まったのは見たが、それが何なのか分からなかった。
 これだけ離れていると、双眼鏡を使わないと荷台に婦人警官がいる事なんて分からない。
 軽トラ自体、ここからでは点のようで(国会正門前と国会前は200メートル以上離れている)
かろうじて車種が軽トラであろうと分かる程度なのだ。さっきの人影だって赤いと言う事しか分からなかった。
 彼はミサイルも見なかった。彼が最後に見たのは時計で、もうじき日没だと思った。

506 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/07/18(金) 20:11:46.64 ID:sgWtLZTp
 「正門前、攻撃を受けた!」志村は無線に叫んだ。
 「どこからだ、周りの緑地からかそれとも……」安藤が返す。
 「分からない、応戦中、応戦中!」
 「分からないのに応戦しているのか? 撃つのをやめさせろ、弾丸がもう補給できないんだ」
 「そ、そんなこと言ったって……」
 それが正門守備隊指揮官志村の最後の言葉だった。チャイナマンがM203でグレネードを撃ちこんできたからだった。
 グレネードは歩兵隊の真ん中で爆発、こうなると盾などまったく役に立たなかった。

507 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/07/19(土) 06:18:29.68 ID:sqRLKNJw
 さおりは対人ミサイルを萌未と協力してセットした。
 「トナカイよりチャイナマン、対人ミサイルセット良し」
 「発射」
 「了解、発射するわ、萌未、下がって」
 シュパッ
 ミサイルは右往左往する歩兵隊の左翼で勢いよく爆発。人間の体が特撮みたいに宙に飛ぶのが見えたような気がしたが、これだけ距離があるとそれは肉眼では見えない。
 「あの、考えたんですけど……」と萌未。
 「何?」
 「私が三号で、三つ巴で激しく彼を奪い合うと言うのはどうでしょう?」
 さおりはミサイルを危うく取り落としそうになったが、こらえた。
 「それは……」
 「だめでしょうか?」
 「それはいいわねと言う訳ないでしょう」
 「でも、三人だとぎりぎり戦隊ができます。本部長には引き続き本部長をやってもらって……」
 「敵はどうするの?」
 「海底王国とか……」
 「そう言うのはね、実際にいそうな設定にしないとだめなのよ。例えば大阪なら犬鳴山から父鬼あたりを縄張りにしている山賊とか」(作者注、山賊はいないが暴走族はいる)
 「そうかあ……」

508 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/07/19(土) 06:19:59.87 ID:sqRLKNJw
 倉田が特号装甲車で来た。倉田ら本部員は下車してトラックの方に来た。
 「あ、本部長もポチっとしませんか」
 「え、いいのか?」
 「それはもう、当然、あいつらやっつけて下さい」とミサイルをセットしながらさおりは言った。チャイナマンに説明すると彼も賛成した。
 「よーし、じゃ」
 「あ、写真撮らないと、発射する所を。そして本部長自らがミサイルを撃ってるとか、警察無線で流せってチャイナマンは言ってます」
 「え?」
 「それで、警察はすごい力が出る筈だそうです」
 「そ、そうか……」

509 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/07/19(土) 06:22:23.77 ID:sqRLKNJw
 ミサイルは今度は右翼で爆発した。
 歩兵隊はどこからミサイルが来るのかわからなかった。
 ミサイルが目に見えるように分かりやすく飛んでくるのはアニメの中だけであり、実際にはロケットモーターの力で飛んでくるのだから撃たれる側から発見するには軽トラックを注視していて発射を見て、
それからミサイルが次の瞬間自分たちの陣地に命中するのを見て、「あのトラックが撃っている」と叫ぶ必要があった。(イラクの戦例でも飛んでくる対戦車ミサイルを見た米兵はほとんどいないと言う報告が上がっている)
 当然、そんなことができる奴なんか一人もいなかった。無茶苦茶にM16A1を乱射しながら(大半が空を撃った)、右往左往する。
多少正気なものは負傷者を引きずって正門内に逃げようとした。そこへグレネードがシャワーのように降ってくる。
 涙田は訓練通りに正確に連続で撃ち込んで行った。これもどこから撃ってくるのか歩兵らには全く分からない。
 ミサイルも続けざまに来た。倉田に限らず本部員は面白がって次々ぽちっとしたので、わずかに生き残った兵らの最後の行動は阿鼻叫喚の地獄から這って逃げることだった。
 少数が憲政記念館まで這い進んで死んだ。
 もう、立っている兵はいなかった。装甲車は燃え上がっていた。
 「チャイナマンよりトナカイへ、歩兵隊全滅、これより正門へ向かう。中へは入らないが、確認はする」
 「了解」
 涙田は道路に出た。M16スナイパーカスタムを構え、予備のG3A1を肩にそろそろと前進する。彼にも軽トラックにも一発も弾は飛んでこなかった。完全勝利だ。
 しかし、まさかと思うが死んだふりの敵がいるかもしれない。そう言う奴が一番危ない。

510 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/07/19(土) 18:57:00.78 ID:sqRLKNJw
 正門前は地獄のようだった。装甲車は燃えていたが下火になっていた。
 生き残っている兵はいない。死体はかなり損傷していた。
 「損傷していた」は「はらわたが飛び出したり、手足がちぎれたりしていて首がボールか何かのように転がっている状態、正視に堪えない」をやさしく表現したものだ。
 小説家はよくそう言うやさしい表現のほうを選択する。別にそうではないのに残忍な奴だとか読者に言われたくないからだ。
 それはともかく転がっているM16A1の中のかなりの数は使えそうな感じで、一瞬涙田はスナイパーカスタムと換えようかと思った。
 ただ、この先状況がどう転ぶか分からない。狙撃がいるのか、M203グレネードがいるのか、わからなかった。
 それにM16は爆発をくらっているから、まあ大丈夫だろうとは思うものの用心したほうがいい。それより転がっている死体は全部、
M16の弾を身につけているのだからここに戻れば弾は補給できる。それぐらいに考えておけばいい。
 正門は開いていた。トラロープと言うのか、工事現場なんかで使うロープが一本張り渡してあるだけだ。国会議事堂の前は誰もいない。
 これだけ前で爆発しているのだから逆に人がいるほうがおかしい。
 閣僚も救出したいが、どちらなのかと言うと子供が優先だった。
 先ほどの打ち合わせで倉田は、悪人は閣僚のほうが人質の値打ちが高いと判断して殺すのを後回しにする可能性が極めて高いと指摘した。
 それに子供を救出すれば残されたカードは閣僚だけなのだから閣僚の安全性が(一時的ではあるものの)高まることも期待できると言った。

511 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/07/20(日) 07:27:15.47 ID:rn/US6Ee
 「チャイナマンよりトナカイへ、国会議事堂正門前はクリア、門は開いている。前庭には誰もいない。しかし、中には入らず、憲政記念館に向かう」
 「了解、チャイナマン。子供を救出後、打ち合わせでは国立国会図書館に脱出することになってたけど、今入った情報だと脱出を希望する兵らが続々国会図書館に向かいつつあるらしいの、
国会図書館の館長は彼らは図書館につくまではまだ武器を持っていて、人質が目の前にいたら気が変わる恐れがあると指摘しているわ」
 「うーむ、身代金とか考える奴もいるかも知れん。国会図書館以外の提案は」
 「そのまま下がって今立っている正門前まで、そこでキープするの。ここから機動隊バスで迎えに行けばすぐよ」
 「了解、チャイナマンは憲政記念館に向かい、人質救出後は国会議事堂正門前まで下がる」
 「準備が整い次第、チャイナマン軽トラは本部装甲車、機動隊バスと国会議事堂正門前まで進出します、気をつけてね」
 「ああ、これから順次状況を送る、もう一台警察無線でこの周波数を拾って桜庭さんにもモニターしてもらって、
桜庭さんは周辺を警戒しながら倉田本部長以下に状況を伝えてもらう役をしてほしい。
 本部が状況を把握していないとこれからの救出作戦は難しいからな」
 「了解、警察無線はすぐ用意できる筈よ」

512 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/07/20(日) 07:29:31.98 ID:rn/US6Ee
 安藤は正門前の守備隊がどうやら全滅したらしいとの情報に頭を抱えた。
 戦闘のセオリーに従えば、こんな時には奪われた拠点は直ちに奪還しなければならなかった。
 ましてや場所は正門なのだ。直ちに対応するべきだった。
 しかし、安藤には即応できるような兵の余裕はなく、仮にあったとしても、またやられるだけという結果がもうやる前から見えていた。
 そうやって、つぎつぎやられていくうちに兵力がなくなってもうおしまいということになるのだ。
 国会議事堂は決して城ではない。防御など考えられていなかった。
 正門が落ちた今、ほかの門は健在であってももう陥落したも同然ということになってしまった。
 安藤は、警備と戦争の違いをいやというほど思い知らされた。
 自分たちは必死で大兵力を投じて警備していたつもりだった。
 しかし、本気で戦争を仕掛けられたらそれは全く意味がなかった。
志村や鈴木らは無駄に死んでいった。兵百、装甲車一台もなんら有効な反撃を行えず散っていった。盾など何の意味もなかった。
 そして、そんな攻撃をかけてくる相手といえば……
 「チャイナマン……」

513 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/07/20(日) 19:04:57.27 ID:rn/US6Ee
 涙田は用心深く前進した。
 スカウターは背中のバックパックに戻しお面をつけている。
 本当はもうお面でなくてもいいような気がしないでもないが、それでも彼はこのお面にこだわりがあった。
 憲政記念館は機関銃を絶え間なく発射する状態だった。しかし、正面の道には数名の歩哨を置いているだけであった。機銃などはない。
 彼らはチャイナマンが近付いてきたというだけで速攻で逃げて行った。やはりお面をつけるというのは正解だったようだ。
 死体があちこちにころがっている。
 涙田には罪の意識はなかった。
 殺らなければ殺されていた。戦場のルールだ。行動隊でいやと言うほど叩き込まれたルールだ。これまでいやと言うほど見て来たルールだ。
 憲政記念館は正面(現在は斜め正面)から見る限り、機銃音がしなければモダンな建物であった。
 前庭には兵がいたらしい痕跡はあったものの現在は無人だ。先ほどの正門前交戦の爆発音はここでも聞こえていた。
逃げたと言うのが真相で、わずかに踏みとどまっていたのが先ほどの逃げた歩哨だろう。
 「憲政記念館へ接近中」

514 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/07/20(日) 19:06:06.94 ID:rn/US6Ee
 「了解、情報によれば人質は一階の議場体験コーナーにいるらしいわ」
 「侵入を試みる」
 さおりは萌未と周辺警戒に戻った。二人ともウージーを手にしている。
 「必殺技って言うのはねえ、そんな簡単な物じゃないと思うのよ」とさおり。
 「しかし、必殺技なしじゃ……」
 「それはそうだけど、チャイナマンローリングサンダ―アタックって言うのはちょっと……
しかも、太田貞子直伝と言う設定は本人の許可も得ていない以上、これから救助するとしたって……」
 「今は何かないんですか?」
 「コンビニの前で酒の立ち飲みをする事らしいわ」
 「アル中?」と萌未。

515 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/07/20(日) 19:07:18.19 ID:rn/US6Ee
 正面玄関も無人だった。ただここも前は兵がいたような形跡はあった。弾薬が若干だがきちんと用意されている。
ウージーの弾倉とM16の弾倉。テーブルに国会議事堂周辺の地図があった。
 涙田は、机の上からワルサーP38を取った。何気ない動作で弾丸がフルに装填されていることを確認する。
ちなみにワルサーはコルト系のグリップの横に着いたボタンではなく、グリップ底部に着いた爪のような部品でマガジンをリリースする。
 兵は武器を捨てているのだから相当あわてて逃げた。そんな感じだ。銃はズボンのベルトに差した。
 「トナカイへ、建物内へ侵入した」チャイナマンは言った。
 「了解」
 「引き続き、議場体験コーナーに向かう」
 無線を切って
 「だから、チャイナマンヘリってだれが操縦するの?」とさおり。
 「それは、えーと……」
 「チャイナマンサブマリンはもっと駄目じゃない」
 「それは、北朝鮮からサンオ級潜水艦を分捕って」
 トナカイ=さおりが振り返ると倉田は警察無線で檄を飛ばしている。
 チャイナマンがもうすぐ子供の人質を解放する。最後のひと踏ん張りだ。
ここで憲政記念館に応援を回されたら全部一からやり直しだ。全警察攻撃にかかれ。

516 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/07/21(月) 07:11:36.05 ID:i9OJOlZB
 安藤は権を呼んだ。権は国会議事堂内のどこかの部屋にいるらしい。声の背後に複数の人が大声で話している声がした。
 「正門前の隊が全滅しました」
 「何だと?」
 「ここは丸裸になってしまいました」
 「こちらは、この非常事態の前にはもう衆議院とか参議院とかはなく国会という単一の会議しかないと言う、そう言う所まで話はまとまっている。
 超憲法の事態だと。
 これから臨時の議長は誰にするかを決める段取りをする所だ。もうちょっとの所だ」
 権の話は当面の危険とは違う方向へ向いていた。
 リーダーとして危険な兆候だった。今目の前の危機が見えていないのだ。
 「し、しかし、そのもうちょっとが持ちません。もうすぐ警察がやってきます。機動隊が突入してくるでしょう。分の単位の話です」
 「何とかならないのか? どこかから兵を回せないか」
 「それは考えましたが、同じ手でやられるだけでしょう。馬淵なら上手い手を考えたかもしれませんが」
 あの二人を失ったのは失敗だったか……権もようやく気がついたが手遅れだった。
 「人質で交渉できないか?」
 「どう? 突入したら殺すぞと言うんですか? もう、すぐに日没ですよ」

517 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/07/21(月) 07:12:16.01 ID:i9OJOlZB
 議場体験コーナーに子供たちと、保母さんたちと、犬田弘忠がいた。
 縛られてはいなかったが、彼らの周囲には指向性仕掛け地雷、クレイモア地雷が多数仕掛けられていた。
 見張っているのは鰻原と敦子だった。
 鰻原はケーブル式の起爆スイッチを持ち、敦子はワルサーとピコピコハンマーと言う奇妙な武装だった。
 小さな子供はワルサーで脅すと言う手段が効かないためピコピコハンマーを使うしかなかった。
 国会図書館の売店はこの非常時でも顔色一つ変えずピコピコハンマーを売った。中東に武器を売る死の商人のようだった。
 おそるべし、国会図書館の売店。

518 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/07/21(月) 07:30:21.03 ID:i9OJOlZB
 「トナカイへ、人質が見えた。
 議会の体験コーナーに座らされている。まわりにクレイモア地雷と言って対人地雷の一種、爆発物なんだが、
爆発すると無数の鉄球が飛び散る(約700個)恐ろしい爆弾が複数仕掛けられている。爆発したら子供たちはひとたまりもないだろう」
 「チャイナマン、慎重に行けと本部長が」
 「了解。見張りは二人だ。一人は親衛隊の装甲車部隊の軍服を着た男、起爆装置らしいコードを握っている。
もう一人は白衣の看護婦、今は女性看護師と言うのか? 手に拳銃とピコピコハンマーを持っている」
 「チャイナマン、ピコピコハンマー?」
 「そうにしか見えない。作戦は、近づいて行ってできれば説得で投降させたい。
 それが人質にとっては一番安全だ。仕方がなければ隙を見て射殺するしかないが、無理やり殺す事はない」
 「了解、こちらでもモニターする。戦況は、南側戦線で機動隊が攻勢を強めているわ、捕獲したウージーが効果を発揮し始め、生華民兵隊は後退中、北部は膠着状態」
 「了解」

519 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/07/21(月) 18:48:22.12 ID:i9OJOlZB
 実は涙田は人質を取る方の訓練を受けた事があった。もちろん行動隊でだ。自衛隊は、一般の自衛隊はそんな訓練はしない。
 それによると、説得工作は最初は突っぱねるとあった。他は色々あってストックホルム症候群とか小刻みな人質の釈放とか、多岐にわたる実戦的な訓練を受けたがここでは役に立たなかった。
 唯一役に立つ(と言うか役に立たない)のは狙撃した場合の反応だった。警察の記録等々では数秒でも犯人が生きていた場合、圧倒的に人質を道ずれに自爆するケースが多かった。
従って人道がどうとかより以前の問題として犯人を射殺すると決めたら即死させることが求められた。
 普通の手順は犯人の頭部を狙撃する事だった。以前実際にアメリカであったケースで(信じられないが)頭部に当たったのに当たりどころが悪くて即死しなかった場合があって、
現在では胴体もダブルタップ、つまり同時に三発撃ち込む場合が多い。もちろん三人でだ。これは一人が外しても残り二人が当てると言う意味合いも兼ねている。(必ず三人で三発と言う訳でもなくケースによる)
 頭部を狙うと言うのは防弾ベストの着用も想定しての事だった。
 実際テロの現場はハイテク化、重装備化が進んでいる。余談だがSATの教本はその点が大いに遅れている事が指摘されている。

520 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/07/21(月) 18:50:07.22 ID:i9OJOlZB
 ……まあ、トナカイには子供を人質に取る訓練を受けた事は秘密にしておこう。嫌われるのは嫌だしな……
 ちらっと狙撃も考慮したが、手にしているM16スナイパーカスタムは照準を合わせていない。
 戦闘中にサイトを合わせる事が出来るのは亡くなった巨匠大藪晴彦の小説の中だけで実際には無理だ。
 それでも不意打ちで男の方はなんとか殺せそうだが、こちらは一人だからもう一人、
ピコピコハンマーの看護婦がスイッチを拾い上げて押すのを阻止できるかどうかは微妙だ。百パーセントはない。
 それにスイッチを見捨ててワルサーを連射すれば二三人の子供は殺せる。
 悪夢の日曜日以来、女であっても全く油断は出来ないと涙田は思うようになった。
 涙田はそっと二丁のライフルを廊下に置いた。赤いサンタ服の左右のポケットに二丁のワルサーを移す。
 パイソンのほうが手になじんでいるが片手撃ちだと一抹の不安があった。357マグナムは魅力なのだがここはワルサーを使った方がいい。

521 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/07/22(火) 07:54:47.15 ID:ZHSK34gn
 鰻原の頭の中は「なんで俺が」「死にたくない」「敦子」がくるくる走馬灯のように回っていた。
 むしろ敦子の方が冷静だった。
 鰻原は生まれて初めて殺すとか爆破とかから離れて敦子と言う選択肢を選んで未来をゲットしたのに、その彼があてがわれたのがこれだった。以前の彼なら喜んだかもしれなかったが今は違った。
 そこにサンタが来た。
 驚愕の表情で、鰻原は「動くな」と言った。
 「男は動くなと言っている」
 「は?」
 「無線だ」チャイナマンは言った。
 鰻原はますます混乱して、「チャイナマン」と「クレイモアだ」と言う言葉をごっちゃに言おうとしてこう言ってしまった。
 「俺はクレイモアマンだ」
 「トナカイへ、俺はクレイモアマンだと言っている」
 鰻原はますます焦って、そんな紹介なんて全く必要ないのに敦子を指して
 「彼女は前田敦子だ」と言ってしまった。
 「前田敦子だとか言っている。おかしいらしい」
 「失礼な、前田敦子は本名よ」
 敦子は鰻原の背後からつかつかと歩み寄るとチャイナマンに「日暮里児童病院」のIDカードを見せた。
 「本名だった。ごめんごめん」

522 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/07/22(火) 07:55:28.23 ID:ZHSK34gn
 「チャイナマン、銃を捨てろ」
 「は?」
 涙田は確かに銃を隠し持ってはいたが、それをわざわざ認めて捨てるほどお人よし、ないしは間抜けではなかった。
 「どの銃を?」
 「え、えーと」鰻原は戸惑った。
 「子供を解放しろ、もうここにも警察が来るぞ」と涙田、説得の第一歩だ。
 「うるさい、チャイナマン、これが分かるか」
 「ああ、スイッチだな。クレイモア地雷の遠隔起爆の」
 「えっ、知ってるのか」鰻原はなぜかびっくりした。
 「ああ、多分、あんたはこれを押すだかなんだかしたら、人質が死ぬって言いたいんだろう」
 「ああ……」
 「おまえ、馬鹿だな。このクレイモア地雷はな、こう言う風にセットすると爆破した次の瞬間、お前の頭に本体が反動で飛んでくるぞ」
 「え?」
 「物理で習ったろ、作用反作用って奴だ。
 固定してないから前に破片を飛び散らすのと同じ勢いでお前の、多分頭の方に飛んでくるぜ、あれが」
 鰻原は、チャイナマンが何気なく指差した方をつられて見た。自然な成り行きだった。チャイナマンは見たとこ非武装で話も巧みだった。
 だが、次の瞬間動いたのは敦子だった。彼女は鰻原の方に飛んで行ってスイッチをたたき落とした。涙田は半ばまでワルサーを抜いていたが目を白黒させた。

523 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/07/22(火) 07:57:34.92 ID:ZHSK34gn
 やはり女は怖いと一瞬思った。多分隙を窺っていたのだろう。
 「あなたやめて」と敦子。
 「ばか、やめろ、それは」
 「こんな人質なんて」
 「それは、それは……」
 鰻原は空気が抜けたようになってすがりついて来る敦子を抱きしめた。もうテロをする気力はなさそうだった。
 「逮捕する」
 一応ワルサーを突きつけて、涙田は言った。もう鰻原は頷いて手を出してきた。
 萌未からウージーと交換で入手した手錠をはめると、鰻原はうなだれていた。敦子はそんな彼にすがりついて泣いた。

 「トナカイへ、子供主体の人質は奪還に成功! 成功!」チャイナマンは言った。
 「了解、打ち合わせ通り、国会議事堂正門前へ」トナカイも言った。

524 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/07/22(火) 22:10:58.22 ID:ZHSK34gn
 「それで基地が滝畑ダム(大阪河内長野市のダム)は駄目だと思うのよ」
 「でも、横浜の米軍基地内に秘密基地があると言うトナカイさんの計画もちょっと……」萌未が言う。
 「東京タワーの駐車場に月極めで軽トラを停めておくと言う私のアイディアはどうなったんだ」と倉田。
 「でも……あ、本部長、用意できたようです」とトナカイが言った。
 「よし、正門前へ」
 チャイナマン軽トラ、機動隊装甲車(特車)二台、機動隊バス二台で正門を目指す事になっていた。
バスには機動隊ではなくSATが各十名乗り、それぞれに国会前庭園に潜んでいたSATを拾っていく事になっていた。
 これは変に思われるかもしれないが急がない事になっていた。安全を確保しなければならない。
 「これで首相らを救出できれば全ては終わりだ。正門前にチャイナマン軽トラが到着すれば、
もはや撃たなくてもミサイルがいつでも国会議事堂に撃てると言う状況になり、
機動隊バスが人質を載せて警視庁に下がった後はもう、機動隊がいくらでもバスでも徒歩でも自転車でも来る事が出来る。勝負は決まった」
 「チャリンコはきついですよ、この上り坂は」と萌未。女はそんな所は実にクールだ。実際にはそれほどは上りではない坂だった。
 しかし、きついと言うのは実際になるのだった。

525 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/07/23(水) 07:22:45.84 ID:WGysxRoC
 上野
 上野公園前交差点で、大村はチーム大村(涙田が欠けている)をまとめ、西郷隆盛像の方向を伺った。
 彼らはブラボーツーだった。行動隊のブラボー中隊はすでに上野一体に展開を終えていた。ただ、中隊本部は装甲車が動き回っていて中隊の攻撃範囲から出てしまう事を恐れていた。
 彼らは基本、歩兵なので装甲車が本気で逃げたら追跡して仕留めるのは無理だった。まるで太古のマンモスハンターがマンモスを狩ったように、じわじわと輪を縮めるしかない。
 彼らの服は。大村と浜中が機動隊の制服、水村と大久保がダスキンの制服だった。機動隊の制服は全員分なかった。
 「おっ」大久保が言った。彼は警察無線を傍受していた。
 「なんだ?」
 「涙田の奴、やりました。子供の人質を確保」
 「そうか、大人の人質は所詮首相や大臣、いざという時の覚悟は出来ている人々だ。
 捨て殺しもこの国が滅びるかと言う時には仕方がない。それよりも当面の敵は装甲の獣どもだ」
 「涙田の奴、彼女をゲットしたらしいですね」と水村。LAWを持っている。主装備はLAWだった。
 「この短期間に職と彼女の両方をゲットしたんだからやるよ。惜しい奴だ……武闘の歴史に残る。球根栽培法に載るぐらいのもんだぜ」水村はさらに言った。
 球根栽培法と言うのは彼らの機関紙で、流石に「月刊行動」ではまずいのでこんな名前になっているので中身は球根のきゅの字もない。

526 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/07/23(水) 07:25:27.95 ID:WGysxRoC
 とにかく、これだけ派手にやっているのだから、このまま「ありがとうチャイナマン」で警察が見送ってくれる訳がない事ぐらいは誰も察していた。
 逮捕が待っている。
 涙田の性格からして暴れるとか逃げるとかはない。素直に手錠を受けるだろう。
 そして裁判、何人殺したかは知らないが判決は死刑しかないだろう……
 だから、彼らは今回の作戦では難しいだろうと言う上野公園方面に回って来た。涙田だけ、しんどいと言うのはチーム的には心苦しかった。
 今、彼らから見ると、「しのばず口」のほうの路上に装甲車一台、親衛隊50人がいた。
だが、それを遠巻きに群衆が囲んでいて、投石が始まっていた。親衛隊は盾で守っている。
 もう口コミで国会議事堂方面での戦闘で警察が押している様が伝わり、それ以前にチャイナマンが警視庁に来た情報が伝わっていた。
 婦人警官がウージーを持ってポーズしている画像が、あちこちで見せあわれた。
 それはやはりどんな言葉よりも警察有利を印象付けるものだった。
それと機動隊がウージーを装備し始めた時間が重なったために、警察が本気を出した感を市民に印象付けた。
 市民は、生華学会が政権を握ることを歓迎していなかった、むしろ逆で、学会帰れの声が高かった。

527 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/07/23(水) 07:28:03.13 ID:WGysxRoC
 「GOが出ました」と浜中。彼と大村はウージー装備だった。
 「よし、作戦は、まず爆竹を奴らと群衆の中間に投げ込んで牽制すると同時に群衆を遠ざける。
奴らが群衆に向け発砲する危険があるがこれは仕方がない。目をつぶるしかない。しかし、危険は低いだろう。
 それで空間が開いたらまずLAWで装甲車をやる。
続いてLAW装備の者は下がってウージーに装備を換える。ウージーの者はそのまま交戦に入る。4対50でも決してひるんではならん。涙田は1対10でもやったし、今も戦っている」
 大村は続けた。
 「はぐれた場合の再集合場所は上野公園の精養軒、マニアックな場所だが見通しが効いて下がるにもそこから攻撃に出るにもいい場所と言う事で、なにもそこで飯を食う訳ではない。
 最終集合ポイントは上野のハローワークだが、今そこに行っても誰もいないからな、注意しろよ」行動隊の作戦はすべてこうした打ち合わせが付いた。
 特に大村の指揮下ではその傾向が強かった。
 「警察はどうしますか」と水村。
 「出来るだけ戦わないようにとの指示だ。挨拶なんかする必要はないが、撃ちあったりするな」

528 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/07/23(水) 18:04:30.04 ID:WGysxRoC
 彼らが攻撃に入ると、もう親衛隊は総崩れだった。
 炎上する装甲車、同じウージーか、M16A1装備で武器で優位なはずなのに、そして50人もいるのに射的の的の様に親衛隊は崩れ去った。
 走り逃げる親衛隊に市民らは容赦なかった。
 あちこちでぼこられる親衛隊が見られた。それを止めに入っているのは警察だった。完全に朝とは立場が逆転していた。

 「ブラボーリーダーより各チームへ、離職票が届いた、離職票が届いたぞ」
 「ブラボーツー了解、もうですか?」と大村。離職票とは作戦完了を指す暗号だ。最終集合場所がハローワークだからか?
 「ああ、上野はもう解放だ。チャーリーと「りんご」からもいけたと言う連絡が来た」
 いずれも東京の解放目標だ。「りんご」はアップルの関連施設だった。どうして学会が占拠したのかは不明だが奪回の対象とされ豆タンクが回されているはずだ。
 もう東京は大丈夫だろう、大村は思った。

529 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/07/24(木) 05:54:59.42 ID:Tgge/H5W
 もう東京は駄目だ、と安藤は思った。
 もうほとんどの拠点が無線や携帯に応答しない。
 彼は意を決してはるかを救難センターから呼んだ。すぐに来いと強く言った。彼ははるかを強く愛していた。
 彼女は手術衣のまま移動指揮車に飛んで来た。
 「こんな時に唐突かもしれないが、あの話覚えてるか?」安藤は言った。
 「マグマ大使の不逮捕特権?」
 「違う」
 「最初は男の子がいいか女の子がいいか?」
 「近いがちょっと違う」
 「分かったわ、安藤病院(仮称)ね」
 「その(仮称)って言うのはなんだ? まあいい。もう包み隠さずに言うが、このままでは終わりだ。ここは落ちてしまう」
 「どこへ?」
 安藤は「陥落するとは」の軍事用語一言説明をしなければならなかった。
 「要するにだ、そのうちここのドアをチャリに乗ったポリがコンコンとノックすると言う事だ」
 その時、ドアがコンコンとノックされた。
 びくう!

530 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/07/24(木) 18:20:51.00 ID:Tgge/H5W
 恐る恐る安藤が出てみるとそれは運転兼護衛の兵で、朝から何も食ってないので何か食べてきていいかと言うのだった。
 ここらへんで今開いていると言えば国会図書館の食堂、通称国会食堂街だけで、あそこは7時まで開いているが、そこへ行くと言う事はついでに逃げると言う事だろう。
 安藤は、千円札を渡すと釣りも領収書もいらないと言った。

 「で、やっと本題に戻れるが……」
 「ええ、あなたが事務長で、院長は馬淵にやって貰いましょうよ。あいつは博士号持ってるわよ」
 「でも都市工学だろ?」
 「それは伏せておくのよ」
 「そんな、それはインチキくさいぞ」
 「院長が一万人以上殺しているって時点でもううさんくさいわよ。ショッカー直営病院かってレベルよ。改造人間にされるかってみんな思うわ」
 「でもまあ、我々の中で院長が務まりそうなのは奴だけだ、しかも奴は二種免許持ってるから病院の送迎バスも運転できるぞ」
 「それはいいわ、院長が送迎バスを運転してもなんら問題なしよ。春菜はヘルパー持ってるし、こんなふうに考えたら我々だけでどうにかこうにか病院できそうじゃない。
看護師ではあの前田(敦子)って子が釈放されたら来そうだけど、そりゃもっと看護師の募集はしなきゃだめだし、色々課題はありだろうけど、馬淵はそんなの考えるの得意中の得意よ、きっと。
 薬とか車いすとか意外な所から調達するのあの馬淵カップル絶対得意技よ」

531 :政教一致@大阪 ◆hprO1jFx.M :2014/07/24(木) 18:22:36.92 ID:Tgge/H5W
 「ああ、それに権田はもう駄目だ。あいつと心中する事はない。そこでだ、じゃーん。これに着替えて……」
 「なにこれ? 」
 「国会図書館の売店のおばちゃんの制服」
 「ど、どこで手に入れたの?」
 「国会図書館の売店で」
 「え?」
 「制服のコーナーにあった」
 「なんでも売ってるのねぇ」
 「俺は機動隊の制服に着替えるよ」
 「それも国会図書館の売店で売ってたの」
 「当然だろう、あそこで売ってない物は麻薬とか限られた物だけだ、基本なんでも売ってるんだ。すごい所だ国会図書館の売店は」
 「うちの病院にも支店を作ってもらえるよう交渉したらどうかしら」
 「そうだな、脱出先だがとりあえず例の全国町村会館を目指そう。開いてる部屋があるかどうかはインターネットから確認できるが今は取りあえず行ってみるしかない」
 「どうしよう、和室しか空いてないとか言われたら」
 「それはお布団でやるしかないだろう」
 全国町村会館にはきわめて少数ではあるが和室もあり、町村の役人には根強い畳で寝たいと言うリクエストがある事を物語っていた。
これは通常のビジネスホテルでは考えられない部屋の設計だ。
 ただ、八畳と十畳の部屋しかない。そのため二人で泊まると「とてつもないリーズナブルさ」になってしまうのだった。
(町村会館のリーズナブルさはそれだけで一本小説が書けるがそれは書かない。和室は素晴らしいロケーションで天国の泊まり心地らしい)

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